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 ローザを走らせるのは、本当に久しぶりだ。

 心なしかエンジンの回転も、いつもより上がっているような気がする。


(嬉しそうねえ、ヒヤマ)

(バイクが好きみたいで、いつもああなんですよ)

(うちのスピードバカと気が合いそうで怖いわね・・・)


 なんと言われても、好きな物は好きでいい。

 この世界に来なければ、エンジン開発に携わる仕事に就きたいと思っていたほどだ。


(道路までの進路上に、赤マーカーなし)

(平和になったものね。少し前まではハンターズネストから先は、クリーチャーが多くて行商人もほとんど立ち入らなかったのよ)

(今はブロックタウンにも行商人が来てくれますからね)

(ジョン達、元気かなあ)

(プチハーレム? 元気でやってるはずよ)

(なんだその通り名。ジェーンが、どっちも食っちまったのか?)


 タリエの笑い声を聞きながら、派手にターンを決めてハンキーの方に戻る。

 道路に出たら、また先行偵察するつもりだ。


(ごめんなさい。おかしくって、笑っちゃったわ)

(いいさ。それで?)

(スミスは女の子よ)

(マジかよ・・・)

(サングラスみたいなヘルメットで、今まで気が付きませんでしたね)

(そういや話すのはいつも、ジョンの方だったなあ。じゃあ、ジョンがどっちにも手を出したんだな。やるじゃねえか)

(3人で結婚したそうよ。今はスミスも顔を隠してないらしいから、そのうち見れるでしょ)

(ダンさんとジョン達の結婚祝いは、今回の鹵獲装備にするか)


 トロッグ兵に姿を変えられたせいか、予備の装備は手付かずで倉庫に眠っていた。

 俺達の取り分を知り合いに少し分けていいかと訊くと、運び屋とルーデルは多めに渡してやればいいと言っていたので問題はないだろう。


(それはいいですね。新婚で大怪我なんて、絶対して欲しくはありませんから)

(きっと喜ぶわ。それに、ジョンは真面目さと気さくさで、真っ当な冒険者には評判がいいから)

(へえっ。それは是非とも、ギルドに所属して欲しいな)


 ジョンの人懐っこさなら、ギルドでも上手くやっていけるだろう。なんならプチではなく、まんまハーレムパーティーになってしまってもいい。

 夕方にハンターズネストに着くと、広場で1頭の荷馬が枯れ草を喰んでいた。


「おおっ。いるんじゃねえか、もしかして」

「ニーニャ見てくるっ!」


 ローザを俺が、ハンキーをウイが収納すると、ニーニャがハンターズネストから飛び出して来た。


「お兄ちゃん、いたよっ!」

「おお。なら、今夜はお祝いだな」

「普通なら、缶詰やお酒は貴重品だからね。きっと喜んでくれるよ」


 ハンターズネストのドアを開けると、照れたように頭を掻くジョンがいた。

 隣にはジェーンと、キリッとしたスレンダー美人がいる。


「聞いたぜ、おめでとう!」

「ありがとう。ヒヤマがそんなに喜んでくれるとは、夢にも思わなかったよ」


 ガッチリと握手して、婆さんと行商人もいるテーブルに着く。


「俺達は、冒険者の知り合いなんてジョン達だけだからな」

「ヒヤマ達は、スラムの酒場や宿屋を使わないからね。まあ金があるなら、誰だってそうかな」

「それなんだがよ、行商人さんも含めて話を聞いてくれ」

「ほう、ダヅを引き込むのかい。この坊やは鼻が利くし、まあまあの選択さね」


 特徴がないのが特徴と言えるような行商人は、ダヅと言うらしい。

 婆さんがここでこう口を挟んだと言う事は、職業がなくても優秀な人なんだろう。


「なら私は、宴会の準備をしておきますね」

「ありがとう、頼むよ」


 いつものように、空母の説明からはじめる。

 ギルドの説明を終えると、缶詰とサハギンスープが運ばれてきた。


「まずは乾杯だな」

「遺跡品だらけの食卓・・・」

「いやはや、豪気ですなあ」

「夢じゃないよね、これ」

「いいからグラスを持てって。ジョン、スミス、ジェーン、結婚おめでとう! 乾杯っ!」

「カンパーイ!」


 戸惑うジョン達に酒と料理を勧め、婆さんに目配せをする。


「まーた、ろくでもない事を考えてるんじゃないだろうねえ?」

「真剣な話さ。こっちに座ってくれ」


 グラスを持って移動してきた婆さんに、赤ワインをなみなみと注ぐ。

 ジョン達とダヅさんをギルドに誘うのは、料理を楽しんだ後かまた日を改めてだ。

 結婚は本人達の宣言で終わり、結婚式なんてないこの世界なのだから、今日くらいは楽しんでもらいたい。


「婆さん、隠居の予定は?」

「しょっぱなから失礼な男だねえ。婆がいなけりゃ、誰がハンターズネストをやるってんだい」

「それもそうか。ギルドで借りてもいいが、信用できる人間を置くとなるとなあ」

「で、なんで隠居させたいってんだい?」

「新しい街に武器屋を作るが、それで悩んでる。運び屋がブロックタウンの武器屋の姐さんを嫁にしたが、これから出産と育児になるんでね」


 婆さんがグビリと赤ワインを飲む。

 カチューシャ商会は、大事な後ろ盾で俺の親族でもある。ギルドで武器屋をやって、迷惑をかける訳にはいかない。


「婆に武器屋をやらせるってのかい」

「武器屋と言っても買い取りはしないし、武器はギルドの冒険者にしか売らない。でも売り物が、鹵獲品ばかりなんでね。カチューシャに迷惑をかけない値段設定が難しい」


 婆さんが笑い出す。

 何がおかしいのか、それはひとしきり続いた。


「あー、こんなに笑ったのは久しぶりさね」

「なんで笑われたのか、俺にはわからん」

「カチューシャに銃を買いに来るのは、どんな客だと思ってるんだい?」

「そりゃ、冒険者とスラムの武器屋じゃねえのか?」

「シティーに入れる冒険者なんて、30もいやしない。スラムにも武器屋はあるらしいが、鉄を叩いて変形させた武器がせいぜいさね」


 それが本当なら、ジョンのパーティーはシティーでも指折りの腕っこきだろう。

 嬉しそうに温めた缶詰を口に運ぶジョンは、とてもそんなパーティーのリーダーには見えない。汚した口のまわりを嫁に拭かれて、デレデレしてるのを抜きにしてもだ。


「なら、誰が買いに来るんだ?」

「金持ちやその護衛、そして他の街から仕入れに来る商人さね」

「卸売だったのか。だからいつ行っても、客がいないんだな」

「失礼な。たまたまだろうに」

「じゃあ、ちょっと装備を見てくれねえか? 値段なんて、見当もつかねえんだ」

「値付けはニーニャに任せたらいいさ。だが武器は見たい。そっちのテーブルに出しとくれ」

「ウイ、頼むよ」


 皿やグラスが置かれていないテーブルに、ウイが銃やそのアタッチメント、軍用ブーツからコンバットスーツまで並べる。

 その横に、手榴弾や地雷だ。


「これはまた、稼いだもんだねえ」

「カチューシャ商店以外に、これだけの武器があるとは・・・」


 婆さんとダヅさんが武器を手に取って眺めはじめると、やはり気になるのかジョン達も寄って来た。


「凄いな、これは・・・」

「あるところにはあるが、命がけになる。無理はするなよ?」

「もちろんだよ。誰に何を言われたって、無理はしないと決めているんだ」

「ジョン、もし自分のパーティーがこの中で装備を揃えるなら、どれにする?」

「銃の知識なんてないから、想像も出来ないよ」

「そうか。オススメはアサルトライフルとそれに取り付けられるグレネード、コンバットスーツにヘルメットと軍用ブーツだな」

「ははは。とても手が出ないよ」


 ウイが少し離れたテーブルに、それぞれを3つずつ出した。グレネードの弾もある。


「使い方を説明しますね」

「ウイさん、なんでだい?」

「結婚祝いです。私達パーティーからの」

「うええええええーっ!」

「すんげえ変な声が出てるし・・・」


 ふらついたスミスをジェーンが抱きとめ、変な叫びを上げたジョンはそのままの姿勢で固まっている。

 前にも銃を進呈したし、今日は結婚祝いなのだから変ではないと思うのだが。


「えーっと、どうしましょう?」

「おい、ジョン。しっかりしろ。前にも銃を譲ったじゃんか」

「そりゃ驚くだろうよ。この装備は、カチューシャで揃えれば硬貨数百、いや、1000はするさね」

「それにしたって、結婚祝いなんだからこんな驚かなくてもよ・・・」

「あんたらレベルの冒険者は、シティーに住む金持ちなんか問題にならないくらい稼いでるのさ。その常識をあてはめたら、ジョン達がかわいそうさね」

「なるほどなあ・・・」


 それでも装備の良し悪しは命に関わる。なんとしても受け取らせるために、ジョンの背中を平手で叩いた。


「痛っ!」

「ジョン、遠慮したらもう付き合いはなしだ。そうなると寂しいから、3人でちゃんとウイの説明を聞け」

「・・・せめて、理由を教えてくれないか?」

「数少ないこの世界の友人。俺もいつも、とある2パーティーに助けられているから、そいつらと同じ事をしてるだけ。それに、モテる男はやっかまれるだろ?」

「ははっ、ヒヤマと一緒にしないでくれって言ったら怒るかい?」

「おう、殴り合いだな」

「じゃあ、心の中で思うだけにしておくよ。スミス、しっかりして。ちゃんと説明を聞かないと、後で困るよ」


 どうやら、受け取ってもらえるらしい。

 テーブルに戻ってビールを飲み干すと、タリエがすぐに新しい缶をくれた。


「サンキュ」

「この幸運を、あの子達がどう活かすか楽しみね」

「そんな考え方もあるのか。お互い死なずに老いぼれて、いつか酒でも飲めたらいいな」

「孫でも抱きながら? きっと、楽しいでしょうね」


 何事もなく老いぼれる。

 そんな事があるのだろうかと思えるほど、何人も殺した。そしてこれからも、敵は殺すだろう。


「殺して生き残って、また殺す。終わりが見えねえな」

「そんなものよ。それが、この荒野の歴史。今はまだ、ね・・・」



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