決着
そろりと目から上を下草から出すと、こちらに銃を向けているトロッグ兵が見えた。
まだ発見はされていない。少しだけ頭を下げて、運び屋がソードオフショットガンを2発撃つまで待つ。
そして敵を見る。
銃をこちらに向けていたトロッグ兵は首から上を失い、後ろの遮蔽物まで吹っ飛ばされていた。
最後方の遮蔽物、そこに残るトロッグ兵は2。その片方を撃ち、また伏せて移動する。
(ありがとう。おかげで撃たれなかった)
(こっちこそだ。残りは10、だが油断はすんじゃねえぞ)
(了解)
移動を終えて敵を見ると、数は5に減っていた。
頭を下げ、マガジンを交換して立ち上がる。
(連続で行く。ヤバそうなら、後は頼む)
(おう。銃口が向いたらすぐ伏せな)
(了解)
言いながら立ち上がり、最後方の遮蔽物にいるトロッグ兵を撃つ。
次、その手前の遮蔽物。
2匹を殺っても、残りの3匹は運び屋とルーデルを狙っている。
余裕を持った3連射で、本営の前にいたトロッグ兵を始末し終えた。
(よーし、良くやった3等兵。敵の武器の回収なんかは、後でウイ嬢ちゃんとヒナに頼めばいい。建物内に踏み込むぞ)
(いよいよか・・・)
(気楽に行こう、ヒヤマ)
運び屋とルーデルの後ろについて、建物のドアの前まで歩く。
(バカ野郎がっ!)
轟音。
視界がぶっ飛んだ。
素早く立ち上がって周囲を見回すと、運び屋に突き飛ばされたらしい。
手を貸して運び屋を立たせるが、怪我はなさそうだ。
ドアがなくなって、その横でルーデルが警戒している。
(何が起こったんだ。爆発音は聞こえたけど・・・)
(ドアの先に、爆発物があったんだよ。相手は、監視カメラでこっちを見てんだ。不用意にドアの前に立つんじゃねえよ)
(うっわ、助けられなきゃ即死じゃんか。ありがとう、運び屋)
(言わなかったこっちも悪いからな。それでチャラだ。ルーデル、どうだ?)
(来ないな。どうやら、室内戦を選択したらしい)
(巣穴から出てきてくれりゃ、少しは楽になるんだがなあ)
運び屋が連装グレネードランチャーを出す。
そのままドアがあった入口の横に立ち、グレネードランチャーだけを建物の中に入れて連射した。
(経験値は5、5、5。罠を3つやったな)
(爆発で罠を壊すのか)
(解除しても、手榴弾1個とかだからな。この方が楽でいいさ)
運び屋が連装グレネードランチャーはそのままでソードオフショットガンも出したので、俺もコルトとサブマシンガンを抜く。ルーデルはレーザーライフルのままだ。
運び屋、ルーデルと続き、俺が最後尾で建物に入る。
廊下が薄暗いのは、グレネードランチャーで照明が壊れたのか、それとも侵入者がいるからスイッチを切ったのか。
網膜ディスプレイの赤マーカーが揺れる。
コルトとサブマシンガンを握り直し、後方の警戒に集中した。
(いいぞ、死神。オマエの仕事はそれだ。ルーデル、そこのドアを吹っ飛ばす)
(了解。室内のクリアリングは任せてくれ)
運び屋はドアを手で開けたり、蹴り開けたりする気はないようだ。
連装グレネードランチャーを撃ち、ソードオフショットガンを構えてドアの正面に立つ。
(ゴー!)
ドアが音を立てて吹っ飛んだ。すぐに、ルーデルが部屋に飛び込む。
俺の場所からは見えないが、室内の敵を探しているはずだ。
レーザーライフルの音はない。
(クリア。次のドアを頼む)
(了解。ほいっと)
運び屋とルーデルは、見事なコンビネーションで次々に部屋を確認していく。
6つの部屋を確認し終えると、赤マーカーが蠢く部屋の番になった。
(ほう、木製のドアじゃねえか)
(司令部だな。奥の鉄のドアなんかは武器庫や弾薬庫だから、ここに立て籠もってくれてるのは助かる)
(そんじゃさくっと終わらせて、宝探しと行こうか)
運び屋が連装グレネードランチャーで、見るからに高価そうなドアを吹っ飛ばす。
今までの部屋ではすぐにドアの前に立ってソードオフショットガンを構えたのに、ここでは動かず連装グレネードランチャーをまた撃った。
(バリケードがあるな。まあ、爆殺すんのは決定だから問題ねえか)
(ここを終えたら、揚陸艇を港にだな)
(無限アイテムボックス持ちが2人もいるから、ギルドの運営資金はこれでなんとかなるだろう)
2人が話す間にも、連装グレネードランチャーが室内に撃ち込まれて、赤マーカーがどんどん減っていく。
(ヒヤマ、資金はキツイのか?)
(そうでもねえよ。ジャスティスマンから受け取った戦争の報酬には、手を付けてねえはずだし)
(それは、死神パーティーの資産だろうが。武器もそれなりにあるだろうし、ほうぼうに売って資金にするといいさ。お、もう生き残りはいねえようだな)
(皆さん、お疲れ様。運び屋さん、私には【生体感知】の最上スキルがあるから、上陸さえすれば敵が残っていないかわかりますわ)
(へえ、さすがは情報屋ってか。じゃあミツカ嬢ちゃん、島の港に揚陸艇を着けてくれ)
(了解。すぐに向かうよ)
ルーデルの案内で、建物の奥から外に出る。
コンクリート製の立派な埠頭があるが、錨を下ろす船はないようだ。
(ウイ、罠がないかよく見てから入港してくれ)
(はい。スキルを伸ばして正解でしたね)
(ほう。ウイ嬢ちゃんはサポートを伸ばしてんのか。死神のいい相棒だな)
(そうなれるように、努力しますよ)
ドルフィン号は軍艦なんかとは大きさが違うので、もやいを結ぶ金具に運び屋がロープを結んだ。
入港して来たドルフィン号の屋根にいるジュモにそれを放る。
ジュモは前部ハッチから顔を出したニーニャをそれに掴まらせて、屋根に引き上げてからおんぶしてロープを登った。
「気を使わせて悪いな、ジュモ」
「こんなの、なんでもないのデス」
「楽しかったー。ジュモお姉ちゃん、ありがとうっ!」
「いえいえデス。ニーニャにはルーデルの強化外骨格パワードスーツもお願いしてるので、こちらこそなのデス」
ジュモの背中からニーニャを抱き上げ、全員が上陸するのを待つ。
最後にドルフィン号をアイテムボックスに入れたウイがロープを登って、埠頭に全員が揃った。
「タリエ、どうだ?」
「トロッグ兵以外のクリーチャーすらいないわね。これで、この島は安全よ」
「終わったか・・・」
「お疲れ様でした。そして運び屋さん、ルーデルさん、ヒヤマを守っていただいて、本当にありがとうございました」
「こっちも助けられたさ。なあ、ルーデル」
「そうだな。やはり歩兵と同行できる狙撃手がいると、格段に戦闘が楽になるよ」
「次があればそれまでには、もっと上手くやれるようになっておくよ」
2人が頷く。
これでキマエラ族に、この島を明け渡せる。
サハギンくらいはたまに来るかもしれないが、この島なら静かに暮らしていけるだろう。
「まだ仕事は残ってるぞ。特に、ウイ嬢ちゃんとヒナは大忙しだ」
「がんばる」
「アイテムの回収ですか。キマエラ族の役に立ちそうな設備は残すとしても、本営は鉄筋5階建ですからね。どれだけ時間がかかるかわかりません」
「のんびりやろう。これが終わったら、また忙しくなるんだ」
全員をウイ班とヒナ班の2つに分けて、1階と5階から回収をはじめる。
すべてが終わったのは、翌日の昼前だった。
「やはり武器が多かったですね」
「硬貨もたくさんあったのは嬉しいね」
「運び屋とルーデルの現物はどうする?」
「ギルドの資金にすりゃいいさ」
「そうだな。金を使う機会なんて、日々の買い物くらいだ」
そう言われても、獲物は山分けに決まっている。
特に今回は、俺なんて大した仕事はしていないのだ。
「そうもいかねえって。じゃあ、ギルドの武器屋なんかで出た利益を渡すでいいか?」
「気にすんなっつってんのに」
「少しならいいが、ギルドの職員にも儲けさせてやってくれよ?」
「そこはエルビンさんの匙加減だと思う。2人の物資を売ってギルド職員がいい暮らしをするのは、なにか違うとか言いそうなんだよな」
「それでもそれぞれ暮らしがある。最初は赤字でもいいから、キチンと給料は出すように言えよ?」
「わかってる。ああ、ヘリも無限アイテムボックスに入れてたのか」
「はい。ルーデルさんが、帰りはこの方が早いからと」
「行こう。キマエラ族の都合が良ければ、そのまま引っ越しだ」
ヘリに乗り込むと、すぐにルーデルが離陸させる。
すぐに到着してヘリを降りると、長老が出迎えてくれていた。
「皆さん、ご無事のようですな」
「ああ。これでいつでも引っ越しできるぞ。ドアなんかは少し壊したが1階だけだから、暮らすのに不自由はないと思う」
「ニーニャ嬢ちゃんが食堂の冷蔵庫からクーラーまで整備してたから、少しは暮らしも良くなるだろ」
「本当に、なんとお礼を言ったらいいか・・・」
長老が涙ぐむ。
その肩を慰めるように叩くのは運び屋だ。この分だと、宴会をはじめてしまいかねない。
「長老さん、よければヘリで引っ越しを手伝いますよ」
「とんでもない。そのような事は、漁船で出来ますのでお気になさらず」
「漁に出てる漁船が、ヘリから見えたからな。すぐには無理だろうさ。なら俺達は、ブロックタウンに戻ろうか」
予想していた宴会は、どうやらないらしい。
なぜだろうと思っていると、ヒナが何度も頷いていた。
「ほう、運び屋も大人になったものだな」
「何を言いやがる、ルーデル。いいからヘリを出してくれ」
「ヒナ、姐さんの顔を見てから帰るか?」
「うんっ!」
何度も礼を言う長老に見送られ、ヘリでブロックタウンに戻る。
姐さんは元気に店の整理をしていた。
話を聞けば懐妊を機にこの店を黄金の稲穂亭に譲り、出産までは空母で暮らすらしい。
子供は出来ればブロックタウンで育てたいと言うと、ヒナはずいぶん喜んでいた。
「ああ、やっぱ自宅のリビングは落ち着くな・・・」
「そうですね。明日からはどうするんです?」
「とりあえず、婆さんの顔を見てからシティーだ。タリエもそろそろ帰らねえと」
「また、酒場のシャロンとしてのつまらない日々がはじまるのね。憂鬱だわ」
タリエが頬杖をついてそう零す。
それをウイは、気の毒そうに見た。
俺にはわからない、女同士のシンパシーだろうか。
「いっそパーティーに入って、冒険者になってしまったらどうですか?」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど、私が役に立てるのはパーティーのいないところだもの」
「ギルドに手を貸す気か?」
「それと、戦争にもね。お邪魔かしら」
「とんでもねえ。この通り頭を下げるから、どうか力を貸してくれ。それにパーティーは組みっぱなしでいいだろ。無線が邪魔なら、切ってりゃいいんだ」
「ありがとう。きっと役に立ってみせるわ」