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休日の過ごし方




「そのギルドとやらに、2人を欲しいという事じゃな」

「家畜のオーナーとして、新しい街に移住してくれるのでも構いません」

「それは無理じゃな。家は、長男が継ぐ。儂の長男は気の小さな優しい男じゃが、長男に残すべき家畜を、この2人に30ずつも渡しはせん」

「独立する気があるなら、就職先として悪くはないと思いますが?」


 爺さんが2人を見る。

 こくこく頷きを繰り返す2人に苦笑して、まっすぐに俺の目を見た。


「即答は出来ん。しばらくオヌシの人柄も含め、ギルドとやらを観察させて欲しいのじゃが?」

「いくらでも見てください。無線で見たり話したりも出来るし、時間が取れるなら旅行がてら島に来るといいでしょう」

「島?」

「キマエラ族って人間に迫害された一族がいて、そのキマエラ族が島を安住の地と決めたんですよ。でもその少し先に、危険なクリーチャーがいる島がありましてね。その島には緑が残ってるんで、クリーチャーを狩り尽くして、その島をキマエラ族の安住の地にするんです」

「それは、ギルドの依頼とやらで?」

「いえいえ。まだギルドは、動き出してないですよ」

「なら、冒険者として依頼されたんじゃな」

「されてませんけど?」


 爺さんが驚いたように俺を見る。

 完全な、2度見ってやつだ。

 込み上げる笑いをこらえて、爺さんがなにか言うのを待つ。


「じゃじゃ馬娘、この少年は・・・」

「うん。完っ璧にお人好し。手のつけようがなくて、いつも困らされてるよ」

「なんとまあ・・・」


 呆れられるのにも慣れてきた、なんて考えていると、爺さんが立ち上がった。

 慌てて飛ばした無線の申請が、3つとも許可される。


「羊を追って帰らねばならん」

「明後日の朝から、少しの間だけでも島に来ないかい?」

「空母とやらだけでいい。じゃじゃ馬娘の婿なら、信用は出来るじゃろう」

「わかりました。予定が決まったら、無線しますよ」

「武器を忘れていますよ。アーサちゃんは軍用自動拳銃とアサルトライフル、フーサちゃんは22口径と猟銃がいいでしょう。アイテムボックスに入れて、ブロックタウンでは出さないようにね?」

「爺ちゃん・・・」


 アーサの方が呟くように言い、立ち上がっている爺さんを見る。


「ギルドとやらの就職に乗り気なら、貰っておくと良い。武器を持って2人で街を出るよりも、その方が儂は安心じゃ」

「うんっ。ヒヤマさん、ありがとうございます」

「街を出るために武器が欲しかったのか。そのうち外で使い方を教えるから、それまでは撃たないようにな?」

「はい!」


 アーサは元気な返事をし、フーサはかわいらしくお辞儀して爺さんの後を追った。


「なんとかなりそうだな」

「2人共いい子みたいですし、一安心ですね」

「あの双子はいい子だよ。小さな頃から見てたあたしが保証する」

「双子だったんか。年もエルビンさんちの双子と同じくらいだよな」

「同い年か1つ下だね。グースとグリン、意識するだろうなあ」

「本気で惚れたら、応援するさ」

「本気じゃなかったら?」

「ブチのめして説教だ。惚れてもいねえ女を抱くなら、金でも出して抱けってな」

「グースとグリン、納得できないでしょうねえ・・・」


 町長とミツカの母、どちらにも顔を見せ、久しぶりの我が家に戻った。

 砲台島の戦闘での疲れが溜まっていたのか、夕方にメシを食った後の記憶がない。気がつけば朝で、時間を早送りでもされた気分だ。

 誰もまだ起きてはいないようなので、冷蔵庫からビールを出して寝ていたソファーに戻る。

 かけられていた毛布を畳んでから、缶のままビールを呷った。


「おはようございます」

「おはよう、たーくん。ニーニャはもう起きたのか?」

「いえ。お兄ちゃんが起きて1人だと寂しいかもというので、廊下で待機していました」

「リビングにいりゃ良かったのに」

「今度はそうさせてもらいます。ラジオを付けましょうか?」

「抑え目の音量で頼むよ。まだみんな、寝てるみてえだからな」

「了解」


 アイテムボックスからノートを出して、書き込んであるルーデルと運び屋の戦闘のページを読み直す。

 ここで俺ならこんなミスをするかもしれないなどと考えながら読み直すと、とてもいいイメージトレーニングになる。

 3度目にルーデルになって戦闘を終えたところで、ウイがリビングに顔を出した。


「おはよう。毛布、ありがとうな」

「おはようございます。ぐっすりでしたね。隣で寝るとヒナが言い張って、大変でしたよって、朝からビールですか」

「今日は家から出ねえからな。飲んで寝ての繰り返しだ」

「ツマミを出しますから、それも食べてくださいね」

「あいよ。食うのも兵士の仕事だからな」


 兵士じゃなくて冒険者だろうと言いながら、ウイはツマミを出して隣で朝食を取りはじめた。

 食い終わるのを待って抱き寄せると、そろそろニーニャが起きてくるからと軽いキスだけでごまかされる。


「あ、お兄ちゃん、ウイお姉ちゃん、おっはよー!」


 それ見た事か、とでも言いそうなウイと一緒に、朝の挨拶を返す。

 朝食を食べながら聞いた限りでは、ニーニャも今日はハンガーには行かないらしい。

 それならばとウイがリビングの隅に出したのは、大量の雑誌やコミックだった。


「かなりあるなあ」

「はじめて探索したマンションに、コミックマニアがいたらしいので。それにミツカと発見したキャンディストアにも、かなりありましたよ」

「なるほどね。どれにすっか、えーと。キャプテンウィングの冒険ね。よし、全巻あるな。ニーニャはどれ読むんだ?」

「これっ! ロボット軍曹ズッコケ漫遊記!」

「すんごいタイトルだな。ウイは?」

「普通のファッション誌ですよ。当時のコーディネートには、興味があります」

「当時の洋服は、ローザのショッピングセンターで回収したもんな」

「ええ。日本では、おしゃれなんてあまり出来ませんでしたからね」


 飲みながら読みはじめると、これがなかなか面白い。

 ツマミを食うのを忘れてウイに怒られながら、6巻まで読み進めた。


「ちょ、空の英雄ルーデル閣下が、キャプテンウィングを助けに来たんだけど!」

「相当浸透してたんですね、空の英雄という呼称は」

「無線で教えてやるか」

「やめてください。子供じゃないんですから」

「こっちは陸の英雄が出てきたけど、なんかお兄ちゃんに似てるね。ほら、これ」


 ニーニャが開いたページには、黒い髪と瞳をした若い男が描かれている。

 コミックなのでかなりの男前で、似ているのは髪と瞳の色だけだ。


「そういやこっちには、黒髪っていねえな」

「アニメのような青や緑はいるのに、不思議ですよね」

「稀人だったって言ってたし、アジア人種だったんかな」

「日本人だったのかもしれませんよ」

「お仲間か。時代が合えば、良い友人になれたのかもな」


 何を神に祈ったのかは知らないが、文明が崩壊する時代に喚ばれるとはツイてない男だ。

 何本目かわからないビールを飲み干してタバコに火を点けると、ミツカとヒナが起きてきた。


「ほん、いっぱい。よんでいい?」

「ああ。メシ食ったら、好きに読めばいい」

「ごはんいい。よむ」

「ダメですよ。ちゃんと食べるまで、読書は禁止です。はい、朝食はここに置きますね」

「むー」


 しぶしぶテーブルに着いたヒナの頭を撫で、新しいビールを開ける。


「こんなにあっても、ソルジャーオベェマはないんだろうなあ・・・」

「残念ながらありませんね。かなり人気のな、人気がありすぎて買い占めが続出したんでしょう」

「あり得るな、いや、そうに違いない。いただきます」


 タリエが起きてきたのは、昼過ぎだった。

 本人が言うには夜の仕事が長いので、夕方近くまで寝るのが癖になっているらしい。

 ただひたすらにダラダラするだけの休日は何事もなく終わり、翌朝早くにハンガーに集合した。

 今度のメンバーはルーデルとジュモ、運び屋とタリエに俺達パーティーだけになる。


「上がるぞ」

「よろしく頼む」

「偵察した画像を、全員に送ったデス」

「まさか、昨日偵察に出たのか?」

「ああ。砲に兵を置く余力はもうないらしい。あれなら揚陸艇で俺達を運んでもらって、1日でカタをつけられるぞ」

「悪いな。俺はダラダラしてたってのに・・・」

「気にするな。航空機を飛ばせるのは俺だけなんだ」


 タリエがさっそく画像をパネルにして床に置き、見えているトロッグ兵に印をつけている。

 印は本営とみられる建物に集中していて、島を守る布陣から本営を守る布陣へと変更されているようだ。


「これなら夜戦の必要はねえな。明日の朝に乗り込めば、夜までには終わるだろ」

「隅々まで探索するのに、何日かかるやら・・・」

「手分けしてやりゃあ、すぐだろ」

「武器もいいのを使ってたからなあ。運び屋、姐さんは空母で子育てするんだろ?」

「考えてなかったな。艦橋なら安全か」

「2階より上は、完全にギルド職員と起ち上げメンバーしか入れねえからな」

「なら、空母だろうな」

「ギルドの武器屋のアドバイザー確保、っと」


 ヘリが着陸すると、キマエラ族の子供達が出迎えてくれた。

 手を振って食堂に行き、長老を探す。


「いたいた。長老、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょうか」

「明日の朝に出かけて、夜には砲台島を奪取する。安全確認に何日かかかるが、それが終わったら引っ越し出来るぞ。森を開墾して、畑なんかを作るといい。農具や種は、ブロックタウンで買って持って来る」

「なんとお礼を言えばよいか・・・」

「よしてくれ。今日も泊めてもらうんだ。おあいこだ」

「いくらでも、泊まってくだされ」


 笑顔で言う長老に礼を言い、運び屋がテーブルに並べたビールを渡す。

 冒険者の突発宴会にもすっかり慣れたようで、素直に受け取ってもらえた。

 飲んでいると仕事がハネたキマエラ族が次々と合流して、食堂は賑やかになる。

 ティコのコミック芝居が観られないのを、誰もが口々に残念がっていた。


「やっと終わるなあ、死神」

「まだ気は抜けねえよ。明日は、足を引っ張らねえようにしねえと」

「狙撃手は任せるからな?」

「ああ。連射が出来るスナイパーライフルなら、少しくらい数が増えても殺れると思う。明日に備えて、俺はもう寝るよ」

「おう、ゆっくり休め」

「おやすみ、ヒヤマ。明日は気楽に行こう」



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