第06部
【2023年09月11日19時37分05秒】
俺と湖晴はグラヴィティ公園の中を走っていたどうやらここが目的地への近道らしい。
俺は走りながら、幾つか湖晴に疑問を投げかけてみた。
「なあ、湖晴」
「……何でしょうか」
走っているせいだろうか、少ししんどそうに湖晴が答えた。無理もない。俺の家を出てからノンストップで、決行な速さで走っているのだから。俺は別に足が速い訳ではないが、それでも男子高校生だ。同世代くらいの女の子よりは速い自信はある。
「今何処に向かってるんだ?」
「何処って、それは野依音穏さんの所にですよ。真実を確かめる為に」
「でも、お前は真実を確かめる必要は無いんじゃないか? 何で俺と走ってるんだ?」
「いえ、私も真実を知らないと過去改変のしようが無いんですよ」
「どう言う事だ? 資料か何かでは分かんないのか?」
「意外と分からないものなんですよ。私だって知らない事くらいあります。それに、過去に何があったのかを知らなければ、何時の何処に行けば良いのか分からないではないですか」
「そう言う物なのか」
「はい」
「で、目的地は何処なんだ?」
「それはこのタイム・イーターに示されているんですが……」
「ちょっと待て。そのタイム……イーターだったか? は、そんな事も出来るのか?」
さっきは超小型素粒子加速器とか言っていた様な気がする。当たり前の事かもしれないが本来の加速器にはグーグルマップの様な地図は記録されていないし、表示もされない。GPS機能などもっての他だ。
「いえ、このGPSの様な機能も一種のタイムトラベルなんですよ?」
「え、そうなの?」
一見、GPSはタイムマシンとかタイムトラベルとは無関係の様に思うのだが。正確には違うらしい。
「勿論普通のGPS機能は衛星とかを利用していますが、このタイム・イーターの機能は特定の人物の座標位置記録しておく事で時間を遡って特定していると言う物なんです」
「あー、難しい単語ばっかりでよく分からないんで『猿でも分かるタイム・イーターの機能!』とかでお願いします」
「……流石に猿では分からないかもしれませんが、様は特定の人物の移動した場所をリアルタイムで教えてくれるって事です」
「……?よく分からんが、分かったと思う」
「首を傾げながら納得しないで下さいよ……あ、そろそろですよ」
走りながら相当な量を話していたので俺も湖晴も結構息が上がっていた。でも、湖晴があと少しで目的地に着くと言ったので少し気が楽になった。
それにしても湖晴って意外と体力あるんだな。見た感じ俺と同い年くらいだと思うけど、帰宅部でも男子高校生の俺とほぼ同じスピードで走り続けているのだから。後で時間があったら聞いてみるか。
そして、俺達はグラヴィティ公園の中を通り抜けその近くにある丘の麓に来ていた。
ここの丘は周りが坂ばかりである事もあり、他よりも高さがある為、頂上に登れば大体町全体を見渡す事も出来る、隠し絶景スポットだったりする。
それに俺にとっても思い出深い場所でもある。小学生の頃、暗かった音穏が今の様になった後よく遊びに行った場所だ。二人に共通点は特に無かったが、当時は走ったりしてるだけでもそれなりに楽しかったんだと思う。と言っても走っていたのは音穏だけだが。
今思えば他愛の無い遊びだったかもしれないが、俺にとっては大事な思い出だ。音穏ももしかすると……。
丘の斜面に設置されている階段を上がり、俺と湖晴はようやく丘の頂上に辿り着いた。全力疾走の後と言う事も含め、階段の段数が多かったので思いのほか疲れた。
「次元さん。心の準備は出来ていますか?」
「あ、ああ」
この時の俺はここまでの流れで、この後起きる事を大体既に理解していた。ただ、その事を認めたくないあまり問題を先延ばしにしていただけなのだ。
俺と湖晴は、外見よりも意外と広い丘の頂上をしばらく歩いていた。そして、ひたすら登って来た階段と方角的に逆方向へと歩く。
そして、遂にその瞬間が訪れた。
そこにいたのは……。