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Time:Eater  作者: タングステン
第一話 『Ne』
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第05部

【2023年09月11日19時31分33秒】


「それでは、私がタイムトラベラーになって何をしているか、その目的をご説明します」


 俺が質問した後、湖晴はそう述べて続けた。


「私の目的、それは過去改変による『重犯罪事件』の根本的な解決です」

「か、過去改変による重犯罪事件の解決?」


 重犯罪事件とはその文字通り、凶悪で深刻な事件の事だろう。しかし、その重犯罪事件を過去改変で根本的な解決だって?


 俺が考え込んでいる様子をじっと待ち続けていた湖晴が、再び口を開いた。


「私は玉虫先生からの使命に基づいて、この世界に深刻な影響を与える重犯罪事件を過去に行って、根本から無かった事にして解決しているの者なのです」

「この世界に深刻な影響を与える……?」


 その事に何故か納得してしまう俺がそこにはいた。しかも、また出て来たよ『玉虫先生』。何者なんだよその人。


「ほら、よくあるではないですか。多くは挙げられないですけど、研究施設連続爆破とか、児童大量虐殺拉致監禁とか」

「あ、ああ……」


 随分ズバズバ言ってくるな……えげつない事を。


「他にも特殊な例はあるんですが、まぁその時になればご説明します」

「そうか」


 俺には頷く事しかできなかった。


 どの様な使命で何故その様な事をしているのかは深くは聞かない様にした。さっき音穏の事があったからかもしれないと思うが、何か暗い過去に触れてしまうと直感で思ったからだ。


 俺は次の質問をしようとしたが、先に湖晴が言った。


「それでは!」

「!? お、おい!」


 唐突に湖晴が手を振って帰ろうとしたので、俺はその逆の手を取って引き止めた。


「どうかしましたか?」

「『どうかしましたか?』じゃないだろ! そんな意味深な言葉を残して!」

「いや、でも言うべき事は言いましたし、そろそろ行かないと次の事件が……」

「何!? 湖晴。お前今から事件解決に行くのか?」


 大方予測は付いていたが、まさか本当に行くとは。ここで俺はどうするべきなのだろうか。一人の女の子をそんな明らかに危険な所に行かせる訳にもいかないし、かと言って俺はそう言う事には全く詳しくないしな。


 その時異変が起きた。


「!」


 唐突に窓の外側が明るくなったと思うと、何かが破裂した様な、爆発した洋なし爆音が俺の耳を劈いた。いや、正確には違うのだが今はその唐突な状況を大袈裟に表現をしておく。


「何だっ!?」

「始まった……様ですね……」

「は、始まった……?」


 『始まった』だって? 一体何が? さっき湖晴が言っていた重犯罪事件の何かだろうか。


「はい。次の過去改変対象事件です」

「次の……」


 俺が湖晴の言った言葉を復唱しようとした時、再び、さっきよりも大きな音が聞こえた。


 何が始まろうとしている? いや、何が始まった?


 俺は平静を保てなくなり、思わず窓の外を見た。遠くの方で何か火事があったのか、夜にも関わらず空が赤黒く輝いていた。


「次元さん。落ち着いてください」

「落ち着けるかっての! こんな状況で! 『重犯罪事件』が起きたって事は『重犯罪者』が近くにいるって事だろ!? それに何か爆発してるっぽいし」


 普通は落ち着けるはずがない。だって非日常的過ぎるだろ? つい数時間前まで俺は平凡な高校生だったのに、何でこんな事になってしまったのか。


「あの、犯人のおおよその場所は把握しています。ここからはかなり遠いですよ。しかも、今回のケースは特殊な事件に分類されるのでお話しておこうかと。次元さんも聞かれたいみたいですし」

「そ、そうなのか?」


 話よりも一刻も早く逃げてしまいたいと言う俺の気持ちを察したのか湖晴はそんな事を言ってきた。


 湖晴が言って来た事は俺程度でもどうでも良い内容ではない、と言う事くらいは分かっていたので聞いてみる事にした。


「はい。では、今回の事件の概要をご説明しましょう」

「おう」

「ここ1週間くらいの間に頻発している『研究所連続爆破事件』はご存知ですよね?」

「ああ。それなら知ってる」


 さっきもそれで音穏の過去を思い出していたしな。よく話題にもなってるし。かなり物騒で凶悪な事件だ。


「で、その事件の事で何か分かっているのか?」

「はい。タイム・イーターの分析結果で、幾つか分かった事がありました」

「ほう」

「まず一つ目は、爆破された研究所に共通点があったと言う事です」

「共通点?」


 それは初耳だ。ニュースや新聞にはそんな事は書かれていなかったはずだ。何故そんな事を湖晴が知っているんだ? 暗部の力か? と言うか『独自に分析』ってどんな風に調べたんだろうか。


「その共通点はどの研究所も『水素を研究している』あるいは『水素を研究した事がある』と言う事です」

「また水素か……」


 今日は本当に水素にまつわる事が多い様な気がする。音穏の事、謎の金属性の筒の事、それに研究所爆破事件。


「どうされましたか? 次元さん」

「いや別に。続けてくれ」

「……そうですか?では。二つ目の共通点は……『裏で何らかの科学結社が絡んでいる』と言う事です」

「……か、科学結社?」


 また非日常的な単語が……。まぁ、良いか、別に俺は平凡な高校生だからな。深く知る必要も無い。


「深くは説明しなくても良いですか? 話すと長くなると思いますし」

「ああ、別に構わない。俺も余計な事を知って、闇の組織とかに命を狙われたりとかされたくないしな」

「流石にそれは無いと思いますけど……。あ、そうだ!これ、犯人の写真です」

「……犯人とか分かってんのな」

「ええ、まあ。ご覧になられますか?」

「プライバシーとか大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ? この写真は爆破された研究所にあった監視カメラの画像データを勝手に処理したものですし。はい、どうぞ」

「どれどれ」


 湖晴はそう言って俺にその写真を見せた。俺は軽い気持ちでその写真を見た。


 数秒後、俺の心の中で何かが壊れて行く様な音が聞こえた気がした。その写真にあり得るはずの無い、あり得てはいけない人物が印刷されていたからだ。


「何だ……これ……?」

「どうかされましたか?」


 俺はまさに言葉通り、唖然としていた。


「なんで……!」


 唐突に起きた目の前の信じられない、信じる事の出来ない光景を信じたくないと俺は思った。心の奥の奥から。


 そして……、


「なんで……なんでここでこいつが出て来るんだよっ!」


 その写真にはっきりと写っていたのは俺がよく知る人物だった。


 つい1時間前まで俺の隣で一緒に話していた俺の大切な、たった一人の、何だかんだ言っても面倒見の良い幼馴染みの……『野依音穏』がそこに。


 俺が困惑しているのにも関わらず、湖晴は何やら資料を読みながら説明を始めた。


「野依音穏。原子大学付属高等学校二年生、十六歳、女性。軽音学部に所属している様ですね。成績は中くらいで運動は中の上くらい。人間関係に優れていて……」

「違うっ!」


 俺は目の前の出来事を否定する為に、唐突に大きな声を出していた。


「ど、どうされましたか・・・? 次元さん?」

「違う違う違う! 音穏はこんな事はしないっ! これは何かの間違いだ!」

「もしかして、お知り合い……でしたか?」

「そうだよっ! つい1時間まで俺の隣で一緒にしゃべりながら帰っていたんだよっ! それに音穏はただの高校生の女の子だ! そんな事件起こせる訳ないし、起こす理由も無いはずだ! それに……」

「『それに』なんですか?」


 湖晴には悪気は無かったのかもしれないが、その台詞は俺にとっては無慈悲な一言だった。


「何?」

「次元さん。気持ちが落ち着かないのも分かります。でも、残念ながらこの事は事実です。先程も述べた通りこの写真は爆破された研究所の防犯カメラに写っていた物なんです。それに、今までも何か予兆があったはずですよ?」

「そんな事……あ」


 いや……あった。予兆なら確かにあった。


 研究所爆破事件が始まったのは今から一週間前。そして、音穏が軽音部を休んで俺と一緒に帰っていたのもちょうど週間くらい前。


 この二つの事で導き出される結論は……。待て待て待て! 結論を出すには早すぎる。これくらいの事誰にでもあるじゃないか。音穏がたまたま当てはまるだけかもしれない。


 では、何故湖晴は音穏が犯人であると確信しているんだ? 確かに防犯カメラに記録されていたなら正しい情報と言える。しかし、真犯人が防犯カメラを細工したかもしれないじゃないか。


 俺は考え続ける。


 そうに決まっている。やっぱり音穏がそんな事する訳ないじゃないか。


 だが、この後、俺が思いついてしまった考えは俺にとって最悪の結果を示す物だった。それは……、


「俺が音穏と飛行船のニュースを見たとき、音穏は様子がおかしかった……!」


 もし、それが自分の過去を思い出した時の反応以外の反応も含まれていたら……? もし、自分の過去のを思い出した場合の反応だったとしても、音穏の両親は研究所の爆破事故で亡くなっているんだぞ……? それも『水素』の新たな活用法の、だ。


 湖晴はさっき言っていた。爆破のターゲットになっている研究所はどれも『水素』に関係していた、と。これは音穏の両親が研究していた分野と同じだ。


 つまり無茶苦茶でこじ付けな考えかもしれないが、犯罪の動機は過去の爆破事故が実は事故ではなく、何者かの仕業で、その仇を討とうとしているという事か?何故、そんな事を……。


 そして、また嫌な考えが浮かんだ。それは、湖晴がタイムトラベルして来る直前に拾った金属の筒だった。


 表面が削れて全部は見えながそこにあった文字列には『Hydrogen』、つまり『水素』の文字もあった。もしかするとあれは水素爆弾その物だったのではないだろうか? 学校帰り、俺との別れ際に音穏がうっかり落としてしまった物なのではないだろうか?


 そんな事を思いつつ、俺はその金属の筒をバッグから取り出し湖晴に見せる。


「なあ。これって……もしかして水素爆弾か何回かなのか……?」

「次元さん、これを何処で?」

「グラヴィティ公園だけど」


 俺がそう言うと、湖晴はそれを手に取り暫くじっくりと観察し始めた。


「次元さん」

「ん?」

「これは水素爆弾ではありません」

「え、そうなの?」


 それなら良かった。……良かった、のか? それが水素爆弾ではないとしても、他の要因が音穏真犯人説を浮かび上がらせているのに?


「もし、これが実際に使われた爆弾だとしても安全です」

「?どう言う事だ?」

「どう言う事も何も、だって中身が入っていないじゃないですか」

「何?」


 俺はとっさに湖晴から金属の筒を奪い取り、縦に振った。拾った時には中から音がしていたので何か液体が入っていたのが分かったが、今は何度振っても中から音がする事はなかった。


 どう言う事だ?


 大袈裟かもしれないが、今日色々と不思議な事に巻き込まれ続けた俺からすると放って置く事の出来無い問題だった。何かこの後にある出来事と関係性がありそうで怖かったのだ。


 俺が色々と考えていると湖晴が口を開いた。


「次元さん。取り合えずそれは私が預かっておきます。そう言う物の扱いにも慣れていますし」

「そうか。悪いな」

「いえ」


 俺は自分を少々情けないと思いながら、湖晴にその金属の筒を渡した。そして、湖晴はそれを受け取り、何処に仕舞ったのか分からないまま何事も無かったかの様に再び口を開いた。


「では、本題にも戻ります」

「ああ」


 そう。少し話が脱線してしまったが、本題はその謎の筒ではない。


「次元さんはどうされますか? 次元さんは善良な一般市民ですし、私にそれを強制する権利はありません。でも、真実を確かめたいとは思いませんか?」

「俺は……」


 俺はどうすれば良いのだろうか。どうする事が正解なのだろうか。もしかすると正解はなく全て最初から間違いだったのかもしれないが。


 今の俺は音穏が真犯人なのかそうではないのかを確かめる事も出来る。俺は今その決断を迫られていた。


「俺は……真実を知りたい」

「分かりました。それでは行きましょう」


 湖晴がそう言って立ち上がり、俺の手を引いた。


 俺は真実を確かめる道を選んだ。たとえ、それが最悪の結果を導き出す事になっても。

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