第04部
【2023年09月11日19時05分15秒】
俺は血塗れになったその白衣の女の子を背負って家に帰って来た。
その帰り道、俺は何故か誰にも会わなかった。平日の午後七時なら会社帰りのサラリーマン等がいそうなものだが。しかも、商店街の店も全て閉まっていたし。
それに家に誰もいなくて良かった。あの純粋な妹なら兄が血塗れになりながら、血塗れの少女を家に運んで来たら、ショックで死んでしまうだろう。いや、逆に俺が殺されるかもしれないな。
リビングの机には『明日は創立記念日なので、友達の家にお泊り会して来ます。夕飯は冷蔵庫にあります。温めて食べてね。明日のご飯は適当に買ってね。byおにぃちゃんのかわいいかわいい妹の珠洲』と書かれていた手紙があった。
俺の周りには自分自身の事を『可愛い』と言う女子が多いと思った。でも、このかなり緊縛した状況を和ませるには最適だった。
まず俺は自分の部屋に行き、ベッドの上に白衣の女の子を寝かせた。その後、救急箱をリビングから取って来て、その子の元へと戻る。
取り合えず出血は止まっていたみたいなので、傷口を消毒し包帯で巻いた。傷跡を見てみると見事に貫通していた。
俺の両親が医療系な仕事をしていたのが助けになった。俺と珠洲は幼い頃から、こう言う様な応急処置の訓練を受けていたからな。それに、その影響で高校の保健体育の授業を真面目に聞いていて良かった(別に教科担当の先生が怖くて眠る勇気が無かったとかそう言う訳ではない)。
俺も血を浴びて制服が大変な事になっていたので白衣の子の応急処置を済ませた後、自分の制服をそのまま洗濯機に入れ、風呂に入って来る。
あの白衣の子は暫くここで寝かしておいて、病院に連絡が着いたら連れて行ってやるか……。
家の角にある風呂場のドアを開けて中に入る。どうやら珠洲があらかじめお湯を溜めてくれていた様だ。そして、シャワーを浴び、体を洗ってから湯船につかる。
水蒸気が凝結し水滴となり濡れている天井を見上げながら、あの白衣の女の子についてと今の状況について考えた。
この状況、明らかにおかしい。何がおかしいかって? それはここまでの状況を見ればすぐに分かる事だろう。
まず一つ目だ。あの子はいったい何者だ?
閃光が辺りを包んだと思えば目の前に謎の空間が浮かんでいて、そこから出て来たと思えば銃か何かで撃たれて血塗れになっていた。漫画かアニメでありそうな話だ。
深入りするつもりは無いが、現場にいた人間として知っても良い権利位はあるだろう。あの子が話せる状況になったらこの事は聞くとしよう。
そして二つ目。あの子が撃たれた時公園に誰もいなかったと言う事、携帯電話をかけても誰にも繋がらなかった事、またその帰り道にあの子を担いで家に戻るまでに誰にも会わなかったと言う事。
つまりあの空間と白衣の女の子が出現してから誰にも会わなかった、いや、誰にも会えなかったと言う事だ。
時間帯が夕方にしては遅かったから、公園に誰もいなかったと言う事はまだ分かる。でも、今日は平日の月曜日だ。ここ周辺は都心には近い方で、決して田舎ではないので夕方でも会社帰りのサラリーマン等、人が多いはずなのに誰一人として会う事が無かった、と言う事は何故なのか分からない。しかも、誰一人として、だ。
それに、携帯電話に電源が入らなかった事も変だ。
ついさっきも充電して何度か電源スイッチを押したが、結局一度も電源が入らなかった。故障で良いのだろうか。しかし、家にある固定電話でも繋がらなかったしな……。故障ではなく何か別の原因か?
不思議な事ばかりだ。
取り合えず、あの白衣の女の子が怪我を負ったのが銃弾であるとすると、その銃弾は何処から飛んで来たのだろうか。応急処置を施した時には貫通していたらしく、銃弾は残っていなかった。
血飛沫が正面からかかったと言う事は正面から飛んで来たと言う事か。しかし、俺の頬に当たった何かは?
あの謎の空間の向こうから銃声が聞こえた様な気がしたが、そんな訳はないか。公園には誰もいなかったはずだからな。
それに、この付近で拳銃の発砲事件等の物騒な事件は起こった事は無い。この近くの地域は研究機関が多い為、防犯システムがよく整備されている。つまり、拳銃を扱うであろう暴力団等は存在出来ないのだ。夕方の珠洲の件は例外中の例外だ。
あ、そう言えばさっき拾った金属の筒を交番に届ける事を忘れていた。あの閃光の時、とっさに鞄に入れてしまったからな。まぁ、明日届ければ良いか。
その前に少し調べて見たいと言う好奇心もあったが、今の状況下ではそんな事をしている場合では無いと考え、思い止まった。
そんな時、風呂場のドアが勢いよく突然開けられた。
「……」
「ん?」
そこにいたのは、ついさっきまでベッドの上で寝ていたはずの女の子だった。
「うわっ!」
しかも、その女の子はさっきは着ていた白衣を着ておらず裸だった。それもタオル一枚羽織っていなかったのだ。
長くてさらさらしている青髪、純粋を形にした様な碧眼、透き通る様な真っ白な素肌。
「……?」
俺が驚いて声を上げたが、その女の子は首を傾げていた。この状況が認識出来ていない様だった。
俺は咄嗟に目を逸らしていた。この状況では、男は目を逸らすのが常識だと無意識の内に思っていたからだ。少し惜しい気もしたが。
「ん?」
その際に、ふとその女の子の横腹辺りが見えてしまった。さっき、応急処置をした際は不可抗力で見えてしまったが、今のは偶然である。
傷跡が……無い。さっき治療した時にはあった、銃で撃たれた様な傷跡が無かった。それも元々無かったかの様に無かった。どれだけ見てもそこには、綺麗な真っ白な肌があっただけで、包帯すらもしていなかった。
「え……?」
俺はその事に驚きつい凝視してしまったが、そんな事に気を使っていられる場合ではない。
どう言う事だ?俺は確かに止血はした。しかし、それは出血を一時的に押さえ込んだだけだ。
そう、それは親から少しだけ何回か習った程度の物で、急に傷が塞がる様な効果は無い。本来ならば一刻も早く病院に連れて行った方が良いはずだ。拳銃跡なら尚更だ。
超能力者や魔術師ならそんな事が出来るのかも知れないが、残念ながら俺はそんな便利な能力は持ち合わせていないし、その様な人でもない。俺は平凡な男子高校生なのだから。
すると、不意にその女の子が呟いた。
「……ここは何処でしょうか?」
「……え?お、俺の家だけど……」
唐突だったので俺は少し戸惑ってしまった。
それにしてもこの子の声、綺麗だな……。文字通り、透き通っていると言っても過言ではなさそうだ。
女の子は少し考え込んだ後、何に納得したのかは分からないが一回頷いた後、再び呟いた。
「……ああ、そう言う事でしたか。一応回避は出来たものの、異常が発生した様ですね。ならこの時間で一体何が?あの事件は既に改変済みのはず……」
何だか俺にはよく分からない事をぶつぶつと呟いていらっしゃる様で。
「あの……何を言ってらっしゃるのでしょうか……?」
「ん? あ。あー別に気にしなくてもいいですよ?」
そう言うと、その女の子はすたすたと歩いて行った。
もしかすると、俺はヤバイ奴と関わってしまったのではないのだろうか、この時の俺はそんな風に思った。この直感は実はあながち間違ってはいなかった。
「ふー。何だったんだ?」
まじで家に珠洲がいなくて良かった。
世間一般では品行方正・文武両道・才色兼備で通っている珠洲だがこう言う事になると豹変するのだ。今の場面を見られていたら、おそらく俺は八つ裂きにされて、この平凡な命はそれっきりだっただろう。
以前、学校に行く時に迎えに来た音穏がつまずいてこけそうになっていたので両手で支えたら、抱き付いた様な格好になってしまった場面があった。
それを俺に忘れ物を渡しに来た珠洲に見られた事があった。その時は『ちょっとそこで待っててね? おにぃちゃん?』と言われたのでしばらく待っていると、料理包丁を持った珠洲が物凄い形相で走って来たので、音穏と一緒に学校まで死ぬ気で走って逃げたのを覚えている。そのお陰で、その日はいつもよりも5分も早く学校に着いてしまった。
俺は学校で家に帰ったら命が無くなると思っていたが、帰ると珠洲は朝の事など既に忘れていた。
別に妹の事をあれこれ説明してもシスコンと思われるだけなので、俺は風呂場を出て服を着て、自分の部屋に向かう。
そして、ついさっき風呂場で起こった事についてふと思い出す俺。
……だ、大丈夫だよな? 大丈夫大丈夫。
だって、有り得ないじゃないか?銃で撃たれた様な傷がものの十分程度で完治するなんて。
今日は有り得ない事が立て続けに発生しているが、これだけは物理的に絶対に有り得ない。
おそらく、普段は平凡な生活を送る俺にとっては、インパクトの強い出来事だったから幻覚でも見たのだろう。
だから、あの女の子は今もベッドで寝ていて俺はこれから近くの病院まで背負って運ぶのだ。自転車だと坂道がきついし、落としちゃったらまずいし。免許が無いからバイクも自動車も無理。
それで、今日の連続不思議現象事件は全て終了だ。今日の事は今日中に忘れて、俺は明日からも今まで通りの平凡な日々に戻る。
……と思っていたのだがその考えは数秒後には破滅していた。
風呂場から自分の部屋に戻る途中、廊下に何かが大量に散乱していた。
その一つを拾い上げて見ると、それはカップ麺だった。他に散乱している物も同様に簡易食品、保存食品、お菓子などだった。
俺は基本的にカップ麺とかその類の物を食べない。と言うか珠洲が食べさせてくれない。食事の栄養を過度に気にする珠洲に『そんな物を食べるんだったら、私の愛の手料理を食べろ!』といつも言われるからだ。
と言う事は、これはまさかあの子が? そ、そんな事は無いだろう。
この考えが思いっきりフラグであるなど、この時の俺は考えもしなかった。
これは今日色々とあって疲れた俺の脳が見せている幻覚の一つなのだと思い込み俺は自分の部屋に入った。
しかし、この世界には希望なんて無かったのだ。
そこには、がつがつとカップ麺やらポテチやらを食べる白衣の女の子の姿があった。
「何やっとんじゃー!」
俺が大声で心の声を全力で口に出して叫ぶと、その白衣の女の子はカップ麺を食べながら一瞬こちらを見たが、無言で数秒前の様にカップ麺を食べ始めた。
「止まれーっ!」
俺はそう叫んで、その子の後頭部にチョップをした。かなり良い音がしたクリーンヒットだった。
「あうっ……」
勢いでその子の手からカップ麺が滑り落ち、俺の部屋の床にスープが飛び散った。俺は自分の部屋が汚れる事を嫌う方面の人だ。しかし、そんな事も気にする暇も無く俺はその子に対して言った。
「何してるんだ?」
さっきのチョップの痛みで両手を頭の後ろにしつつ、やや涙目になっていたがその子は言った。
「危ない所を助けて頂いたので……」
「ので?」
「それに空腹だったので、ついでにちょっとご飯でも頂いて行こうかと……」
「台詞が繋がっていない! しかも、お前が今食ってたのってご飯じゃないよね!? 思いっきり菓子だよね!?」
「……え?」
「『……え?』じゃねーよ!」
どうしたものだろうか。全く話が繋がっていない。しかも、こっちが変な人みたいな目で見られた。
どうやったら『助けられた』→『ご飯を頂く』になるんだよ。普通は『助けられた』→『お礼を言う』→『恩返し』だろ。そのくらい鶴にでも出来るわ! あ、でもさっき風呂場でお礼は言われたか。
しかしながら、もしかするとこの子は物凄く天然なのではないだろうか、と俺は直感的に思った。
その後、謎の会話が始まった。
「恩返しをしたいので、しばらく一人に……(もぐもぐ)」
「お前は何、人の心読み取って鶴の恩返しを再現しようとしているんだ? そして、菓子を食うな!」
訳が分からん。一人にされたら絶対食料を持って帰るつもりだったろ、この子。とんだ恩返しだ。どうやらこの子は、絶対に目を離してはいけない類いの生命体らしい。
しかし、聞きたい事もあるので、俺は家が荒らされた事等も全て忘れた事にして聞いてみた。
「俺は上垣外次元。君の名前は?」
すると、その子はさっきまでの自堕落な態度から一変し、礼儀正しく答えた。
「私は照沼湖晴と良います。湖晴って呼んで下さい。この度は危ない所を助けて頂いて、ありがとうございました、次元さん」
「お、おう」
いきなり態度が変わったので俺は驚いて返答に困っていた。口調が丁寧すぎる。それに、いきなり下の名前で呼び合うとか……。
てかさっきの幻覚でも思っていたが、声綺麗だな。透き通っていて、クリア(意味が被っている)な声だ。そのまま声優とかになれそうだ。
つい、いつもの癖で話し相手の分析をしてしまったが聞かなければいけない事は沢山あるので、俺は質問を続けた。
まずは、横腹の傷跡についてだ。
「今から君……湖晴だっけ? じゃあ湖晴に幾つか質問するけど良いか?」
「はい。良いですよ」
「では、最初の質問。脇腹の傷はもう大丈夫か? 一応俺が応急処置はしておいたけど」
「ええ。もう大丈夫です」
大丈夫なんかい。それはそれで、別の方向で重症だと思うが。神経がちゃんと通っているか心配になる。
「本当に? 一応病院に見て貰った方が良いと思うけど……」
「大丈夫ですよ。ほら……」
「ちょ……! ストープッ!」
いきなり、湖晴は白衣とその下に着ているシャツをめくって、傷跡だった所を見せ様として来たので、俺は目を逸らしつつ止めさせた。
危うく胸が見えそうになった。応急処置の時にも思っていたが、この子結構胸が……って、違う違う。これ以上ラブコメの様な展開を増やしてどうする。俺はギャルゲーの主人公ではない。
俺は少し赤面しながら質問を続けた。
「銃か何かに撃たれたよね?」
「その様ですね」
「じゃあ、そんなにすぐには直らないと思うけど……」
「いえ、銃で撃たれた位なら二,三十分くらいで直りますよ?」
「あ、そうなんだー……って、えーっ!?」
「怪我が一般的な人よりもすぐに直りやすい体質なんですよね、私」
俺は『いくら体質でもそれは無いと思う!』とは言えなかった。事実、怪我は直っていたのだから。元々怪我なんてしていなかったかの様に。信じがたい事ではあるが。
でも、本人が大丈夫ならそれで良い。
「次の質問。何でいきなり公園で俺の目の前に現れた?」
「それは私にも分からないんですよねー」
「どう言う事だ?」
「いやー。私の記憶が確かなら、二十三回目の過去改変作業の帰りにお腹が空いたので、元の時間に戻ってご飯でも食べに行こうとしたら、あんな事になってたんですよ」
「は?」
今この子は何て言った?『二十三回目の過去改変作業』だって?
「ごめん。よく聞こえなかったから、もう一回言ってくれる?」
「『いやー。私の記憶では、二十三回目の過去改変作業の帰りにお腹が空いたので、元の時間に戻ってご飯でも食べに行こうとしたら、あんな事になってたんですよ』」
「……」
どうやら、聞き間違えでは無い様だ。しかし、そんなSF染みた事、誰が信じると言うんだ。何処のB級映画だよ。
でも、そう言う話には少し興味があったので深入りして聞いてみた。
「次の質問。『過去改変作業』って?」
「……!? 何故それを!?」
「お前が2度も言ったんだろうがっ!」
湖晴は言ってしまったと言わんばかりの表情で驚いていた。こっちが驚きたいわ!
……しまった。つい女の子に大声で怒鳴ってしまった。
「これはもうお話するしか無さそうですね……」
「と言うか、ただの自爆じゃねえか」
まだ質問は沢山あるのに、途中で増えて行ったら終わった頃には日が暮れてしまう。いや、今は七時半だからもう日は暮れていたんだった……。
俺が一人で勝手に墓穴を掘って落ち込んでいる哀れな姿を無視して、湖晴は話を始めた。
「私は世間一般で言う、『タイムトラベラー』なのです」
「……はぁ」
いきなり何言ってるんだ、こいつは。
「この……」
湖晴は首から提げていた重たそうな金属の円盤を俺に見せながら続けた。
「このアクセサリー型のタイムマシン『タイム・イーター』によってそれが可能になります」
「……はぁ」
「タイム・イーターは別名『超小型素粒子加速器』とも言われています。その名の通り、通常の加速器を無理矢理空間圧縮した物です。従来の加速器とは大きさが全く異なりますが、その能力は従来の物と同等以上と言われています」
「……そうすっか。へー」
ここまで来て、早速俺の頭はパンク寸前だった。この状況が現実である事がおかしかったからだ。
だってそうだろう? 何で、偶然道端で助けた少女がタイムトラベラーなんだ? そして、俺は今何故その説明を受けている? 話がスムーズに進み過ぎているだろう。
俺は素粒子加速器の事は新聞とかで見かけた事があるので少しは知っているが、知らない人の為に念の為載せておこう。
『素粒子加速器』とは。
加速器とは荷電粒子加速する装置の総称である。原始・素粒子の実験に用いられるほかガン治療等にも応用される。原子核・素粒子の加速器実験には加速された粒子を固定標的に当てるフィックスドターゲット実験と、向かい合わせに加速した粒子を正面衝突させるコライダー実験がある。高エネルギーの電子は軌道を曲げると光を発するので(シンクロトロン輻射)、大強度の高エネルギー光線を得る目的で電子シンクロトロンを用いる場合がある。このような施設を放射光施設と呼んでいる。
ー〇ィキ〇ディ〇より
この事は分からなくても、おそらく今後の人生に大きな影響は与えないと思うので、忘れて貰っても構わない。
一応解説を済ませ、俺は再び湖晴に聞いた。
「で、具体的に、どうやって時間移動をするんだ?」
そう、俺が知りたいのはこれだ。これを科学的に、根拠を含めて証明出来なければ湖晴が今まで話していた内容は全て『嘘』と言う事になる。俺は時間移動の為の方法を説明する事など出来ないと思っていたのでこの様な質問をした。
タイムマシンはあれば夢があると思うが、実際にタイムトラベラーを名乗られると嘘臭くなる。
「厳密には、時間移動とかタイムマシンとかとは少し異なるのですが……」
しかし、湖晴は淡々と話し始めた。
「具体的には、まず、このタイム・イーターの中で陽子同士を光速の九十九・九九九九九九九…パーセントに加速させて衝突させます。すると、ミニブラック・ホールが発生します。そのミニブラック・ホールをある粒子で安定化させ利用して、時空のかけ離れた二点を〇距離で結ぶ事によって、時空転移つまりタイムトラベルの様な現象を引き起こす事が出来ます」
「……」
俺にはよく分からなかったが、取り合えずそれっぽい説明だったので、恐らくそうなのだろう。
でも、今の説明でまた聞かなければならない事が増えてしまった。
「あのさ……ブラック・ホールって危ないイメージがあるんだけど……。大丈夫?」
「ミニですし、玉虫先生が考えた理論は完全無欠です!」
自信満々に言われても説得力ねーな。それに、玉虫先生って誰だよ。虫か?
「エ、エネルギー源ってどうしてる?」
「普通に電力ですよ?」
「あ、そう」
一回時空転移するのにどのくらい電力が必要なのかは怖かったので聞かない様にしておいた。
普通に考えて加速器に電力を使うくらいだから、相当必要なはずだ。空間圧縮(?)とかで小型化していてもだ。
俺は目の前の事柄について確かめるため、再び実行できそうにない質問をした。
「まぁいいや。じゃあさ、ここでタイムトラベル出来るか? 出来たら、信じてやる」
「ここでですか?」
湖晴は首をかしげている。結構可愛いじゃん……ではなく。俺には確信があった。『タイムトラベルなんて出来る訳がない』と。
理論上は説明されても自分の目で確かめなければ信じない男。それがこの俺、上垣外次元だ。
俺はそんな事を自信たっぷりに思っていたが、湖晴が言って来たのは俺の想像を遥かに上回るものだった。
「私、タイムトラベルならもうしてますよ? ついさっき。気付かなかったんですか?」
「は? いやいや、何を言って……」
どう言う事だ? ついさっきって。
「ほら、私の白衣……元に戻ってるでしょ?」
「え……?」
よくよく見てみると、確かに血で真っ赤に染まっていたはずの白衣は真っ白になっている事に気付いた。
「!」
「実はこれ予備を持っていた訳ではなく、過去の私から盗って来た白衣なんですよ」
「過去、から……!?」
「はい。これでようやく、以前白衣が無くなった理由が分かりましたよー」
「そ、そうなんだー。へー……」
この件については確かにその通りであると思った。事実、血まみれの白衣は何処にも無かったしな。
取り合えず、ここからは湖晴がタイムトラベラーである事を前提にして話を進めて行く方が良いかもしれない。
だが俺はどうしても聞いておきたい事、いや、聞いておかなければいけない事が一つあった。
「……それで、湖晴はタイムトラベルをして『何をしている』んだ?」