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Time:Eater  作者: タングステン
最終話 『Se』
199/223

第27部

 湖晴と上垣外がある一つの偶然に近い方法で出会い、湖晴は上垣外の事を信頼して全てを委ねて付いて行く決意をし、対する上垣外は湖晴の秘密を守りながら湖晴の精神状態を安定させると言う役目を果たす為に努めていた。その様な誓いを立てて約二年後、二人はこの私玉虫哲と杉野目施廉に出会う事になる。


 まずは私が二人に出会った事の方から話すべきだろう。そうすれば、自然と杉野目の事についても触れる事が出来るだろうからな。


 当時の私は彼女の事を救えなくなったこの世界に絶望し、ただ教師として働いて金を得て生きているだけの、それはまるで死んだ様な生活をしていた。いや、むしろただの屍の様になっていたとでも言うべきか。そして、そんな私の転勤先の学校で持つ事となった三年生のクラスには三人の飛び級生がいた。それが照沼湖晴、上垣外次元、杉野目施廉の三人だった。


 又、この学園に来て暫く経った頃、私は転勤して来た英理親和学園の裏で行われている生徒に対する生徒による虐めや教員を含めた不特定多数の人物間で行われている闇取り引き、そして、表立って私の目にも見えていた教員達の幾つかの奇妙な行動に対して疑問を覚えていた。


 とは言っても、前者は私が学園の敷地内を歩いている際に偶然その現場を目撃した為に発覚しただけの事であり、その事実を知っているのは私と当事者達だけであるが為に、それらを何も知らない連中に話した所で何の解決にもならなかった。


 そして、後者は……もう既に大方の事は推測出来ている事だろう。それは、『教員達が何故照沼湖晴と言う一生徒に対して、異常なまでに距離を置いていて、その付近で起きている問題について話し合いをしないのか』と言う事だ。それを知った当時の私はこの世界に絶望したとは言え、彼女を救う為に時空転移装置を開発していた時の探究心がまだ残っていたらしく、湖晴の過去を洗いざらい調べてしまった。


 その結果、私はある一つの結論に達した。それが、『照沼湖晴が自身を虐待していた義理の両親を殺害したのではないか』と言う事だった。当然の事ながら、三年前の強盗殺人事件は今だに犯人が捕まえる事の出来ていない難事件として世に知れ渡っていたが、仮説の上ではその程度の事、私には簡単に推測する事が出来た。


 しかし、それと同時に私は湖晴の心境も察した。確かに、殺人は人として許される行為ではない。だが、湖晴にはその明確な動機と目的があった。湖晴は自分の自由を得る為に殺人を犯したのだ。私はそれをおそらく真の意味で、理解していた。


 それらの事を知ってしまった私はそれ以上の探求を止め、『照沼湖晴が自身を虐待していた義理の両親を殺害したのではないか』と言う仮説を私の脳内で留めておく事を決意した。起こってしまった事はやり直せないし、そうだと分かっていてもそうしなければならない状況もある。死んでしまった彼女と再び出会う事が出来ないと社会に身をもって教えられた私はそう考え至ったのだった。


 それに、私にはそんな湖晴は今は一変して明るく、楽しそうに生活している事が分かっていたから、それを壊してしまおうとは思えなかった。そして、湖晴がその様に明るく、楽しく生活出来ていた理由こそが上垣外次元と言う一人の少年の存在だった。


 私は私の中で考え出した仮説とは無関係である事を心に置きながら、湖晴と上垣外に表向きは一担任教師と二生徒として、本当の目的としてはただ単純に私の個人的な話として、二人と話をした。一対二、しかも明らかに私の様子がおかしかった事とその生徒の組み合わせが湖晴と上垣外だった事が影響してなのか、二人はどうやら私の事を『湖晴の秘密を暴き、その真相を確かめに来た人物』なのだと思い込み、警戒していた。


 止むを得ず、私は私の仮説を二人の目の前で全て説明した。三年前の強盗殺人事件の真相は私の仮説通り、義理の両親から虐待を受けていた一人の少女が起こした復讐殺人だった。そして、その義理の両親の消えた人体のパーツや内臓がどこに行ったのか、その全てを聞かされた。


 私の説明を聞いた湖晴は自身の平凡な日常が壊れる事を恐れてその場から逃げ出そうとしたが、すぐに上垣外が湖晴の事をなだめて、なんとか他人に話が漏れない内に湖晴の精神は落ち着いた。そして、私は『この真相を警察に発表したりしないし、二人の安全は保障する』と言い、私も湖晴の秘密を守る二人の仲間となった。


 さて、それからと言うもの私は一担任教師として以上に、教師としては問題な行動かもしれないが、湖晴と上垣外と特に親しくなって行った。湖晴が上垣外に言えない隠している事、この場合は裏で起きている些細な嫌がらせ等の対処方法を模索したり、逆に上垣外が湖晴に言えていない事を二人でどうするか考えたりもした。


 上垣外の湖晴に言えていない事の件については大抵の場合、相談から一、二週間の間には片付かせる事が出来た。しかし、一方で湖晴に対する裏で行われている些細な嫌がらせはどれ程対処方法を模索してそれを実行しても中々無くなる事はなかった。


 上垣外が風邪等の病気で学校を休んでいる時は担任教師である私がいるその目の前ですら、クラスの男女を問わない大多数が湖晴の事を目の敵にしており、口々に暴言を発したり、直接的な暴行を加えたりと言った事実が、私が止めに掛かるまで永遠と続いていた。


 それどころか、上垣外が学校に来ている大半の学校生活の間においても、その見えていない範囲でその様な陰湿な虐めは幾度となく繰り返され、私自身もその全てを把握する事は出来てはいなかったのではないかと思ってしまう程だった。


 そんな日々に対して遂に我慢が出来なくなった私は学園中の教員が集まる職員会議の場にて裏で行われている生徒達の悪質な虐めを議題に上げるものの、『警備員はいるし、防犯カメラがついていない場所などほとんど存在しないのだから、その様な事件が起きている訳がない』と全く耳を傾けては貰えず、具体例として湖晴の名前を挙げるものの、職員室は『また照沼か……』と言う様な雰囲気に包まれ、更に話は進まなくなってしまった。


 この学園で起きている悪質な行為の数々について私以外の他の教師は見て見ぬふりをし、そもそも問題など無いと決め付けている。だから、奴等はあてにはならない。私はそこでその事を知り、二度と奴等には頼らないと決心するしかなかった。


 その後、私は湖晴が裏でその様な事をされていると言う事実を上垣外に言っても構わないか、と言う事を湖晴に聞いた。上垣外に言えば……湖晴の最も近くで長い間いられる一番の信頼者である上垣外に言えば、上垣外はこれまで以上に湖晴の事を守ろうとしてくれるだろうと考え至ったからだ。私の手の及ばない所の方が多い事はよく分かっていたからな。


 しかし、湖晴はそう言った私の事を涙で目を真っ赤に腫らしながら引き止めて、拒んだ。湖晴は上垣外にこれ以上の心配を掛けたくなかったのだ。自分が裏でその様な事をされている事を知れば、上垣外はこれ以上なく神経質となり、その内いつかおかしくなってしまうかもしれない。湖晴はそこまで考えて、『私は平気だから、次元さんには言わないで下さい』と私に頼み込んだ。


 さて、湖晴に対する悪質な虐めについて、警備員や防犯カメラはその範囲を生徒達に知られているが為に全く役に立たず、教員達は問題を無かった事にしてそもそも力を貸す気は無く、上垣外にその情報を教える事も出来ない中で、私は単独でその虐めの犯人を突き止める事にした。ここまで来てしまったから、もう引き返せない。それくらいの事、私には分かっていたし、ある程度の犯人はすぐに見付かるだろうと考えていたからだ。


 案の定、私の目の前でその様な行為に至ろうとする者にはすぐに然るべき報いを受けさせる事に成功し、裏で些細な嫌がらせを行っていた生徒も次々と見付かっていった。だが、そこで新たな問題が発生した。その人数は私の想像を遥かに上回っていたのだ。


 私が持っていた三年生のクラスには四十人の生徒がいるが、その内三十七人もの生徒が少なからず何らかの虐めや嫌がらせ等の犯行に関わっており、学年や学校全体を含めるとその数は最早書き記すだけで丸一日が潰れてしまう程だった。


 クラス四十人の内の三十七人と言う事はつまり、湖晴と上垣外ともう一人を除いた全生徒が湖晴への虐めに関わっていたと言う事になる。ここで私は更に思い知る事になる。飛び級生であり周りが年上ばかりである環境の中でもその成績は常にトップと言う、そんな天才的な能力を持ってしまっていた照沼湖晴には、私と上垣外以外の信頼出来る人間はいなかったのだ。


 周囲の誰もが湖晴の才能を妬み、それを潰そうとして、湖晴の心と体に重大なダメージを与える様な事をして来る。又、それに加わらない者も少なからずそれに誓い感情を抱いており、止めようともしないのだ。


 湖晴の義理の両親が生きていた頃の記録から読み取っても湖晴はずっとこれまで周囲からその様な扱いを受けて来ていた。そして、それを助けようとする者は現れなかった。


 今となっては私と上垣外と言う二人の人間が唯一そんな湖晴の事を助ける事が出来るかもしれない存在ではあったが、本質的には状況は昔と全く変わっておらず、むしろ周囲の潜在的な能力が高い為に余計に虐めの計画性と残虐性は増していたのだ。


 私は湖晴を助ける上で湖晴が私と上垣外の二人の事しか信頼出来ない事に頭を悩ませ、休日も使って一日に何時間も考えた。湖晴に対する裏で行われている虐めをなんとかして無くしてやりたい。いや、違うな。おそらく、私の本心はそうではなかったはずだ。


 私は『私が学生時代に達成出来なかった彼女との関係を湖晴と上垣外の二人に重ね合わせ、そんな二人の仲が引き裂かれてしまう事を恐れていた』のだ。彼女は既に死んでこの世にはいない。だから、私はもう二人の様にはなれないし、なれなかった。だからせめて、二人にはいつまでも仲良くいて欲しい。一人の担任教師が抱くにはあまりに非常識で大きいそんな願いを私は抱いていた。


 そんな時、私はある一つの事に気付く事になる。それは、『クラス四十人の内三十七人が犯行に関わっていて、残った三人の内湖晴と上垣外を除けば、一人残る事』だった。私はすぐにクラス名簿から関係者の名前を引き、その一人を探した。


 その一人こそ、杉野目施廉だった。杉野目は高等部から入学して来たにも関わらず一学期の間で特に良い成績を残したとして入学一年目の三ヶ月にも満たない内に飛び級を認められていたのだ。そして、杉野目もまた、湖晴程酷くはなかったが、『虐めを受ける側の人間』だったのだ。 

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