表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Time:Eater  作者: タングステン
最終話 『Se』
198/223

第26部

「ここまで話した所でなんだが、もしかするとお前の中でも幾つか思い当たる節があったんじゃないか? 私はお前が湖晴と出会ってから何を話したかなどと言う事の大半は知らない訳だが、それでもこれまでの湖晴の言動を見ていればある程度は思い出せる事があると思う。


 しかし、この私の過去と湖晴の過去に実際に起きた出来事はこの世界においても大方再発している。だが、ここから話す事にはお前、上垣外次元の存在が登場し、当然ながらお前はその事を覚えてはいない。いや、そもそも知らないと言う方が正しいのかもしれないが。


 さて、話を戻そう。湖晴が自分の犯した罪を悔い、この世界のあまりの非情さに絶望し、それによって自害を図ろうとしたその時、上垣外次元がそれを止めさせたと言う所に戻る。


 当時、上垣外も湖晴と同様に英理親和学園中等部一年生の十二歳だった。いや、誕生日を迎えていて既に十三歳になっていただろうか。まあ、そんな事はあまり関係無いので省かせて貰おう。


 ……ん? 『俺はそんな学校には通っていないし、湖晴と会ったのはつい一ヶ月程度前だ』と?


 確かに、お前のその記憶はこの場合では正しい事になるのかもしれない。だが、本質的にそれは間違いだ。お前が何故ここに存在するのか、その真の理由の説明をする上でその記憶は邪魔になる可能性がある。これから私がする話において、お前の記憶と一番最初の出来事は大きく異なるのだから。


 話が脱線したな。ここの部分はあまり詳しく説明せずとも後々の話を聞いていればおそらく自分で解釈する事が出来るだろう。なので、その時の出来事だけは簡略化して説明する。


 その上垣外次元は湖晴同様に捨て子であり、両親の顔を一切知る事無くそれまでずっと児童擁護施設に預けられて育てられて来た。今私が話しているお前は上垣外次元本人であり、嘗ては児童擁護施設に預けられており、今は上垣外夫妻によって引き取られてここまで成長したのだと思うが、それとはまた少し異なるお前の事だと思っていれば良い。


 そんな上垣外は中学校に入る際に、自分をそれまで育てて来てくれていた児童擁護施設の人達に何か恩返しをしようと考えた。その性格は今でも変わらず、単純なお人好しの精神だな。


 何かに秀でている訳でも何か特徴がある訳でもなかった上垣外であったが、湖晴の場合とはまた少し異なる経路で英理親和学園の事を知り、ここの寮に通えば児童擁護施設の人達にこれ以上の負担を掛ける事無く、将来的に医者等の仕事に就く事でこれまでの恩返しが出来るだろうと考え、小学六年生の一年間を丸々費やして受験勉強をし、合格ラインぎりぎりの所で辛うじて英理親和学園に入学する事に成功した。


 それからも上垣外は努力を重ね、クラスや学年での成績はみるみる内に良くなって行った。そんな上垣外に対して、一定数の虐めや嫌がらせはやはり多少はあったみたいだったが、それでも特別何かに秀でている訳でもなかった為あまり過激な事にはなっていなかったらしい。


 そんなある日、上垣外はクラスメイトのある一人の少女の事を知る。それが、湖晴だった。湖晴は常に何をしても成績は断トツでトップ。しかし、いや、それ故にと言うべきなのか、親しい友人がいる訳でもなく教室内ではいつも一人で過ごしているのを上垣外は少し心配して見ていた。


 上垣外は湖晴本人に話し掛ける前に、湖晴がいつも一人でいるのには何か理由があるのだろうと考え、湖晴の事を知ってから会話に入ろうとした。そこで、職員室中の教員から湖晴の情報を集め、湖晴の両親が死んで今は一人暮らしをしている事と、嘗て虐待を受けていたらしい事等を聞かされる。


 その様な事を聞かされてその場で立ち止まったり、コミュニケーションを取らずに引き返したりする様な性格ではない上垣外はその日、寮に戻る前に湖晴の家に寄って行く事にした。その日を含めて最近一週間の間、湖晴は学校を欠席しており、それによって余計に心配になっていた上垣外は教師から湖晴の自宅の住所を教えて貰って湖晴の家へと向かったのだった。


 そして、その上垣外が湖晴の家に行った時、上垣外は湖晴の家から何か妙な気配を感じ取り、玄関の鍵が開いていた為に勝手に家の中に入ると、そこには包丁を手に持って自身の首を掻き切ろうとしていた湖晴の姿があった。


 それから、上垣外は命を大切にしない湖晴のその行動を叱り、湖晴は自分が更に罪を重ねようとしていた事を悔いた。湖晴は寸での所で命を助けてくれた上垣外にそれまでの自分の事を全て話した。当然、自分がどう言う経緯でこの家に来たのか、家で義理の両親からどの様な虐待を受けていたのか、表ではどの様な扱いを受けたのか。そして、自分が義理の両親を殺害してその人体のパーツや内臓を闇業者に売却した事も全て。


 上垣外は湖晴のこれまでの辛い過去を知り、殺人と言う人として許されざる行為をした湖晴は然るべき報いを受けるべきだと言う事は分かっていた……だが、上垣外は湖晴の事を警察に突き出したりしなければ、それについて過度に恐怖したりむやみやたらに説教をしたりはしなかった。


 上垣外自身も捨て子であり、もし自分が湖晴の様な道を進んでいた場合、上垣外も湖晴同様の事をしてしまっていたかもしれないと考えたからだ。実の親の顔を知らない者同士と言う妙な接点だが、それでも何か通じる物があるかもしれない、とも考えた。


 だからと言って、湖晴の罪は消える訳ではない。いつかはその報いを受ける日が来る事だろう。上垣外にはそれが痛い程よく分かっていた。それが、この世界の条理だから。


 そこで、上垣外は一つの決心をした。湖晴の傷付いた心を癒す為に、湖晴が自分の犯してしまった罪を少しでも長い間忘れられる様に、上垣外は湖晴の傍にいて一生守ろうと考え、その事を湖晴に言った。


 湖晴は初めは上垣外の提案の意味が分からず、困惑していたが次第にその意味を理解すると、逆にそれを躊躇った。湖晴は上垣外に寸での所でこの世界に対して絶望したまま自殺する事を止められ、もうこれまでの事は全て諦めて警察に自首するつもりだったからだ。


 それにもし、湖晴の事を上垣外が庇ってその罪が他の誰かにばれる様な事があれば、その湖晴を守ると誓って湖晴の罪を隠し通そうとしていた上垣外にも何らかの悪影響が出る。そこまで考えて、湖晴は上垣外の提案を躊躇ったのだった。


 しかし、上垣外は湖晴のその台詞だけでは諦めきれなかった。『今、自分の目の前にいるこの女の子は自分がいなければすぐにでも壊れてしまう。それ程までに弱い存在だ。そして、その弱い存在を守る者も守ろうとする者もいない。だったら、自分が守るしかないじゃないか』と考え至った上垣外は意を決し、遂には湖晴が嬉し泣きをしながら首を縦に振るまで、自分の湖晴への想いを語った。


 それからと言うもの、それまでは全く互いの事を知らなかった二人の仲は深まり、上垣外は心の弱い湖晴の常に傍にいて守り、一方の湖晴は上垣外に四六時中付きっきりで慕っていた。


 まあ、おそらく、自分の命を助けて貰って自分がこれまでに犯した罪を誰にも言わない事を誓ってくれた上に、自分のこれまでの辛さ苦しさを理解してくれる唯一の存在であると思ったからこそ、湖晴は上垣外の事を慕っていたのだろう。


 上垣外の方もそんな湖晴に多少なりとも好意はあったと思うが、あまり人前では湖晴と恋人の様に振舞う事無く、基本的に二人の時のみ湖晴と仲良くしていたみたいだった。


 上垣外は湖晴と過ごせる時間を更に獲得する為に『ロボット研究会』と言う同好会の様な、クラブの様な集まりを学園内に作り、部員たったの二人と言う環境の下、一応その活動を開始した。何故『ロボット研究会』を選んだのかと言うと、上垣外自身がそれなりにロボットの類に興味があった事と、湖晴に何か熱中出来る趣味を与えたかったかららしい。


 ここまでが、湖晴と上垣外が中学一年生の間の出来事となる。一見、湖晴の過去は清算され、何の問題無く、二人で楽しい日々を送っている様に思える事だろう。


 しかし、現実はそこまで甘くは行かない。これまでもこれからも常に非情な現実が二人を押し潰そうとする。


 上垣外が湖晴の近くにいる間はそれまで湖晴の事を虐めていた連中も手を出す事は無かったが、上垣外がいなくなった途端に以前同様な虐めをしたり、また、上垣外が気付く事が出来ない様な些細な嫌がらせは無くなる事無くいつまでも続いた。


 それでも、湖晴はそれらの事を必死に耐えた。上垣外に助けられて、これから一生守ってやると言われたのだから、これくらいで挫けていては駄目だ、と。将来、上垣外にとって相応しい女性になれる様に更に努力しなければ、とも。


 この時、正確には二人が中学二年生になり始めの頃、二人はある約束をしていた。『高校を卒業したら、同じ大学に入って、そこで医学の勉強をして医者になろう。これまでの苦しみや過ちを清算出来るくらいに世の為になれる事をしよう』と。


 そして、上垣外が湖晴の事を守りながら湖晴に遅れを取らない様にそれまで以上に必死になって勉強に励んでいる中、湖晴は影で陰湿な虐めを耐えながら受け続けて二年が経過した。二人は本来ならば高校一年生となっている年齢だ。


 だが、同時に、英理親和学園において高校一年生と言う学年は飛び級者が多く出る学年でもあり、数少ない飛び級枠の中に、湖晴は成績トップとして、上垣外は飛び級者の中では最下位として、二人共二学年の飛び級に成功し、高校三年生のクラスに混ざる事になった。


 そこで、この私玉虫と出会ったと言う訳だ。当時の私はつい先程も話した通り『Time Technology』の連中に騙されて彼女の事を絶対に救えない状況下になってしまった事について途方に暮れながらも、生活の為だけに教師を続けていた。


 その転勤先の学校が英理親和学園であり、湖晴と上垣外が飛び級をしたその三年生のクラスの担任となった訳だ。当然ながら、その当時はお互いに一教師一生徒の関係でしかなかったがな。


 あと、二人が飛び級をして混ざる事になったそのクラスには二人の他には、もう一人だけ二人と同年齢の飛び級生がいた。もしかすると、話の流れから考えて大方の予想はついているかもしれない。


 そう、今私とお前、そして湖晴がいるこの施設内にいる、幾度と無く無駄な爆破行為を行っているもう一人の人物、杉野目施廉がその飛び級生だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ