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Time:Eater  作者: タングステン
最終話 『Se』
190/223

第18部

 来たはずの日が来ていない扱いになっていたり、同じ日が連続で来たりと、この世界全体に起こっているそんな『異常』に対して遂に我慢が出来なくなった俺は、そんな俺を観測者らしき立場から抜け出す為のきっかけとなる意見を言ってくれそうな杉野目に相談を持ち掛けていた。


 そして、全く人気の無い南館校舎一階廊下へと連れて行かれ、暫く事情を話した所で、ようやく杉野目がこの世界の異常と杉野目自身について話してくれる事になった。


「まずは、この世界の異常について話してあげるわ」

「……あれ? 『杉野目が何でそんな事を知っているのか』と言う事と『杉野目がこれまでにして来た事』についての説明はその後か?」

「そうよ」

「分かった」


 俺は何気無い気持ちでそんな事を杉野目に聞いたのだが、何か杉野目の気に触る事を言ってしまったらしく、杉野目は一瞬だけ言葉が止まり、無表情ながらもその顔からは微かに嫌がっている事が分かった。しかし、それすらも俺の勘違いだったのではないかと思ってしまう程、間を開ける事無く杉野目は再び無表情になり、話を進める。


「『この世界の寿命が九月三十日土曜日二十四時までしかない』と言う事は、既に理解出来ているわよね?」

「まあ、その原因が何なのかはさておき、一応理解は出来たと思う」


 と言うよりはむしろ、その事(何故この世界の寿命が決まっていて、杉野目がそれを知っているのか)の方が大事なのかもしれないが、まだまだ杉野目からは聞かなければならない事が多くある今では、俺は大人しく静かに話が進むのを待っているべきなのだ。


「私のこれまでの経験から言うと、その時間を過ぎた瞬間に『別の掛け離れた時間に戻る』か『全てが破滅する』か、この二つに分岐する事が分かっているわ。そして、世界が既に前者を経験している場合、時々その時間を過ぎていないにも関わらず別の掛け離れた時間に飛ぶ場合もあるわ」

「ちょ、ちょっと待て! 今の説明でおかしな事が幾つか無かったか!?」

「何がかしら?」


 杉野目が無表情のままごく自然に説明したその台詞に納得する事無く、むしろ違和感しか覚えなかった俺は流石に話を止めない訳には行かず、無意識の内にそんな大声を出して杉野目に話し掛けてしまった。対する杉野目は俺が何を聞いているのか分かっていないらしく、表情を変える事無く逆に聞き返して来た。


「いやいやいやいや! 『全てが破滅する』って何だよ! そんな風にサラッと言っても良い事じゃあないだろ!? と言うか、『私のこれまでの経験』って何だ!?」

「一つ目はその言葉通りの意味で、この世界の全てが破滅すると言う事。厳密に言うと、何人かの『例外』な存在はあるもののほぼ全ての事象の時間が停止する。二つ目もほぼその言葉通りの意味で、これまでに私が実際に体験して、それを知っただけの事。これで良いかしら?」

「……お、おう。よく分からんが、分かった……と言う事にしておこう」


 今の杉野目の台詞の中で『何人かの例外な存在はあるもののほぼ全ての事象が停止する』や『これまでに私が実際に体験して、それを知っただけ』等の意味深で不可解な物があった訳だが、俺は今度こそは何も突っ込まないようにした。


 本心ではその二つの事についても、もっと詳しく知りたかったのだが、やはりこれ以上杉野目に追求し過ぎると杉野目の気が変わって何も教えてくれなくなるかもしれないし、そもそも昼休みは無限にある訳ではないから出来るだけ話は早急に終わらせたい。さっきも俺が余計な事を言ったらしく、杉野目の機嫌が少し悪くなっていたからな。


 杉野目の台詞を聞き終わった後、十数秒間に渡って俺は脳内でその事について考えていた。その間、杉野目が俺から一度も視線を外す事無くじっと凝視していた事についても気になったが、まあ、流石にそんな事はどうでも良いか。


「それで、つまり、九月二十八日木曜日が二日も連続で続いていているのは、この世界が既に一度、九月三十日二十四時を向かえた後に別の掛け離れた時間に戻ったから。それで、その『例外の存在』の中に俺が含まれていたから、他の人達の記憶と差が出ているって事か」

「……まあ、厳密に言うと少し違うけれど、大方はそう言う事になるわ。あと、その『例外の存在』の中には私と照沼湖晴、そして、玉虫哲も含まれているわ」

「俺とこんなとんでもない話が通じている時点で、杉野目はそうなのだとは薄々分かっていたが、湖晴と玉虫先生もそうなのか」


 そう言えば、珠洲と音穏と栄長とは全く話が噛み合っていなかったが、よくよく思い出してみれば、何日にも俺と二人きりで過ごしていた湖晴とは話が噛み合っていたな。まあ、前も考えた通り、ただ単純に湖晴が俺に会話を会わせただけなのかもしれないし、偶然会話が噛み合っていただけなのかもしれないが。


 と言うか、湖晴の命の恩人らしく、湖晴にタイム・イーターを渡して過去改変作業をさせている張本人である玉虫先生もその『例外』の中に入っているとは。湖晴から聞く限りでは全然悪い人には思えないし、むしろ他人思いの優しい人に思えるのだが……一体何者なんだ。杉野目と同じくらい謎な人物だな、玉虫先生って。


 その時。正確には俺が『湖晴と玉虫先生もそうなのか』と言った、その時。珍しく杉野目がその変わる事の無かった表情に少しばかり疑惑の感情を顕わにし、眉を顰めて俺に尋ねて来た。


「……あら? 貴方はまだ、屑虫とは会ってないのよね?」

「屑虫って?」

「……間違えたわ。訂正:貴方はまだ、玉虫哲とは会ってないのよね?」

「え? あ、ああ。会ってないし、話した事も無いな。少しだけ湖晴から聞かされただけだ。でも、それがどうしたんだ?」


 その時の杉野目の表情は何処か切羽詰った物があり、俺に何か重要な事を気付いて欲しそうにも思えたが、当の俺はそんな事には全く気が付かなかった。と言うか、その事よりも杉野目が玉虫先生の事を『屑虫』と呼んでいた事に気を取られてしまっていたのだ。


「別に。会ってないなら問題無いわ」

「そうか?」


 何なんだ? 確かに、以前俺は湖晴がこなさなければならない三十回の過去改変作業が終わったら玉虫先生に会いに行こうと言う話を湖晴にはしたが、何で杉野目がそれと似た様な事を聞いて来るんだ? 俺が玉虫先生と会っていたら何か問題でもあるのか?


 まあ、細かい事はさておき、話を進めよう。今さっきの杉野目の話を聞く限りでは、この世界の『異常』が全て説明され、俺が観測者などではなく別の原因でそれらの事を認識出来ていると言う事になり、今回の話は終わり……と言えそうなのだが、実際にはそうはいかない。まだまだ解決されていない矛盾は大量にあるのだ。すっかり黙り込んでしまった杉野目に対し、俺は話し掛けた。


「そう言えば、そうなると幾つかおかしな点が無いか?」

「どう言う意味かしら?」

「実は、この間の金曜日……とは言ってもこの世界では時間が巻き戻っているからまだ来ていない扱いだが、とにかく、その日に俺の妹が俺の幼馴染みの家に泊まりに行ったんだよ。それで、今日は九月二十八日木曜日だろ? それなのに、妹は家に帰って来なかった。これはどう言う事になるんだ?」

「そもそも、貴方の妹さんが泊まりに行ったのは、本当に九月二十八日木曜日なのかしら?]

「え……?」


 杉野目の予想外過ぎるそんな台詞に俺は困惑した。湖晴から珠洲が音穏の家に泊まりに行くと聞いたのは九月二十九日金曜日で間違いないし、今日は九月二十八日木曜日で間違いないはず。そうだとすると、杉野目の今の台詞は一体……?


 考えても出る事の無い答えにどうして良いのか分からなくなっていた俺に対して、何の関心も持つ事無く、杉野目は話を進めて来る。


「可能性としては充分ありえる事よ。実際、貴方と照沼湖晴は『例外』の中でもかなり効果が薄い存在だから」

「ど、どう言う意味だ?」

「貴方は多分、『この世界では九月二十八日木曜日は三度だけ来ている』程度にしか思っていないのだと思う。でも、私の知る限り、この世界では九月二十八日木曜日は合計で三十四回来ている」

「……は!? そんなに!?」


 九月二十八日木曜日が三十四回も来ているとか、多過ぎだろ! と言うか、実際には俺は三回しか九月二十八日木曜日を経験していないし、それ以前に、杉野目はその事をどうやって数えたんだよ。


「ええ。だから、貴方が『妹が幼馴染みの家に泊まりに行った』と聞いたのは、実際には随分と昔にあったかもしれない九月二十八日木曜日以前の出来事で、貴方は『例外の存在』としての影響力がそこまで及ばず、それらの日を認識出来なかった。つまり、この世界的にも、貴方の記憶的にも、何も矛盾は生じていない。それらが全てそう言う事になる様になっていたから、そうなっているだけ」

「そう……だったのか……」


 そもそも『例外の存在』がどれくらいの影響力を持っているのかすら、俺にはよく分からないのだが、まあ、多分この世界でに『異常』を感じ取る事が出来るとかそう言う事なのだろう。


「あと、もう一つだけ言っておくと」

「何だ?」

「貴方、これまでに、実際に流れている時間と自分の中の時間が違うと感じた事は無い?」


 少ない時間で多くの真実を聞かされた俺は自分の頭がパンク寸前になっている事にも気付かず、考えを深めていた。すると、杉野目がそんな台詞を言って来た。


 そう言えば、湖晴と恋人となったあの日の夜(金曜日でない事が発覚したので何曜日と言えば良いのか分からない)以降、俺は体感時間では三日間、湖晴と二人っきりで過ごしていた。


 だが、それはあくまで俺の体感時間であり、実際に流れている時間などとは少し違うし、それに俺自身、湖晴と一緒に過ごしていた事と恋人になれた事に抑え切れない嬉しさを感じていた為、感覚的にはもっと長い様にも思えたな。


「もしかすると、貴方が認識出来ていないだけなのかもしれないけれど、それも今さっき私が言った事と同義よ。この世界では実際にそれだけの時間が流れているけれど、九月三十日の二十四時を過ぎて別の掛け離れた時間に戻った場合、その後は何時別の時間に飛ぶかは分からない。でも、私はその事を認識出来るから貴方が数ヶ月間に渡って学校に来ていない事も知っている。まあ、貴方の知り合いの奴等は貴方が何日も学校を休んでいる事を不自然に思った次の日には、その事の記憶が完全に抜けているのだけれど」

「……ん? 俺が学校に来ていないって……」


 そこで俺はこれまでの俺の行動、そして、杉野目からの説明を総合的に考えた場合の俺の非常識な行動に気が付いてしまった。つまりは、こう言う事だ。


 俺と湖晴が恋人になったのは九月二十九日の金曜日。しかし、その日は実際には九月二十九日金曜日ではなく、九月二十八日木曜日よりも前の出来事だから、この世界的には、何の変哲も無い平日に夜に俺と湖晴は恋人になり、数日間(この世界的には数ヶ月)ずっと二人っきりで過ごしていた。しかし、その間もこの世界の時間は進み、その内別の時間へと飛ぶ。そして、俺と湖晴は絶対にその事に気が付かない。


 当然、『例外の存在』に含まれない音穏や珠洲や栄長達もその事を認識出来ない。『例外な存在』に含まれている杉野目は知っているらしいので、この話が通じている。そうか、それで、湖晴と過ごしていた幸せな日々が何ヶ月にも感じて、しかも、テスト勉強をする時間が二日ではなく数ヶ月もあったから俺の頭が良くなっていたのか。この世界の日付は何一つとして進んでおらず、それどころが実際には何度もまき戻っているが、正確には時は流れている。成る程、そう言う事か。


「分かったかしら?」

「まあ、大体はこの世界の異常については分かったと思う」

「そう。それじゃあ、今度は私から一つ良いかしら?」

「……? ああ。構わないが」


 俺の中にあったいくつものもやもやとした気持ちも晴れ、そろそろ昼休みが終わってしまいそうな時間になったその時。今度は杉野目が至って真剣そうな顔で俺にそんな事を言った後、こう言った。


「玉虫哲に会わせなさい」

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