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Time:Eater  作者: タングステン
最終話 『Se』
183/223

第11部

 早朝。ロングスリーパーで且つ寝起きが悪い俺にしては珍しく、誰かに起こされる事無く自然と目が覚めた。一応、数時間は寝たはずなのだが、今の俺の全身はどうしようもないくらいの疲労感に蝕まれていた。しかし、それと同時に何処か清々しい気持ちにもなっていた。


 太陽の光が僅かにカーテンの隙間から差し込んで来る。現在時刻は定かではないが、本日の天候はおそらく晴れ。そして、外からは近所にある樹木に留まっているのだろうか、数匹の鳥の囀りが物悲しく聞こえて来る。


 薄暗い自室の天井をボーっと見上げながら、俺は意識を途切れさせない様に少しばかり気を張りつつ、頭の後ろで腕を組んだ。すると、俺の隣でそんな俺の姿をジッと見つめている少女の存在に気が付いた俺は、特に驚く事も無く、その少女の方を見る事無く静かに話し掛けた。


「……やっちゃったな」

「……はい」


 その少女、照沼湖晴は俺の隣で服を一枚を着ていない状態で布団に包まって、満面の笑みのまま俺にそう言った。


 昨晩……いや、今朝と言うべきなのか、俺と湖晴はもうこれ以上引き返す事が出来ない様な深い関係になった。それは唐突に、突然に、何の脈絡も無く訪れた。俺の方が行動に出なかったが為に、湖晴が率先して俺にアプローチをして来た。そして、昨晩俺は湖晴からその本当の気持ちを聞いた事により、俺達が両想いの状態である事に気が付き、出会ってかの時間的には『ようやく』湖晴の想いに答える事が出来たのだ。


 つまり、俺に人生初の彼女が出来たと言う事だ。


 そして、つい数時間前まで俺達はお互いが相手の事を想い、それがどれ程の物なのかを確かめ合った。それは、俺が湖晴の事を湖晴は俺の事を、何時までも何処までも何が起きても、一緒にいて欲しい大切で大事な人だと認めていたからに他ならない。


「本当に……良かったのか?」


 全てが終わり、新たなるスタートを切る事が出来た俺と湖晴。これからについてどうするかについて話し合う前に、俺は改めて、二人のこのスタートについて湖晴に尋ねた。湖晴は少しムッとした表情をしながら頬を膨らませて、俺に言い返した。


「だから、私は『次元さんになら、何をされても構わない』んですよ。それに、これは私が望んだ事であり、それが叶った今は最高に嬉しいんです」

「怒るなって」

「怒ってません」

「……はあ。ほら、こっち来て」

「……ん……んん……」


 湖晴同様に全裸だった俺はそんな事に特に気遣う事無く、そんな湖晴の事をそっと抱き寄せ、静かにキスをした。もうこれで何度目だろうか。これまでに俺達がこの様な関係になる以前も何度か俺は湖晴とキスをして来たが、昨晩した回数とそれ以外にした事と比べてしまうとあれらが全て微々たる物にしか思えなくなって来る。


 俺と湖晴は全裸のまま、俺の部屋のベッドの上で布団に包まって抱き合いながらキスをしていた。暫くすると、湖晴が両腕を俺の背中にまわして来る。俺はそれに答えるかの様に、湖晴の豊満な胸を軽く揉んだ。その拍子に、湖晴の体が一瞬だけビクッと震え、湖晴の口からは色っぽい喘ぎ声が聞こえて来る。


「もう……次元さんったら」

「湖晴とこんな風な関係になれて、俺も嬉しいよ」

「私も……次元さんにこの想いを認めて頂いて、とっても嬉しいです」


 互いに相手の顔が目の前で見える体勢で俺達はそう言い合った。湖晴の気分はやけに高揚しているらしく、顔がほんのりと赤く、全身は普段以上に熱かった。発汗もあり、息遣いも荒い。しかし、それらが全てこの俺の存在によってもたらされていると思うと、何だか照れ臭い気持ちになると同時に、これ以上無いくらいの優越感に浸る事も出来た。


 照沼湖晴は、この俺上垣外次元ただ一人だけのか弱い存在。何人たりとも彼女には絶対に指一本触れさせはしない。何があっても、何が起きても、絶対に守ってみせる。不安を抱かせる事無く、心配事も一切させない。そんな、俺の全てであり、俺の生きがい。別れる事も、擦れ違う事も無い、互いに互いを認め合った大切な存在。それが、この俺上垣外次元に初めて出来た彼女である湖晴に対する、俺の心からの思いだった。


 すると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、不意に湖晴が話し掛けて来た。


「次元さん……また、しますか……?」

「え……? 湖晴は体、大丈夫なのか?」

「最初は少し痛かったですけど、今はもう大丈夫です」

「そうか」


 湖晴のその台詞を聞いた俺は再び湖晴の事を抱き寄せ、そのまま抱き締めた。湖晴もそれを拒む事無く受け入れ、そっと俺の唇に自身の唇を合わせて来た。そして、俺と湖晴の関係はより一層、深まって行く。俺と湖晴の淫らな、そんな関係は。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 それから二日間、日付としては九月三十日土曜日と十月一日日曜日の二日間、俺と湖晴は幸せで淫らな日々を送った。実質的な時間では今述べた通りたった二日だけの短期間なのだが、俺達にとってはその時間はとても長く、軽く数ヶ月は経ったのではないかと思えてしまう程だった。つまり、それ程までに俺達は互いに相手の事を愛し合って幸せだったのだ。


 その間、朝・昼・晩と各時間帯の食事は全て湖晴が作った。湖晴が作る料理はどれもとても美味であり、日に日にそのボリュームは増し、バリエーションは多くなって行った。これなら湖晴は何時でも俺の嫁となっても大丈夫なくらいにはなっていたと思う。自意識過剰なんて言わせない。何故なら、湖晴は俺の彼女だから。


 更に、俺と湖晴のこの関係が始まったあの日の晩みたいに、さながら何処かの新婚夫婦かのかの様に、湖晴が俺に食べさせたり、逆に俺が湖晴に食べさせたりと、色々と幸せだった。


 そして、三度の食事と勉強の時間以外は基本的に二人でベッドへと向かい、お互いの体を感じ取っていた。もっともっと、湖晴の事を知りたい。湖晴は俺だけのたった一人の大切な彼女だ。そう思えたからこそ、余計に意気込みながら俺と湖晴の淫らな関係は深まって行った。


 念の為に補足しておくと、俺達は何も、三度の食事や淫らな行為をする以外の事をせずに生活を送っていた訳ではない。この二日間がテスト直前である大事な日である事は重々承知だったので、その合間合間に少しばかりのテスト勉強を含ませていた。だが、そのどの時も勉強を教え教えられの際に互いの体が密着し、その興奮した気持ちを抑える為に結局どれも似た様な結果になってしまった事はわざわざ言うつもりは無い。


 しかし、そんな風に最初の頃は一応は勉強する意志はあったものの、実質的な時間では二日間のはずなのに俺はやけに勉強が捗り、これ以上学ぶ事は無いと言うレベルまで来た頃、俺達はすっかりとそんな事を忘れていた。ただただ、互いに自分の愛を伝え、相手の愛を受け止める。それだけだった。

 それと同時に、俺は金曜日に見た七回の幻覚症状の事をすっかりと忘れてしまって行った。まあ、どうでも良いか。そんな事。


 とは言っても、そんな幸せな時間は何時までも続く訳ではない。時間が少しずつでもしかし確実に進むのであれば、その限界は何時かは訪れる。それは俺達二人の幸せな一時も決して例外ではない。


「次元さーん♡ はい、あーん♡」

「あーん」


 随分と久し振りの様な気がするが、それはともかくとして俺達二人の幸せで淫らな二日間は終わりを告げ、週明けの月曜日。時刻は午前七時四十分頃、湖晴がフォークの先端に突き刺した、湖晴が切った林檎の欠片をそんな台詞と共に俺の口の中に入れる。シャクシャクと言う音と共に、俺の喉をその林檎の欠片が通って行く。


 満面の笑みをしている湖晴に、俺もまたふっと笑っていた。すると、湖晴が俺にその感想を聞いて来た。


「美味しいですかぁ?」

「ああ。美味いよ」

「えへへー♡ 次元さん、だーい好き♡」


 何処からどう見ても嬉しそうに笑っている湖晴の事を俺がそっと抱き寄せると、湖晴は拒むどころか余計に俺に抱き付いて来た。その拍子に湖晴の髪が舞い、シャンプーの良い香りが漂って来る。更に、湖晴の豊満な胸が俺の体に密着し、再びまた淫らな行為に陥りそうになるものの、流石にそれは理性でキープした。湖晴が着ているミニスカートから垣間見える太股がそんな俺の理性を崩壊させようとして来るが、ぎりぎりの所で耐え切った。


 今日は一応、中間テスト初日だからな。もう各教科とも分からない所は一切無いとは言っても、今から湖晴とするのは流石に不味い。色々と。


「それじゃあ、そろそろ行って来るよ」


 湖晴が作った美味しい朝食もすっかり食べ終え、いざ決戦(中間テスト)へと向かう為に、俺は立ち上がった。しかし、そんな風に珍しく意気込んでいる俺に対して、湖晴は唖然とした様な悲しそうな表情をしてこちらを見ていた。


「湖晴……?」

「『行く』って、何処へですか……?」

「え? 学校だけど……」

「……何で学校に行くのですか?」

「あれ? 湖晴、知ってるよな? 今日から俺、中間テストなんだよ」


 湖晴は右手にフォークを握り締めながら、俺の方を凝視していた。湖晴の様子が何かおかしい。それが何なのかは分からないが、少なくとも俺はそれを感じ取った。


「それは……私よりも大事な事なんですか……?」

「い、いや、俺にとってこの世で一番大事で大切なのは湖晴だが、行かないといけないんだよ。ほら、留年とかすると何かと不味いだろ?」


 と言うよりはむしろ、日頃からろくな授業態度をしておらず、提出物もほとんど出していない、しかも、この間の実力テストでは全教科(寝ていた為)再試験と言う有様の俺はこれまでのテストの点数はともかくとしても、成績が非常に危ない状況にあるのだ。具体的には、欠点間近なのだ。留年寸前なのだ。多分。


 いや、でも、この事は前に湖晴にもきちんと話したはず。だからこそ、湖晴は俺に勉強を教えてくれていたのだ。それで、そのお陰で今もこうして、自信満々な状態でテストに挑もうと学校に行こうとしていたのだ。


 まさか、『意識外の出来事だから忘れましたー。テヘッ☆』なんてオチじゃあないだろうな。まあ、どちらにせよ、俺は学校に行かないとならないのだ。湖晴と数時間の間、離れ離れになるのは辛いが、それは避ける事の出来ない仕方の無い事なのだ。


 すると湖晴はつい先程までの少し暗めの表情とは打って変わり、満面の笑みで、二言目では少し色っぽく小悪魔風に俺に言った。


「分かりました。それなら、私も行きます!」

「……はい?」

「だってぇ~、次元さんと離れ離れになると、私死んじゃうかもしれないですからぁ~……良いですよね?」


 あれ? 湖晴って、こんなキャラだったっけ?


「湖晴に死なれるのは困る……だが、付いて来ると言っても、湖晴はそもそも制服を持っていないし、それに、前に湖晴はあまり学校には行きたくないって言ってただろ? 大丈夫なのか?」

「うぅぅ……確かにそうですが、次元さんの為なら私は……でも、そうですね……今から制服を買いに行く事はまず無理でしょうし、それ以前に私は生徒ではありませんし、次元さんの保護者でもありません。彼女ではありますけどね♡」

「あはは、そうだな……」


 さて、一応湖晴は学校に付いて来る気持ちではなくなったとは思うのだが、その間に湖晴の言った通り、湖晴が死んでしまうのは困る。勿論、湖晴なりの比喩的表現(この場面では脅しとも言う)だとは思うが、やはり俺としても湖晴を一人で放っておくのはいささか気が引ける思いになってしまう。


 俺がその件についてどうするべきか、と考えているその時、湖晴が何か案を思い付いたらしく、パアッと顔を輝かせて、俺に話し掛けて来た。


「そうだ! 私が校門の所まで付いて行って、次元さんの事を待っているので、テストが終わったら一緒に帰りましょう♡」

「うーん……まあ、それしか無いな」

「はい♡」


 そんなこんなで、そう言った後湖晴はすぐさま俺の腕に抱き付き、俺が学校に行く際にそのまま付いて来る事になった。俺達のその密着度は端からみれば、『何昼間っからいちゃいちゃしてるんだよ! 爆発四散しろ!』とでも言われてしまいそうなくらいの物だったが、特に気にする事無く、俺は俺に抱き付いて嬉しそうな表情をしていた湖晴の姿を見ていた。


 俺は湖晴に抱き付かれながらも、部屋の電気が点けっぱなしになっていないかを確認した後、玄関ドアを開け、その鍵を閉めた。そして、自宅から数メートル歩き進んだ時、聞き覚えのある少女の声が聞こえて来た。


「あ、次元ー。おっはよー……って、朝から何してんの……?」

「お、お兄ちゃん!? もしや、湖晴さんと付き合い……」


 ふと振り返ってみると、そこにはこれ以上無いくらいに驚いた様子の音穏と珠洲の姿があった。そう言えば、思い出してみればこの土日は珠洲が音穏の家に泊まっていたんだったな(だからこそ、俺と湖晴があんな事やそんな事を出来ていたのだが)。それで、今俺を迎えに来ようとしたら丁度会った、と言った所だろう。


 そう言えば、二人にはまだ話していなかった。いや、話す機会なんて無かったのだが。やはり、妹と幼馴染みには最初に言っておくべきかもしれない。俺と湖晴が金曜日の晩から『本格的に付き合い始めた』と言う事を。


「ほら、湖晴。珠洲と音穏がいるから、俺達の関係について言っておこう?」


 俺に抱き付くのを止めない湖晴に対して、俺は頭をぽんぽんと軽く叩き、背後を見る様に促した。一瞬だけ俺の顔を見上げた湖晴は渋々、俺に促された通りに珠洲と音穏の方を見た。どうやら、珠洲と音穏の表情を見る限りでは、二人は俺達の関係についてある程度の予測は付いているみたいで、少し優しく微笑んでいた。


 しかし、そこで湖晴は、そんな俺達三人にとって予想外の一言を放った。


「……? 貴女方は……『誰ですか』……?」

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