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Time:Eater  作者: タングステン
第六話 『U』
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第20部

【2021年09月04日17時05分23秒】


 次に俺が目を開けた時、そこに広がっていたのは大量の精密そうな機械が置かれている真っ白で清潔感に溢れる空間だった。少し辺りを見渡すだけでその空間がドラマとかアニメでよくある様な、あんな感じの汚れ一つ無い研究所の一室である事が、俺にはすぐに分かった。


「ここは・・・・・?」


 室内のあらゆる所に設置されている大量の精密そうな機械から発せられている小さいが高めの電子音の中で、俺は一言そう呟いた。何処かの研究所や病院の一室である事は前述した通り容易に推測出来たが、具体的にここが何をする為の何時の何処なのかまでは俺には分からなかった。


 俺は俺の望みが叶うのなら、ここが『Nuclear Technology』の拠点の中であれば良いと思った。もしそうならば移動時間を大幅に省く出来るし、何よりも心に多少のゆとりが出来るからだ。そんな事を思いつつ暫く室内を見渡していると、隣に立っていた湖晴が俯き加減でタイム・イーターの画面を確認しながら俺に話し掛けて来た。


「ここは、有藍さんが引き起こしたとされる爆発事故があった1週間後の世界である『Nuclear Technology』の別の研究施設内です」

「そうか。計画に丁度良いくらいの地点だな」


 爆発事故の1週間後ならおそらく、飴山が事故の原因を作った中心人物である事が判明し、そのこれからの所為について科学結社の統率者達が集まって会議している頃だろう。だから、俺の計画の『事故発生後で飴山の記憶が消される前』と言う前提条件を満たしている。


 まあ、あれこれ考えていても仕方が無い。俺は一先ずこの部屋から出る為に、室内を見渡している時にふと確認出来たドアの方へと歩いて行った。その際に、先程の俺の台詞に湖晴が答えたので、俺はドアを開ける事無くその手前で後ろにいるはずの湖晴の方を向いた。


「いえ、実は、この地点とこの地点以外では1週間前の事故が発生した日しか時空転移が出来なかったんです」

「そうなのか?」

「はい。もしかすると、この組織側から何らかの対策がとられていたのかもしれません」

「まあ、それもそうかもな。時空転移ではないとしても、俺達みたいに勝手に不法侵入して来る奴も少なからずいるだろうしな」


 時空転移装置であるタイム・イーターは湖晴の恩師である玉虫先生とか言う人が作った、この世に1つしかないタイムマシンだと俺は湖晴から聞いている。だが、そんな珍しい物に何らかの対策を施す事なんて、この世界の科学を管理していると言う科学結社だとしてもはたして出来るのだろうか?


 今になって改めて思えば、栄長の過去改変の直前だって、栄長と蒲生はタイム・イーターの時間停止機能の影響を受ける事無くそのまま戦闘を続けていた。もしかして、俺や湖晴が知らないだけで、実はタイム・イーターって科学結社内では結構有名なんじゃないか?


 その事について湖晴にとやかく聞くつもりは無いが、違和感のある事には間違いない。暫くこの部屋のドアの2メートルくらい前で考え込んでいた為に静止していた俺だったが、湖晴の声により今俺達が何をすべきなのかを思い出した。


「次元さん?」

「・・・・・ん?あ、ああ、悪い。行こうか」

「はい。もしかして、次元さん疲れてますか?」

「いや、ついさっきまで湖晴のお陰でぐっすり眠れたから疲れは取れたよ」


 好い加減、時空転移の際に発生する衝撃でうっかり気絶してしまう癖とロングスリーパーを直したい所だ。私生活ならまだしも、過去改変の時にも影響が出ては問題だしな。これまでで、俺が気絶しなかった過去改変と言えば、栄長の過去改変の時と須貝の過去改変の時くらいだ。他は最低でも1回は気絶してしまっている。どうにかしたいものだ。


 俺の気持ち的には湖晴に感謝と謝罪の意を伝える為に今の台詞を言ったのだが、どうやら湖晴は別の意味(どんな意味だろう)で捉えてしまったらしく、顔を真っ赤に染めて軽く右手側の白衣の袖を口に当てていた。


「湖晴?」

「え、えっと・・・・・次元さんが望むのでしたら・・・・・私は何時でもしても良いんですよ・・・・・?」

「え?」


 湖晴はこれまででは考えられない程恥ずかしがっている事が俺にでも良く分かる程に、顔を真っ赤に染めていた。それに、何やら倒れてしまいそうなくらいに体がふらふらとしている。


 と言うか、湖晴の今の台詞はつまり俺が望むのなら、何時でも膝枕をしてくれると言う事になるのか・・・・・?湖晴が、俺に、何時でも・・・・・?って!ぇぇぇぇぇえええええ!?


「ちょ・・・・・い、いきなり何を言っちゃってるんですか!?湖晴さん!?」

「私は・・・次元さんが喜ばれるのでしたら・・・・・別に・・・・・」


 湖晴の台詞の意味を理解して焦る俺と、より一層恥ずかしがっている湖晴の姿が研究施設の真っ白な空間の中にあった。


 いやいやいや!確かに、湖晴みたいな少し抜けている部分もあるがむしろそこが良い、天才美少女に膝枕をして貰えるのなら、大抵の男子高校生は喜ぶ事だろう。無論、俺も当然ながら例外ではない。


 しかも、湖晴が履いているスカートは結構短めなので、膝枕をして貰っている際は湖晴の生の太股の上に頭を乗せる事になり、そこから湖晴の豊満な胸を下から見上げる事が出来るのは何と言うご褒美・・・・・いや、楽園以外の何物でもない。


 そんな湖晴が『次元さんが喜ばれるのでしたら・・・・・』と言う理由だけで、最近の恋人ですらするかどうか分からない事を恋人でもない俺にしてくれると言うのだ。このチャンスは逃す訳にはいかない・・・・・って!俺はさっきから何卑猥な事を想像しているんだ!湖晴は別にそう言う意味で言った訳じゃないかもしれないだろ!


 いや、でも、湖晴は既に俺と2回もキスをしている。1回目は俺が風邪を引いた時に『風邪を治す為』と言う理由で湖晴から、2回目は俺の体感時間でつい6時間くらい前に湖晴を説教した後の勢いでそのまま。どちらも、湖晴は拒む事無く、それを受け入れた。むしろ、自分から来ていると考える事も出来る程だ。


 これはもしや・・・・・待て、落ち着け、俺。自信過剰、自意識過剰は男子高校生の最も注意しなければいけない感情だ。だから、早まるな。


 湖晴が一体何の目的でそんな事を俺に言ってくれたのかを理解しようとして思考していた俺だったが、その時間が長過ぎたのか、顔を真っ赤に染めたまま少し涙目になった湖晴がやや上目遣いで俺に近付いて来た。


「もしかして・・・私では・・・嫌、ですか・・・・・?」

「そ、そんな事はない!むしろ大歓迎だ!」


 愛くるしい子猫みたいに丸くなってしまった湖晴に動揺した俺は、思わずそんな事を口走ってしまった。だが、湖晴はそんな俺の台詞など聞こえていないのか、次第に俺の方へと近付いて来ている。何か良からぬ予感を察知した俺は、湖晴が1歩近付く度にさり気無く1歩ドアの方へと下がった。


 どうしたものか。何処か湖晴のおかしなスイッチが入ってしまった事は、この湖晴の様子を見ていれば間違いないだろう。俺的にはこの湖晴は可愛過ぎるのでこのままそっとしておきたいのだが、それでは過去改変が進まなくなってしまう。と言うか、過去改変終了になりかねない。


 意を決した俺は近付いて来る湖晴から後ずさりをするのを止め、湖晴の両肩をポンと軽く抑え、出来る限り真剣な表情をして言った。


「湖晴。俺は湖晴みたいな良い子にそんな事を言って貰えた事は心から嬉しい。だが、今は飴山とこの世界を救う為に過去改変をする必要があるだろ?本当の目的を忘れては、収集が付かなくなる。だから、その話は今回の過去改変が終わった後にまた頼む」

「・・・・・分かりました」


 俺の想いを感じ取ってくれたのか、湖晴は少々不満足そうな顔をしつつも俺の体に密着し掛けていたその体を離し、自身の瞳に溜まっていた涙を白衣の袖で拭き取った。俺は心の中でだが、ホッと胸を撫で下ろした。


「(過去改変が終わってからだったら、周りに誰かいるではないですか・・・・・)」

「ん?準備は良いか?」

「はい。もう大丈夫です」


 真っ赤に染まっていた顔も大分元の色に戻った湖晴。何やら一言呟いていたみたいだが、あまりにも小さな声だった為に俺はそれを聞き取る事が出来なかった。


「でも、最後に・・・・・」

「え?・・・・・わっ!」


 俺がドアノブを回そうとしたその時、何の前触れも無く後ろから湖晴が抱き付いて来た。それがあまりにも唐突で、且つ、俺自身何の心構えも出来ていなかった為、俺はそのまま顔面をドアにぶつける事になった。


 しかも、その際にドアには俺と湖晴の2人分の体重が掛かったからなのか、ドアに付いている金具部分が破壊され、俺達はそのドアごと部屋の外つまり施設内に大きな音を響かせならが廊下へと投げ出されてしまった。


「いてて・・・・・」


 その瞬間、コンクリート製の地面にダイブした時とほぼ同様の痛みが俺の前半身を襲った。幸いな事にも廊下の地面と俺の前半身の間にドアがあった事と、倒れる直前に俺に飛び付いて来た本人である湖晴が引っ張り直してくれた事が関係したのか、言う程威力は小さかった様に思えた。一瞬だけ呼吸困難に陥る程で、骨が折れている様な痛みも無ければ何処かを切った様な傷も見当たらなかった。


 俺は今だに俺の背中に抱き付いたまま倒れている湖晴の姿を確認した。多分怪我は無いとは思うが、一体何なんだって俺に飛び付いて来るんだ。と言うか、この研究施設のドアって結構脆いな!


 しかし、俺はそのまま先程の室内同様に真っ白で清潔感に溢れる廊下で倒れ続ける訳にはいかなかった。


「あ・・・・・」


 何故ならば、俺と湖晴が倒れているその現場から10数メートル先の廊下で『Nuclear Technology』の一員であると思われる1人の影が明らかに俺達の方を凝視している事が、俺の目に映ったからだ。

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