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Time:Eater  作者: タングステン
第二話 『Zn』
16/223

第03部

【2023年09月13日07時19分39秒】


「は……?」


 俺は唖然としていた。まさにその言葉通り唖然としていた。湖晴がとんでもない事を言い始めたからだ。


 『俺の家に居候』? 唐突過ぎる上に意味が分からない。俺がそんな事を許せる訳ないし、そもそも俺の家にはあの珠洲がいるんだぞ。珠洲が家に他の女の子が止まるのを許可する訳無いだろう。超近所で幼馴染みの音穏だって未だに一度も泊まりに来た事が無いのに、だ。


「では、早速妹さんにご挨拶を……」

「ちょーと待てええええ!!!!」

「次元さん、朝から大声を出すのはあまり喉に良くないですよ?」

「あ、そうなの? って違う違う! 何で珠洲に会いに行こうとするんだ! 俺を殺す気か!」


 何て事だ。このままでは俺が珠洲に殺されてしまう。取り合えず、湖晴に事の経緯を聞きつつ何処かに消えて貰わなければ。


「で、何で俺の家に泊まるんだよ。家くらいあるだろ?」

「いえ、私『今は』家が無いんです」

「え……? 何かごめん……じゃあ、今までどうして来たんだ? まさか女の子が路上生活なんて事は無いだろ?」


 俺はもしかしたら墓穴を掘ってしまったのかもしれない。でも、普通は家が無いなんて事予想できるはずも無い。それが俺の目の前にいるタイム・トラベラー少女だとしても、だ。ここは一先ず、これ以上湖晴の心の傷口を抉らない様に注意しなければ。


「ええ。流石に路上生活なんてしませんよ。私は研究所に住んでたんですよ」

「研究所? ああ、前に言ってた『玉虫先生』だったか? の関係で?」

「はい、その通りです。でも、過去改変作業が30回終わらないと先生の元に帰る事は出来ないんです」

「それも『使命」か?」

「まあ、そんな所ですかね。なので他に行く宛ても無かったので、ここに来たと言う訳です。これから宜しくお願いしま……」

「断る」

「え~!?」

「『え~!?』じゃねーし! 俺の家にはあの珠洲がいるんだぞ!? 俺が女の子連れ込んで挙句の果て泊まらせた、なんて事になったらヤバい事になるぞ!?」

「大丈夫です」

「何が!?」

「その辺は私が完全完璧簡略乱雑適当に説明しますから」

「何か今、余計な二字熟語が入らなかったか?」

「お気になさらずにどうぞ~」


 そんな時、珠洲の声が聞こえて来た。しかも、足音もしている。その足音は俺の部屋に向かっている様に聞こえる。


「おにぃちゃーん? そろそろ朝ご飯食べないと、お味噌汁冷めちゃうよー?」

「やばっ!」

「あ、妹さんですね。丁度良い所に。では、挨拶して来ます」

「待てええええ!!!!」


 そして、俺の平凡生活もとい俺の人生が終わりを告げられた。俺の部屋に向かっていた珠洲と、珠洲に会おうとしていた湖晴が真正面から遭遇してしまったのだ。湖晴は予定通り自分が居候させてもらう為の文句を考えている様で、先に口を開いたのは数秒間固まっていた珠洲だった。


「……アンタ、誰? どう言う事か説明してくれる? おにぃちゃん?」

「……終わった」


 確実に珠洲はお怒りモードだ。俺の部屋の手前にある、今珠洲が握り締めている柱がそれを物語っているかの様にミシミシと普通は鳴らない様な音を立てていた。


 そして、湖晴が脳内で文章が纏まったのか珠洲に向かって話し始めた。


「始めまして! 次元さんの妹さんの珠洲さん! 私は照沼湖晴と言います。今回私がお2人のお家にお邪魔させて頂いたのには理由があります。大変恐縮ながら私をここに居候させて頂こうと思った次第です。勿論、ただでとは言いません。私だって一般常識くらい持ち合わせている女の子です。家事を始め、様々な事をお手伝いさせていただきます。あと、私の生活費に関してはこちらの紙に書いてある銀行から自動的に上垣外家の口座に振り込まれる様になっていますのでどうか宜しくお願いします。既に次元さんの許可は頂いていますので、後は珠洲さんだけなのですがどうでしょうか?」

『……』


 俺も珠洲も完全に石化してしまっていた。それもそうだろう。何で湖晴は自分が居候させて貰う側なのに、こんなにも自信たっぷりなんだ。しかも、文章が長いのに簡潔だ。無駄が無い。


 そう言えば今『既に次元さんの許可は頂いています』とか言ってなかったか? 俺はその辺の事をを許可した記憶は無いのだが……。


「……居候はともかくとして、最初に聞いておいても良い?」

「どうぞ。何でも仰って下さい」

「アンタ、おにぃちゃんの『何』?」


 珠洲も珠洲で説明し難い事を的確に突いて来るな。まさか俺と湖晴は『一緒にタイム・トラベルして過去改変して来た仲で~す』とか言う訳にもいかないし、珠洲が信じるとは限らないし、そもそも説明する時間が無い。流石に遅刻する。


「それはもう『深い関係』ですかね?」


 湖晴がとんでもない、意味深過ぎる事を言い始めた。


「おにぃちゃん。死刑」


 珠洲が俺に向かって死刑宣告をした。


「ぎゃああああ!!!! 違う違う違う違う! 俺は何もしてない! 湖晴も変な事言うな!」

「でも、ほら、あまり深くは言えない関係ですし……」

「あまり深くは……言えない……関係……!?」

「わああああ!!!! 確かに深くは言えないが、珠洲! お前が今考えている事は全部完全に誤解だああああ!!!!」


 どうした事だ。湖晴の妙な言い回しのせいで、まるで俺と湖晴が変な関係にあるかの様な卑猥な表現になってしまっている。一応念の為言っておくが、俺はそんな事はしてない。と言うか湖晴とはまだ出会ってから通算で計算しても、まだ二十四時間も経っていないはずだ。


「もう、おにぃちゃんなんて知らない! 勝手に繁殖しとけば良いんだ!」

「だから、違うって! しかも、何でそんなに話が変な方向に流れているんだよ! 何だ、繁殖って!」


 ついに珠洲に嫌われてしまった。俺の数少ない家族に。


 俺が言い訳する気力も無くなり、燃え尽きている時に湖晴が唐突に話し始めた。


「それだけはありません」

「何が?」


 珠洲がぶっきらぼうに湖晴に問い返す。


「ですから、さっき珠洲さんが言った『繁殖する』と言う事です」

「え? それって・・・・・」


 珠洲は何かを察した様子だが、俺には全く分からない。どういう意味だ?


「私、体質のせいで赤ちゃんが出来ないんです」

「……」


 何か俺達はまたしても湖晴の暗い事情を抉ってしまったみたいだ。この件に関しては珠洲にも悪気は無かったと思うが、念の為謝らせておいた。


「ごめん……」

「いえ、別に気にしてませんよ。珠洲さんが謝られる事ではありません。これも全てあんな事が……ゴホゴホッ!」

「おい! 大丈夫か、湖晴!」

「だ、大丈夫です。時々こんな事があるんです。ご心配なさらずに……」


 『ご心配なさらずに』と言われても全然大丈夫に見えない。湖晴が咳をする際に抑えていた右手には血が付いていた。もしかすると、湖晴は何か持病の様な物を抱えて今まで過去改変をし続けていたのでは? そうならば、あまり無理をさせる訳にもいかない。ましてや、寝泊り出来る所が無いのなら尚更だ。


 湖晴が手に付いた血を拭き取り、薬(?)を幾つか飲んだのを確認し、俺は珠洲に言った。


「珠洲」

「な、何? おにぃちゃん?」

「湖晴を泊まらせてやってくれ」

「でも……」

「頼む」


 何時の間にか俺は湖晴側、つまりは居候賛成側に着いてしまっていた。元々は居候反対派だったのに。おそらく、湖晴が大変そうだったから、湖晴を少しでも救ってやりたいと思ったからだろう。それに、さっきから湖晴の触れてはいけない事情に触れてしまった、と言う事も俺の中で影響したのだろう。


「……分かった。おにぃちゃんがそこまで言うなら……でも先に言っとくからね! 青髪白衣! おにぃちゃんとは別の部屋で寝る事! 部屋なら余ってるから!」

「ありがとうございます!」


 そんなこんなで湖晴は俺の家に居候する事になった。俺からしてみれば珠洲が許可してくれた事に対してかなり驚いている訳だが、これは湖晴の為を思ってした事だ。別に悪い事ではない……はずだ。


 しかし、新たな問題はそれから十数分後に起きた。取り合えず朝食は俺と珠洲と湖晴で一緒に取ったのだが、その後の俺が学校に行こうとしていた時の事だ。


「なななな……!」


 俺の家の玄関前。ある程度は予想していたが、俺の目の前には驚き続ける音穏がいた。音穏の視線は明らかに、俺の家から出てきた謎の白衣の少女に向けられていた。


「ま、まさか、次元の家に泊まってたの!? あの白衣の子!」

「いや、音穏。これには色々と事情が……」

「事情も次元も何も無い! そうだ! 珠洲ちゃん! この状況は一体何!?」

「ワタシも不本意なの。仕方無いでしょ」

「……! 珠洲ちゃん公認……!?」


 これは不味い。音穏が珠洲化してしまっては困る。俺の命が危機的状況に晒される期間が増える恐れがある。


 どうにかして言い訳を考えなければ。とか思っていた時に、またしても湖晴が話を勝手に進める。


「始めまして! 野依音穏さん! 音穏さんの話は次元さんから聞いてあります。次元さんからは『自慢の可愛くて優しい幼馴染みがいるんだよ』と聞いてありましたが、初対面でも分かるくらいに可愛くて優しそうな方ですね。あ、申し遅れました。私は照沼湖晴と言います。次元さんと珠洲さんご公認で、このお家に居候させて頂く事になった者です。これからもお会いする事があると思いますので、どうかお見知りおきを!」


 もうどうだって良いや。湖晴の国語力には参った。


「え、あ、うん……何となくだけど分かったわ……それにしても次元、私の事を褒めるなら直接言って欲しかったな……(ごにょごにょ)」

『……』


 俺と珠洲は顔を見合わせ、音穏は完全に圧倒されていた。それもそうだろうあんなに長い文章をすらすらと一度も噛む事無く言われたら。しかも、俺が言った記憶の無い事を捏造して音穏を褒め倒し、無理矢理に話を進めていると言う手際の良さだ。


「じゃ、じゃあ学校行くか。な? 音穏」

「う、うん。そうね……じゃなくて! 湖晴ちゃん? だっけ? の事をもっと聞いておかないと!」

「何で」

「いや、別にそれは……」

「おにぃちゃん」

「どうした? 珠洲」

「それは流石に無神経過ぎるよ。いくら相手が茶髪リボンでも酷い」

「……?」


 俺、今何か変な事言ったか? そんな事はさておき、珠洲が音穏を庇うなんて珍しい。今日は世界滅亡の日か何かですか? それはともかく、俺はそんなに変な事を言ってしまったのか。以後注意しておこう……何を?


 取り合えず俺が静かにしていると、女子達は女子達で話し始めた。そろそろ学校に行かないと遅刻する様な時間帯なのだが、音穏や珠洲も全く気にしている様子は無い。


 そう言えば、湖晴は学校には行ってないのか? タイム・トラベラーだとしても、見た感じは高校生くらいの年齢だろうし。もしかすると、これも聞いてはいけない事情なのだろうか。


 そんな中、女子達の話し声が聞こえてくる。


「成る程。珠洲さんは家事のほとんどをされてるんですね」

「そうそう。次元が頼りないから。偉いね~珠洲ちゃ~ん。もみもみ~」

「ギャー! 触んな、茶髪リボン! 変な所揉むなー!」

「珠洲さんと音穏さんはとっても仲がよろしいんですね」

「そうそう! 私と珠洲ちゃんは昔からこう言う仲なの。ふにふに~」

「ち、違っ! だから触んな! どっか行け! さっさと学校に行けー!」

「……学校……か」

「ん? どうしたの? 湖晴ちゃん?」

「え、あ。いや、別に何でもありませんよ。あはは」

「あ! 良く見たら!」

「?」

「湖晴ちゃん。ちょっと良い?」

「へ? あの、ちょっと音穏さん!?」

「もみもみ~」

「-----!!!!!」

「あーあ。かわいそーに」

「ふぅ。やれやれ。満足満足」

「音穏さん……いきなり何を……?」

「いやいや、これは歓迎の挨拶だよ?」

「ここではそんな風習が!?」

「ねえよ」

「それにしても、湖晴ちゃん……」

「どうしたんですか? さっきから私の胸部ばかり見て」

「私も、結構自信あったんだけどな……」

「おい! 茶髪リボン! 何でそこで黄昏ながらワタシの方を見る!? 別にワタシは小さくないぞ! むしろ大きい方だぞ!」

「あ、そう? それなら……」

「ギャー!」


 ……俺は先に学校に行っておこう。これでは遅刻してしまう。


 ちなみに後に音穏から聞いた話によると、俺が先に学校に行った後も女子トーク(?)は三十分程度続き、音穏と珠洲は完璧に遅刻してしまったらしい。湖晴は買い物があるとかで、何処かに出掛けて行ったらしい。


 それはともかく、3人の親交が深まった様で何よりだ。

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