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Time:Eater  作者: タングステン
第六話 『U』
159/223

第17部

【2023年09月25日22時27分24秒】


 俺は例の科学結社について聞く為に栄長に電話を掛けた。スマートフォンから聞こえて来る数回の呼び出し音の後、随分久し振りに聞いた気がする、あの少女の声が聞こえて来た。


『はい、もしもし。栄長です』

「あー、栄長か?今少し大丈夫か?」

『いや、大丈夫じゃない。それじゃ』


 ガチャッ


 ツーツーツー


「・・・・・・・」


 まだ用件すら何も言っていないにも関わらず、俺は栄長に電話を切られた。今回ばかりは完全なる出オチだった。


 栄長のあまりの適当さに唖然としていた俺だったが、数秒後に沈黙しながら再び電話を掛け直す為、スマートフォンの電話帳から栄長の番号を探した。そんな俺の姿を湖晴は『何しているんだろう』みたいな感じで不思議そうに眺めていた。


 本日2度目の呼び出し音の後、改めて栄長の声が聞こえて来た。


『はい』

「まだ何も言っていないのに、勝手に切るなよぉぉぉぉぉ!!!!!」

『いやいや、今大丈夫かどうかを聞いたのは次元君じゃん』

「まあ、それはそうだが・・・・・ん?何で俺だって分かった?」

『?電話に出る時に、普通に画面に名前が表示されてるけど?』

「ああ、それもそうか」


 当然と言えば当然の事を尋ねた俺に対して、栄長は哀れむ様な声でそう答えた。さっきの俺の反応がそんなに面白かったか、そうですか。


 すると、栄長は本当に忙しいらしく、早々に俺に用件を聞いて来た。忙しいなら、さっきの絡みはいらなかっただろうに。


『それで?どうしたの?まだ遊び足りないの?』

「一応言っておくが、夕方の大会は『俺』が『栄長』を手伝ってやった側だからな?『栄長』が『俺』と遊んであげた訳ではないぞ?だから、その辺を・・・」


 ガチャッ


 ツーツーツー


 俺の台詞はまだ途中だったにも関わらず、自分の意見が通らなかった事が不服だったのか、栄長はまた通話を強制的に終了させた。


 こうも何度も切られると、流石の俺も苛ついてしまう。そのせいで乱暴にスマートフォンを操作していた俺に、湖晴が一言『大丈夫ですか?』と聞いて来ていた気もするが、それに答える事が出来る様な余裕はこの時の俺には無かった。


「うおおおおおい!」

『直接会って話してる訳じゃないんだから、あんまり大声出さないでよ。鼓膜飛んじゃうでしょ?』

「いやいやいや!結構急ぎの用だから、何度も切られると困るんだ!」

『急ぎの用?』

「ああ!」


 実際には時間的な猶予はまだまだあるが、俺が本当に急いでいると思ってくれたのか栄長は今度こそ勝手に通話を切る事無く俺の用件を聞いてくれるみたいだった。


「ある科学結社について教えて欲しいんだが、教えてくれるか?」

『科学結社について?機密情報に触れない程度なら別に構わないけど・・・・・どうしたの?急に』

「単なる好奇心だ。気にするな」


 普段の俺は例え如何なる好奇心を持ったとしても自分から調べようとはしないし、そもそもそれ程好奇心を持つ事は多くない。だが、今回ばかりは別だ。俺の好奇心と言う訳ではないし、飴山の過去改変に必要な事だからな。


 俺の台詞の後、数秒間の間があった。そして、栄長は俺の言動に何処か不自然さを感じたのか、おかしな事を聞いて来た。


『好奇心って・・・・・こんな事聞いたら変と思われるかもしれないけど、貴方本当に次元君?』

「は?」

『何だか、つい2時間前まで私とゲームをしていた次元君とは随分違う様な気がするんだけど』

「俺は俺だが?」


 俺はこの世界には1人しかいない。別の時間の俺がそことは別の時間へと時空転移をしているのなら2人以上いる可能性もあるが、9月25日の夕方に栄長と一緒にゲームをしていたのは紛れも無く今ここにいる俺だ。


 栄長はまだ納得出来ていない様子だったが、一応は納得してくれたらしく、俺の質問に答えてくれるつもりになったらしい。


『そう。まあ、良いけどね。それで、その科学結社ってのは?』

「『Nuclear Technology』って言う科学結社なんだが、知ってるか?」

『・・・・・・・』


 俺が『Nuclear Technology』と言う科学結社の名前を出した後、一瞬だけ通話をしている栄長の方から息を呑む様な音が聞こえて来た。そして、そのまま栄長から特に回答が帰って来る事も無く、10数秒が経過した。


「栄長?」

『・・・・・次元君、何処でその組織について聞いたの?』

「え?えーっと・・・・・」

『はぁ・・・・・何か、薄々気付いてはいたけど・・・・・』


 何かに気が付いたのか勘付いたのか、栄長は1度大きな溜め息を付いた後、その台詞を強調させる様にして俺に言って来た。


『また過去改変する事になったの?』

「!?」

『やっぱり。それに、今私と電話をしている次元君がつい2時間前まで私とゲームをしていた次元君と違う事も考えると、貴方は未来から来たと言う可能性もあるわね』

「そ、それは・・・・・」


 何で栄長はこんなに勘が良いんだ。今の数分間の会話だけで『俺がこの時間とは違う別の未来から来た』と言う事を言い当てられるんだ。やはり、科学結社『Space Technology』の№2であり、誰からでも人気がある天才少女の名は伊達ではないな。洞察力が俺なんかとは桁違いだ。


 栄長は続けて、諭す様に俺へと声を掛けて来た。


『次元君。私なら何か力になってあげられるから、これから何が起きてしまうのかを教えて。わざわざ貴方にとっての「過去」の存在である私の力を頼るくらいだから、相当大変な事が起きてしまう事くらいは予想は付いているから』

「今は・・・言えない・・・・・」

『何で?』

「・・・・・栄長がこの事を知ったらきっと組織を動かして対処すると思う。だけど、それだけは避けなければならないんだ」

『つまり、次の過去改変対象者の子はとっても不安定な状態にあって科学結社絡みと言う事ね』

「多分」


 『多分』と言うよりは『その通り』と言う方が正しいのかもしれないが、俺はあえて不明瞭な答え方をした。


『・・・・・分かったわ。あまり深入りはしないようにするから、聞きたい事だけ聞いて頂戴』

「悪いな。あと、もう1つ俺の勝手なお願いなんだが」

『何?』

「珠洲や音穏達を守ってやってくれ。勿論、それ以外の人達もそうだが、あの2人は特に非力だ。だから・・・」

『次元君』

「どうした?」


 俺からの純粋な願いを最後まで聞き届ける事無く、栄長は俺の名を呼んだ。これから起こる大事件は今は過去改変対象者ではない音穏や珠洲にとっては辛過ぎる事件であり、危険だ。だから、そんな2人を守って欲しいと言う俺の本心からの願いだったのだが、栄長は予想外の台詞を放って来た。


『疲れてるんじゃない?』

「え?」

『私が知っている次元君は誰かを特別扱いする事無く、その場で弱い立場にある人を助けようとしてた。でも、今の次元君は違った。この時間の時点では弱い立場にある訳ではない音穏ちゃんや珠洲ちゃんを特別扱いした』

「お、俺は別にそんなつもりじゃ・・・・・」

『私は次元君との約束は守るはずだよ?でもね、次元君は私が知らない所で沢山傷付いてとっても疲れているんだと思う。だから、休んでも良いんだよ。誰も次元君を攻めたりはしないよ』

「栄長・・・・・」


 栄長は俺と湖晴以外で唯一過去改変について知っている俺の知り合いだ。しかも、将来的には大科学結社を動かす統率者になるかもしれない少女だ。そんな立場にあるからこそ、今のその台詞を言う事が出来たのだと思う。


 だが、俺はついさっきまで6時間も寝ていたのだ(湖晴の膝の上で)。だから、体は疲れているかもしれないが眠気は全く無いから、栄長の想像しているよりはマシな状態だとは思う。


『それじゃ、本題に入りましょうか。えっと「Nuclear Technology」について、だっけ?』

「ああ」

『「Nuclear Technology」は原子力や放射能等について研究して、それらを安全に使う為の物を開発する科学結社よ。他の科学結社と比べると、基本的に研究とかしかしていないから大人し目と考えて貰っても構わないわ』

「まあ、組織名からそんな気はしていたけどな」


 と言うか、湖晴から組織名の和訳を聞いた時に今の栄長の台詞の前半部分の様な考えは浮かんでいた。だが、原子力や放射能等について研究している組織が大人し目だとは少し驚きだな。今時はそう言うもんなのか。いや、俺は科学結社については知らない事ばかりだから何とも言えないが。


 拍子抜けしたかの様に、栄長は今度は質問して来た。


『あら、そうなの?それじゃあ、次元君は何が聞きたいのかな?』

「その組織はこれまでに原子力爆弾とかの兵器を作った事ってあるか?」

『げ、原子力爆弾!?何で!?』

「いや、無いならそれで良いんだ」


 栄長にしては珍しく俺の台詞の先読みが出来なかったらしく、栄長は電話越しで俺の鼓膜が破けてしまいそうなくらいの大きな声を上げた。


『流石に原子力爆弾はねぇ・・・・・あの組織の活動方針とは異なるし、そもそも法律で禁止されてるでしょ・・・・・あ』

「何か心当たりでもあったのか?」

『そう言えば、何年か前にあの組織の拠点が深夜に突然大爆発を起こした、って聞いた気がする』

「組織の拠点が?」

『うん』


 組織の拠点が大爆発したって、別の科学結社に狙われたとかそんな感じの奴なのだろうか。それとも研究中の事故か?いや、深夜まで研究する程熱心な組織ならそう言う管理もしっかりしている事だろう。


「教えてくれ」

『でも、これって、言っちゃって良いのかな・・・・・』

「この組織について有る事無い事全部知っておきたいんだ。それに、ここまで教えといてそれは・・・」

『あー、もう!はいはい!教えるわよ!』

「悪い」

『今資料持って来るから少し待ってて!』


 俺がしつこく情報提供を求めたお陰だからか、栄長はややいらついた様子になってしまった。そして、その資料とやらを取りに行く為なのか、栄長のスマートフォンが布団か何かの柔らかい物に投げられた音が聞こえた後、ドスドスと言う明らかに苛々している足音が聞こえた。


 数分後、クリアファイルらしき物を捲る音と共に、栄長の声が聞こえて来た。


『えーっと、ああ、あったあった』

「何て書いてある?」

『「組織の人間1名が独自に開発した原子力爆発物が深夜に誤作動を起こし、それが保管されていた組織の拠点が全焼。死者は17名。その他負傷者は74名。幸いな事にも、組織の他の研究資料等はその拠点には無く、周辺に一般の建造物も無かった為被害は大きくならなかったものの、科学結社の存続に多大なる悪影響を与えた責任として日本科学結社安全同盟の加盟科学結社の統率者27名はこの事故の原因を作った中心人物の処分をNuclear Technologyの統率者に言い渡した」だって』

「ん?何か、それと似た様な話を何処かで聞いた事がある気がするぞ?」


 科学結社がそれを起こしたと言う事や、その後犯人が処分されたと言う事については初耳だが、原子力研究機関が爆発して少しだけ死者が出たと言う事件を俺は知っている。


「それ、テレビで放送されてなかったか?」

『確かにそうね。でも、あれは原子市の端っこの方で爆発が起きたって言ってたでしょ?資料には原子市の隣の街だって書いてあるけど』

「科学結社内でその事件を隠蔽しようとか言う話し合いは無かったのか?」

『さあ、そう言うのは統率者であるお父さんが管理しているはずだから、私はあまりよく知らないわ』

「そうか」


 科学結社内でその事件の隠蔽が行われていたのなら、ダミーの事件現場を作り出してそこをテレビ局に報道させる事によって本来の事故現場の処理を簡単にさせる可能性もあるのではないかと思ったが、そうではないらしい。


 俺の、飴山の過去改変の為の栄長からの情報収集はまだ続く。

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