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Time:Eater  作者: タングステン
第六話 『U』
158/223

第16部

【2023年09月25日22時27分24秒】


 俺の体感時間で本日2度目の『現在-数分』にやって来た後、再び別の『過去』へと時空転移して来た俺と湖晴だったのだが・・・・・ここは何時の何処だ?と言うか、俺達は本当に時空転移して来たんだよな・・・・・?


 どうやら、俺は仰向けの状態で空を見上げる様な形で倒れているらしい。辺りは微かな光こそあるものの、深夜に近いのか真っ暗だった。それに、物音1つ聞こえて来ない。しかし、よくよく耳を澄ましてみると、俺の吐息の音以外にも誰かの吐息が聞こえて来る。


 ・・・・・そう言えば、俺の後頭部に程よい柔らかさの何かがある気がする。いやいや、ちょっと待て。それ以前に、湖晴は何処に行ったんだ?まさか、何処かにはぐれたのか?


「あ、起きましたか。次元さん」

「え?」


 何処からか聞こえて来た湖晴のそんな声。俺はその声の方向を見た、と言うよりはその声の方向を向いた。


「ああ・・・・・えっと、いつも悪いな」

「いえいえ」


 毎度お馴染みかもしれないが、どうやら俺は時空転移の際の衝撃で気絶してしまっていたらしい。疲労が溜まっていたり、眠気があった事も少なからず影響しているかと思うが、今ではもうそれらはすっきりしているので結構長い時間眠っていたみたいだ。


 そんな俺の事を思ってなのか、湖晴は膝枕をしてくれていた。もうこれで何度目だろうか。俺は湖晴に迷惑を掛けてばかりだ。それに、膝枕までして貰って(俺の意識外ではあるが)。


 俺は正座をしていた湖晴の膝から頭を離し、体を起こした。


「俺、どのくらい寝てた?」

「いえ、それ程寝てはいないかと」

「そうか」


 いくら疲労感と眠気がすっきりするくらいの時間とは言っても、せいぜい2~3時間くらいだろう。とは言っても、それでも十二分に湖晴には迷惑を掛けていると言う事になるのだが。


「まあ、6時間くらいだったかと思いますけど」

「長いな!」


 何と無く、話の流れ的にそうじゃないかとは思っていたが、それは寝過ぎだろ、俺!ロングスリーパーは普段から結構私生活に影響が出る物なのだが、こう言う時は更に不味い。と言うか、俺が6時間も寝ていたと言う事は湖晴に6時間も膝枕をさせていたと言う事じゃないか。


 俺は少し申し訳なさそうに、地べたに尻を着いたまま湖晴の前に座って、一言だけ謝った。


「・・・・・ごめん。湖晴も疲れているだろうに、俺だけ寝ちまって」

「大丈夫ですよ。私は元々疲れ難い体質ですし、次元さんと一緒に少しだけ仮眠を取らせて貰いましたから」

「そうか。それなら良かった」


 どうやら、湖晴は湖晴なりに休息を取っていたらしい。ここが何時の何処なのかはこれから聞くとして、2人が同時に寝ていても危険が及ばない場所だと言う事は分かった。


 ・・・・・ん?そう言えば、湖晴は俺に膝枕をしながらどうやって寝たんだ?いや、何もずっと膝枕をしてくれていたと言う保障は無いし、湖晴がそうしなければならないと言う義務も無い訳だが・・・・・俺、寝ている間に湖晴に何かされてないよな?ここは湖晴を信じる事にしよう。


「湖晴。ここは何時の何処だ?」


 一先ず大体の状況把握が終わった後、俺はより確実な状況把握をする為に湖晴にここが何年何月何日何時何分の何処なのかを聞いた。湖晴は既に時間は確認済みだったのか、1度タイム・イーターを見る事無く俺の質問に答えた。


「ここに着いたのは9月25日の16時頃で、今は22時半頃ですね」

「と言う事は、今は俺が栄長とネトゲをし過ぎて、珠洲に怒られつつ徹夜で勉強をさせられている頃だな」


 学校から帰って来てからずっと湖晴に付きっ切りでテスト勉強をしていた俺だったが、栄長にテスト1週間前にも関わらず『ネトゲの大会があるから』と言う理由で拒否権を与えられる事も無く、仕方なくネトゲの大会に参加させられ、変なプレイヤーに当たったりしつつも殆んど栄長の力で優勝してしまったのだ。


 しかし、それの開始時間は確か午後6時で全ての対戦が終わる頃には午後8時半になっていた。ネトゲに夢中になり過ぎて夕飯の席に着く事が出来なかった俺はその後、意識を途切れさせる事さえ許される事無く珠洲に徹夜でみっちりテスト勉強をさせられたのだった。お陰様で、何時でも倒れるくらいに寝不足になった。


 そして、今の時刻が22時半と言う事は、この時間の俺は外には出られないはずだから偶然遭遇したりする事は無いはずだ。それに、栄長に『Nuclear Technology』について聞くにしても丁度良い時間であると言えるだろう。


「それで、ここは何処なんだ?」


 現在時刻のみを聞いた俺は続けて現在位置について湖晴に質問した。


「例の研究施設の屋上です」

「ああ、例の研究施設の・・・・・って、ぇえええええ!?」


 俺の予想の範疇を遥かに上回った湖晴のその回答に俺は驚きを隠す事が出来ず、思わずそんな風に大きな声を出してしまった。そして、大分暗さに慣れて来た目で周りを見回した。確かに、建物の近くの風景が何処かで見た事があるし、この建物自体もかなり廃れている様に思えた。


 と言うか例の研究施設って事は、もしかすると既にこの下には飴山がいて、この街を壊滅させる為に何かを用意しているかもしれないのでは!?


 俺がそんな風に必要以上の焦りを感じている時、俺の言いたい事を先読みしたのか、湖晴が口を開いた。


「その心配はありませんよ。今の所、有藍さんがこの研究施設に入った所は目撃していません。まあ、私が見落としているだけの可能性もありますけど」

「そうか。それに、もし飴山がいたとしても、その爆弾を起動させるのは9月26日の17時半頃だもんな」


 俺は自分の思考を読まれた事など大して気にする事無く、それどころか自分の杞憂を少しばかり恥じつつ、内心ホッとした。これまで何度も過去改変をして来た俺だが、爆弾とかそう言う類の物はやはり怖い。ゲーム内ならまだしも、現実でそんな物を目撃してしまったらどうして良いか分からない。


 6時間もの睡眠の末に完全にスリープモードに入っていた俺の脳味噌も次第に目覚め始めたらしく、そろそろ次の過去改変の為に準備を進めて行く必要があると判断した。俺は立ち上がってポケットからスマートフォンを取り出した。


「栄長に電話を掛けてみる」

「『Nuclear Technology』について聞くんですか?」

「まあな。栄長なら何か知っているだろうしな」


 正直な所『Nuclear Technology』と言う科学結社はどの様な組織で、飴山とどの様な関係なのかは俺には分からない。だからこそ、栄長に聞いてみるのだ。確か、栄長は飴山の事を知っていたはずだから、飴山の名前は出さずにその組織についてのみ聞いてみよう。


 ついでに、明日緊急避難命令が発令されるから備えておいてくれ、とか言っておこう。珠洲や音穏達の事も心配だし、栄長なら何とかしてくれる事だろう。


 あれ?ちょっと待てよ?俺がこの時点で栄長に明日起こる事について話したとしたら、栄長はどうするだろうか。当然、余計な被害を軽減する為に今から何らの行動に出る事だろう。『Space Technology』の№2として、組織の総力を上げるだろう。


 そうなれば、飴山は用意しているはずの爆弾を起爆させる事が出来ない。こうなれば、飴山が過去改変対象者から外れて、余計な複雑な過去改変をする必要も無いんじゃないか?


 この件について少し気になった俺は、特に考えを纏める事無く、俺の方を見つめていた湖晴に声を掛けた。


「なあ、湖晴。今から栄長にこれから起こる事を伝えて、飴山の行動を阻止して貰うと言う方法は駄目なのか?」

「いえ、駄目と言う訳ではありませんが、それは一時凌ぎにしかならないですし、もしかすると予定よりも早く有藍さんが行動に出る可能性がありますので、あまりお勧め出来ないです」

「?どう言う意味だ?」


 俺なりに思い付く限りに考えた結果、これ以上時間を掛けずに簡単に過去改変を行う方法としてはこれが最善だと思うのだが、湖晴はそれをお勧めしないと言った。俺は湖晴からそう言った理由を聞く為に暫く黙って説明を聞いた。


「前者の場合は大体予想は付いているかと思いますが、有藍さんの過去その物を改変しない限り、一時的に行動を抑え付けたとしても何時かは同様の事をする可能性があります。それに、それの発生時刻が不明になってしまうと私達にまで被害が及ぶ可能性があるので過去改変のしようが無くなってしまいます」

「まあ、確かにそうなるな・・・・・」


 よく考えてみれば、湖晴の言う通りだ。これまでは1度や2度の過去改変で問題は解決していたが、今回は違う。だからこそ余計に、その過去改変対称者の過去を綺麗さっぱり清算する必要があるのだ。現に、杉野目に不安を煽られそうになっていた飴山を助けた所で何も変わった事は無かったし、2度の『現在-数分』で飴山に説得を試みようとした所で意味は無かったしな。


 1つ目の可能性について理解した俺は次の可能性について湖晴に聞いた。


「2つ目は?」

「後者は、燐さん達科学結社の方々が無理矢理有藍さんを取り押さえようとした場合の話です。そこで質問します。もし、次元さんがテロリストで、両手一杯の爆薬を持っている時に警察官30人が自分に走って来たらどうしますか?」

「え?さあ、俺がテロリストだったら、か・・・・・」


 俺にはそんな大それた事を出来る様な度胸は無いし、したいとも思ってはいないが、湖晴に言われた通りに自分がテロリストになったつもりで俺は湖晴の質問に答えた。


「『自爆』するんじゃないか?」


 テロリストの目的は多分復讐とか自分の欲求を満たす為だけにしているはず。つまり、自分の命も他人の命もどうなってしまっても構わないと考えているはずだ。それに、もし警察官が30人も突撃して来たら一溜まりも無いはずだ。


 逮捕されて、思い刑を受ける事は目に見えている。そうなってしまえば、自分の復讐を晴らす事が出来ず、自分の欲求さえも満たす事は出来なくなってしまう。つまり、死ぬ事も無く、ただただ後悔だけが残ったまま生きる事になるのだ。


 復讐を果たせずに一生を牢屋で過ごさなければならないとしたら、どうしたいか。答えは簡単だ。『その場で死ぬ』つまりは、両手一杯に抱えている爆弾を起爆させて周囲にいる人や物を全て巻き込むのだ。


 そこで俺は気が付いた。湖晴が俺に何を分かって欲しいのかを。


「そう言う事か。飴山もこんな心境になると言う事なんだな」

「はい。あくまで推論ですけど」


 飴山の目的は『かつて仲間だった人達に対する復讐』だ。これを今さっきの『もし俺がテロリストだったらどうするか』と言う思考実験に置き換えてみれば、自ずと答えは出る。


 飴山はその目的を果たす為なら何の関係も無い街の人達や、目の前にいた俺、それに自分自身の命さえも消し飛ばしても構わないと思っているのだ。現に、俺はそんな飴山の事を2度も目撃しているし、1度は間一髪だった。


 だから、そんな不安定な状態にある飴山を無理矢理拘束するのは俺達にとっても自殺行為なのだ。今の飴山は少し触れるだけで簡単に爆発する機雷なのだ。


 一応、栄長に飴山の事とこれから起こる事については話してはならないと言う事を理解した俺は、手に持っていたスマートフォンで栄長に電話を掛けた。数回の呼び出し音の後に、可愛らしい女の子の声が聞こえて来た。

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