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Time:Eater  作者: タングステン
第六話 『U』
154/223

第12部

【2023年09月26日17時10分07秒】


 次の過去改変対象者である飴山の過去を知る為に、俺が最後に飴山と会話を交わした場面まで戻り、俺と湖晴はそこから何か異常が有るか無いかを順に調べる事にした。この世界の異変が正確に何時から起きているのかを把握する事によって、須貝の過去改変が成功したのか失敗したのかが分かり、過去改変をし易くなるからだ。


 2023年9月25日16時30分頃の時点ではまだ何も異変は起きておらず、いつも通りの平和な原子市の光景がそこにはあった。過去の俺や音穏を含めた通行人や、建物や公園等の街並みも全て。


 だが、俺達はグラヴィティ公園内で過去の俺と会話を交わしたすぐ後の飴山にある人物が話し掛けている場面を目撃してしまった。あの廃れ切った研究施設の中で飴山が俺に訴えて来ていた『かつて仲間だった人達に裏切られた』と言う内容の台詞を、過去の杉野目が飴山に対して言っている場面を。


 俺は珠洲や須貝の件を思い出し、今回の過去改変対象者に飴山が選ばれてしまったのが、杉野目のその一言が大きく関わっていると考えた。珠洲や須貝の時にも2人が過去改変対象者と認定される直前に、杉野目はその2人に何かを話していたからだ。


 だから、その杉野目の台詞を飴山が理解してしまう前に俺は2人の間に割り込み、飴山を音穏達の下へ避難させる事で飴山は余計な不安を煽られる事無く今回の過去改変は終了・・・・・のはずだった。


 しかし、そんなに上手くは行かなかった。念の為に『現在-数分』の世界よりも更に少し前の世界へと時空転移をして来た俺達だが、先程と同様にグラヴィティ公園近くの丘の上から見える原子市のその姿は何処か今も戦争をしている国の地形の様に廃れ切っていたのだ。


 しかもその様子は俺の体感時間で1時間くらい前に見たものと何1つとして変わっていなかった。今にも崩れそうなくらい荒廃した建物、各所に無作為に放置された車、人は1人たりとも見当たらない。俺の推測がまるで全くの的外れだったかの様に、この世界は非情な現実を俺達に叩き付けた。


 目の前の光景に動揺しつつも、俺はこの状況について考えた。だが、俺が飴山と最後に話した瞬間から緊急避難命令が発令されるまでで、杉野目が飴山に言おうとしていたあの一言が最も影響が大きいはず。それに、俺は飴山を音穏達の下へと避難させた。近くに栄長もいたはずなので、飴山に何か変な事を吹き込む様な不審者は絶対に近付けないはずだ。


 それなのに、何でこんな事に・・・・・。


「・・・・・湖晴」

「はい」


 湖晴も俺同様に多少の驚きはあったみたいだが、やはりこの様な『過去改変の失敗した光景』にはある程度は慣れているのか、俺程は驚いてはいないみたいだった。落ち込んだ気持ちの中、俺は続けて湖晴に話に掛けた。俺の最悪の予感が当たっていない事を願いながら。


「もしかして、なんだが・・・・・俺達は須貝の過去改変に失敗したんじゃないか・・・・・?だから、飴山に直接的に関係している杉野目との会話を妨害しても過去改変は行われなかった・・・・・」

「いえ、もし次元さんの仰る通りに輝瑠さんの過去改変に失敗しているのでしたら、2023年9月25日16時30分頃の時点で何か異変が起きているはずです」

「だったら、これは一体・・・・・!」


 俺は丘の上から見える原子市の光景を指差した。過去改変の影響なんて何1つとして見られない、壊滅した都市。俺の知っている平凡で平和なあの原子市は何処へ行ってしまったのか。


 湖晴の今の台詞をそのまま解釈すると、須貝の過去改変にも飴山と杉野目の会話を妨害した事にも成功している、と言う事になる。しかし、そうだとすれば、ここから見えるこの光景は存在し得ないはずだ。何かが大きく間違っていたから、こんな事になったのだ。


 次第に焦りの気持ちが出て来た俺とは反対に、湖晴は至って冷静に俺の事をなだめる様に話した。


「それに、私達が一定の人数に『目撃』された事によって少なからず何らかの過去改変は行われたはずです。ここからでは先程と比べて特に変わっていない様に思えますが、街を歩いてみると何か異変があるかもしれません」

「そうか・・・・・」


 確かに、丘の上から見える範囲では限度がある。細かい所を言うと、例えば、この建物が倒壊していないとか、この位置にはこの車は無かった等の異変があるかもしれない。しかしながら、その程度の異変では何の意味も無い。


 全ての事柄に意味があるとか言われる事があるかもしれないが、そんなものは嘘だ。過去改変においては、無意味な事や余計な事が多く存在する。俺は今、それを我が身を持って実感した。


「あともう1つ」

「どうぞ」


 次の疑問を解消する為に俺は湖晴に声を掛け、湖晴もそれに応じた。


「俺達が目撃した、杉野目が飴山に何かを言おうとしていたあの場面だが、あれは飴山の過去改変に直接的には関係しない出来事に過ぎなかったのか?」

「これはあくまで私の推測ですが、あの出来事は有藍さんの過去改変に直結している出来事であると判断しても良いと思います。内容が内容でしたし」

「だが、街は今だに荒廃したままだ。つまり、飴山は過去改変対象者のままで、過去改変が行われる事は無かったと言う事になるだろ?」

「いえ、そう考える事も出来ますが、他にも別の考えをする事が出来ます。見方を変えてみれば、それは自ずと出て来ます」

「別の考え?」


 飴山と杉野目のあの会話が過去改変に関わっているのなら、ここから見える原子市の光景はいつも通りの光景に戻っているはず。逆にあの会話が過去改変に関わっていないのなら、ここから見える原子市の光景は今見える通り荒廃したものになるはずだ。


 現状、今の俺達が遭遇しているのは後者の方、つまりあの会話が過去改変に関わっていない場合の事だ。だが、湖晴が言うには別の見方をすればそれとは違う答えが出るらしい。


「はい。あの出来事は有藍さんの過去改変に直結している事なのはおそらく真実でしょう。しかし、それだけでは有藍さんを過去改変対象者の未来から救う事は出来なかったのです」

「と言う事は・・・・・?」

「有藍さんの過去は複雑に絡んでおり、1つの過去改変だけでなく、2つの過去改変をする必要があると言う事です」


 これまでの5人の過去改変対象者の子達の場合では1人あたり2度も過去改変をする事は無かった。いや、栄長の時は俺の気紛れで、阿燕は須貝と関わっていたから、2度過去改変している様に思えるかもしれないが、厳密にはそう言う意味ではない。


 俺の気紛れでもなく、他の誰かと関わっている訳でもない、と言う条件に当て嵌まっており2度以上の過去改変をする必要がありそうなのは飴山ただ1人だけなのだ。勿論、今の湖晴の台詞は湖晴なりに考えた推測に過ぎないが、それでも俺なんかが考えるよりは真実に近いはずだ。


「湖晴のその台詞で思い出した事がある」

「何でしょうか?」

「杉野目の台詞だよ。あいつはさっき・・・・・とは言ってもこの世界での時間的には丸1日経っている訳だが、こう言っただろ?『今回の件は1つ2つを対処した所で解決する、なんて言う甘い考えは捨てた方が良い』みたいな事を」

「確かにそうですね」


 杉野目は絶対に何かを知っている。自らを予知能力者に近しい者だと言い、科学結社『Time Technology』のトップ。しかも、何時か何処かで湖晴と面識があるらしく、阿燕の過去改変が成功した次の日に転校して来た。更に、栄長とはあまり仲が良くないみたいだ。それに、何かと分からない事が多過ぎる。


 初めはただの転校生だと思っていたが、おそらくそうではないのだろう。あいつは一体、何者なんだ。


「杉野目は過去改変について何か知っているはずだ。本人は何があっても俺達にその事を教える気は無いみたいだが、あの台詞が真実だとしたら、湖晴の台詞と合致するからな」

「つまり、私の推測は正しい、と?」

「まあ、そう言う事になる」


 何だか、前にもこれと似た様な事を杉野目から言われた気がする。それはまるで、俺達の行動を先読みしている様な、しかしそれを聞いた時には理解出来ない事を。


 杉野目が科学結社の力を借りて予知能力者になっているのならこれくらい造作も無い事なのだろうが、そうだとすると以前俺が聞いた『今の状況を続けるとどうなる?』と言う質問に対する『破滅する』と言う回答が更に意味が分からなくなる。確かに原子市は破滅したが、俺はこれまで1度たりとも破滅した記憶は無い。と言うか、何だよ。破滅って。


 その時、首から提げているタイム・イーターで現在時刻を確認した後、湖晴が俺に話し掛けて来た。


「次元さん。そろそろ移動しないと『現在-数分』に戻って来る過去の私と次元さんに鉢合わせる可能性がありますので、一旦街に下りましょう。調べたい事は山積みですし」

「そうだな。具体的にどれくらい過去改変の影響が出ているのかも調べたいしな」


 そうして、俺と湖晴は本日(俺の体感時間で)2度目の原子市探索に向かった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 おそらく、飴山がいるであろう場所はあの廃れ切った研究施設で間違いないのだろう。飴山の目的が原子市、もしくはこの世界を滅亡させる事なのならば、爆弾が隠されているであろうあの研究施設以外に行く宛てはないはずだしな。


 暫く街中を歩いて探索していた俺と湖晴は一先ず荒廃の影響が他と比べて大きい場所で各自別れて探索する事にした。そんな中、俺の思考は続く。


 やはり、特に目立って変わっている所は無い様に思える。そもそも、この建物が倒壊していないとか、この位置にはこの車は無かった等の細か過ぎる異変を俺が覚えていられる訳が無い。そんな物はもうとっくに忘れた。覚えていたとしても、わざわざ確認するつもりもない。


 だが、何度確認しても異変は無い様に思える。相変わらず人はいそうにないし、建物も不気味な雰囲気を漂わせているだけだ。そろそろ飴山の下へと向かって、本人から聞き出すとしよう。


 ・・・・・と思っていた。しかし、突如異変は何の前触れも脈絡も無く、訪れた。


「・・・・・!湖晴!」


 少し離れた所で倒壊しそうになっていた建物を調べていた湖晴の姿をふと見た時だった。その背後に見覚えの無い大柄の男が右手に鉄パイプを持った状態で、背を向けている湖晴へとゆっくりと静かに近付いていた。

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