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Time:Eater  作者: タングステン
第六話 『U』
153/223

第11部

【2021年04月14日14時04分40秒】


~????視点~


 それは私が13歳の頃の話だった。


 私は幼い頃に英才教育を受けたので、一応高校までの勉強とその他にもこれから組織で働いて行く上で必要になって来るであろう知識を身に付けていた。だから、私は学校には通ってはいなかった。それに、戸籍上は多分、私の本来の両親に捨てられてからもう13年以上も経つから、行方不明扱いになっているか死亡扱いになっているはずだし。


 それに、組織の人達の中には身寄りがいなかったり、お金が無かったりで、高校を卒業出来ている人はかなり少なかったけど、皆それぞれが独学で組織で働く為の知識を身に付けていた。そう言う事もあり、リーダーは私が学校に行かずに組織で働くと言う事を伝えた時もすんなりと了承してくれた。


 この時の私は毎日がとても楽しかった。組織の中では最年少でありながらも、他の組織の人達よりも遥かに成績が良く、研究も順調に進んで行っていた。


 私は自分の組織内での成績が良くなればなる程、他の組織の人達が楽になって、ここまで私を育ててくれた恩を少しずつ返せると考えていた。しかし、後々になって思えば、これはなんと浅はかな考えだったのだろうと自分を責めたくなってしまう。


 私が所属している科学結社『Nuclear Technology』ではこれからの日本で正しく原子力を使う事、又、放射能の被害をいかに無くすか、と言う事を研究していた。


 これまでの日本は国内での原子力発電所の問題や、外国との原子爆弾の問題等で大勢の人達が苦しめられて来ていた。だから、そんな人達を助け、少しでも減らす為に日々活動をしているのだ。


 これだけ聞くと、そこ等辺にある研究施設と何ら変わり無い様に思われるかもしれない。それどころか、科学結社は基本的に表には出てはならない組織だからそこ等辺にある研究施設自由が少ないので、必要無いのでは、と考える人もいるだろう。


 しかし、この世界は表よりも裏の方が広かったりする。私は裏の世界である科学結社で13年間も過ごして来たから、表の世界の広さがどの程度の物なのかはよく分からないけど、裏の世界の方が動き易いと思えてしまう。


 他には、表には出てならないが故に、表の世界からの重圧を受ける事がほとんど無い、と言う利点もある。よくテレビでは『~研究所のミスで~が起きて、その責任を~研究所に取らせる』みたいな恐ろしい事も放送されていたから、そう考えると科学結社で良かった、と思うのだった。


 だけど、そんな幾つかの利点もありながらも、科学結社は科学結社ならではの欠点もあった。それは『科学結社同士の対立』だった。


 この表裏全体の世界の科学技術を管理している科学結社の内、日本では『Time Technology』と言う時間を研究する科学結社と『Space Technology』と言う空間を研究する科学結社が大きな権力を握っている。


 大抵はその2つの科学結社が勢力争いやら人員確保やらで勝つみたいだけど、日本各地に存在する科学結社はそれぞれがそれぞれに敵対意識を持っている。


 私が所属している、比較的大人し目の科学結社の『Nuclear Technology』もそれの例外ではなく、時々小規模の戦争みたいな事をした事もあった。争う必要なんて無いはずなのに、それぞれがそれぞれの信念を持って、それを汚されたくないから打ち負かそうとする。酷い話だ。


 とまあ、裏の世界でひっそりと活躍している科学結社と言う組織はこんな感じだ。とは言っても、私自身は組織の中でせっせと研究をしているだけの存在だから、小規模の戦争に参加したりする事は無かった。


 1日1日が楽しくて皆の為に尽くす事が出来ている、と言う満足感の中生きていた私。ある日、今日の分の仕事が終わった時に、そんな私をリーダーが個人的に呼び付けた。


「・・・・・えっと、それで・・・・・用、と言うのは・・・・・?」

「いやいや、そんなに固くならんで良い。今日は君にとって、良い知らせだと思うからな」

「はぁ」


 リーダーは外見は勿論、その心までとても優しい人だ。でも、怒る時は怒る(ちなみにそうなればかなり怖い)。今みたいに、満面の笑みで話し掛けて来る時は大抵は本人の気分が良い時だ。だから、おそらく今リーダーが言った通り、私にとって良い知らせなのだろう。


 すると、私とリーダーがいた部屋に、私の世話係2人と組織の幹部数名が入って来た。どうやら、小規模の会議か開かれるのかもしれない。そんな風に考えていると、リーダーが再び話し掛けて来た。


「君を、A班の班長にしたいと思う」

「・・・・・はい?」


 『Nuclear Technology』では研究内容が曖昧な為、更に細かい分野を研究しやすくするためにアルファベットで幾つかの班に分けて活動をしている。それで、今リーダーが言ったA班は主に『原子力爆弾』について研究する班だった。ちなみに、私はこれまでA班の下っ端・・・・・よりは少し良い立場だった。


「え・・・・・えええええ!?」

「君はこれから先もこの組織で働いてくれると誓ってくれた。それに、君の成績は郡を抜いて優秀だ。だから、君がそれ相応の年齢になった時には、この組織を引っ張って行って貰いたいと考えている。その為に、今の内に班長になって勉強しておいた方が良い」

「え、えーっと、それはつまり・・・・・」

「君を科学結社『Nuclear Technology』の次期リーダーに任命する、と言う事だ」


 リーダーのその台詞の後、リーダーと同室にいた他の大人達は私に拍手で名誉を称えて来ていた。一方の私と言えば、今自分が置かれている状況が本当に現実なのか、はたまたただの夢なのかの区別が付かなくなって混乱していた。


 その時、私の世話係りである女性が笑顔で私に話し掛けて来た事により、私の意識は現実へと戻って来た。この女性は捨てられていた私を発見してくれた人物であり、育ててくれた人物だ。つまり、私にとってはお母さん同然の人物な訳だ。


「良かったわね。貴女の頑張りが認められたのよ」

「で、でも、私なんかよりも、適正な人なら他にも・・・」

「これはね、リーダーと幹部の皆さん、それに私達世話係り全員で話し合って決めた事なの。貴女の才能と知識を高く評価したが故の結果なのよ」


 私は素直に、心の底からとても嬉しかった。本来ならば13年前のあの日に赤ん坊だった私は凍え死んでいたはずだったのに、今はこんなにも多くの人達に評価されている。しかも、次期リーダーに任命までされてしまった。私は嬉しさのあまり、自分の目から流れ出る涙を抑える事が出来なくなっていた。


「そこで、なんだがね」

「・・・・・グスッ・・・・・はい゛」


 自分の顔が涙で真っ赤になっている事に気が付いた私はそれを隠しながら、垂れそうになっていた鼻水を啜りつつ、リーダーからの話に応じた。


「早速、明日からA班で活動して貰いたい。あと、ここからは少し遠いが、原子市と言う街に君専用のラボを手配させたから、自由に使って貰って構わない」

「ありがとうございます!リーダー!」


 そして、私の人生は更なるステップへと進んだ。


 この話し合いの次の日から私はA班の班長として、何度も何度も失敗しながら上に立つ者の心得を学んでいった。自分1人が頑張るのではなく、班全員で、組織全員で頑張る。より良い研究成果を出す為に。


 私達A班は日本の歴史を習う上では絶対に登場するであろう原子爆弾について研究していた。原子爆弾が使用されないようにはどうすれば良いのか、もし使用された時の為に何をどうしておけば良いのか等を研究した。


 私達『Nuclear Technology』はあくまで原子力の被害を減らす為にどうすれば良いのかを研究する組織だ。だから、勿論実物の原子爆弾は作ってはいない。でも、原寸大の模型を研究に使用する為に作製した事はあった。


 下っ端だった頃よりも日々の疲れが溜まる中、私の唯一の楽しみは休日に、リーダーが用意してくれた原子市と言う街にある研究施設に行く事。組織の拠点とは結構離れているので、リーダーや世話係りの人達もほとんど見に来ない。だから、私は『Nuclear Technology』の一員としての禁忌を犯してしまった。


 『原子力爆弾を作ってしまった』のだ。ただし、実際の戦争で使用される、爆弾と核を使用するタイプの物とは少し異なり、私の研究施設の制御室にあるモニターでパスワードを入力する事で大爆発するタイプの物だ。


 学校に行っていなかった為に友達もおらず、特に遊びらしい遊びを知らなかった私は、毎週の休日毎少しずつそれを作製して行き、遂に3ヵ月後に完成させてしまったのだ。


 知識は余分なくらいあった、材料は組織の物を幾つか拝借すれば足りた、安全対策は万全だった。それに、私の心の中では『誰にも言わなければ、使わなければ大丈夫』と言う考えがあった。


 班長に任命された事、次期リーダーに任命された事によって浮かれており、休日は暇を持て余していた私は1個だけでは飽き足らず、2つ目も製作してしまった。だけど、2つ目は作製方法に慣れたのか、1個目の時よりも随分早く完成した。


 年齢不相応の事を成し遂げてしまった私だったけど、その事は誰にも言わなかった。言ったら、多分怒られるに決まっている。女子中学生(学校には行ってないけど)の好奇心で作っただけだから、と言っても通用する事と通用しない事があるだろうし。


 そして、そんな私に不幸は突然訪れた。


 リーダーが言うにはどうやら、私の研究施設に不備があったらしく、修理の為に業者が来るみたいなのだ。しかも、制御室に。私はそれを聞いた瞬間、不味いと思った。


 もしこれをきっかけにリーダーに原子力爆弾の事が知られてしまうと私の立場が危うくなる。その時の私は自分勝手ながらも、そんな事を考えてしまった。


 だから、移動させた。毎週1個ずつ、誰にも知られない様に皆が寝静まった深夜にこっそり組織の拠点に持ち運ぼうと考えたのだ。私の研究施設に置いたままでは業者に見付かる可能性があるし、外に放置すれば大問題に成り得る。だからこそのこの考えだった。


 私はその週の日曜日の深夜にこっそり1個目の方を組織の拠点へと運んだ。実際の戦争で使われるタイプの物よりは随分と大きさが小さいけど、中身が詰まっているからか、結構重かった。でも、無事に爆発する事無く、誰に気付かれる事無く、日が昇る前に組織の拠点の自分の部屋へと持ち帰る事に成功した。


 運びこんだ週はずっとびくびくしていた。今になって思えば、組織でもリーダーと世話係りの人達は私の部屋の合鍵を持っている。一応、爆弾自体は押入れに隠しておいたけど、見付からない可能性も0では無いのだ。とは言っても、他に隠す当ても無し。私に出来るのは、皆の前では気付かれない様に振る舞い、気になったとしても何度も確認しないと言う事くらいだった。


 緊張のせいか随分と長く感じられた1週間が終わり、次の日曜日。今週の月曜日に業者が来ると言う話なので、今日の内に持って帰らなければならない。私は物をバッグに詰めて、落とさない様にゆっくりと、しかし急いで組織の拠点へと戻った。


 しかし、私が帰って来たそこには拠点は無かった。そこにはただただ燃え盛る大きな建造物だった物と、そこから逃げ出した組織の人達。そして、大勢の死体があった。建造物だった物は随分前に倒壊したのか、建物のほとんどが崩れ落ちていた。


 私はその悲惨な光景を見て、すぐに悟った。『私のせいだ』と。実際の所、組織の拠点が全焼し、組織の人間が10数人死亡したこの事件の原因は、私が好奇心で作って自分勝手に拠点へと持ち込んだあの原子爆弾のせいだった。操作していないにも関わらず勝手に爆発したのは、おそらく時の運だったのだろう。


 数日後、私はリーダーに呼ばれた。リーダーは仲間を大勢失った事、拠点の1つを失った事、そして私がしてしまった過ちに対して、酷く悲しんでいた。それはリーダーの様子を見ればすぐに分かった。


「・・・・私では、もう君を庇い切れない・・・・・これだけ大きな被害が出てしまった以上、表社会への情報操作をする事は可能でも、裏社会では君は責任を取らなければならない・・・・・」

「はい・・・・・」


 私は自分が何をしてしまったのかを理解していた。だから、リーダーからどの様に責任を取らされても仕方が無い事だと思っていた。いや、責任を取ってどうこうなる問題をとっくに超えてしまっているので、私は死刑でも構わないと考えていた。


「あの事件について科学結社で会議を行った時に言われたよ。『事件の主犯を処分しろ』と」

「・・・・・・・」

「だが・・・・・私には出来ない。私は君が赤ん坊の頃から知っている。君がこの組織の為にどれだけ努力したかも知っている。だから、私には君を殺せない・・・・・」


 その時、リーダーは初めて人前で涙を流した。いつもはどんな悲しい事があっても絶対に泣かなかったあのリーダーが、私みたいな罪人の為に苦しんでいた。私はそんなリーダーの事が見ていられなかった。


「だったら、私が自らの手で死にます・・・・・それで、リーダーの肩に乗っていた私の犯した罪が少しでも軽くなるのなら、私の人生はそれで満足です・・・・・今まで、ありがとうございました」


 そう言って、私はリーダーの前から姿を消そうとした。だけど、リーダーはそれを許さなかった。


「私は、君には生きていて貰いたい。たとえ大きな罪を犯したとしても、君には生きていて貰いたいんだ」

「でも、私が消えなければ、リーダーが他の科学結社の方々から良くは見られないでしょう?それに、私にはもう、この組織での居場所はありませんよ」


 当然だ。組織の禁忌を破った上に10数人もの仲間の命を奪ったのだから。しかし、リーダーは違った。リーダーは私の予想の範囲を遥かに超えた事柄を話して来た。


「『君のこれまでの記憶を消し、こことは別の所に住んで新たな人生を歩んで貰う。そうする事で、他の科学結社の奴等を無理矢理にでも納得させてみせる。君はもう安全だから、殺す必要は無い、と。これで君は死ぬ事無く、これからも行き続ける事が出来る』」


 そして、私の、飴山有藍の第2の人生は始まった。

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