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Time:Eater  作者: タングステン
第六話 『U』
145/223

第03部

【2023年09月26日17時20分03秒】


 何事も平凡・普通・平均を理想とする平凡主義者であるこの俺上垣外次元(かみがいとじげん)と、2週間前にグラヴィティ公園内で偶然出遭った天然居候白衣少女である照沼湖晴(てるぬまこはる)は、つい先程、俺にとっては5回目の過去改変を終えて12年前の『過去』からこの『現在(マイナス)数分』に戻って来た。


 過去改変の内容は須貝輝瑠(すがいてるる)と言う、表向きは完璧人気アイドルの少女と、以前俺と湖晴が過去改変をした豊岡阿燕(とよおかあえん)と言うソフトボール部の少女は実は姉妹で、その2人の誤解を解く事により、和解させる為の物だった。


 元々は過去改変をしなくても済みそうな今回の件だったが、その2人が負傷し、過去改変をしなければ場合によっては命を落とすと判断した俺と湖晴は止むを得ず、2人が死亡する前に12年前の『過去』を時空転移をした。


 12年前の『過去』では、過去改変前の2人の人生を悪い方向へ大きく変えた4人の空き巣をした犯行グループの男達がいた。俺と湖晴がすべきなのは、その4人を完封し、本来2人の命を狙っていた奴等の居場所を聞き出す事。


 後は、その4人を俺達が警察等にその姿を見られない様に引き渡すだけ。途中、俺は横腹を撃たれて負傷したものの、それに怒った湖晴が暴走し、何とか当初の予定通りに事を進める事が出来た。


 俺の横腹の怪我の治療も済み『現在』へ戻る直前、何処かで見覚えのある少女が事件現場に雨に打たれながら立っている事や、俺の脳内に響いた謎の声等もあったが、無事に俺と湖晴は過去改変を終え『現在』よりも少し前の『現在-数分』に戻って来た。


 理由は分からないが、突如俺の脳内に響いたあの謎の声に従って、念の為にこの様に『現在』よりも少し前へと戻って来た訳だ。ここにいる俺が、時空転移する前の俺と出会う事でタイムパラドックス的な何かが発生しそうなものだが、そこは、なるべく人通りの無い場所で数分間を過ごせば問題無いはずだ。


 だから、俺と湖晴はそのつもりで『現在-数分』へと戻って来たのだが・・・・・そこは俺の知る平和で平凡な世界ではなかった。


 俺と湖晴はグラヴィティ公園近くの丘の上から原子市全体を見回していた。しかし、そこから見えるのは荒廃し崩れ落ちている物まである建物の数々、荒れ果てた道路、火事の煙と真っ赤な炎。人の姿は見えず、車も走っている様子は無い。いつもは上空に飛んでいる飛行船を探すも、今は灰色の雲に覆われた空のみが永遠と続くばかりで見当たらなかった。


 何があったらこんな事になるのか。俺と湖晴が過去改変をしている間に、いや、正確にはここは過去改変をする為に時空転移をする数分前の世界だから、俺と湖晴が過去改変をする前に何があったと言うのか。


 勿論、俺と湖晴が時空転移をする直前はこんな光景にはなっていなかったし、そもそも、俺を含めた大勢の人が街には存在していた。車も通っていたし、飛行船もあった。それなのに、これは一体どう言う事なんだ。


 目の前の光景に驚きを隠せない俺と湖晴。そんな時、何かを感じ取ったのか、湖晴が首から紐で提げている時空転移装置であるタイム・イーターを両手で持ち上げてその表面に表示されている画面を見た。そして、言った。


「次元さん・・・・・私にとっては29人目の、次元さんにとっては6人目の過去改変対象者です」


 その台詞を言った湖晴の顔は、ここから見える光景を見た時よりも遥かに驚きを隠せない様子である事がよく分かる程、これ以上無いくらいに驚いている顔だった。


 俺自身の感覚的にはつい10数分前に過去改変が完了したばかりなのに、もう次の過去改変対象者が発表されるのか。俺は、これまでには無かった今回の事象に対して疑問を抱きながら、その事について湖晴に詳しい説明を求めた。


「それはつまり・・・・・『現在-数分』のこの世界をこんな風にしたのがその過去改変対象者、って事なの・・・・・か?」

「この2つの事から簡単に考えると、おそらくそうでしょう。ですが、この過去改変対象者の方が何か事件を引き起こし、それによってこの様な事になったのかもしれませんので、まだ断定は出来ません。」


 そう言いながら、湖晴は右手でタイム・イーターを支えつつ、左手で街を示した。


 確かに、俺の今の台詞よりも湖晴の台詞の方が説得力があるし、確率も高いのだと言う事は分かる。しかし、本当にそうなのか?これまでの過去改変では、1人の対象者でこんなにも被害が出る事は無かったからだ。


 音穏の時は街中の研究所が1つを残して爆発、阿燕の時は例の犯人3人が死亡、栄長の時は街の一部が大損壊、珠洲の時は何の罪も無い通行人3人が死亡、須貝の時は学校等一部施設設備が大損壊。


 どれも過去改変前には何らかの被害が出ているが、それはあくまで『一部』の話だ。今回の様に、街全体がそれはまるで『滅んでいる』とも言える状態になった事は一度も無い。


 音穏の時や阿燕の時の様に表向きは大した事が無い事件でも、裏では科学結社や暗部の陰謀が絡んで来る事も多少あった。だが、それは湖晴の推測の範囲内だけの話であり、実際には過去改変が成功している為、起こってはいない事だ。


 ・・・・・ん?『過去改変が成功』?


 よく考えてみれば、これまでの珠洲までの4回の過去改変の後は必ず俺達は過去改変が成功している事を顕著に示す『現在』を確認して来た。だが、今回はどうだ?須貝の過去改変が成功したかどうかを、俺達はまだ確認していない。即ち、須貝の過去改変はまだ成功しているとは限らないのだ。


 ここまでの考えに至った俺は静かに、恐る恐る湖晴に尋ねた。


「湖晴・・・・・もしかして、今さっき俺達がした過去改変は失敗したのか・・・・・?」


 目の前に広がっている明らかに何らかの大きな異変が起きた世界、須貝の過去改変終了の確認が出来ていない俺達。この2つの事から導き出される答えは『過去改変の失敗』だ。俺達が過去でした行動の内で何かが不足しており、何かをしてしまったからこんな事になったのだ。


 俺達は12年前の『過去』で4人の犯行グループの男達を完封し(主に湖晴の暴走のお陰で)、ロリ阿燕とロリ須貝の安全を確認した。そして、適当にその4人から聞き出した『本来阿燕と須貝の命を狙っていた奴等』の拠点を示す地図や補足説明を記入した紙をその近くに置いておいた。


 豊岡家宅に突入した警察は4人を逮捕し、その紙に気付くはず。そして、それによって『本来阿燕と須貝の命を狙っていた奴等』は捕まりはしなくても、それ以降2人には手出しは出来なくなる。そう言う計画だった。


 当初はこれ以上の事は無いと思っていた計画だったが、今になって考えてみればこれ程穴のある作戦は無い。どれか1つでも欠けていると作戦が上手く行かなくなる作戦など、無いも同然だ。


 しかし、これまでだってそうだったではないだろうか。音穏の時も阿燕の時も栄長の時も珠洲の時も。どれも、その1つでも理解されず、欠けてしまえば上手く行かなかった作戦だったではないだろうか。


 そんな不安定で不確実で不確定な作戦だったからこその、今までの過去改変成功だったのかもしれない。だが、今は違う。俺と湖晴は失敗した。何かが間違っていたから、こんな結末になったのだ。これでもし皆が死んだら、全て俺の責任だ。


 一言湖晴に聞いた後暫くマイナスな思考を続けて、仕舞いには膝を付いて絶望し始めた俺に、湖晴は慰める様に話し掛けて来た。


「まだ過去改変が失敗したとは限りません。それに、以前『過去改変とは本来こう言う物』だと言う事を次元さんは私から聞いたと言っていたではありませんか」

「確かに、その事は温水プールに行ったあの日に聞いたが、こんな事って・・・・・ありなのかよ・・・・・」

「次元さんの言う通り、過去改変後にここまで被害が広がってしまった事は私も初めてです。ですが、まだ何が原因かが分かっていない以上、次元さんが自分を責める必要は無いんです」


 湖晴はそう言って、俺の頭を優しく胸に抱き締めた。そして、湖晴からの優しさに触れた俺は自分を責めるのを止めた。今回の件は俺のとっては予想外過ぎる出来事であり、過去改変が失敗したかもしれないと言う推測を確定付ける物なのかもしれない。


 だが、湖晴はこれまでに23回もこんな経験をして来たんだ。あの日、俺と偶然出会うその時までずっと湖晴はたった1人で23回も過去改変をして、成功したと思えば別の所でもっと残酷な事が起きて来たのだ。


 湖晴は今まで、そんな辛い経験を俺の23倍もして来たと考えると、今の俺なんかまだまだ全然マシ方じゃないか。誰も攻める事無く、誰のせいでもない。ただ単純に、そう言う運命だったから、と考えてしまえば済む話じゃないか。


 俺はもう自分の事を責めたりはしない。しかし、今回の件に関しては多少俺や湖晴の12年前の『過去』での行動が関わっているはずだ。だから、俺達は過去改変を続ける義務がある。俺にとっては6人目の、湖晴にとっては29人目の過去改変対象者の人生を救う為にも、この世界を救う為にも。


 湖晴に抱き締められていた俺はゆっくりその状態を解除し、湖晴の前に立った。


「ごめんな湖晴。ここで落ち込んでいても仕方が無いもんな」

「いえ。私は、次元さんにご自分を責めて欲しくなかったからしただけです」


 そう言って、湖晴は優しく俺に微笑んだ。


「じゃあ、1つずつ問題を解決して行くとしよう」

「そうですね。するべき事は多いですが、まずは何から片付けましょうか」

「まずは・・・・・過去改変対象者の事を教えてくれ」


 マイナスな思考を止め、前向きに、ただただ今目の前にある問題を解決する為だけに、俺と湖晴は意識を集中した。多過ぎる問題を解決するには、まずは相手を知らなければならない。今回の場合は、過去改変対象者について知っておく必要があるのだ。


 それが例え俺の知っている人物だとしても、知らない人物だとしても、その人物の事が分からなければ悩みや苦労を理解出来ず、過去改変のしようがない。だから、俺はそれを湖晴に尋ねた。


「分かりました。おそらく、次元さんの知らない方だと思われますので、気楽にしていて下さい」

「ん?あ、ああ」


 気楽も何も結局の所、過去改変はするのだからあまり変わらない様な気がするのだが。いや、俺の知り合いが余計な事に巻き込まれていないのなら、それはそれで安心出来るがな。


 しかし、湖晴の台詞に安心し切っていた俺は次の湖晴の台詞に驚きを隠す事が出来なくなってしまった。今回の過去改変対象者が、最近俺と知り合った音穏の後輩だったからだ。


「今回の過去改変対象者は、飴山有藍(あめやまうらん)さんです」

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