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Time:Eater  作者: タングステン
第五・五話 いつかあったかもしれないシリーズ一
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入院生活

【2022年09月21日12時16分20秒】


~蒲生黒矛視点~


 部屋は一面真っ白で、外部の音はほとんど聞こえない。部屋の中にあるのは良く分からない精密そうな医療機器が多くと、綺麗で真っ白なベッドォ。何と言うか、あまり経験した事がない光景なのでこれはこれでありだが、やはり落ち着かないなァ。


 オレはそもそも怪我なんてし難い方だし、したとしてもこんな風に入院する程の大怪我を負わされた事はこれまで1度も無いからなァ。


 そう。今は、このオレ蒲生黒矛が所属している『Magnetic Technology』と、燐が所属している『Space Technology』のいざこざから数週間が経ったとある日だァ。


 オレはあの時に、問題が解決したにも関わらず何故か燐から不意打ちを食らい、全治2ヶ月の大怪我を負い、今はこうしてオレの家の近くの大型病院で入院していると言う訳だァ。


 ったく、上垣外とか言う奴と何とかって言う予知能力者のお陰で無事全てが丸く収まったってぇのに、何で土嚢を何10個もぶつけられねぇとならねぇんだァ。訳分からねぇよォ。お陰様でオレは組織の上司でもある両親から『反省しろ』と言う一言と共にこの入院生活(2ヶ月)+半年間も謹慎生活を強いられちまったんだァ。


 これじゃあ色々と問題有りだろォ。学校はほとんど行ってないからそれは別にどうでも良いとして、せめて病室にノーパソ(ノートパソコンの事)は運ばせてくれよォ。1日中、暇で暇で仕方ねぇだろォ。これじゃあ怪我の痛みじゃなくて、暇に殺されそうだァ。


『でしたらご主人サマ!ワタシと何かお喋りでもしましょう!』

「・・・・・・・」


 何年か前にオレが作った人工知能を内臓したスマートフォンが電源ボタンを押していないにも関わらず勝手に起動し、そこから同世代か少し下くらいの機械的な女の声が聞こえて来たァ。


 こいつはマグネと言って、一応オレの言う通りに動く人工知能だァ。何度か改良を重ねた結果、現在は4-6-24型(数字は3つのプログラム変化の回数)となり周囲の磁力をほぼ自由自在にコントロール出来たり、妨害電波を出したりする事が出来る様にもなっている。まぁ、日常生活ではほぼ使わないが、科学結社に入っているとそれなりに重宝する時もあるなァ。


 オレはベッドに寝そべりながら体を傾け、その枕もとの机の上に置いてあったその端末を見たァ。画面には普段のラフな格好ではなく、ナース服姿のマグネが表示されていたァ。


「何してんだァ?オマエ」

『エ!?い、いや、折角ご主人サマが入院中ですから、ナース服を見ればご主人サマも少しは元気が出るかト・・・・・』


 マグネは主人であるオレの事を気遣ってそうしたのだろうが、オレにとってはそれは逆効果でしかなかったァ。オレは何も、好き好んでここにいる訳ではないし、それ以前に言う程ナースは好きではない。嫌いでもないがァ。


「元気の欠片も出ないなァ。と言うか、オレは自分が作った人工機能に欲情したりしない」

『で、でも、ご主人サマは深夜アニメとか女の子が大勢出て来るゲームとか好きでしたよネ!?』

「それとオマエは別だァ」


 コイツはそもそも、オレの科学結社での仕事量を少しでも軽くする為に、楽にする為に作っただけで、今端末の画面に表示されているみたいに外見も音声も必要無かった訳だがァ、ただ何と無くそれだけでは愛着が沸かないから付けてみたんだァ。しかし、その結果がこの様だァ。


 オレに対していらない気を遣い、オレの個人情報を勝手に漁りやがる。色んな意味で迷惑だァ。次のメンテナンスの時に少しそこ等辺を改造してやるかァ。


『あ。そう言えば、この間ワタシ、これまでにご主人サマのしたゲームの統計を取ってみたのですガ・・・』

「オマエは仕事もせずに何してるんだよォ。ったく」


 働けェ。人工知能。


『赤い髪の子やポニーテールの子が多かったのは、ワタシの気のせいでしょうカ?』

「・・・・・・・」


 マグネのその台詞を聞いた瞬間、オレはその場で硬直したァ。マグネがオレの事を気遣ってナース姿になっている事とか、仕事をサボっている事とか、勝手にオレがした事のあるゲームの統計を取ってある事など、全然気にならない程の事実が、オレの耳に届いて来たからだァ。


 オレは数秒間静止した後、全身に大怪我を負っているにも関わらず、勢いよく机の引き出しからドライバーや予備メモリーチップを取り出し、それを持ったまま今だにオレの方に画面を向けているマグネをベッドの上に叩き付けたァ。


『ま、待って下さい!ご主人サマ!そんな、こんな所で・・・・・///!』

「うるせェ!余計な事を詮索するなら、ここで改造してやる!」

『キャー///』


 オレが端末のデータを書き換える為にそのメモリーチップを取り出そうとすると、マグネは途端に態度を変えて焦り始めたァ。いくら焦ろうが抵抗しようが、もう遅い。オレは今入院生活の真っ最中だが、ここでこいつを徹底的に改造してやる。そうすれば、オレの個人情報を勝手に漁ったりも出来なくなるだろォ。


 ・・・・・と、その時、オレがいる病室のドアが勢い良く開け放たれ、オレの平和には程遠い入院生活は更に遠退いてしまったァ。


「おっはよー!クロー!起きてるー?起きてないなら、起きろー!」


 オレをこんな入院生活に陥らせた軽く殺人未遂の犯人であり、幼馴染でもある赤毛で長髪ポニーテール少女の、燐が来たらしい。燐は確かマグネとあまり仲が良くなかったはずだし、マグネにあんなありもしない、いや、あるはずもない事を言われた後では燐と顔を合わせ辛い。


 オレはベッドの上に出してあったドライバー等を急いで仕舞い、布団を被って寝たふりをしたァ。


 燐の足音が聞こえて来る。最近、と言うかオレが入院し始めてから毎日、燐はこの病室に来る。オレに大怪我をさせてしまった事を悪く思っている様には全く見えないので、その本当の目的はさっぱり分からない。


「あれー?クロ寝てたのー?」


 ふ。どうやら燐はオレが本当は寝たふりをしている事に気付いていないらしい。このままやり過ごして、燐が帰るのを待とう。


 いくら幼馴染みと言えど、毎日顔を合わせる必要は無いし、1人でいる方が気楽だからなァ。たまには1日中ゆっくりと寝る日も欲しいと思っていた所だァ。


「もうお昼ご飯の時間なのにね~」


 時刻は12時20分頃ォ。確かに昼飯の時間には丁度良いくらいだが、病院にほぼ寝たきりな怪我人なら寝ていても別におかしくないだろォ。


「折角一緒に食べようと思って作って来たのに・・・・・」


 今にも泣き出しそうな燐のそんな台詞が聞こえて来たァ。何だァ?何か、オレが悪いみたいになってるじゃねぇかァ。オレ、怪我人のはずなんだがなァ。


 それに、燐って料理出来たのかァ。知らなかったなァ。今までそんな機会も、会話も無かったからなァ。・・・・・燐の、手料理・・・・・、


 オレは起きる予定は無かったが、オレのせいで燐に泣かれるのも不本意なのでわざとらしく『丁度今起きた』ふりをして、横になって布団に包まっていた体をゆっくりとベッドから起こした。


「あー、良く寝た・・・・・ん?何だ、燐。来てたのかァ」

「寝たふり乙」

「気付いてたのかァ!?」

「ふっふっふ。私がクロの事で分からない事なんて無いのだよ」

「チッ。はめられたのはオレの方だったのか」


 そうだったァ。結局の所、燐はこう言う奴なんだァ。何処からどうみても真剣に本心で話している様な台詞でも、実はそれは本人の演技であり作戦。それを簡単にこなしてしまうのが、この栄長燐と言う少女なんだァ。


 オレは自らの迂闊な行動を少し悔いた後、オレがいるベッドの隣にあった椅子に腰掛けていた燐の姿を見て、ある事に気が付いたァ。それは、つい数分前にも見た様な気がする、そんな気もしたがァ。


「・・・・・って、オマエまで何でそんな格好をしてるんだ」

「?入院生活で男性患者が嬉しいのは、やっぱりナースでしょ?」

「いや、そんな事はねェよ」


 燐はマグネと同じ様に何の変哲も無い、しかし体のラインがくっきり表れているナース姿をしていたァ。何で燐までナース服なんだよォ。マグネと同じ思考回路なのかァ?


「とか良いながら、さっきから私の胸ばっかり見てるし」

「見てねェ。オレは貧乳には興味ねェ」

「いやいやいや、もし私で貧乳だったら、世の中の女の子は大抵そうなるんだけど?」


 確かに、本心を言うと燐はスタイルで言えばかなり良い方だろォ。いや、9段階に分けると上の上に行くかもしれない。だがしかし、それを自分で言うのは駄目だァ。自覚するのは大事だが、それを口に出した瞬間に印象は悪くなる・・・・・って、オレは何を考えているんだァ?


 オレは自分の謎思考に少しばかりの疑問を持ちつつ、会話が卑猥な方向に向かいそうだったのでそれを回避する為に、話題を変える事にしたァ。


「で、今日は何の様だよォ」

「さっきの私の台詞聞こえてたでしょ?」

「さぁなァ。オレ、つい数分前まで寝てたから分かんねぇなァ」

「まだ演技を続けるの?・・・・・はぁ。1人で入院生活も寂しいだろうから、この可愛い幼馴染みが一緒にお昼ご飯を食べようと思って来てあげたのに」

「ん?何処にそんな幼馴染みがァ?」


 だから、自覚するのは良いが、それを口に出すなってェ。


 オレは少しそんな燐の事を弄る為に、燐のその台詞を聞くとすぐに遠くを眺めて探すかの様に、病室内を見回したァ。


「クロ。私がいないと生きていけないくらいの、2度と治らないくらいの大怪我を負いたいの?」

「いや、遠慮しとく」


 燐がオレに大怪我をさせた装置であるテレポーターとか言う金属の棒を、持って来ていたバッグの中から取り出したのを見たオレは、平静を保ちつつも内心は焦りながら燐の台詞を断ったァ。


「どうせ、クロのお父さんもお母さんも、お見舞いにはほとんど来れてないんでしょ?」

「まぁな。あの人達は仕事で忙しいみてぇだしなァ」

「クロってば友達もほとんどいない、と言うかいないんだから。お見舞いに来るのは私だけでしょ?」

「他に誰が来るんだよォ」


 オレは一応高校2年生だが、学校にはほとんど行っていない。と言うか、今になって思えば、中学生の頃からほとんど行っていない様な気がするなァ。別にオレが不良少年と言う訳ではない。幼い頃からずっと両親が運営している組織の手伝いをしていたら、何時の間にかこんな事になっていたって訳だァ。


 その結果が、これまでに出来た友達0だァ。同い年くらいで知り合いなのは、燐だけだと言っても過言ではないだろォ。


「そう言えば、オマエは別に怪我してねェんだから、学校行けよォ。サボり魔ァ」

「私は私で今も任務執行中だけどね」

「何の?」

「それは相手がクロでも言えないね」


 夏休みもとっくに終わり、まだまだ暑いものの少しずつ寒くなって行っているのが分かる今日この頃。オレと違って、あの日燐は怪我1つしていない。だから、オレの所に見舞いに来ずに、学校に行けば良いのに何を考えて毎日毎日サボってるんだァ?


 いや、燐の事だから何か理由があるのは何と無く察しは付くが、それでも、学校に行けるなら行っておいた方が良いだろうになァ。


「まあ、そんなどうでも良いがなァ。あと、良い加減オレの事を『クロ』って呼ぶの止めろ。オレが燐のペットにしか思えねぇだろォ」

「えー、良いじゃん。それに今更過ぎるよー、それはー」


 オレと燐は幼稚園に入る前から続いている腐れ縁だァ。それで、何時からだったか、燐はオレの事を『クロ』と呼ぶ様になったァ。理由はよく知らないが、多分言い易いとかそんな程度の物だろォ。


「もう1つ言うと、一応オレの方が年上だからな?そこ等辺の敬意はァ・・・」

「幼馴染みに礼儀はあっても敬意は無いでしょ。それに、私からも言わせて貰うと、その妙な語尾を止めて欲しい。昔はそんな事無かったのに」

「・・・・・これは、何と言うかァ。直らねぇんだよなァ」


 オレも昔はこんな風に語尾を曖昧にしてだるそうに話したりはしていなかったァ。だが、あの一件を改善した途端にこんな感じになってしまったって訳だァ。


「あー、あれね。中学2年生の時のあの一件」

「止めろ!それ以上言うんじゃねェ!」

「謎のロゴマーク付きの真っ黒なマントを羽織って指出し手袋を付けて、会う度に『フフフ。今宵もオレ様の邪悪なるパワーに引き寄せられてしまったのか、小娘よ。仕方無い。少しばかり楽しませてやろう!いでよ!我が召還獣よ!デデン☆』とか言ってたじゃない」

「・・・・・・・」


 オレの忘れ去りたいあの黒歴史を勝手に掘り下げた燐はたいそう楽しそうだったァ。対するオレは、それによって心が砕け散りそうになっていたァ。


 『クロ』だから『クロ歴史』ってかァ。ハハッ。笑えねェ。あー、今程死にたいと思った時はないぜェ・・・・・。


「何泣いてるのよ。あれが『一定期間男に表れる事のある現象』なのだと言う事は分かるけど、今更それを思い出したくらいで別にそんなに泣く程でもないでしょ」

「・・・・・言う側と言われる側では、そのダメージ量が違うんだよォ」


 オレは何時の間にかオレの目から流れ出ていた涙を拭い、燐が来た瞬間と同じ様に、もう1度布団を直したァ。もう嫌だァ。オレの黒歴史を掘り下げるくれぇなら、オレは燐の手作りの昼飯なんていらん。寝る。


 オレが寝たふりをした数秒後、布団を被ったオレの体に何か柔らかい物が触れた気がしたァ。それに、何故か布団以外の何かもオレの体の上に乗っかっている様な気もしたァ。オレはそれが何なのかが気になり、布団を少しだけ空けてその物体の方向を見たァ。


 しかし、それはオレの想像している物ではなかったァ。


「燐・・・・・?何してるんだァ?」


 オレを起こそうとしてなのか、それ以外の理由なのかは知らないが、燐はベッドで寝そべるオレの体の上に上半身を乗せていたんだァ。やけに胸を押し当てられていた様な気もしたが、燐に限ってそれは無いと思うので盗り合えずスルー。


 だが、問題はそれではなかったァ。燐がオレの上に乗ったすぐ後にオレが起きたから、オレと燐の顔は互いに互いの吐息が掛かるくらい近く、2人共、偶発的に起きたこの光景に驚いていた。


「あの・・・・・燐?」

「へ!?え、いや、何!?」

「いや『何!?』はこっちの台詞なんだがァ」

「わ、私はクロに起きて貰おうと思って・・・」


 オレが起きたにも関わらず今だにその豊満な胸を押し当てながらオレとの距離を保っている燐の顔は次第に赤く染まっていったァ。自分でした事のはずなのに、何でそんなに恥ずかしがるんだかなァ。


「あと、胸当たってる」

「うん。それはわざと」

「わざとかい!」


 オレは柄にもなく、燐にツッコミを入れたァ。と言うか、燐の奴、本当に何を考えているんだ?オレ何かに、それも怪我人に胸を押し当てた所で自分は何も得はしないだろうになァ。


「いや、ちょっと待て燐。まさかオマエ、オレ以外の奴にもそんな事してるのかァ?オレはまだ幼馴染みだから許される事かもしれないが、これは普通は特別な奴にしかしない事だろォ?」

「してないよ。クロだけ」

「そうかァ。なら良かったァ。こんな事ばっかりしてると、その内襲われかねないからなァ。オマエはァ。心配だぜェ」

「だから、他の人にはこんな事しないって。こんな感じに、特別な人にしか」

「エ?」


 燐はサラッとそんな事を言ったァ。今現在自身がしているこの行動を『特別な人にしかしない』とォ。その台詞を聞いたオレは、それが聞き間違いなのか、はたまたオレの勘違いなのかを確かめる為に燐の方を向いたァ。オレが見た燐の顔は先程よりも更に真っ赤に染まっていたァ。


『だらっしゃーーーーー!!!!!』

「「!?」」


 その時、謎の気不味い雰囲気になっていた俺と燐に対して、マグネのそんな大声が聞こえて来たァ。


『オイそこの赤毛!それ以上ご主人サマに抱き付くと、病院中の精密機械を全部オマエの顔面にぶつけてやル!』

「あら、また会ったわね。今は私とクロが話してるの。邪魔しないで。あと、ここは病院だから、精密機械を弄るのは流石に止めておいた方が良いわよ」

『うるさいうるさいうるさイ!3次元だからって、良い気になりよっテ!今すぐこてんぱんにしてやル!精密機械が駄目なら・・・・・えーっと、えーっト・・・・・』

「あなたもあんまりうるさい様だったら、私のテレポーターで太平洋の深海に沈めてやるわ」

『ワー!そんな事したら、ワタシが壊れるだロ!少しは考えロ!』


 そんな訳で、結局この後2人(片方は機械)の喧嘩は数時間続いたァ。オレは2人のその会話から意識を外して、ついさっき燐に言われた台詞を思い出しながら、再び布団を被ったァ。

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