表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Time:Eater  作者: タングステン
第五話 『Te』
139/223

第34部

【2011年09月27日15時03分05秒】


 さて、それから俺達がどうなったのかについて説明するとしよう。


 とは言っても、俺から説明する事は大して存在しない。ただ単に、俺は犯行グループの男に拳銃で撃たれて幸いな事に軽傷で済んだものの、それに対して怒り狂った湖晴が暴走し、一応殺すまでは行かなかったが残った2人の犯行グループの男を気絶させただけだ。


 まあ、話がこれだけで終わってしまうのも物足りないので少し詳しく説明する事にする。


 突然現れた3人目の犯行グループの男に横腹を撃たれた俺はその痛みに耐えながら、そこに膝を付いて身動きが取れずにいた。俺のその傷口からは軽傷だったものの、今まで経験した事の無いくらいの量の血が溢れ出ていた。その光景に俺自身が気絶してしまいそうだった。


 そんな俺に向かって3人目の犯行グループの男は拳銃を向けて来た。湖晴自身も男に拳銃で牽制されている為身動きが取れないはずだった。俺はこんな所で死ぬのか。俺は自らの死を悟った。


 その時、あの爆発が起きた。その爆発は湖晴の足元のすぐ隣にあった床を半径1メートル程度の範囲に渡って陥没させ、部屋中をうっすらと白い煙の中に包み込んだ。


 後々分かった事だが、この爆発はどうやら湖晴が引き起こした物らしい。てっきりタイム・イーターを使用して引き起こした物なのだと思っていたのだが、実際には貰い物の爆薬を床に叩き付けただけなのだと言う。しかし、誰からなのかは知らないが、貰い物割には爆発の規模が大きかった気もする。


 その爆発の後暫くが経過して、俺と3人目の犯行グループの男は驚きを隠せないまま湖晴の方を見た。何が起きたのか。何がそこにいたのか。頭の中が驚きと恐怖に支配される感情さえ覚えた。


 そして、湖晴は俯けていた顔を男の方に向けて上げるとこう言った。


「よくも・・・・・次元さんを!!!!!」


 直後、湖晴は男に飛び掛かると我を失ってしまったのか、自身の白衣のポケットに忍ばせていたありとあらゆる薬品を使用した。一応殺人はしてはいけないと言う理性は残っていたのか、まず男の持っていた拳銃を爆破させ、身体的な力量は湖晴の方が圧倒的に劣っているはずなのに、それすらも感じさせないくらいに湖晴は簡単に男を完封した。


 最終的には男をバッドで殴り続け、完全に気絶するまでそれを止めなかった。その上、片手で気絶した男を掴むとそのまま壁に投げ付けた。


 普段の湖晴の行動とは思えない程のその光景に、俺は驚きのあまり絶句していた。そして、その光景を見守る事しか出来なかった。湖晴に声を掛ける事すら出来なかった。


 湖晴は3人目の犯行グループの男を投げ終わると、俺達がいた2階の何処かの部屋から階段を使わずにそれを飛び降り、1階へと降りた。俺もその後に続いた。


 そこではつい数10秒前と同様かそれ以上の光景が繰り広げられていた。


 湖晴は狂った様に4人目の犯行グループの男をバッドで殴り付けた。暫くすると、バッドが何度も人の頭や体を殴打していたからなのかへこんだらしく、近くにあった椅子で代わりに殴り付け始めた。


 しかし、湖晴はそれだけでは飽き足らず、いかにも危なそうな薬品とマッチを白衣のポケットから取り出すと、それに引火させようとした。俺は咄嗟にそれが引火性の高い何か、もしくは引火させては不味い物なのだと察知した。


 俺は先程撃たれた横腹の痛みを堪えつつ、湖晴の元に駆け寄り、後ろから湖晴を抱き締めて大声を掛けた。


「湖晴!もう止めろ!俺は大丈夫だから、ここにいるから!もうこんな事は止めてくれ!」

「じげん・・・さん・・・・・?」

「もう充分だろ!犯人達は全員充分過ぎるくらい気絶している!湖晴がこれ以上暴力をする必要は無いんだ!」

「あ・・・れ・・・?私は一体・・・・・?」


 ようやく俺の声が聞こえたのか、湖晴は正気に戻った。そして、力が抜けたのか手に持っていた薬品とマッチをそのまま床に落としてしまった。幸いな事に、それらはどれも爆発を起こしたりする事は無かったが、俺的にはその後が大きな問題だった。


 湖晴は我に返り、つい数秒前まで自身が行って来た数分間に渡る残酷な行為を思い出したのか、体を震わせて俺の方を向いて抱き付いて来た。俺は横腹の痛みも忘れ、そんな湖晴を優しく抱き締めた。


「・・・あ・・・ごめんなさい・・・・・次元さん・・・・・私・・・次元さんが撃たれたから・・・それで・・・・・」

「俺はこの通り大丈夫だ。怪我も大した事ない。だから、な?」

「でも・・・・・私・・・『また』こんな事を・・・・・」

「え?」


 『また』だって?湖晴が今回の様に暴走したのは、これが初めてのはずだ。湖晴の白衣にある大量の内ポケットに薬品が潜んでいるのは、これまでの過去改変の際に何らかの役に立ったからだ。実際、重犯罪者を相手にしている訳だから逆に命を狙われる可能性だってあるだろうからな。


 それにしても、俺と初めて出遭った時には感情の一部が欠落しているのではないかと思ってしまう程に感情の上下が少なかった湖晴がこんなに、しかも他人の為に怒るなんて事がこれまでにあったとは考え難い。


 即ち、これは湖晴の怒りの感情によって記憶が混在した結果、今までにも自身が今回と似た様な事をしたと思い込んだだけなのだと、俺は判断した。いわゆる、デジャブって奴だ。


「・・・・・湖晴っ!?」


 そんな時、過度な緊張から急に開放されたからなのか、湖晴は意識を失ってその場に倒れ込んでしまった。だが、数分間すると再び起き上がり、それまでの記憶の一部を失っていた。もう俺には何が何だか分からん。


 取り合えず、数分間の気絶によって調子を取り戻した湖晴と俺はロリ阿燕とロリ須貝を見付け出した。2人共犯行グループに既に見付かっており酷く怯えていたが、簡単に状況を説明し、俺達が2人の味方である事を伝えると泣き始めてしまった。


 それからはご想像の通り。2人は安全に保護され、4人の犯行グループの男達は逮捕された。そして、4人から聞き出した通りに警察は黒幕の行方を捜査した。


 これで今回の過去改変は終了だ。2人の両親に恨みを持っている奴等もこれで迂闊に手出しは出来なくなったはず。流れは、過去改変によって劇的に変わった。


「それでは、そろそろ戻りましょうか」

「そうだな」


 俺と湖晴は大勢に目撃されると後々ややこしい事になる可能性があるし、そもそも、俺達も犯行グループの仲間だと思われる可能性もある。実際、犯行グループの4人がした事よりも湖晴が数分間の内にした事の方が余程酷かったからな。一応、その被害にあった2人は死にはしなかったみたいだが。


「その前に、湖晴は大丈夫なのか?」

「何がですか?」


 俺が質問すると、湖晴は可愛らしくキョトンとした表情で惚けた。


「いや、その、さっきの・・・」

「私、その時の事はよく覚えていないんですよ。ただ、次元さんが撃たれて、それで・・・・・」

「ありがとな」

「え?」

「俺が傷付けられた事に怒ってくれたんだろ?少なくとも、湖晴がそのくらいには俺の事を慕ってくれていると言う事が分かったからな。俺はそれだけで嬉しいぜ」


 俺は他人が自分の事をどの様に思っているのかが全く想像出来ない。珠洲みたく言葉で俺の事を好いていると言ってくれたのならまだしも、本当の所では、湖晴や音穏達が俺の事をどの様に思っているのかが分からない。


 だが、今回の湖晴の行動は俺の事を思ってしてくれた事だ。その方法は少し残酷だったが、それでも俺は嬉しかった。最終的にそれで丸く収まったから、と言う事もあるが、湖晴がそのくらいには俺の事を好いてくれている事が分かったからな。


「もぅ・・・・・次元さんは本当に鈍感さんですね」

「?俺の事を思ってしてくれたんじゃないのか?」

「そうですよ。次元さんの事を『想って』したんです。よく覚えてませんが」

「どう言う意味だ?」

「そう言う意味です」


 そう言うと、湖晴はそっぽを向いてしまった。やはり、俺に他人の感情はよく分からない。そりゃあ、何かを達成して嬉しいとか、好きだった人が死んで悲しいとか、そう言う事なら分かるが、今の湖晴の様な複雑な感情は分からないな。


「じゃあ、さっさと『現在』に戻りますよ!」

「あ、ああ」


 何でそんなに怒るんだよ。全く。


 あ。言い忘れていたが、俺の横腹の傷口は銃で撃たれたのであまり言えた事ではないが、やはり大した事はなかったらしい。湖晴の応急処置のお陰もあって、今では僅かな痛みしか感じない。と言うか、それすらも自分の脳が勝手に作り出した幻想だったのではないかと思ってしまう程、傷は癒えていた。


 その時。俺は何か良くない気配を察知した。しかし、俺はその時はそれが何だったのか分からなかった。


「どうされたんですか?次元さん」

「・・・・・・・」


 俺は事件の様子を遠くから見た。その中に、ただ1人だけ大雨の中傘を差していない長髪の女の子が立っていた。俺はその子を何処かで見た事がある気がした。いや、見た。


 そうだ。あの子は、阿燕の過去改変前に教室の前で俺の元に阿燕を呼んでくれた子だ。何でこんな所に?たまたま居合わせたのだろうか。


 俺が思考を始め掛けた時、湖晴が心配そうな目で俺の顔を覗き込んで来た。


「次元さん?」

「え?あ、あー、悪い。帰ろうか」

「何か気になる事でもあったんですか?」

「いや、何でもない。気のせいだ」

「そうですか?」


 俺が適当に誤魔化すと湖晴は取り合えず納得したらしく、タイム・イーターを操作し始めた。


 しかし、更に嫌な予感が俺の脳裏に過ぎった。


『元の時間に帰ってはならない』


 俺の脳内で誰かが俺に向かってそう言った気がした。突然のその不気味な声に俺は軽い吐き気すら覚えたが、その声はその後2度と聞こえる事は無かった。


 あの声は俺が最初に時空転移した時に聞こえた声とよく似ていたが・・・・・何だったんだ?『元の時間に帰ってはならない』って。


「湖晴。俺達がやって来た『現在』よりも少し前に戻る事は出来るか?」

「え?ええ、出来ますけど・・・・・あまりお勧め出来ません」

「と言うと?」

「この『過去』に行く前の『現在の少し前』にいる次元さんとここにいる次元さんが鉢合わせする可能性があるからです」


 つまり、タイムパラドックスの危険があるって事か。


「だったら、ここにいる俺がこの『過去』に行く前の『現在の少し前』にいる俺が行かなかった場所に行けば問題無いな?」

「まあ、そうなりますね」

「じゃあ、そう言う事で」

「はい」


 湖晴は何か腑に落ちない様子だったが、俺がその理由を説明出来ない事を察知してくれたのか、深く問いただしたりはしなかった。『脳内で聞こえた謎の声に従った』なんて言うオカルト染みた事は言い難いからな。聞かれなくて良かった。


 改めてタイム・イーターを設定し終わったのか、湖晴が俺に声を掛けて来た。


「それでは、行きましょうか」

「おう」


 俺達はいつもの様に眩い閃光に包まれ、全身に圧し掛かる様な重力を受けつつ、時空転移をした。


 その寸前に、俺は1つの不可解な現象を思い出した。


 そう言えば、阿燕の過去改変前に会ったあの子は何でこんな所にいたんだ?雨なのに傘も差していなかったし。お陰で、その制服がびしょ濡れになっていた。


 ・・・・・ん?制服?これって何かおかしくないか?ここは12年前の世界のはず。つまり、阿燕達を含めた俺の同級生は全員まだ幼稚園生のはず。だったら、あの子もそれ相応の外見でなければ辻褄が合わない。


 しかし、実際にはそうではなかった。あの子は原子大学付属高等学校の青っぽい色の制服ではない、別の制服を着ていた。これは何を意味するんだ?いるはずもない人間がそこにいる、この怪奇現象は。俺の幻だった可能性は低いだろう。よく会う人物ならまだしも、1度しか見た事のない人物を幻で見る可能性なんてそんなに無い事のはずだ。


 だったら・・・・?


 タイム・イーターの時空転移により、俺の思考はそこで寸断された。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 『現在よりも少し前』原子市、グラヴィティ公園近くの丘の頂上。俺と湖晴は時空転移をして、ここにやって来た。そこから見える景色は近代的な、しかし、都会でも田舎でもない街並みがある・・・・・はずだった。


「何だよ・・・・・これ・・・・・」


 俺達が見たその光景はそんな平和に満ち溢れた、平凡な1つの街などではなかった。


 荒廃した建物の数々、火災が発生しているのか煙が街全体を包み、真っ黒の雲が天を覆っていた。適当に見回した限りでは人の姿は見えず、車が走っている様子もない。


「湖晴!これは一体・・・・・!」

「私にもよく分かりません。ですが、つい先程完了した須貝さんの過去改変が何らかの形で影響を及ぼして、この様な・・・・・あ・・・・・」

「どうした?湖晴」


 台詞を言っている最中だった湖晴がそれを途中で止め、慌てた様子でタイム・イーターを持ち上げた。そして、湖晴でさえもその驚きを隠せないでいた事が起きた。いや、厳密にはタイム・イーターに表示されていた。


「次元さん・・・・・私にとっては29人目の、次元さんにとっては6人目の過去改変対象者です」


『Time:Eater』 第5話 完

 『Time:Eater』第5話を最後まで読んで頂いてありがとうございます。作者のタングステンです。

 今回の話についての後書きを書く前に、まず皆様に謝罪をしなければなりません。

 何の予告もなく2日も投稿をしなかった事と、予告はしたものの2週間もの長期間に渡って投稿を休止した事について、こんな場ではありますが謝罪を申し上げます。

 特に見苦しい良い訳をするつもりはありませんが、前者はデータが謎の消失を遂げた為、後者は作者の現実で厄介な問題が発生した為に起こってしまったと言う事だけはお伝えしておきます。

 これからは出来る限り当初の予定通り、毎日投稿出来る様に努力致しますので、お時間に余裕があれば本小説をお読み下さい。


 それでは、今回の話についての後書きを書かせて頂こうと思います。

 今回の話は上記にある様な出来事が多発したのと、元々話自体が長かった事から第5話スタート時点から1ヶ月以上も経過してしまいました。

 え?今回の話の最後が中途半端になってる?

 いえ、今回の話はこれで完全に完結しているのです。

 次元と湖晴の2人が過去に言ってからは急ピッチで話が進んで行きましたが、一応過去改変は完了したから、ですね。

 次の過去改変対象者は誰なのか、何が原因で原子市は荒廃してしまったのか。

 その辺を推測しながら、第6話をお楽しみになって下さい。

 さて、今回の話はあまり後書きとして書く事がありませんので、この辺に終わりにさせて頂こうと思うのですが、一応次回予告だけはしておこうと思います。

 次部は毎度お馴染み設定まとめ(+おまけ)で、その次は『何時かあったかもしれないシリーズ』と言う事で、本編の時系列や過去改変がどの辺まで終了したのかと言う重要な設定をほぼ完全に取っ払った番外編を2つ投稿致します。

 そう言えば、番外編1の時以来本編に大きく関わっていない番外編を書いていなかった気がしたので。

 と言う事で、その後に第6話を投稿する予定です。

 投稿日時は現時点では決まっていませんが、年を越す前には第6話を開始出来るのではないかと考えております。

 それでは、思いの外長くなりましたがこの辺で第5話後書きを終わらせて頂こうと思います。

 あと、時折活動報告も書いていますので、時間に余裕のある方はご覧になってみて下さい。

 では、残り2話となった『Time:Eater』をこれからもよろしくお願いします!


 最近大分小説執筆に慣れて来たのか、2時間あれば6000字を書く事が出来る様になりました。まあ、誤字脱字は減りませんが・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ