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Time:Eater  作者: タングステン
第五話 『Te』
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第27部

【2023年09月26日17時05分17秒】


 突如、阿燕を見付け出した俺の背後に現れた須貝。俺と阿燕は薄暗い路地裏でその須貝の姿を見て、驚いていた。どうやって俺達を見付けたのか、それとも元々須貝の策略の内だったのかは分からないが、これは不味い状況だ。


 須貝はその表情から既に疲労困憊である事が分かり、それに、何か辛い事でもあったのか今にも泣きそうな顔をしていた。そして、唐突に右手に握り締めているナイフを振り下ろした。


「・・・・・っ!逃げるぞ!阿燕!」

「え!?か、上垣外・・・」


 俺は後方に少し下がり須貝が振り下ろして来たナイフを避けた後、阿燕を抱えてそのまま特に目的地を指定する事無く、路地裏を走り始めた。


「か、上垣外!?何でお姫様抱っこ!?」

「悪いが少し我慢しててくれ!阿燕も、もう疲れてるだろ!」

「私は別に・・・」


 俺が突然そんな抱えた方をしたからだろうか、阿燕はその顔を少し赤らめてそう言った。俺なんかにお姫様抱っこをされるのは女の子としては、特に俺の事を嫌っているかもしれない阿燕からしたら嫌な事かもしれないが、阿燕は逃げる為に既に結構な体力を消費している。


 だから、これから須貝達から逃げるに当たって、それが何らかの弊害になる可能性がある。阿燕が嫌がっても、湖晴に頼んだ物が来るまでの間、阿燕に須貝の事を説明するまでの間は少し時間を稼ぐ必要があるんだ。


「落ちたら大変だから、しっかり掴まってろよ!」

「は、はい!」


 俺が声を掛けると、阿燕は何故か普段は言わない様な敬語で返事をして来た。まあ、阿燕自身も今のこの状況を再認識して少なからず俺の考えを察してくれたのだろう。


 俺は数秒前よりも奥に入ったからなのか、次第に暗くなって行く視界の中、阿燕を抱えながらさっきの須貝の事を考えた。阿燕は顔を埋めながら、離れない様に俺の制服をしっかりと握り締めていた。


 須貝は阿燕を殺そうとしている。須貝との過去を知らない阿燕がうっかり話し掛けてしまったが為に須貝の中の怒りに触れ、当初の予定よりも早く俺達は狙われる事になった・・・・・のだと思う。


 しかし、さっきの須貝の表情は何だ?何と言うか、俺はそれだけが原因ではないと思う。それが何なのかは分からない。だが、俺が知らず、湖晴の推測の範囲外で何かが起き、それが原因であんな辛そうな表情になったのは分かる。


 それに、よくよく思い出してみれば、俺が阿燕を見付けだした時の様に須貝もかなり疲労困憊みたいだった。即ち、俺と阿燕の事を待ち伏せしていた訳ではないのだろうか。昨日『下見』と言う理由だけで、催眠ガスや爆弾を使用する須貝に限っては予め待ち伏せしていたと言う事も十二分に考えられるのだが、俺の過剰評価なのかもしれない。


 須貝はその仲間達と手分けをして、阿燕を殺す為に阿燕を探していた。それだけなのかもしれな・・・・・ん?そう言えば・・・・・、


 俺はその時、自分が重大な事を見落としていたのを思い出した。俺は抱えている阿燕に、大声で話し掛けた。阿燕もやや驚きながら、それに応じた。


「阿燕!阿燕は最初『誰に追われてるか分からない』って言ってたよな!?その後は須貝に追われているって分かったのに、何で最初はそんな風に言ったんだ!?」

「・・・・・えっと、私が須貝さんに話し掛けて、暫くしたら誰かに追われてる感じがしたの。それで、取り合えず逃げてみたら、その追って来ている人が須貝さんだったのよ」

「そうか!じゃあ、須貝の他には何人に追われていた!?」

「何人・・・・・?」


 日頃からほとんど運動をしていない俺の体力は阿燕を抱えながら話している事により、既に限界に達してしまいそうだった。阿燕の体重は軽い方なので、そこまで苦にならないと思ったのだが、こう何分も抱えているとしんどいな。


 そして、阿燕は俺の制服をしっかりと握りながら、少し困った様な表情をしながら俺の質問に答えた。俺の、今まで考えもしなかったその質問に。


「私、別に大勢に追われていた訳じゃないわよ?須貝さん1人だけに追われてたの」


 阿燕のその台詞を聞いた俺は心の中で少しホッとしながら、同時に嫌な考えも浮かんでしまった。俺は自分の考えを更に深める為に、再度阿燕に質問を続けた。


「本当に『須貝1人だけに追われていた』んだな!?」

「そ、そうよ!と言うか、他の人で何よ」


 つまり、そう言う事か・・・・・『須貝は独断で阿燕を殺そうとしている』のだ。須貝は自身の仲間に応援を頼む事無く、阿燕を殺そうとしている。しかも、先程のナイフを振り下ろすだけと言う行動から考えるに、あれ以外の凶器は持って来ていないと思われる。


 即ち、やはり俺の推測は正しかったのだろう。『俺達の知らない所で須貝が精神的にかなり追い詰められた』と言う事は。時間的な範囲は何処からなのだろうか。昨日の昼休みの一件以来今さっきまで俺は須貝とは会っていなかった。


 昨日の昼休みから既に1日と数時間が経過している。・・・・・駄目だ。範囲が広過ぎる。何か、もう少し須貝が精神的に大きく追い込まれた原因を探る方法は無いのか・・・・・。


 流石に疲れた俺は、須貝が俺達のどれくらい近くにいるのかを確認する事にした。


「阿燕!須貝は追って来ているか!?」

「うーん・・・・・追って来てない、と思う。私が見る限りは須貝さんらしき影は見えないわ」

「そうか」


 俺は一旦走るのを止め、抱えていた阿燕を下ろした。そして、俺はそのまま適当なコンクリート製の地面に座り込んだ。


「か、上垣外・・・・・?」

「疲れた」

「そ、そう」


 須貝から逃げる為に大した時間ではないにしろ、阿燕を抱えながら話しながら走ったのは流石に疲れた。もう俺の膝はがくがく言っており、これ以上は走れない。だから、俺は阿燕を下ろした。我ながら情けない。もう少し鍛えた方が良いのかもしれない。


 まあ、須貝は追って来ていない(もしくは歩いて追って来ている)みたいだから、暫く休んでいても問題無いとは思うのだがな。


 それはそうと、ここは何処ら辺なのだろうか。以前、阿燕の過去改変の影響を調べる為に湖晴と来た時にはこんな所までは来なかったので、現在地が全く分からない。取り合えずは、まだ先程の路地裏にいる事は確かなのだが・・・・・。あと、さっきよりもかなり暗くて狭いな。


「上垣外、これからどうするの?」

「なるべく早く人通りの多い所に行くべきだと思うが、現在地が分からないんだ。だから、もう暫く適当に歩いてみるしか・・・・・」

「そうなの?じゃあ、携帯で地図調べてみる?GPSとかなら何とかなるかも」

「・・・・・・・」


 俺の全く思い付かなかった事をあっさりと述べた阿燕は自身のポケットからスマートフォンを取り出し、そのタッチパネルを操作し始めた。俺はその阿燕の姿を地べたに座りながら眺めていた。


 そうだった・・・・・。確かに、そう言う手もあった。今時は自分達の現在地を確認する程度の事なら、スマートフォンで簡単に検索出来る。何で俺は余計な考えは浮かんで、こんな当たり前の、真っ先に思い付きそうな事を実行出来ないのだろうか。これでは阿燕を助けに来たはずが、俺が助けられてるじゃないか(迷子から)。


 そう言えば、時間的な事と須貝に話し掛けてその後追い掛けられたと言う阿燕の話から考えるに、阿燕は学校の帰りだと思っていたのだが、違うのだろうか。今スマートフォンで現在地を検索している阿燕は学生鞄を持っていなかったからな。


 だが、制服を着ているから、やはり学校の帰りとかそんな感じだったのだろう。学生鞄は須貝から逃げている最中に何処かに落として来てしまったのだろう。


 すると、検索結果が出たのか、阿燕が俺の方を向いて話し掛けて来た。よくよく考えてみれば、俺でも出来たな。これ。


「ここから表通りまではそんなに距離は無いみたい。1~2分歩いたら人の多い所に行けるはずよ」

「そうか。悪いな」


 そして、俺と阿燕は須貝が背後から突然出現可能性もあるので後ろに気を付けながら、路地裏(もはやただの暗くて狭い一本道)を出た。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 外に出てみると、そこにはナイフを握り締めている須貝の姿が・・・・・無かった。そこは至って平和的で静かな街路があるだけだった。道路もあるが、車は一切走っていない。それに、通行人も俺と阿燕以外にはいない。


 須貝はどうやら、俺達が何処か遠くへ逃げたと思い込んだのか、別の場所に行ったみたいだ。気配が無いし、そもそも追って来ていない。歩いて追って来ていたとしてもとっくに追い付いているはずだし、そんなに阿燕を殺したいのなら歩くはずもないからな。


 阿燕は自身の身の危険に対して少し怖がっているみたいだったが、俺が頭を撫でると、少し落ち着いたらしかった。阿燕も俺に対しては強がっていても、それでも怖いのだ。自身が殺されるかもしれない、と言う事を恐怖している事もあるが、見た事がある人物がナイフを持って追い掛けて来たのなら、大抵の人は怖いと感じるだろうからな。


 俺もそうだし、勿論阿燕も例外ではないのだ。阿燕は・・・・・過去改変後の何の罪も犯していない阿燕はただの普通な1人の女の子なのだ。怖くても仕方ない。


 だが・・・・・、


「阿燕。阿燕に話さなければならない事がある」

「え?」


 俺は伝えなければならない。阿燕と須貝を仲直りさせる為に。これ以上2人に辛い思いをさせない為に。まだその事は確定した訳ではなくあくまで湖晴の推測だが、おそらくその推測のほとんどは真実と合致しているはず。


 だから俺は、阿燕と須貝の過去を言わねばならない。2人の大き過ぎる誤解を解く為に。


「どうしたの?」

「良いか?突然の事で何が何だか分からないかもしれないが、驚かないで聞いてくれ」

「え、ええ」


 俺の妙な前置きのせいか少し顔を顰めた阿燕だったが、俺が何か重要な事を言おうとしている事を察してくれたらしく、黙って頷いてくれた。


「須貝は・・・・・須貝輝瑠は12年前に誘拐された、阿燕の姉ちゃんなんだ」

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