第25部
【2023年09月25日16時08分24秒】
~須貝輝瑠視点~
私は6時間目の授業が終わり終礼も済んだ教室の中で、教室から出て行く数人の生徒達の姿がある中で、帰宅の為の準備をしていた。ようは、今日使った教科書を鞄に仕舞っていると言う事だ。
窓の外から見える景色は時間的な問題と季節的な問題により、夕焼け色の空になっている。今はテスト1週間前だから、クラブ活動は行われていない。よって、本来グラウンドで走り回っていてもおかしくない運動系クラブの姿が見えない。
「はぁ・・・・・」
普通の学生の普通な学校生活を送ったであろう私は、そんな風に1度、軽く溜め息を付いた。私にとっての『普通の学生の普通な学校生活』なんて物はただの幻想、必要の無い世界でしかないから。それに・・・・・、
・・・・・・やっぱり、久し振りの登校は疲れる。
私が完璧人気アイドルだから、容姿仕草が可愛いから、スタイルが良いからと言う理由で学校にいる連中は話し掛けて来る。確かに、普段は会えない様な有名人が自分の間近数メートルにいるのなら、興味本意で話し掛けてみたくなるのも分からなくはない。
私自身はそう言う事をした経験が無いし、そもそも有名人とかには興味は無い。だから、そんな事は微塵も思わない訳だけど、下衆の皆さんはそう言った単純思考をお持ちの様です。
クラスの連中は勿論の事、他クラス、他学年、しまいには教師まで私に近寄って来る。
『少しは気を遣え。感情欠落者共』
こっちは日頃からずっと働きっぱなしで、しかも『テスト前だから』と言う建前の元、あいつを残酷に殺そうと思って、来たくも無い学校に来てやっているんだ。それなのに、話し掛けて来るなよ。
それに、こう言う場合の下衆が私に向ける感情は『憧れ』でも『妬み』でもない。それとはもっと別の、中途半端で迷惑極まりない感情だ。
だから、表向きは『ありがとうございますー』とか言っているけど、実際には全然ありがたくもなんともない。私に近付くのなら、せめて『憧れ』か『妬み』の感情を私にぶつけて来なさいよ。
何か、愚痴ばかりになって来ているので、そろそろこの話はこの辺で終わろうと思う。
今日はもうこの後は何も予定は入ってないし、暫くあいつを観察して、何時何処でどうやって残酷に殺そうかと考える事にしよう。短期決戦をするつもりは無いし、出来る事ならば、誰にも知られる事無くひっそりと殺したいからね。
今日使った一式の授業道具を鞄に仕舞った私は、完璧人気アイドルらしく華やかにそして美しく、教室を後にした。
・・・・・そうだ。ここで1つ、衝撃の事実を発表しておこう。私の事を2度も裏切ったあいつ、即ち豊岡阿燕、本名豊岡那鞠(通称:なっちゃん)は私と同じクラスだ。しかも、高校1年生の時から2年連続で。
単なる偶然なのか、私に対する嫌がらせなのか、それとも逆に私にチャンスを与えてくれたのか。その理由は分からない(多分単なる偶然だと思う)けど、それは私的には嬉しくもあり、また殺意が沸いて来る物だった。
あいつの行動を誰にも怪しまれる事無く1日中見張っている事が出来ると言う点では、嬉しかった。普通は集めようも無い情報(クラスでの居場所等)が集まるし、行動パターンが読み易くなるから。
その反面、私は少し期待もしていた。『もしかしたら、私に気付いて声を掛けて来てくれるかもしれない』と。でも、それは大きな間違いだった。いや、分かり切っていた事なのに、それに期待した私の方が馬鹿だったのだ。
あいつは私の事に全然気付かない。それ所か、教室内や廊下で擦れ違った時も私に見向きもしない。別に悲しくなんてなかったけど、改めて残酷に殺してしまいたいと思った。
まあ、だからこその、今日の下見なんだけどね。あいつに関しての情報(性格、行動パターン)は大体集まっているから問題無いけど、それ以外に1つ、あいつを殺すに当たっての厄介な問題があった。
『上垣外次元』と『杉野目施廉』の存在だ。この2人には私の完璧なはずの殺害計画を何度か台無しにされている。迷惑な話だ。お陰で、私の側近の下僕である『K』と『L』と『M』を失ったし。いや、代わりは幾らでもいるから何ら支障は無かったけど。
上垣外次元については、私の下僕達の集めた情報と今日の下見でおおよそ分かった。でも、その行動パターンが謎過ぎる。ただ単純に脳味噌空っぽで、考え無しで行動していたとしても、ある程度は行動パターンが浮き出て来るはずなのに、こいつにはそれが無かった。
その様子はまるで『2つ以上の人格が1つの体に共存している』かの様だった。しかも、本人はそれを認識しておらず、周囲の人間もその事に気付いていない。
私が上垣外次元の情報を調べ始めたのは去年の3月からだけど、その頃に比べると最近は行動パターンが落ち着いて来たようにも思える。
えっと、何だっけ・・・・・白衣を着ている謎の少女の存在が関わっているのかな?どうでも良いか。そんな事。行動パターンが意味不明で収集付かなくなっているのは事実なんだし。
でも、今日の昼休みの事を思い出してみると、その人間性については少し分かった気がする。私が可愛いアイドルの女の子として振舞って『手伝って欲しい事があるのですが・・・・・(キラキラ)』みたいな事を言うだけで、すぐに付いて来てくれたし。
おそらく、自己犠牲こそが正義であり全て、とか考えているお人好しな偽善者なんだろう。だけど、これはあくまで性格、人間性の事であり、行動パターンにはほとんど関係無い。
それでもまあ、私にはまだまだ時間はある。出来る事ならば今すぐにでもあいつの事を殺してやりたいと思うけど、焦りは禁物だ。何事も必要最低限な段階と準備って物があるからね。
それともう1人、杉野目施廉。こっちは上垣外次元と比べても、更に情報が少ない。と言うか、無い。下僕達がどれ程知恵を振り絞って調べようとしても、その情報は何1つとして集まらない。
まるで『そもそも情報が無い』かの様に『情報が操作されている』かの様に。流石にここまでは言い過ぎかもしれないけど、まあ、つまり、それくらいに杉野目施廉の情報は無かったのだ。
まあ、これから2~3日は上垣外次元と杉野目施廉の情報を集めて、万全の対策を仕上げた所で、今週末にでもあいつを殺すか。じっくりと、残酷に。悲鳴を上げても、命乞いをしても。
アイドルに有るまじきそんな物騒な事を考えながら、私は廊下を歩いていた。その最中にも、昼間程ではないけど、廊下にいた何人かの下衆からの視線があった。まだ、話し掛けられないだけマシか。
1つだけ愚痴を言うと『男子からの視線が気持ち悪い』。これは時々女子にも当てはまったりするけど、それでもやはり男子からの方が多い。
『私の胸部への視線が多い』。確かに私は一般的な高校2年生女子と比べると比較的巨乳だけど、そんなにまじまじと見るなよ、鬱陶しい。と言うか、胸なんてアイドルとしては、女の子としてはあった方が良いのかもしれないけど、生活していると色々と面倒だ。まあ、壁じゃないだけ良いか。
「失礼、少し良いかしら。須貝さん」
その時、私はふと背後から聞き覚えの無い声に話し掛けられた。
とは言っても、私には知り合いは少ない(下僕共は知り合いに含まない)から、聞き覚えの無い声に話し掛けられる事なんて日常茶飯事だし、どうせ私のファンとかその程度の奴だろうと思いつつ、私は(作り)笑顔で後ろをを振り返り、その声の主を見た。
その人物を見た時、私は思わず作り笑顔を崩し、絶句してしまった。それもそのはず。私の背後に立っていたその人物は、つい今さっき私が『情報を集めたい』と考えていた人物だったのだから。
「貴女は・・・・・」
「私は杉野目施廉。話したい事があるのだけれど、今大丈夫かしら?」
何でこんなにタイミング良く?と言うか、これは願ってもみないチャンスだ。何か話したい事があるみたいだけど、杉野目施廉と言う情報不足な人間の情報を集める事が出来るかもしれない。私は当然、その質問に応じた。
「初めまして。私は・・・」
「須貝輝瑠さんでしょ?知ってるわよ」
「そ、そうですか」
知ってて当然だけど、自己紹介くらいさせろ。
「それで、お話って?」
「あまり他の人に聞かれると不味い事なの。何処か人気の少ない場所に移動しても良いかしら?」
「え、ええ?」
・・・・・ん?何でわざわざ人気の無い場所に?そんなにヤバイ話をするつもりなのか、この女は。以前学校に設置した大量のトラップを『元々そこにあるのを知っていた』かの様に簡単に解除した時から、何か只者ではない感じがしていたけど、それでもこれは少し違和感があり過ぎる。
1度会話を切断すべきか。
「あ、そうだ。すみません、実はこれからマネージャーさんと打ち合わせをしなければいけなくて、急いで帰らないといけないんですよ」
私は在りもしない事を適当に言って、違和感満載の杉野目施廉から離れようとした。
しかし、次の杉野目施廉の台詞は、私の計画を大きく狂わせる事になった。
「『貴女と豊岡阿燕について』の事なのだけれど、聞かなくても良いのかしら?」
「!?」
唐突に発せられたその台詞に、私は困惑した。私の表向きの人格であるアイドルを忘れ、素の私に戻ってしまう程に。そんな私と杉野目施廉の様子を見ていたらしい、数人の生徒が何かを言っていた様な気がするけど、そんな事はどうでも良い。
何故杉野目施廉が私とあいつの事を知っている?こいつは、一体・・・・・?
そして私は、違和感の限界値がとっくに超えている杉野目施廉から『ソレ』を聞いた。背筋が寒くなる様な、吐き気がして来そうな感じになった。殺さなければ殺される。私は自分の居場所を取り戻す、守り抜く為に、計画を前倒す事にした。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
この日の夕方、私はインターネット上から直接上垣外次元のパソコンにアクセスする為にあるゲームに参加した。パソコンが得意だった下僕の1人にプログラムを書き換えて貰い、上垣外次元と栄長燐のタッグと回線を繋げた。
回線が繋がっても、パソコン内にある個人情報を完全に掌握する事は不可能だ。だから、その為に少しでも時間を稼ぐ為に、わざわざ対戦を仕掛けた。
ようやく個人情報の領域まで侵入出来た時に、異常事態が発生した。上垣外のパソコンには既に何者かがハッキングを仕掛けていたらしい。もしこれ以上先に進むと、その人物に気付かれる恐れがあると言う事なので、私はその作戦を中止した。ゲームの方は適当に切断しておいた。
もう、上垣外次元とか杉野目施廉とかどうでも良いか。よくよく考えてみれば、そいつ等があいつを殺す為の弊害になるとは言え、ここまで調べる必要は無い。そして、私は計画を前倒しにする為にその2人の情報を集めるのを止めた。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
次の日の夕方。
結局、昨日はよく眠る事が出来なかった。杉野目施廉から聞かされたあの事がずっと気になって、どうしようもなくなっていた。学校にいる間も、ずっと寝ていた。
これからどうしよう。もう今日にでも殺すべきだ。誰かに見付かっても仕方無い。私は私の居場所を取り戻す為、そして、私の居場所を守る為にあいつを殺す。
「ちょっと、あんた」
「!?」
私が決意を固めて私の拠点に帰ろうとした時、悪魔の声が聞こえた。私の居場所を奪い、そして、私の事を恨み殺そうと考えている悪魔に。