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Time:Eater  作者: タングステン
第一・五話 番外編一
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第01部

【2023年09月11日15時20分24秒】


~照沼湖晴視点~


 『湖晴。君にしか出来ない仕事なんだ』。


 危機的状況にあった私を先生は助けてくれました。数ヶ月間私の面倒を見てくれた先生はそう言って、こんな私に先生の最高の発明品を託してくれました。それが『タイム・イーター』でした。そう、私に課せられた使命は先生への恩返しに他なりません。そして、私は先生への恩返しとして今日も世界を正しい方向へと導く為、過去改変作業を続けます。


 初めての過去改変作業から結構な時間が経ちました。もう随分と手慣れた物です。でも、ここで言う時間とはあくまで私の体感時間であり『現在』の時間とは異なります。実際には『現在』の時間は大して経っていないのです。


 そんな風に思い出に浸っていると、タイム・イーターから二十三回目の過去改変対象者が発表されました。どうやって過去改変対象者を判断しているかは分かりませんけど、とても便利な機能だと重います。一回解体して、中身を見てみたいと言う好奇心もありますが先生に申し訳ないのでその気持ちは心に仕舞っておく事にします。やはり先生は天才です。私なんかでは手が届かない程に。


「杉野目施廉さん……か……」


 次の過去改変対象者は杉野目施廉と言う高校二年生の女の子である事が分かりました。私が担当している過去改変対象者は男女問わず様々な人がいますが、凶悪な事件や悲惨な事件が大半を占めています。この世の中のやはり分からないものですね。


「ゴホッ! ……ゴホゴホッ!」


 その時、喉の奥が焼ける様な咳が出ました。自分の口を抑えていた手を見ると血が付いています。どうやら、私の体は限界に近付いて行ってしまっている様ですね。私は先生に助けられる前から体があまり丈夫ではありません。外面的な怪我はすぐに治りますが、病気とかは完治にとても時間がかかります。なのでこれもその内の一つなのでしょう。これまでも何度か今の様に時々血を吐いてしまっています。


 この事は先生には迷惑を掛けたくなくて言ってはいませんので、一人で解決するしかありません。しかし、未だに何の病気かは分かっていないので、取り合えず表面的な症状を抑える為、咳止め薬や精神安定剤等数種類を飲んでいます。


「よし!」


 手に付いた血を拭き取り、一通り薬を飲み終えた私は過去改変対象者の施廉さんの現在位置をタイム・イーターで検索し、そこへと向かう準備をします。私は先生の為なら自分の身を滅ぼしても構わない。それが私の出来る先生へのせめてもの恩返しだから。


 着いた場所は大きめですが変わった所の無いただの公園でした。入り口に『グラヴィティ公園』と書かれています。グラヴィティ? 何か重力と関係のある場所なのでしょうか、ここは。でも、ネーミングが少し直球過ぎる気も……。


 ふと、大人しそうな長髪の女の子が男三人組に絡まれているのが見えました。タイム・イーターの現在位置の表示では、あの絡まれている女の子が施廉さんの様ですね。


「おい! お嬢ちゃん? 俺様のダチにぶつかっといてそれはねぇだろぉ? どうしてくれるんだぁ?」

「そうそう。俺もう骨折しちゃったかも~。イテテテテ~」

「ギャハハハ! お前、棒読みじゃねぇか!」

「……」


 どうやら、よくある『道端での身勝手な因縁付け』の様ですね。ああ言うのは見苦しいから止めて欲しいのですが。


 施廉さんは今も俯いています。突然の事に驚き、泣いてしまっているのかもしれません。無理もありません。正直言って今の状況を見ても、あの子が重犯罪者とはとてもではないですが思えません。でも、タイム・イーターが反応したと言う事は私のこの考えは間違っているはずです。その時、現場に動きがありました。


「さーて、この代償はでけぇぞー。さ、こっち来い!」

「……汚い手で私に触るな」

「あ? 何だって?」

「『死ね』」


 その施廉さんの言葉の直後、施廉さんに触ろうとしていた三人組の内の一人、スキンヘッドの男の右腕が肩から丸ごと消えていました。そして、辺りに大量の血が飛び散ります。


「……う! うわああああ!!!!」

「アニキ! う、腕が!」

「この、化け物がぁ!」


 その様子を見た三人組の内の一人、ロングヘアーの男が施廉さんに殴りました。しかし次の瞬間、その結果はさっきの男と同じになってしまっていました。いや、これはもっと酷いですね。その男の左半身が丸ごと消し飛んでいたのですから。その後、当然ながら辺りは血の海になっていきます。


「次は何処が良い? 特別にリクエストを受け付けてやる」

『うわああああああああ!!!!』


 左半身を消し飛ばされた男はもう完全に動かなくなっていましたが、残りの二人が魂の雄叫び声を上げながら号泣している様子が伺えます。どの様な仕組みであんな事をしているのかは分からないですが、施廉さんは無慈悲にも次々と男三人組のありとあらゆる体のパーツを消していきました。また、その度に大量の血が吹き出ています。最終的に残っていたのはただの肉片ばかりで、ついさっきまでそこに三人の人がいたとは思えない光景に変わり果ててしまっていました。


「全く……こんな屑連中にエネルギーを使ってしまうとは。計画には差し支え無いとは思うけれど」


 そう言い残し施廉さんは何処かへ去って行きました。何処に行ってもタイム・イーターに表示されるんですが、本人は知らないはずなので仕方が無いでしょう。現場検証の為、私は施廉さんが作った惨状を近くに見に行きました。


「うわ。これは酷い……」


 それは説明などしたくもない惨状でした。今回の過去改変対象者はいつもより少し手強そうですね。大量虐殺をする人なら今までに十一回経験してきましたが、今回はその方法が全く分からないからです。凶器が拳銃でもなく、ナイフでもなく。暫くその惨状を観察していると数秒後、突然空中から何かが大量に落ちて来ました。ビチャビチャと気持ちの悪い音を立てながらそれらは地面に落ちています。


「これは……!」


 それはさっき無惨に死んでいった男三人組の体のパーツの様に見える肉片でした。変死体はもう見慣れたけど、これはヤバイです。グロいの一言に尽きます。


 ちなみに、私がここまでの状況を途中で止めなかったのには理由があるのです。それは、過去改変対象者の武器を知る事です。結局分かりませんでしたが。それに、過去改変に成功してもどうせこの人達は過去改変をしてもしなくても死ぬ運命だった訳ですし、ここで助けると言う選択肢は無いのです。


 そして、私は施廉さんの後を追い掛けます。やはり人は見かけによらない生き物の様です。私自身も充分そんな訳ですが。


「ここは……研究所?」


 今度着いた先は研究所の様な雰囲気の建物でした。と言うか、研究所その物でしょう、これは。まさか一般人がこんな所に住んでいるのでしょうか。それとも、何か別の用事なのでしょうか。


 取り合えず、私は残り電力が少なくなってきているタイム・イーターで時間停止をしました。そして、私以外の時が止まった……はずでした。


「……あれ?」


 目の前にある研究所は例外でした。私同様時間が止まっていないのです。それくらい見れば分かります。時間停止中は当然ながら電気も流れなくなる為、辺りは真っ暗になるのですがその研究所は今でも明かりが点き続けていたからです。


「どう言う事……?」


 私は目の前の現象を疑いましたが、すぐにこの建物にはタイム・イーターへの対策が施されている事に気付き、時間停止を解除しました。電力も残りあと僅かしか残っていないですし。節約しておきたい所ですし。そして、この世界の時は再び動き始めました。


「どうやら、施廉さんは何らかの科学結社に所属している様ですね」


 私はそう結論付けました。今までの経験上、タイム・イーターの機能に干渉出来るのは科学結社だけです。しかも、かなり大規模の。何故なら、科学結社に所属していない一般人ではそんな事は出来ないし、そもそもそんな事を考えないでしょう。


 つまり、さっきの男三人組を殺害した際に使用したと思われる武器も、この研究所の中にあるであろう科学結社の物であると推測出来ます。


 しかし、タイム・イーターの機能全てに頼る事が出来ないと言うのは私にとってはかなり厳しい状況になりました。私自身、科学結社に所属している人が過去改変対象者だったケースは今までに二回経験した事がありますが、時間停止が通じないのは初めてです。おそらく同じ様に時間短縮等の機能も通じない事でしょう。これは困りました。


「それなら……」


 私は白衣のポケットに入っている試験管を二本、取り出しました。あまりしたくはないですけど、タイム・イーターが通用しないなら仕方が無いですね。私はその試験管の内、青色の液体を無色の液体が入った試験管へと移します。そしてそれを二、三回振った後、その研究所の裏口に投げ付けました。


 すると数秒後、『ドンッ!』と言う爆発音が周りに響きました。さっき私が投げ付けたのは、簡易的なニトログリセリン爆弾です。普段は危険なので二つの試験管(液体ニトログリセリンと起爆剤)に分けて保存してあります。出来る事なら平和的に解決したいですけど、相手によっては必要なので、十三回目の過去改変対象者から貰い受けました。


 今の爆発により、研究所の裏口とその周囲は木端微塵となっています。


「……ちょっとやり過ぎたかな?」


 どうやら調合の分量を少し多く間違えてしまったらしいですね。裏口だけを破壊するつもりだったのですが、近くにあったタンク(?)も壊してしまったみたいです。中から黄土色の液体が出て来ています。


 それに今の爆発音の大きさでは、流石に中にいる人達が様子を確認しに来てしまうでしょう。一先ず、1回作戦を練ってからの方が良いかもしれないですね。


 私はそんな事を考えて研究所を後にしようとした時、その研究所から轟音が聞こえて来ている事に気が付きました。それは、工場などで何か物を作る時に出る音でした。興味を持った私は結局、引き返す事なく研究所の中に入って行きます。


 研究所の中を歩いて早十分。未だに何処からか轟音は聞こえて来ますが、全く人に会いません。それ以前に人の気配が無いです。施設の外見からして数百人はいそうだったのですが。


 それに、さっき私が爆弾で裏口を破壊した時の爆発音や振動はかなりの物だったはずなのに、です。流石に轟音の中でも気付いてすらいないという事は無いでしょう。元々人がいなかったのでしょうか。いやしかし、今もタイム・イーターが現在位置を表示し続けている、と言う事は施廉さんはここにいるはずです。


 その時、ようやく部屋らしき所から光が漏れているのが確認する事が出来ました。轟音の音源もおそらくそこでしょう。私はなるべく音を立てない様に注意を払いつつ、その部屋の中を見ました。男女混合で数人の声が聞こえて来ます。


「今回で七百六十二回目ですよ? いくら何でも殺され過ぎでしょう」

「仕方ありません。彼はこの時空において、特異点なのですから。死んでもらっては困るのです」

「しかし……」

「そう言えば『Space Technology』の奴等は何をしてるんですかね?」

「記録によると奴等はまだ八十五回しか蘇生作業をしていませんね」

「八十五回だけですか!? 杉野目さん、これでは不公平過ぎます。予算的な問題はありませんが、今すぐ『Space Technology』の統率者に連絡を……」

「それでは何も解決しません。彼らは耳を傾けもしないでしょう。まあ、理由は分かっているのですが」


 何の話をしているのでしょうか? 取り合えず今分かる事は、あの白衣の人達の中央にいるのが施廉さんであると言う事だけです。白衣の男の1人に呼ばれていたので分かりました。


 よく見てみると、白衣の人達はどうやら液体の入った透明な筒を中心に集まっている様に見えます。その透明な筒には大量のコードが繋がれており、中に……人が入っていました。その人は私と同じくらい、つまり高校生くらいの男の子でした。


 しかし、腹部や他の体のパーツが著しく損傷していてとてもではないですが、生きている様には見えませんでした。その姿はまるで、何者かに酷く切り刻まれたかの様に見えました。


「何でこんな事を……?」


 私には疑問で仕方無かった。いくら科学結社がする事でも、これでは何の実験の最中なのか分からなかったからです。法律で人体実験は禁止されているはず。実は科学結社は裏社会で働く組織がほとんどですが、法律くらいは守ります。


「完全回復までにはまだ少し時間があります。一度休憩を取りましょう。皆さんもお疲れの様ですし」

『了解しました』

「さて、私は……侵入者の処分にでも行ってきましょうか」


 気付かれた! と思う頃にはもう手遅れでした。私は何者かによって両手を拘束され、身動きを取れなくなりました。


「ここで何をしている? ここは関係者以外立ち入り禁止だ。貴様は誰だ」

「……」


 私の背後にいたのは予想通り施廉さんでした。一体どうやって私の背後に? ついさっきまであの透明な筒の周りにいたのに。もしかすると、テレポート系の機能を使ったのかもしれませんね。私がその様な事を知っている限り、可能性の一つとして入れておいた方が良いかもしれません。そんな推測をした後、私は施廉さんの質問に答えていきます。


「……照沼湖晴です」

「どこの組織の仲間だ」

「組織ではないですが、原子大学研究所にいた事があります」

「その研究所の統率者は誰だ」

「統率者? そんな人はいません。先生がいただけです」

「その先生とは誰だ」

「……玉虫哲先生です」

「何!? 玉虫哲……だと……?」


 先生の名前を出すのは気が引けたけど、これも指命を果たす為。念の為謝っておきましょう。先生すみません! しかし、施廉さんは私が先生の名前を出した直後、様子が一変していました。私の両手は拘束を解かれていた程に。


「ア……アハハハハ! そうか、そう言う事か! 奴は……!」

「?」


 施廉さんはさっきまでの冷静さを完全に失っていました。そんな台詞を吐きながら狂った様に笑っています。そして、自身の白衣のポケットから拳銃を取り出し私にその銃口を向けました。


「『死ね』」


 私は咄嗟に、さっき拘束を解かれた両手でタイム・イーターの時空転移機能を発動させました。目的地は全く設定していなかったので、何処に飛ぶかは完全に運、となりますが。

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