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Time:Eater  作者: タングステン
第五話 『Te』
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第14部

【2023年09月25日17時32分47秒】


 誰かからメールが届いていたらしく、画面隅のランプが点滅していたスマートフォンを手に取り、俺はその人物の名前を確かめた。


「・・・・・ん?栄長か」

「燐さんですか?」


 どうやら、栄長が俺にメールをして来ていたらしい。と言うか、こんな時に何の用だろうか。栄長も勿論、俺と同じ高校に通っているからテスト前のはずなのだが。


 俺はタッチパネルを操作し、メールの文面を表示した後、それを声に出して読んだ。


「えーっと、何々・・・・・『今から遊ぼう!ゲーム内の広場で待ってるからね!ヽ(゜∀゜)ノ』・・・・・って、はあああああ!?」


 栄長からのメールの文面はご丁寧に顔文字まで付けてある、ゲームのお誘いだった。


「どうかされたんですか?」

「いやいやいや、テスト前だぞ・・・・・?栄長だって、俺の成績が不味い事くらい知っているは・・・」


 ピコーン


 俺が台詞を言い掛けたその時、今度は机の中に仕舞っておいたはずのパソコンからそんな電子音が聞こえて来た。湖晴に勉強を教えて貰う時に邪魔になるから、と言う理由で電源を切ってしまっておいたはずなのに。


 しかし、持ち主である俺の事など無視して勝手に電源がオンになり、起動し始めたパソコン。その様子に色んな意味で唖然としていた俺に、湖晴が心配そうに話し掛けて来た。


「次元さん。どうされますか・・・・・?」

「・・・・・多分、今の俺には選択肢は1つしか無いと思う」


 おそらく、未だに栄長の中では俺が音穏と栄長を長時間も待たせてしまった際の罰ゲームが未だに続いているのだろう。


 と言うか、俺の事を思って2人が待っていてくれたと言う事に関しては嬉しい限りだが、そんな中で俺が制限時間以内に帰って来なかったからと言って、腹部を殴られたり、恐怖の罰ゲームを実行されるのは流石に理不尽だと思う。


 だが、おそらく、ここで俺が栄長からゲームのお誘いを断ると、何が起きるかが全く予想出来ない。少なくとも、学校で勉強を教えて貰えなくなる事と、音穏からの怒りの鉄槌が下される事は間違いないが、他に何が起きるか・・・・・。


 俺は1度だけ溜め息を付いた後、机の引き出しからパソコンを取り出した。


「まあ、息抜きも必要ですよね」

「ほとんど勉強出来てないし、テスト範囲じゃない所を勉強してたけどな・・・・・」


 一応、湖晴は俺の境遇を察してくれたのか、少しだけ栄長と遊ぶ事を許可してくれた。どうせ『SFADV』だろうから、適当に2、3回負けてさっさと終わらせて貰うとしよう。いくら湖晴が許可してくれたとは言え、流石に遊び過ぎるのは不味い。


 俺はおそらく栄長のせいで勝手に電源が入ってしまったパソコンを操作して、ネットゲーム『SFADV』の画面を開いた。そして、栄長からの指示通り、広場(ようは集会所みたいな場所)に入った。


 広場に入るとすぐに、以前対戦した時と同様の栄長のアバターがこちらへと走って話し掛けて来た。以後、ネット上での会話を通常の会話と同様に表示する。


『どうしたんだよ。一体』

『どうするもこうするも、暇だったから、久し振りに次元君とゲームでもしようかと思って』

『暇!?テスト勉強は!?』


 栄長のかなり頭が良いと言う事は充分承知だが、それでも今はテスト前だぞ?いくら栄長とは言え、普段から何時間も勉強しているとは言え、それでは流石にきついだろうに。


『テスト範囲の勉強は大体終わってるし、そもそも私、勉強は夜にするタイプだから』

『いやいや。俺は夜9時には寝るから、夕方の内に勉強しておく必要があるのだが』

『でもさー、流石にテスト範囲を間違えて勉強してるとか・・・・・ププププー』

『何で知ってる!?』


 栄長はついさっき俺と湖晴が話していた会話の一部を何故か知っていた。いや、あの栄長の事だ。おそらく、俺のパソコンの電源を勝手に入れる直前に何か回線を繋いだんだと思うがな。


 まあ、普通に犯罪なので通報しても何の問題も無いレベルだが、そこは俺の数少ない知り合いとしてとやかくは言わない。


『まあまあ。そんなに気にする事じゃないよ』

『盗聴してる奴がそんな事言えるのか・・・・・?』

『あとさ、次元君』

『何だよ。テスト前だから、出来れば用件は早めに済まして欲し・・・』

『次元君の近くに湖晴ちゃんがいるのを分かっていて、あえて言うけど・・・・・』


 栄長の言う通り、俺のすぐ隣には湖晴がおり、先程からの俺と栄長のネット上での会話を見ている。やや俺と湖晴の顔の距離が近い為、少しドキドキしてしまっている。


 そんな中で、栄長は唐突にとんでもない事を言い始めた。いや、ネット上の会話なのでとんでもない事を書き始めた。


『何時から2人はカップルになったの?』


 直後『ガタッ』と言う音と共に、俺の隣に座っていた湖晴が勢い良く椅子から立ち上がり、何処かへと走って行ってしまった。


 一方の俺は動揺しつつも、栄長の脈絡の無い台詞に返事をした。


『い、いきなり何を言うんだ!湖晴の奴、何処かへ走って行ったぞ!?』

『あー、やっぱりそうか。成る程ねー』

『おいおい!何勝手に納得してるんだ!』


 これは不味い。栄長の中で、俺と湖晴の関係が謎の方向に収束されようとしている。このままだと、栄長を通じて音穏や阿燕にもあらぬ噂が流れる可能性がある。


『だって、2人の会話を聞いていると、どう聞いてもリア充にしか聞こえないんだもん』

『はああああ!?何処が!?と言うか、何処から聞いてたんだよ!』

『まあまあ。落ち着いて落ち着いて』

『落ち着けるかー!栄長だって知っているだろ!?俺と湖晴はタイムトラベラー仲だ!それ以上でもそれ以下でも無い!』


 栄長が『俺と湖晴はタイムトラベラー仲』である事は、栄長の過去改変の時に説明したはずなので、珠洲の過去改変の影響は特に受けてはいないはず。だから、俺は何の迷いも無く、栄長にそんな台詞を言った。


『それは知っているけど、完全に新婚夫婦だったじゃん』

『だから・・・』

『「・・・・・そうだ。テストが終わったら、湖晴にも何か買ってやるよ」「本当ですか!?」「おう。まあ、湖晴なら自分で何でも買えるとは思うが、俺からのお礼と思ってくれ」「ありがとうございます!」』

『・・・・・・・』


 俺の台詞の最中、何時しか俺と湖晴がしていた会話がパソコン内から聞こえて来た。と言うか、その会話って、ついさっき俺と湖晴がしてた奴じゃねえか!栄長の奴、やっぱり、盗聴してたな!しかも、ご丁寧に録音までしてあるし!


『さて。これがカップルの会話ではないとしたら、何なのかな?』

『いや・・・・・あの・・・・・栄長は過去改変前の珠洲化しないよな・・・・・?』


 過去改変前の珠洲は、俺と知り合いの女の子達を全員殺そうとしていた。俺が珠洲の気持ちに気付いてやれなかったばっかりに、あの悲劇は起きた。


 あんな悲劇が、既に過去改変によって救済されたはずの栄長によって繰り返されてはならない。だから、俺は恐る恐るそんな事を栄長に聞いてみた。


『私は過去改変前の珠洲ちゃんの事を知らないから、何とも言えないけど、少なくとも私は次元君と湖晴ちゃんが付き合おうが何しようがエッチな事をしようが、特に行動を起こしたりする事は無いよ?』

『おい待て。今、何か意味不明なカタカナ3文字が紛れ込んだ気がするのだが、気のせいか?気のせいであってくれ』

『おや?次元君は女の子にそんな台詞を言わせるのが好み?やーん。この、へんたーい(棒)』

『・・・・・・・』


 どうやら、栄長はいつも通りみたいなので良かったが、俺的にはあまり良い状況ではない。このまま栄長とネット上での会話が長引くと、テスト勉強に支障が出る。それに、何処かへと走り去って行ってしまった湖晴も探さなければ。


『そろそろ5時40分か』

『栄長・・・・・そろそろ用件を言ってくれないか・・・・・?遊びたいのなら、テスト明けに幾らでも遊んでやるから・・・・・』

『もー、次元君はすぐそう言う事言うー。私は赤ちゃんじゃないんだぞ(プンプン)』


 何かもう、疲れた。パソコンのキーボードを叩く事もそうだが、栄長と会話していると生命力が無くなって行く様な気がする。


 俺の気力がほぼ0になった時、ネット上で再び栄長から声を掛けられた。


『では、そろそろ本題に入ろう!』

『やっとか・・・・・』

『念の為に言っておくけど、今日次元君を遊びに誘ったのには列記とした理由があるんだよ?』

『そうなのか?』


 栄長が暇だからとか、俺の邪魔をしたいからとかそう言う事ではないのだろうか?


『なんと今日は「SFADV WORLD CHAMPIONSHIP」があるんだよ』

『・・・・・は?』

『略して「SWC」!言わば、ネットゲーマーの世界一を決定する、ネット上での大会だね!』

『・・・・・まさか、俺もそれに参加させられるのか?』


 今の俺にはそんな時間は無い、と何度言わせるつもりなんだ。ゲームの大会とか、そう言う物には俺はこれまで参加した事は無いが、1つの大会で何時間かかるか分かったもんじゃない。


 おそらく、参加申し込みとかそう言う物があるはずだから、その画面が表示される前にさっさと電源を切って勉強を再開しよう。多分自分の部屋に行ったのだろうが、湖晴も探さないといけないしな。


『あ、そうそう』

『どうした?』

『次元君の分は、ついさっき次元君にメールを送る前に登録しておいたから』

『何しちゃってるんですか!栄長さん!』

『だって、今回の大会は2人1組のチーム戦だったから、適当な相手が次元君くらいしか見当たらなくて。あと、この大会はエントリーしたにも関わらず参加しなかったり、操作しなかった場合に罰則があるから注意してね♪』


 その罰則とやらがどんな物かは知らないが、とどのつまり、俺は何があっても栄長とチームを組んで世界中のゲーマー達と対戦する必要があると言う事か。


 最近ではユーザーが増えて来たと聞いていたが、まさか、こんな大会が開ける程になっていたとは。


『もう1つ忠告』

『まだあるんですかい』

『勿論、この私が参加するんだから、優勝以外は無いからね?足引っ張ったら、音穏ちゃんにあらぬ噂を流すから宜しくwww』

『・・・・・・・』


 俺、テスト勉強出来るのかな・・・・・?

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