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Time:Eater  作者: タングステン
第五話 『Te』
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第12部

【2023年09月25日16時32分48秒】


 栄長によって設定されたタイムリミットの事など、とうに忘れた俺はグラヴィティ公園内を歩きながら、ついさっき公園内で偶然にも会った飴山との会話を思い出していた。


 飴山曰く、飴山『も』記憶喪失なんだと言う。『も』と言うのは、俺の妹である珠洲も過去改変前はそうだったからだ。俺は珠洲のしてしまった過ちを知っているからそう言えるのだ。


 だから、何かが俺の頭の中で引っ掛かっているのだ。何か重要な事を見落としたのではないか。取り返しの付かない様な何かが起きてしまうのではないか。何故かそんな嫌な予感がするのだ。


 だから・・・・・、


「・・・・・ん?」


 俺がさっきの飴山との会話の考察をしているその時、俺はふとある事に気が付いた。ついさっき飴山と会った時と似た様なシチュエーションだが、俺の正面数10メートル先から、ある人物が歩いて来ていたのだ。


「杉野目・・・・・」


 その人物は教室では俺の隣の席であり、栄長曰く『Time Technology』と言う科学結社のトップと言う謎が多い常に冷静な少女の杉野目施廉だった。


 わざわざ考えるまでもないので深くは考えないが、おそらく杉野目も学校の帰りなのだろう(それにしたら、少し遅い様な気もするが)。まあ、俺は杉野目とは2、3回程度話しただけで、そこまで親しくないし、何となくだが杉野目の事は少し苦手なので、飴山の時みたいに話し掛けたりはしない。


 だが・・・・・、


「あら、上垣外君。ちょっと良いかしら?」

「・・・・・・・」


 俺と杉野目が道ですれ違いそうになる少し前に、唐突に杉野目に話し掛けられてしまった。それも『道端で偶然古い知り合いに会った』時の様にやけに親しげに、少しの違和感も無く。いや、俺に声を掛けて来た時の杉野目の顔に表情は無かったとは思うがな。


 流石に無視するのも悪いし、別に杉野目の事が嫌いな訳ではないので、一応返事だけはしておく事にしよう。


「何だ?」

「貴方、まだあの連中と仲良くしてるのね」

「『あの連中』?・・・・・ああ、音穏と栄長の事か。何で杉野目にそんな事言われないといけないんだよ」

「別に。私は今の貴方には既に1回忠告してあるから、2度も言うつもりは無いわ」

「そうか。それじゃあな」

「待ちなさい」


 相変わらず杉野目は、音穏や栄長の事をあまり良くは思っていないみたいで、俺によく分からない事を言って来る。関わりを持つなとか、縁を切れとか、何で杉野目にそんな事を言われないといけないんだ。杉野目に俺の、知り合いを大切にする心意気が分かってたまるか。


 そんな事を考えつつ、少し腹が立った俺は杉野目との会話を途中で打ち切ろうとし、本来の目的通り、学校の方へと歩き始めた。


 だか、まだ何か言い足りなかったのか、杉野目が俺の右手を掴んで引き止めて来た。仕方無く、俺は杉野目の方を向いて聞いた。


「何だよ・・・・・」

「何で私の事をそこまで避けようとするの?」

「・・・・・・・」


 何故そんな事を聞いて来るんだ。俺は別に杉野目の事を避けようとかは思ってはいない。ただ、こう言うタイプの女の子の事が少し苦手なだけなのだ。


「避けようだなんてそんな・・・」

「でも、私の話はまだ終わっていないのに、貴方は今歩き出そうとした」

「・・・・・分かったよ。話を最後まで聞けば良いんだろ?それで、用件は何だ?」


 何となく予想は付いていたが、結局俺はグラヴィティ公園内で会話する事になった。俺が話をすると言ったからなのか、やっと手を離した杉野目は俺に話し始めた。普通は知るはずもない事を。


「『今日の昼休み、大変だったわね』」

「!?」


 今日の昼休み、その時間の殆どを俺は須貝との茶番劇と会話に使用した。だから、杉野目が今言った台詞は即ち、須貝が俺と阿燕にした事を知っていると言う事を意味しているのだ。


 突然の杉野目のそんな台詞に困惑した俺は、取り合えず、杉野目が昼休みの件について何処から何処までを知っているのかを聞き出そうと考えた。


「何で、昼休みの事を知っている・・・・・?」

「見てたから。・・・・・いや、違うわね。『知っていたから』かしら」

「『知っていた』だと?まさか、杉野目は須貝の仲間なのか?」

「違うわ。私に味方なんていない・・・・・何時でも、何時になっても」

「それなら、何で知っていたんだ」

「偶然、噂話が聞こえて来ただけよ」


 何か、今の台詞は随分と嘘臭いな。体育倉庫のドアが昼休みに突然爆破された事は校内放送(近付かないようにとかそう言う事を言っていた)で生徒の誰もが知っているはずだが、俺が少なからずそれに関係してると言うのはごく少数の人間しか知らないはずだ。


 勿論、現場にいた阿燕は催眠ガスで眠らされていたから知らないし、その時教室にいた音穏と栄長も知るはずがない。ましてや、須貝が自分にとって不利になる事を他人に広める訳が無い。


 だから、俺が体育倉庫のドアが爆破された事に関係していると言う事が、偶然にも噂話として聞こえて来るなんて事は絶対に無いはずなのだ。だが、杉野目はその事に俺が少なからず関係している事を知っていた。


「・・・・・杉野目が須貝の仲間じゃない、と言う事は信じよう。それなら、杉野目は何処まで知っているんだ?俺と須貝が体育倉庫で一悶着あった、と言う事は知っていそうだが」

「貴方が豊岡阿燕と自販機前で会い、その後須貝輝瑠に話し掛けられた後、体育倉庫に閉じ込められ、須貝輝瑠が倉庫の壁を爆破した事によって外に出る事が出来た・・・・・くらいかしら」

「全部じゃねえか!」


 まさかコイツ、前々から思っていたが、俺の事を監視しているな!俺の事を監視する理由は不明だが、もしそうだとしたら、色々と納得出来る所がある。俺に音穏や栄長と仲良くさせたくないのは、俺の監視をし易くする為。今日の1時間目の時に俺と栄長のメールのやり取りを見ていたのも、監視の一貫。


 だが、やはり不可解だ。何で俺なんかを監視しているんだ?


「当たり前よ。もう何度・・・・・」

「『何度・・・・・』何だ?」

「・・・・・何でも無いわ」


 ただの言い間違えだろうか?まあ、良いか。気にする必要も無いだろう。


「前から思っていたんだが、杉野目って一体何者なんだ?今日の1時間目の時だって、俺が栄長とメールしている時にその様子を見ていただろ?」

「別に貴方を見ていた訳ではないわ」

「ん?俺今、『杉野目が俺の事を見ていた』なんて言ってないぞ?『俺と栄長のメールをしているその様子を見ていた』って言ったはずだ」

「・・・・・確かにそうだったわね。私の勘違いよ。気にしないで」

「?そうか?」


 またか?また、言い間違えなのか?普段、教室では誰とも話していないから、久し振りに誰かと話すと口が回らなくなるアレな状態なのだろうか?・・・・・って!それ、俺もじゃねえか!俺も教室では基本的にぼっちなんだよ!そう言えば!


 はいはい。自虐ネタ乙。


「それで、俺の質問にはまだ答えて貰えてないのだが、杉野目は答えてくれるのか?」

「貴方が望むのならね」

「じゃあ、聞かせて貰う」

「えっと・・・・・『私が何者なのか』だったかしら?」

「そうだ」


 一先ず、俺の自作自演の自虐的な思考を停止する事が出来たので、杉野目との会話に意識を戻そう。


「それは私が『ある科学結社のトップである』事について聞いていると解釈して良いのかしら?」

「!・・・・・まさか、俺が栄長からその事を聞いていた事すら知っていたのか?」

「ええ。貴方が栄長燐から私についての情報を得ていた事は『ずっと前』から知っていたわ」


 『ずっと前』。それはつまり、俺が栄長から杉野目について一言だけ聞いた時には、既に知っていたと言う事になるのだろう。知っていたと言うよりは、聞こえていたの方が正しい様な気がするがな。


「・・・・・だったら尚更だ。杉野目施廉と言う女の子は一体何者なんだ?何でそんな、普通は知りようもない事を知っているんだ?」

「その程度の事に大した理由は無いわ」

「その理由を話してくれ」

「『ここに来る以前から知っていた』では駄目かしら?」


 ・・・・・ん?この近くに引っ越して来る前には既に、俺が栄長から杉野目について一言だけ聞いた事を知っていたと言う意味か?だが、それはどう考えてもおかしいだろう。起きてもいないはずの事なんて、知りようがないからな。


 いや、ちょっと待てよ。1つだけ『起きてもいないはずの事を知れる方法』があるじゃないか。俺はこの2週間で、それの存在を少なからず知ったはずだ。具体的な方法は知らない。だが、その存在は考えられる。


「杉野目が科学結社に入っていると言う事を前提に言うと、それはつまり、杉野目は予知能力の様な才能があるって事なのか?」

「本質的には大分違うけれど、まあ、この場合は私の事を予知能力者と言って貰っても構わないわ」


 そうだ。栄長や蒲生達によって、俺は科学結社の存在を知っている。そして、杉野目はある科学結社のトップだ。予知能力の付与くらい、朝飯前の技術なのだろう。


 だから今まで、俺に対して全てを見透かした様な台詞を言って来ていたのだ。成る程な。だが、まだ確証は無い。なので、念の為、俺は杉野目に普通なら無茶な頼み事をした。


「だったら、俺に対して、1つで構わないから予知をしてみてくれ」

「貴方に?」

「普通は知りようもない事を知っていて、予知能力の様な才能がある杉野目なら、1回くらいは簡単だろ?」

「・・・・・そうね。言ってみなさい」

「『俺がこれからも今の生活を続けていて、それの行き着く果ては何だ』」


 未来を知るなんて、過去を変える事くらい卑怯な手だとは思う。だが、俺は過去改変で四人の少女の人生を救済した。そんな今だからこそ言える。過去を変える事は、今まで俺が思っていた程卑怯な手なんかじゃない、と。


 そう考えると、もしかすると杉野目は俺とは逆に、対象者に未来を伝えて人生を救済しているのではないかと思えるのだ。だから、それがどの程度の物なのかを確かめる為に、俺は杉野目にそんな事を聞いた。


 俺の台詞を聞いた杉野目は数秒間黙り込んでいたが、予知が出来たのか、俺に静かに言った。


「『破滅』よ」

「何?」

「貴方は破滅する。それはつまり死ぬと言う事。より正確には、何度も何度も何度も死に続けると言う事」

「それは杉野目の予知の結果なのか?」

「この場合はそうなるわ」


 湖晴と一緒に過去改変を続けるだけで何故破滅するのか。正直な所、俺にはよく分からなかった。


 しかし、俺がその事について杉野目に聞く前に、杉野目は続けて言った。


「だけど・・・・・」


 杉野目にしては珍しく言葉1つ1つに感情が籠っている様な感じで、杉野目は続けて俺に言った。


「もう、死なないで。これから起こる2つの事象は今まで以上にリスクが高い。だから、気を抜いては駄目。ついこの間もしたけれど、あんな事はもう2度としたくない」

「・・・・・よく分からんが、分かった。俺には難しい事は分からないが、ありがとな。こんな俺なんかを心配してくれて」


 最終的には、杉野目とのこれらの会話はどんな意味があったのか。この時の俺には全く理解する事が出来ず、ただ単純に知らなかった情報を知れた、程度にしか思っていなかった。


 2週間前の9月11日18時57分36秒に再び動き始めた物語の結末は、杉野目とのこの会話の中にその殆ど全てが隠されていたと言うのに。


「・・・・・うん」


 小さな声でそう言った杉野目を背に俺は歩き始めた。間違えて学校に置いて帰ってしまった教科書を取りに行く為に。


 結果だけ記述しておく。勿論、学校に俺の教科書はあった。そして、それを持って家に帰った。ただそれだけだ。


 別に、俺の事を思ってずっとグラヴィティ公園内で待っててくれた音穏と栄長にその帰りに遭遇して『時間掛かり過ぎ!』と怒られながら腹部を何度も殴られたとか、そう言う事は無かった。


 いやいや、本当に無かったぞ?思い出すだけで腹部の痛みが込み上げて来るとか、栄長からの恐怖の罰ゲームが恐怖と言う単語では到底言い足りないくらいの物だったとか、そう言う事は・・・・・あったんです。はい。

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