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Time:Eater  作者: タングステン
第五話 『Te』
106/223

第01部

【2023年09月21日20時10分50秒】


~????視点~


 『私とは何なのか』。


 私はその答えを知らない・・・・・と言うか、正確には『そんな物はそもそも存在しない』と言った方が良いかもしれない。本当の私とその居場所はとうの昔に死んだ。いや、殺された。それも、実質的には本当の私の家族によって。


 私は幼い頃から何でも出来た。常人が出来ない事、天才すら出来ない事、そのほとんど全てを年齢性別に一切関係無く、簡単にこなす事が出来た。年上年下など全く関係無く、誰からでも『憧れ』の対象となった。そして、年上年下など全く関係無く、誰からでも『妬み』の対象となった。


 その内の1人に本当の私の妹も含まれている。出来が悪くて、仕舞いには私の居場所を全て奪ったあの妹が。いや、違うな。『あいつ』はもう私の妹などではない。今では『あいつは私』であり『私は別の人間』だ。結果的にそうなった。


 私は『あいつ』のせいで、全てを失った。金にしか興味の無いお父さんとお母さん、意地の汚いご近所の方々、頭空っぽの沢山の友達、妬み以外の感情を知らない大人達。その全員を全員と、その他にも多くの物を失った。


 私はそんな風に周りが散々な連中でも充分に楽しかった。私には自分にしか出来ない事が沢山ある。周りの連中はその内の1つも出来やしない。その事によって周りの連中から向けられる『憧れ』と『妬み』に対して、私は大きな喜びを感じていた。


 私のこの感情は常人にとったら『狂気』なんだと言う。だけど、それは違うと思う。そんな事はこれまで人類の歴史の一部を把握していればすぐに分かる、至極曖昧且つ残念な言葉だ。自分の頭が悪い事を周囲に晒して何が楽しいのか。


 人類は今も今までも常に弱者を踏みにじり、強者が勝つ。そして、時には少数派の強者が多数派の弱者を掌握する。少数派が多数派に勝つには物理的な技能ではなく知識と作戦を活用する必要がある。逆に言えば、それさえ出来れば少数派は多数派に打ち勝つ事が可能になる。絶対的な上下関係・主従関係。負けた者は滅びて行き、勝った者はありとあらゆる物を手に入れる。それが現代になっても続く、この腐れ切った現代の人間社会の条理。


 そして強者はその勝利の瞬間に、今の私と同じ様な喜びを感じていたはずだ。周りの連中が『狂気』と言おうが、そんな言葉は弱者の『妬み』でしかない。その事についての本質的な、絶対的な回答はこの私が決める。人生の完全なる勝者であるこの私が。


 別に、私は何が出来たとしても『楽しい』とか『嬉しい』とかは思わない。私はその時に、誰かが私の事を『憧れたり』『妬んだり』する事に大きな喜びを感じるのだ。


 何度も言うけど、これは私個人の意見ではなく人としての当然の条理だ。そして、言ってしまえば、これが私の本性であり全てなのかもしれない。『あいつ』に居場所を奪われた今の私とはそう言う存在なのかもしれない。


 だからこそ私は、そんな私の唯一の楽しみと私自身を『自分だけが救われたい』と言うだけの身勝手な理由で入れ替わった『あいつ』の事が大嫌いだ。この私さえも目も当てられないくらいに酷い最期を遂げれば良いと思う。


 ある時、私は元々存在した幸せな世界を失い、何処か知らない場所に連れて行かれた。連れて行かれる最中は分厚い布で目隠しをされていたから、完全にはそこが何処なのかが分からなかった。


 でも、移動時間や移動手段である車の運転中の音、私を連れて行った下衆共4人の話し声を総合的に纏めた結果、一応そこは日本であり、元々私が住んでいた街とは言う程離れてはいないと言う事だけは分かった。


 そして私はその時、その下衆共4人を従える事によって元の幸せな世界を取り戻すと同時に、更なる楽しみを増やそうと考えた。


 まあ、今になって思えばもう少し残虐な手段も使えたのかもしれないけど、結果的には、その時の私の選択は正しかったのだと思う。あの時に、あの下衆共4人に死なれていると後々の展開に大きな支障が出ていたし。


 それにしても、あの下衆共4人は馬鹿だったな。正真正銘の馬鹿だったな。私の本当の作戦を知る事無くほいほいと口から出任せを信じて行くあの下衆共の間抜け顔を見ながら、心の中で大笑いしていたのを今でも思い出す事が出来る。


 お気付きかと思うけど、ここで念の為に説明しておこう。私は平均的な学力の高校に通う女子高校生だ。スタイルは常人より上であり、憧れられ、妬まれる程度の物を持っている。しかも、一時の思い付きで始めたアイドルとしての仕事も案外上手く行っている。


 いや、仕事が上手く行っていると感じるのは、私にとってではなく常人にとって、と言う意味だけど。私にはこれが普通。そして、それを憧れ、妬まれる事が私の唯一の楽しみ。有名になってテレビによく出る様になってからは、その2つの感情が今までよりも更に多く向けられて本当に楽しい。流石、テレビの影響力とは大きな物だ。


 ・・・・・ああ、そうだった。話が変わっていた。私の職業についてなんかどうでも良かったんだった。正直な所、本来の目的が達成される事も無くなった今も何故か続けているアイドル業なんて、その2つの感情を集めるだけの道具だし、自由時間が減ったり平民と関わらなくちゃいけなくなって凄く面倒臭いからすぐにでも止めたいけど、私は今でも最後の希望に縋ろうとしてしまっているのかもしれない。


 えっと、私が下衆共に連れて行かれて全てを失った後、どの様にして今の様な状態まで持ち直したのか、についてだったかな。でもまあそんな事、簡単だ。人の本質的な感情、行動パターンを考えれば自ずと答えは出る。


 そもそも、人と言う動物は本質的に自分に足りない物を求め、苦痛を拒絶する傾向にある。だから、それらを上手くコントロール出来たのなら誰にでも支配者になる権利はあり、その事を分かっていなければ誰にでも奴隷になる義務がある。


 私とあの下衆共の上下関係についての違いはただそれだけだ。そして、当時の私は幼いながらもその事を完璧に理解していたから、あの下衆共を洗脳に近い形で掌握する事が出来た。英才教育とか帝王学とかそう言う類の物は習った事は無いけど、まあ、独学みたいな感じでそれを理解していた。


 私は『あいつ』の身代わりにされて下衆共4人に連れて行かれるその直前まで、予め・・・・・と言うか結果的にはソレの収納場所にいた。念には念を押して、ね。


 まさか『あいつ』の代わりに私自身が連れて行かれるとは思いもしなかったけど。でもまあ、用意はしておくものね。充分に役に立ったから。


 私はソレ、即ち『銀行の通帳(とその他金目の物)』を隠し持ったまま連れて行かれた。そう言えば、その通帳には最初は幾らくらいあったのかな。私のお父さんとお母さんは、全世界の市場に手を伸ばしている大型土木工事関係の仕事の上層部(つまりは社長とか指揮官みたいな人だと思う)には入る人間だったから、かなりの額はあったんじゃないかな。


 私は私に向けられる『憧れ』と『妬み』の感情にしか興味が無く、お金なんてどうでも良かったから、その時はあまり考えずに洗脳の為に沢山使ったけど、まだ5000万くらいは残っているから・・・・・最初は数億はあったのかな。どんだけ稼いでるんだか。


 と言うか、あの両親はやはり金にしか目が無くてその上最高級に頭が残念だから、何年も経った今でも未だに金庫から通帳が1つ消えている事に気が付いていない。馬鹿だ、馬鹿過ぎる。そして、心の底から嘲笑える。


 それで、私はそんなお金を使用して、私を連れ去った下衆共5人のリーダー的存在1人を完全掌握した。マインドコントロール、即ち洗脳だと思って頂ければ良いだろう。勿論、そのお金を上手く使って、人間の潜在意識を支配しながら。


 本当はそのリーダー的な存在の下衆にも目的があったみたいだけど、私に秘められている潜在能力に可能性を見出したのか、私の下僕(ようは奴隷)になってくれる事になった。さて、年齢差は幾つだろうね。私の方が相当年下だと思うけど。


 その後、そのリーダーの心変わりに賛同した下衆共の内の2人の心も掌握に成功した。でも、1人だけ私の支配者としての力を認める事が出来ず、反対した。ああ言う奴が将来的に負け組と呼ばれるのだろう。


 結局、処分する事も出来ずに逃げられたけど、どうでも良いや。今は警察官とかやってるんだっけ?どんな心境の変化なんだか。正義のヒーローにでも目覚めたのか。小学生の卒業文集の1ページかよ。


 それから、私はその下衆3人とその下衆3人の仲間全員を掌握・管理した。私には何でも出来た。充分な金と膨大な知恵を持ち、正解の方法を完全に理解していたから。


 私は最初、私の事を身代わりにした『あいつ』やお父さんやお母さんを許すつもりはなかった。でも、途中で時間が経つにつれて、別に許しても構わない様な気がして来た。


 あんな奴等とは言え、やっぱり人間だからね。1回くらいは間違いだってあるだろう。私だって、完全完璧の人造人間な訳じゃないから、何度かそう言う事もあったし。


 だけど、私のそんな寛大な心さえもあいつ等は踏み躙った。


 私は最初は家族3人に見つけて貰う為に、下衆共を掌握しつつも待ち続けていた。なるべく分かり易い所に住んだ。でも、見つけてくれない。


 少しくらい目立つ様になれば、流石に気付くだろうと思った。だから、アイドルの審査を受けて、余裕で合格し、アイドルになった。テレビにも沢山出た。でも、私のいる所に来てくれない。


 だから、私は見付けて貰えないのなら自分から家に行って思い出して貰おうと考えた。だけど、それが私の中の歯車を大きく狂わす事になる事に、その時の私は気付いていなかった。


 私が元々住んでいた家に行った時に聞きたくもなかったソレが聞こえて来た。『私の本当の名前で平然と過ごしているあいつ』と『私とあいつが入れ替わっていると言う事に全然気付いていない両親』の会話が。


 即ち、私と言う人間が本来いるはずの場所に『あいつ』が居座り『あいつ』と言う人間が本来いるはずの場所が消えていたのだ。


 私が死んだ事になっているなら、おそらく、それが間違いであったと訂正する事が出来る。だけど、そこには『あいつ』と言う人間がいる。だから、間違いを訂正する事すら叶わない。


 その事に気付いてしまった私は何も出来なかった。何も言う事が出来ずに、久し振りに私の中で憎しみが生まれた。そして今住んでいる場所へと帰った。


 それからと言うもの、私は時と場所を考慮して、そしてそれ等を完璧に利用した上で『あいつ』を殺そうとして来た。何度も何度も何度も・・・・・。


 ある時は以前洗脳に成功した下衆共3人を使って銀行強盗をさせた。その銀行は『あいつ』が普段通っているらしい中学校の帰り道で、絶対にそこを通ると確信していた。


 そこを通れば、後は人質にして焦らしながら適当に痛ぶって殺して終わり。それだけだったはずだけど、謎の熱血男がその現場に出しゃばってくれたお陰で、台無しになってしまった。警察官の突撃ならまだしも、野次馬の乱入なんて計算外よ、全く。その結果下衆共3人はあっさり捕まって『あいつ』の事も痛ぶって殺す事が出来なかった。それはもう散々な結果だった。


 一応、その謎の熱血男情報は調べておいたけど。『あいつ』を痛ぶって殺す上では、大きな障害になる可能性があるからね。確か、あの謎の熱血男の名前は『上垣外次元』とか言ったかな?珍しい名前だったから記憶に残ると思っていたけど、思いの外そうでもなかった。多分、大した事の無い奴なんだろう。


 あと他には、学校に様々なトラップを仕掛けたりもした。それも結局、見覚えの無い根暗女に見付かって勝手に回収されたみたいで不発に終わったけど。成功すれば色々と楽しい事になりそうだったのにね。


 屋上の鉄柵の落下から全てのトラップが始まり、拳銃、発火剤、ナトリウム、電灯と他にも幾つか。どれか1つでも引っ掛かってくれるだけで無残に即死する予定だったのに。それも、残虐な死に方をしたはずなのに。


 そんな楽しいトラップを解除したあの根暗女は『杉野目施廉』とか言っていた気がする。この件以外にも、前に何回か私がせっかく仕掛けたトラップを解除された。あの根暗女も熱血男同様になるべく早く殺しておくべきだと思うけど、私はそんなに殺人は好きじゃない。


 私は殺人よりも拷問等の残虐な方が好きだし、そもそも私が見たいのは『あいつ』が泣き叫んで私に謝る姿だけ。他の常人・凡人の死体なんてどうでも良い。そんな物、そこ等辺に落ちているただのゴミ同然だ。


「輝瑠様。そろそろお時間です」

「ん?・・・・・ああ。もう、そんな時間なのね」


 私の背後から30歳半ばくらいの男の声が聞こえる。この男は以前はあの下衆3人の仲間で、今は私の下僕でありマネージャーの1人。利用価値は高くないとは言え、奴隷としては充分に機能していると思う。


「本日はこれから、午後20時30分より30分のバラエティー番組の収録です。その収録後車で移動して、午後11時からニュース番組の収録です。明日は・・・・・」

「相変わらず忙しいわね・・・・・」


 何で夜遅くまで働かないといけないんだか。青少年非行防止法とか知ってるの?いや、もう高校生だし、仕事で夜中に外出するだけなら当てはまらないのかな。どうでも良いか、そんな事。


 まあ、私は別にお金に困っている訳ではないし、私の本当の家族に気付いて貰う必要も無くなったから、この仕事は止めても良いんだけど、やっぱりアイドルと言うだけで色々と犯罪行動のカモフラージュになったり、大量のアリバイが出来る。


 それに、私に向けられる『憧れ』と『妬み』と言う感情が楽し過ぎる。まあ、そう言う意味では私の今の生活は充実・・・・・してるのかな?本来の女子高校生の生活なんて想像も付かないので、私にはよく分からない。


 大きな鏡の前に座っていた私は椅子から立ち上がり、そして、一言だけ呟いた後収録へと向かった。


「待ってて、もうすぐ殺しに行くからね。『なっちゃん』」


 私は次の月曜日が楽しみで楽しみで仕方無かった。私が直々に殺しに行くのだから、せいぜい楽しませて貰うとしよう。『あいつ』即ち『なっちゃん』に。

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