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Time:Eater  作者: タングステン
第四・五話 番外編六
105/223

第04部

【2023年09月24日17時01分13秒】


 時は既に夕暮れ。部屋の窓の外に見える空は夕焼け色に染まっている。寝ていても感じる事が出来た外の騒がしさも大分落ち着いた。その頃、俺はふと目が覚めた。


 はて、音穏が俺のお見舞いに来てドアの所まで送ってから何時間くらい経っただろうか。俺は何時間くらい寝ていたのだろうか。と言うか、今日はよく目が覚めるな。


 風邪を引いている時は寝るのが1番だが、実際にはそれ程疲れは溜まっていない。それで、その差によって深い眠りに付けていないのかもしれない。だが、夢を見なかったと思うので、そこまで浅い眠りではないはずだ。


 その時。俺は数時間前の音穏のお見舞いの時と同じく、俺に向けられている何者かの視線を感じ取り、その人物がいるらしい方向を向いた。


「・・・・・湖晴?」

「え?あ、次元さん。起きちゃいましたか」


 そこにいたのは、珠洲でもなく音穏でもなく、あの湖晴だった。昨日の昼の時に発生した問題以来、今の今まで俺と顔を合わせていなかった湖晴がそこにはいたのだ。


 見た所、体の具合は悪そうではなく、昨日の件について病んでいる様子も無かった。湖晴はいつも通りの白衣姿で、俺のすぐ隣で正座をして俺の事を見つめていただけだった。


「風邪はもう大丈夫なんですか?」

「まあ、今日はずっと寝てたからな。大分体調も良くなったよ」

「そうですか。それは良かったです」

「湖晴の方はもう大丈夫なのか?」

「はい。私の方も、もう大丈夫です」

「そうか。それなら良かった」


 俺が想像していたよりも湖晴のメンタルは強かったらしい。具体的に何が原因で何を思い出して湖晴が泣いていたのか、落ち込んでいたのかについて俺は何も知らないが、湖晴本人が『もう大丈夫です』と言っているから、もう大丈夫なのだろう。


 そして、俺は体を起こして、湖晴に聞きたかった事柄を1つずつ聞いて行く。


「あの時に湖晴は、あいつ等に特に何もされてないよな?別に、湖晴が思い出したくなければ、この話はもうしないが」

「話し掛けられたすぐ後に次元さんが助けに来てくれたので、私は何もされてません」

「それなら良かった」

「えっと、あの・・・・・」

「ん?どうした?」


 湖晴は何かを言おうとしていたが、上手く言葉が出て来ない様で、口をモゴモゴさせていた。俺がそんな湖晴を見て待っていると、湖晴はその台詞を言った。


「助けてくれて、ありがとうございました」

「ああ。・・・・・とは言っても、俺は何もしてないけどな」


 最終的には栄長に助けられただけだし。栄長がいなかったら、俺は更にボロボロになり、湖晴はあの不良3人組に何かをされていたかもしれない。そう考えると、少し寒気がする。風邪とは関係無く。


「ですが、次元さんは私の前に立って、守ってくれたじゃないですか」

「かなりボロ負けしてたけどな」

「そうだとしても、次元さんは・・・・・私の為に・・・・・」

「湖晴?」


 俺は自分がした事を当然の事だと思っている。しかし、その事は湖晴にとっては、かなり嬉しい事だったらしい。明らかに助けが必要な女の子が目の前にいるのなら、その子を守るのが当然だ、と俺は考えているのだがな。


「そう言えば、次元さん」

「ん?何だ?」

「1つ聞いても良いですか?」

「ああ。構わないが」


 湖晴は妙な前置きをした後、顔を少し赤く染め、手を軽く口に当てた状態で、恥じらいながら俺に聞いて来た。


「その・・・・・私を助けて下さった時に・・・・・次元さんが『俺の彼女に・・・』って言っていた様な気がするのですが・・・・・あれは・・・・・?」

「あー・・・・・」


 そう言えば、そんな台詞も言った気がする。あの時は、どうにかして湖晴をあの不良3人組から助けたい一心だったからな。何も深くは考えていなかった。それに、不良3人組の1人が湖晴に触れようとしていた事に対して、俺はかなり頭に血が昇っていたからな。さて、どう説明するべきか。


 何故か、少しだけ目が輝いている様にも見える湖晴に、俺はそんな台詞を言った理由を説明した。


「まあ、ああ言う風に言ったら、あいつ等も潔く引き下がるかなーって、思ったからな。だから、言ったんだ」

「・・・・・そうですか」

「湖晴?どうかしたのか?」

「もう良いです!放っておいて下さい!」


 あれ?何で湖晴は怒っているんだ?俺、今何か不味い事言ったか?


 だが、普段はずっと冷静に物事を判断し、最適な選択肢を選んで行く湖晴がこうやって俺に怒るのは珍しい。最近は何かに恥らう場面が少しだけ多くなって来た湖晴だが、怒っている姿もまた・・・、


「可愛いなー。本当に」

「・・・・・え?」

「え?」


 あ。声に出てた。


 俺が間違って放った台詞を聞いた湖晴が、言葉通りに目を丸くして、俺にもう1度聞き返して来た。俺も少しばかり動揺しながらも、その質問に答えた。


「今、次元さん、何と仰いましたか?」

「いや、湖晴は可愛いなーって」


 ボンッ!


 俺が湖晴に台詞を放った瞬間、そんな風に何かが爆発した様な音が聞こえた気がした。こんな爆発音を過去にも2回程聞いた気がするが、結局原因は何なのだろうか。


「ん?何だ?今の音・・・・・」

「・・・・・え?っえええええ!!!???」

「こ、湖晴!?ど、どうしたんだ!?」

「い、いえ。まさか次元さんからそんな事を言われるとは思いもしなかったので・・・・・」

「そうか?そう言えば、そうだったかもな」


 何かに焦っている湖晴を見てみると、湖晴の顔が真っ赤な事が確認出来た。全身の血が顔に集まっているのではないかと思ってしまうくらいに真っ赤だ。


 よく分からないが、湖晴にはまだ聞きたい事が山程あるので、1つずつ解決して行く事にしよう。


「湖晴」

「はい!?どうされましたでございますですか!?」

「ん?何か、いつもと口調が変わってないか?」

「き、気のせいでございますです!」

「・・・・・俺の気のせいなら、それで良いのだが」


 明らかに様子と口調がおかしくなっている湖晴だが、そんな事など特に気にする事も無く、俺は会話を進めて行く。


「昨日の湖晴の服、似合ってたぞ?」

「そ、そうですか?」

「ああ。音穏と栄長もかなり良かったが、湖晴の服はもっと良かったと思う。湖晴のあんな姿は希少だったからかもしれないがな」

「私もあの様な服を着るのは初めてでしたので、とても緊張しましたよ」

「だろうな。顔真っ赤だったしな」

「・・・・・いえ。それはまた別の原因だと思うのですが。(気付いてないんですかね?)」


 今言った通り、湖晴の服は湖晴にとても似合っていた。音穏と栄長の服選びのセンスが良かったのもあるが、普通に似合っていた。まあ、男の俺としては、そんな湖晴の豊満な胸や柔らかそうな太股に目が行ってしまう訳だったのだが、その事は今は言わないでおこう。


「あの服はもう着ないのか?」

「いえ。せっかく他にも幾つか購入しましたので、機会があれば着たいと思います」

「白衣の方が慣れていたり、機能性に優れているのは分かるが、湖晴も年頃の女の子なんだからお洒落の1つや2つはしたいもんな。俺はどっちも可愛いと思うがな」

「そ、そうですね。明日からは過去改変の時以外は着たいと思います」

「ああ」


 湖晴の白衣には爆薬等の化学薬品が大量に入っているからな。過去改変の際は何があるか分からないので、白衣を着る事をお勧めするが、普段の日常では白衣以外を着ていて貰いたい。その方が更に女の子らしくなるだろうしな。


「もう1つ良いか?」

「はい?」

「昨日さ、湖晴はアクセサリーを見てたんだろ?あいつ等に絡まれる直前に」

「ええ。まあ、結局買えませんでしたけど」

「そうか。それなら良かった」

「?何でですか?」

「ほら」

「・・・・・?これは?」


 俺はベッドのすぐ近くに置いてあった俺のバッグから、アクセサリーを1つ取り出した。銀白色の金属製のアクセサリーだ。


 俺は湖晴にそのアクセサリーを渡しながら、説明する。


「あの後、湖晴が泣きながら俺に抱き付いてたの覚えているか?」

「すみません。その時は完全に意識がありませんでしたので、全く覚えていません」

「だろうな。それで、その時に買っておいたんだ。湖晴に話し掛けても返事が無かったから、俺が適当に選んだだけだがな」

「ありがとうございます・・・・・大切にします」

「気に入って貰えたのなら、買っておいて良かったよ」


 湖晴はどう言うアクセサリーに惹かれていたのかが俺には分からなかった。本人に聞こうにも聞けない状態だったしな。だから、俺は『◇』の様な形のアクセサリーを湖晴にプレゼントした。まあ、この形に深い意味は無いが、何となくひしダイヤは女の子は好きそうだなと思ったので、これにしておいた。


 すると、そのアクセサリーを眺めながら、湖晴が俺に話し掛けて来た。


「私、次元さんに助けられてばっかりですね」

「そうか?湖晴だって俺を何度も助けてくれたし、音穏に阿燕、栄長に珠洲の事も過去改変と言う形で助けてくれたじゃないか」

「それはそうなんですけど、私も次元さんに何かお礼をしたいと思いまして。何でも言って下さい」

「別に良いんだよ。湖晴はそこにいるだけで」

「で、ですが・・・・・あ!」


 湖晴が俺に何かをしたいと言った、その時。何かを思い付いたのか、湖晴がそんな声を上げた。


「どうかしたのか?」

「次元さん!」

「お、おお?」


 急にテンションが高くなったな。


「次元さんはまだ風邪を引いてますよね?」

「あ、ああ。結構寝たから熱はもう無いかもしれないが、まだ少し風邪っぽいな」

「・・・・・知ってましたか?」

「何を?」

「風邪は他人にうつすと治るんですよ?」

「?あれって迷信じゃないのか?」

「細かい事は気にしたら負けです」

「?」


 つまり、湖晴が俺の風邪を代わりに引き受けて、俺の風邪を治してくれると言う事なのだろうか。だが、他人に風邪をうつしても治る、なんて言うのは迷信だったと思うし、そもそも湖晴に風邪をうつしてしまうのは、この俺が許さない。何の為に湖晴を守ったのか分からなくなるからな。


「それで、なのですが・・・・・」

「どうしたんだ?何か言いたい事があるなら言ってくれよ?」

「10秒間、目を閉じて下さい」

「目を?何故だ?」


 これから一体、何が始まると言うんだ?


「次元さんへのお礼をする為です」

「10秒で出来る事なのか?」

「はい。ですから、目を瞑って下さい」

「分かった」


 俺は、今から湖晴が何かをしてくれると言うので、それが何なのかを少しだけ予想しつつ、楽しみにしつつ、自分の目を閉じた。そして、その5秒くらいあと・・・、


 チュッ


「・・・・・・・」


 突然、俺の唇に何か柔らかい物が触れた気がした。それは今まで味わった事がない感触であり、何故か気分が高揚してしまう物だった。そう。それはまるで、『俺の唇に何者かの唇が触れた』みたいな物だったのだ。


 俺が目を開けると、そのすぐ目の前に湖晴の顔があった。湖晴も目を瞑り、俺の唇に自身の唇を合わせていた。つまり、それは・・・・・『キス』だった。


「・・・・・え?」

「・・・・・えへへ」


 俺の様子に気が付いたのか、湖晴はゆっくりとその唇を俺から離した。俺は自分の心拍数が急激に上昇している事に気が付いた。しかし、そんな事はどうでも良い。


 俺は大きく動揺しつつも、顔を赤く染めて恥らう湖晴に質問した。


「湖晴・・・・・今、何を・・・・・」

「風邪は治りましたか?」

「え?いや・・・・・え?」

「私の、次元さんへのせめてものお礼ですよ。えへへ」


 湖晴は頬を赤らめながら、満面の笑みでそう言った。


 それが、俺と湖晴のファーストキスだった。

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