表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Time:Eater  作者: タングステン
第四・五話 番外編六
102/223

第01部

【2023年09月24日08時19分59秒】


 『風邪』。


 『風邪』の定義は多々ある医学書によって様々であるが、『風邪』とは主にウイルスの感染による鼻腔や咽頭等の上気道の炎症性の疫病に掛かった状態の事であり、咳嗽、咽頭痛、鼻汁、鼻づまり等の局部症状、及び発熱、倦怠感、頭痛など全身症状が出現した状態の事を指す。西洋医学的には風邪症候群と呼んでいる事が多い。


 ー〇ィキ〇ディ〇より


 つまり、頭痛や発熱があり、全身がビリビリとしていて、全身を自由に動かす事が叶わない今の俺は、その風邪の主な定義に当てはまり、何らかのウイルスに感染していると言えるのだ。本来の俺にとったら有意義な睡眠時間でも、こんな状態では少しばかりの苦痛を覚えてしまう。


 風邪を引いている時の睡眠程、眠り難い時は無い。勿論、服用する薬の成分的の関係上では眠くなっても当然だが、そう言う意味ではない。


 自らの意思ではなく、外部からの干渉(この場合は薬の服用)によって強制的に眠らされている感じがしてならないのだ。体が疲れている時、あるいは体に何らかの異常が発生している時。いずれも体を休める事によって、ある程度、もしくは完全に治す事が出来る。


 そうだとしてもだ。俺は眠りたい時に眠りたい。眠りたくない時には眠りたくない。反抗期ではない。俺はグラヴィティ公園で湖晴と出遭う前、つまり2週間前までは土、日曜日は1日中眠っていた。そして、今も普通に眠い。だが、何となく寝たくない。また、この気持ちを共有出来る友達が欲しいものだが、残念ながら、俺にはそもそも友達がいない。


 この様な話題になったのでここで一応説明しておく事にする。俺はロングスリーパーだ。それも、かなり過度なロングスリーパーだ。だが、ナルコレプシー等の眠り病ではない。俺の場合は、他人よりも少しだけ眠くなり易い体質なだけで、基本的に寝るか寝ないかの判断権は俺にあるのだ。


 稀に自分の意思とは関係無く気絶して、その直前の記憶を失う事があるが、今回は例外とする。


 つまり、いくら風邪だからと言って、寝たくないと思えば寝ずに済む事も可能・・・・・、


「お兄ちゃん。風邪引いているんだから、寝た方が良いよ。うん」

「・・・・・・・」


 自室のベッドの上で横になり、布団に包まっている俺の枕元。そこに座る珠洲に突然そんな言葉を掛けられた。ちなみに、珠洲は10数分前からここに座っている。看病の様な事をしてくれている。


「と言うか、今の論理は一体何?お兄ちゃん」

「あ、聞こえてたか?」

「『風邪』から『可能・・・・・、』まで」

「全部か・・・・・」


 何故だろうか、時々俺はこの様に自分の考えている事が勝手に言葉として外に漏れている時がある。特に疚しい事は考えてはいないので、別に俺の思考が外に漏れていても問題は無いのだが、それでも少し気持ち悪い。自分の意識外で、自分の思考が先読みされている様な気がして。


「それはそうとして、今日は1日安静にしてるんだよ?」

「分かってるよ」


 どうせ、する事無いしな。今日は元々何の予定も入っていなかったはず。昨日は昨日で色々あったから、音穏や栄長から遊びに誘われる事も無いだろう。


「昨日と比べて、体温も少し上がってたし」

「何度だったっけ?」

「お兄ちゃんが起きてすぐに計った時は確か・・・・・39,9?だったかな?」

「40度に行っていないだけましか」


 人は確か、体温が42度になると死んでしまうらしい。何か生命維持に必要な細胞が壊れるとか何とか。だから、旧式の水銀体温計は表示が42度までしかされていないそうだ。俺はデジタルの体温計しか見た事が無いので、本当の所はよく知らないが。ちなみに、この話はネット上で見ただけだ。


「もしかして、インフルエンザかな?」

「時期的にはまだ早いんじゃないか?まあ、この間何日か雨に打たれ続けたからな。そのせいだとは思うが」

「雨?最近雨なんて降ったっけ?」


 俺が珠洲にそう聞くと、珠洲は可愛らしく首を傾げて逆に聞いて来た。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 暫くの沈黙。そして、俺は自分の中に生まれた1つの疑問を珠洲に投げ掛ける。


「え?雨、降ってないのか?」

「うん。ここ1ヶ月はずっと晴れか曇りだよ?」

「そうか・・・・・」


 これもやはり過去改変の影響のせいだろうか。珠洲までの3人の過去改変の時には見られなかった現象だ。『俺が知っているこの世界(過去改変前)』と『俺の知らないこの世界(過去改変後)』が色々と違い過ぎる。生活する分には全く問題無いが、やはり皆と話が合わなくなるのは少し辛い。


 確かに、珠洲の過去改変は『過去』でも『現在』でも俺がかなり多くの人と関わってしまった。結果、成功こそしたものの、その影響が大きくなってしまったのは分かる。だが、幾ら何でも変わり過ぎではないだろうか?小さな所から、大きな所まで。


 ましてや、たった1回の過去改変で気象状況までもが変わるなんて事が有り得るのか。俺はそんな事にまで影響を及ぼしてしまったのか。いや、もしかすると今までの3回の過去改変の時も似た様な変化があったのかもしれない。俺が調べていないだけで、実際には天気が変わっていたりしていたのかもしれない。


 俺が布団に包まりながら黙って考えていると、珠洲が心配そうな目をしながら俺の事を見ているのが分かった。俺は珠洲に心配を掛けない為に、すぐに会話を再開した。


「そう言えば、珠洲は俺の近くにいたら危ないんじゃないのか?」

「何で?」

「『何で?』って、珠洲は受験生だろ?だから、風邪をうつしたら悪い」


 受験生は特に体に気を付けないとな。まあ、珠洲は栄養に関してはかなり詳しくて気を付けているので、余程の事が無い限りは風邪なんて引かないと思うが。そう、『馬鹿は風邪を引かない』なんて迷信なのだ。この迷信が真実なら、この世界中の人間の大多数が馬鹿になってしまう。そんな世界は嫌だ。


 すると、珠洲が少しばかり驚いた表情をしながら、俺に聞いて来る。


「もしかして、ワタシの事を心配してくれたの?」

「そりゃするだろ。妹なんだから」

「・・・・・ありがと」

「お、おう」


 ・・・・・何だ、この気まずい雰囲気は。今俺が何か不味い事を言ったか?珠洲を心配して一言言っただけのはずだが。


「でも、大丈夫だよ。もう受験勉強は大体終わったから」

「え?まだ9月だぞ?早過ぎないか?」

「まあ、範囲自体は大分前にはもう学校で習い終わっていたんだけどね」

「あー、そうだったな・・・・・」


 以前、過去改変前に珠洲のクラスメイトの垣花が珠洲の宿題を届けに来てくれた時に、その届けに来てくれた宿題用の問題集の表紙に『高校数学Ⅱ』と書かれていたのを俺は覚えている。つまり、珠洲は中学3年生にも関わらず、高校2年生である俺と同じ事習ってる。おかしいな、一応2歳離れているはずだが。


「さっきは過去問を解いてたんだよ」

「『さっき』って、珠洲が起きてからまだ2時間くらいだろ?それに、朝ご飯を作ったり、俺の看病をしたりで、そんな時間は無かったと思うが・・・」

「朝ご飯作りながら解いたし」

「マジ?」

「うん」


 朝ご飯を作りながら過去問を解くとか、どうやって解いたんだろうか。まさか、問題を1つ残らずを覚えているとかそんな訳無いよな。まさかな。


「結果は?」

「9割は取れてたと思うよ」

「2年前、俺が受験生の時は2月の時点で6割くらいだったと思うのだが・・・・・」

「でも受かったじゃん」

「まあな」


 俺は昔からずっと、学校の定期テストに限らずテストは極めて平均的だ。中学生の頃は教科毎に少しずつ差はあったものの、今では全教科が完全に平均点ぴったりだ。全教科が学年平均を四捨五入して整数にした点数と同じだ。自分でも『逆に凄い』と思う。


「そう言えば、珠洲は何処の高校に行く予定なんだ?」

「あれ?言ってたなかったっけ?」

「聞いてないな」

「お兄ちゃんと同じ高校に行くつもりだよ?」

「は!?」

「ど、どうしたの?お兄ちゃん」


 俺の突然の大声に、目を丸くして驚く珠洲。俺はそんな珠洲の事を確認する事暇を作る事なく、今珠洲が言った台詞について色々と意見を述べて行く。


「俺の高校偏差値52だぞ?偏差値50は大体平均点くらいだから、中の中のやや上くらいのレベルだぞ?珠洲はもっと偏差値あるはずだろ?それなのに・・・」

「でも・・・・・お兄ちゃんと同じ高校に行けば、兄妹揃って学校に行けるでしょ?ほら、ドラマとかでよくあるじゃん?」

「・・・・・つまり、俺がいるからなのか?」

「え?う、うん」


 珠洲は少しだけ頬を赤らめてそう言った。義妹とは言え、可愛い妹だ。こんな風に俺の事を想っていてくれるし。


「学校の先生には反対されなかったのか?」

「勿論反対されたよ。担任の先生に『上垣外さんは英理親和学園に挑戦しても構わない様な学力を持っている!』とか大声で言われた」

「英理新和学園・・・・・」


 『英理新和学園』。以前、俺はその学校名を聞いた事があった。


 しかも、俺は湖晴から聞く前からその名前を知っていた様な気がする。俺は受験なんて『適当に、近くてそこそこの所に行けば良い』と考えていたので、原子大学付属高等学校以外の高校名はほとんど知らないはずなのに。


 それなのに、今の俺はその学園の名前を聞くと同時に、少しだけ気分が悪くなった。俺の記憶には無く、この世界では有り得ないはずなのに。何か、物凄く嫌な思い出があった様な気がして。


「どうかしたの?お兄ちゃん」

「・・・・・いや、確か湖晴が通っていた学校がそんな名前だったからな。それに、偏差値が80もあるって、音穏が言ってたな」

「へー。湖晴さんって、そんなに頭が良かったんだ。知らなかった」

「一応言っておくが、この事は湖晴には聞くなよ?」

「?何で?」

「俺は詳しい事は知らないが、昔湖晴はどうやらその学校で何かがあったらしいんだ。だから、なるべく思い出させない様にしたい」

「・・・・・分かった。じゃあ、この話は聞かなかった事にするね」

「話しておいて悪いな」

「気にしなくても大丈夫だよ」


 そして、俺は蒲生が喫茶店で言っていた台詞を思い出す。『湖晴は養子であり、その両親は何者かに殺害された』『湖晴は養護施設には行かなかった』『湖晴は自殺未遂をしている』『湖晴は高校を中退している』『湖晴は死亡が確認される直前に行方不明になった』。


 これらの事柄は何かが関係している様に思える。しかし、今の俺には、それが何なのかは分からない。何か大事な事柄を見落としていると言う事はわかるのに。それが湖晴の辛い過去の様な気がしてならない。だから俺は、珠洲に『湖晴に聞かない様に』と言っておいたのだ。


 すると、珠洲が突然何かを思い出した様子で俺に話し掛けて来た。


「そうだ」

「ん?」

「何日か前に、お兄ちゃんが入っているお風呂場にうっかり入っちゃった時あったじゃん?」

「うっかり?いや、あれは珠洲が自らの意思で入って来たんじゃなかったか?」

「え?・・・・・えええええ!?ワタシそんな事しないよ?そりゃあ、お兄ちゃんとお風呂に入れるのなら良いけど・・・・・でも!そんな事はしません!」

「そ、そうか。悪かった。俺の記憶違いだったみたいだ」

「もー、びっくりさせないでよー」


 そうだった。今ここにいる珠洲は俺の知っている珠洲とは少し違うのだ。過去改変により、何かが違うのだ。その証拠に今の台詞だ。過去改変前の珠洲ならば、もう少し別の言い方をした事だろう。


 と言うか、この世界の俺も珠洲と風呂に入ったのか。俺が許可したのか、珠洲がそのまま入ったのかは不明だが。


「悪い悪い。それで、その時がどうしたって?」

「あー、そうだった。えっと、その時の会話覚えてる?」

「さあ、何だったかな」


 勿論覚えているが、余計な事を言って混乱させてしまうよりも、珠洲に話して貰ってこちらが話を合わせる方が効率的であると考えた俺は、そんな風に適当に知らないふりをした。


「忘れちゃったの?お兄ちゃん。まあ、良いけど。その時に『垣花彗さんが~』とか言ってたじゃん」

「そんな話もあったな」

「あの子ね、学校でワタシと同じクラスだったの」

「知ってる。だから、宿題届けてくれたんだろ?」


 その宿題が『高校数学Ⅱ』と言う表紙の数学の問題集だろ。知ってるよ。


「それで、垣花さんはこの間の学校のテストの総合得点がワタシの1個下だったの」

「ちなみに珠洲は上から何番目?」

「1番目」

「頭良過ぎるだろ。それは・・・・・」


 珠洲は一体何者なんだ。市内でもそれなりに有名な私立中学に通い、しかもその成績は学年1番。これでは確かに、世間一般の評価が品行方正・文武両道・才色兼備であるのも頷ける。むしろ賛同してしまう。


「いや、本題はワタシの成績の事じゃなくて」

「そうだった。それでどうしたんだ?」

「その垣花彗さんって言う女の子さ・・・・・」


 そして、珠洲はサラッと衝撃の事実を述べた。その事実は俺の知らない所でまた1つ、この世界の歯車が大きく狂い始めている事を示す、大きな証拠となった。しかし、その事をこの時の俺は気付く事が出来なかった。俺がその真実を知るのは、まだまだ先の話なのだ。


「この間の水曜日の晩に通り魔に『殺されちゃった』んだって」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ