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Time:Eater  作者: タングステン
第四・五話 番外編五
101/223

第04部

【2023年09月23日11時53分44秒】


「おい。『俺の彼女』に触ろうとしてるんじゃねえぞ。クズが!」


 俺は、不良に絡まれてどうする事も出来なくなっていた湖晴を後ろに、その湖晴の体に触れようとしていた不良3人組の内の1人の腕を本来あるべき方向とは逆へと曲げつつ、そんな台詞を言った。


 よくも湖晴に触れようとしやがったな。クズ野朗共。


「じ、次元さん・・・・・」


 すると、背後から、安堵の声とも取れる湖晴の溜息の様な声が聞こえて来る。どうやら湖晴は無事の様だ。取り合えずは安心だ。


 だが、俺はそんな湖晴の方を振り返る事なく、不良3人組を睨み付ける。


 『知り合いの女の子が不審者に何かされそうになっている場面を俺が助けようとする』と言うシチュエーションを、俺は以前にも体験している。だが、それは何時だったのか。また、誰を助け様としたのかは思い出す事が出来なかった。


 かなり前と、少し前。絶対に2回はあったはずだ。いや、更にもう1回・・・・・遥か昔過ぎて覚えていないくらい前にも1回あったかもしれない。その内の1回は音穏だったのを覚えているが、他の2回は誰と誰だっただろうか。分からない。


 俺に腕を逆方向に曲げられ、徐々にその痛みが顔面に出始めた不良を含めたその不良3人組を睨みながら、俺は更にその不良の腕を曲げている方の手に力を入れた。


「いででででで!!!!!」

「て、てめえ!何しやがる!」

「何だこいつ!こいつ、この女の連れか!?」


 すぐに腕を振り払われた。まあ、当然と言えば当然だろう。俺の力が弱くても普通に痛いだろうしな。


 しかしながら、ついさっき俺の中でブチ切れた何かは既に修復不能だった。俺は何時でも戦闘に入る事が出来る様に体を身構えながら、未だかつて1度も出した事が無い様な大声を張り上げた。


「お前等、湖晴に今何をしようとしてたあああああ!!!!!」


 その大声に、目の前の不良3人組と俺達の周囲にいた他の何人かの来場客が反応する。しかし、誰も俺と湖晴を助けようとしない。巻き込まれたくないのだろう。


 人は大多数の前では『助け合い』やら『平和平等』を1番目標に掲げておきながら、いざその目標を妨げる様な現場に遭遇しても何もしない。何かをしようとすらしない。自分さえ大丈夫なら、他人がどうなろうが知った事ではないのだ。人とはそんな物だ。その程度の物だ。


 ・・・・・だったら、俺が1人で湖晴を助けてやる。


「チッ。また面倒臭いのが来ちまったなぁ・・・・・」

「どうする?」

「取り合えず、やっちまうか」


 すると、不良3人組の内の1人が突然俺に殴り掛かって来た。パンチを避ける手段も、受け流す手段も知らない俺はそのまま後方数メートルに飛ばされた。そして、そのまま俺は床で背中を強打した。


 殴られた箇所と、床に強打した背中が痛む。脳が揺さぶれ、途絶えそうになる。そのまま何時までも、何処までも寝てしまいそうになる。


「次元さん!」


 突然、そんな湖晴の声が聞こえた。その声を聞いた俺は軋む体を無理矢理起こし、そのまま湖晴に指示を出した。


「湖晴!ここから走って5分くらいの所にベンチがある!そこに音穏と栄長がいるから、3人で先に帰れ!」

「で、でも・・・」

「俺は良いから、早くしろ!」


 しかし、湖晴は動こうとしない。タイム・イーターも化学薬品も何も持っていない今の湖晴はただの普通な女の子なのに。


 本来ならば、この様な場面ではさっさと俺が湖晴を連れて逃げるべきなのだろうが、もうそんな事を言っていられる様な場面ではなくなっている。俺が最初に不良3人組の内の1人の腕を逆方向に曲げる、と言う事をしてしまっているので、おそらくあの3人はまだ追い掛けて来るだろう。


 だから、俺がこの場を食い止め、湖晴を逃がすつもりだったのだが、肝心の湖晴が一歩も動こうとしない。しかも、見た所、少し震えている様にも見えた。怖いのだろうか。


「うらあああああ!!!!!」


 反撃とばかりに、立ち上がった俺は全力でその不良に殴り掛かった。


「うっせえんだよ!おにーさんよぉ!」

「グハッァ!」


 殴り掛かるその1歩手前で力強く腹部を殴られた。それにより、猛烈な吐き気と内臓が破裂したのではないかと思ってしまう様な強烈な痛みが走った。音穏や栄長に殴られたり蹴られたりした時とは全然比べ物にならない。


 そもそも、喧嘩で1対3と言うのが無理な話だったのだ。しかも、向こう側の3人は全員がかなり体格が良く、おそらく喧嘩のプロだ。対して、こちら側は平均的な体格で、いつも寝てばかりいる帰宅部。敵うはずもない。


 俺を殴った不良は地べたに倒れた俺の首元を掴むと、そのまま持ち上げて問い掛けて来る。


「おいおい。さっきから聞いてりゃ、まるで俺達が悪者みたいじゃねえかぁ?なぁ、おにーさんよぉ!」

「・・・・・どう見てもお前らが悪だろ」

「ああん?いきりやがって!死にてぇのかぁ?」

「俺の事は別にどうでも良い。湖晴だけは逃がしてくれ」


 俺が幾ら殴られようが、幾ら蹴られようが、そんな事はどうでも良い。俺はただ、湖晴には絶対に傷付いて欲しくないだけなのだ。身体的にも、精神的にも。『以前にもこんな事があった気がするから』。


「成る程。あそこにいる可愛い子ちゃんは湖晴ちゃん、って言うのかぁ」

「気安く湖晴の名前を呼ぶな」

「まあ、そんなに怒るなって。そこで彼氏さんよぉ。少しで良いから彼女を貸してくれないかねぇ?別に何も変な事はしねえよ。変な事は、な」

「そんな事、出来る訳ないだろ。少しは考えろ、クズが」


 直後、再び俺の全身に強烈な痛みが走った。どうやら俺は再び地べたに投げられたらしい。そして、そのまま3人組に蹴られているのだろうか、腹や背中が痛い。それに、口の中を切ったのか、口の中が血の味がする。


 こうなってしまったら、もうどうする事も出来ない。3人に囲まれている以上、抜け道を探す事も出来ない。力で対抗しようにも、そんな力は俺には無く、知識を使う事で勝てる様な場面でも無い。


 俺は、そんな苦痛と絶望の無限ループの中で頭を抱えつつ、どうにかしてこの状況を打破しようと考えていた。何か方法は無いか。俺は『やはり、どうしても』湖晴を救えないのか。


 そんな状況が1分程度続いた、次の瞬間だった。


「ゴファッ!」

「な、何・・・・・ガッ!」

「痛ぇ!」


 そんな風に、何かに痛がる不良3人組の声が聞こえ、俺の全身に走っていた痛みが無くなって行くのが分かった。何があったと言うのだろうか。


 念の為俺は、頭を抱えて蹲っている状態を維持しておいた。そう言えば、湖晴の声が聞こえないが大丈夫だろうか。連れ去られたりしてはいないだろうか。


「大丈夫だった?次元君」

「え、栄長!?」


 突然のそんな声を聞いた俺は蹲っていた自分の体を起こすと、そこには栄長がいる事が分かった。右手に金属製の特殊な棒であるテレポーターを持っていた。


「やっぱり、様子を身に来て正解だったわ。それにしても、次元君はまた何の策も無しで立ち向かって行ってボロボロになったのね」

「『また』?」

「・・・・・何でも無いわ。さっきの奴等は私がテレポーターで近くにあったゴミ入れを投げたら、叫びながら何処かに走って行ったからもう大丈夫よ」

「そうか・・・・・」


 何か、最近は事ある毎に栄長に助けられている気がする。俺が弱いと言う事と、栄長の勘が良いと言う事の両方が作用した結果だろうが、それでもやはり情けない気持ちになってしまう。


 まあでも、今回は俺だけでなく湖晴の事を助けてくれたから・・・・・そうだ!湖晴は!?


「湖晴は!?湖晴は何処だ!?無事なのか!?」

「ええ、湖晴ちゃんなら。ほら、そこに」


 栄長に指示された通りの方向を向くと、そこには顔を俯けて立ち竦む湖晴の姿が。ついさっき、店内で皆といた時までの様な楽しそうな雰囲気は微塵も感じ取れなかった。


 俺が急いで湖晴の元に向かおうとすると、栄長に話し掛けられて止められる。


「しっかりフォローしときなさいよ?」

「分かってる」

「それじゃあ、私はもうこれで帰るから」

「え?何でだ?」


 1つ問題はあったが、もう解決したのだから全員で何処かの店にでも入って昼飯を食いに行けば良いものを。


「いや・・・・・さっきメールで知ったんだけど、クロがまた何かしでかしちゃったみたいで。その後片付けみたいな事をしないといけないのよ」

「・・・・・成る程な。そう言えば、栄長と蒲生は仲が良いな」

「そう?まあ、幼馴染だからね」


 そして、地べたに座り込む俺の耳元で栄長は一言囁いた後、そのまま歩いて言った。


「今回は次元君のお手柄よ。私が助けた事については『借り』とかは言わないから、自分が助けたって事にしておきなさい。それじゃあね」

「お、おお」


 栄長が歩いて行く後ろ姿を少し見届けた後、俺は立ち上がり、湖晴の元へと歩いた。そして、声を掛ける。


「湖晴。大丈夫だったか?」

「・・・・・・・」


 俯いたまま、湖晴は返事を返してくれない。俺がもう1度声を掛けようとすると、湖晴が何かを小声で言っている事が分かった。


「・・・いや・・・もう傷付きたくない・・・・・傷付けたくない・・・・・。2度とあんな暗闇に閉じ込められたくない・・・・・。次元さんを・・・失いたくない・・・・・」


 湖晴は頭を抱え、体を震わせながらそう言っていた。もしかして、今の出来事が湖晴の過去にあった何らかのトラウマを思い出させてしまったのだろうか。


 目の前で何かに不安を抱いている女の子がいる。その場合、どうするか。答えは簡単だ。その女の子、この場合は湖晴をその不安から救い出す。


「湖晴!もう大丈夫だ!俺ならここにいる!」

「じ、げん・・・さん・・・・・?」

「湖晴はもう何も心配しなくて良いんだ!安心しろ!」


 目からいつもの輝きが失われている湖晴は俺の事を確認すると、ゆっくりと俺の名前を呼んだ。そして、そのままボロボロと泣き始めてしまった。


「次元さん!」


 湖晴は自身の顔を俺の体に押し当て、抱き付いて来た。余程怖かったのだろう。余程俺の事を心配してくれていたのだろう。俺はそんな事を思いつつ、湖晴の事を両手で抱き返した。優しく、そっと。


 そんな俺達の事を見ている他の来場客からの視線がやや痛かったがそんな事は今の俺にはどうでも良かった。俺は栄長の力を大きく借りたとは言え、湖晴を救えたのだ。今は、それを確認するだけで充分だった。


 そのまま俺は、俺に抱き付いたまま中々離れない湖晴を連れて音穏の元へと戻った。端から見たら、多分俺達は『平然とショッピングモール内でいちゃいちゃするリア充カップル』の様に見えただろう。実際にはそうではないがな。


 音穏の元へと戻ると『俺は全身傷だらけ、湖晴は俺に抱き付いたまま泣いている』と言う光景を見た音穏が、栄長が帰って来ない、と言う事を含めて俺に聞いて来た。


 その時の俺が音穏にどの様にこれらの事を説明したのかは、もう覚えていない。だが、1つだけ明確に、それも簡潔に覚えている事があった。


 俺は家に帰った後、帰り道で寝てしまった湖晴を湖晴の部屋で寝かせた。その後、妙に体がダルかったので、念の為に体温を測ったのだ。


 39,6度ありましたとさ。


 ともかく、これで俺と湖晴と音穏と栄長4人で行った買い物は無事に終了した。最後の最後で台無しになった感じもあったが、それでも今日は楽しかった。


 明日は寝よう。風邪引いたし。

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