第01部
【2023年09月11日18時06分06秒】
「起っきろー!」
静かに眠っていた俺は横腹を力強く蹴られ、そんな大声と同時に目が覚めた。あまり爽やかな目覚め方ではない。誰がこんな目覚め方をしたいものか、と俺は横腹の痛みをこらえながら思った。
俺は上垣外次元。偏差値五十二の公立原子大学付属高等学校に通う高校二年生だ。
ここで正直に宣言しておこう。俺には世間一般的に“特徴”と呼ばれる物が無い。皆無である。もちろん特技も無いし、得意な事も無い。学力も運動神経も全部平均的だ。でも俺は今の状態が自分の、いや、この世界の理想的な姿だと信じている。そう、平凡こそ最強なのだ。詰まる話、俺は“平凡主義者”だ。
「次元! 全く! いつまで寝てんのー!」
自分の腕を枕にしうつ伏せに眠っていたらしい俺は机から顔を上げ、その声とさっきの暴力の主を見る。
そこには俺にとってはよく見知った、茶色の短髪でリボンを二つ付けた女の子が立っていた。
「……なんだ、音穏か……」
俺は思った事を呟いた。その声と暴力の主は、野依音穏と言う俺と同じクラスで小学生の頃からの幼馴染みだった。
「『……なんだ、音穏か……』じゃなーい!」
俺は再び横腹を蹴られた。
音穏はいつもはよく無邪気な表情で言葉通りの活発な女の子だが、今は怒っている様で何だか顔が怖い。よくよくその姿を見てみると、俺と同じ原子大学付属高等学校の青っぽい色の制服を着ている事が分かり、ここが学校内もしくはその近くである事が推測出来た。
「今何時だと思ってんの!」
「い、今?」
音穏に問いかけられ、俺はやや焦りながらも取り合えず窓の外を見た。
窓の外は日がほとんど沈んでいるせいか、夕焼け色の景色が広がっていた。また、グラウンドも見えており、そこで大きな声を出して女子ソフトボール部が練習している姿が見えた。
俺が通っている原子大学付属高等学校は全校生徒の約七十パーセントが女子であると言う事も関係しているのか、創立以来女子ソフトボール部と女子剣道部が県代表になる位の強豪で、その業界ではそこそこ有名らしい。人数が多いだけで何故そこまで強いのか詳しい事は全く知らない俺だが、少数派の男子も頑張れよ、と思ってしまう。
それはともかくご苦労な事だ。俺にはそんな事は出来無いと思う。平凡主義者の俺は帰宅部だしな。そう、平凡こそ最きょ……、
「ちっがーう! こっち!」
「ゴフッ!」
数分間グラウンドを見ながら自分の理論を展開していた俺の顔を、音穏は手で無理矢理百八十度回転させ、教室側に向けさせた。
首がやや変な音を立てたがそんな事を気にしている暇も無い程の速さで、首を骨折して一回死んだのではないかと思ってしまう位の勢いだった。
俺が見た先にあった学校の教室はいつも通りの風景だった。しかし、そこにある綺麗に並べられている椅子に座っている者は誰一人としておらず、ガランとしていた。つまり、教室の中には俺と音穏以外には誰もいなかったのだ。
音穏に顔を掴まれながらも、俺は横目で黒板の横にかけてあるプラスチック製の時計を見た。その時計の針は六時を少し過ぎた所を指し示していた。
「分かった?」
音穏に笑顔でそんな事を聞かれた。それはもうこれ以上無いって位の満面の笑みだった。
今日もいつも通りの日々だ。
でも、この時の俺は知らなかった。まさかあんな結末が待っていようとは。