終末の日を乗り越えた時
場合によっては心を傷つけるかもしれません。
やあ、君。
その様子から察するに、2012年12月21日には滅びは来なかったようだね。
本気で来ると思ってパーッと使ってしまった?…それはご愁傷様。
だが、浪費してしまっても問題はない。
どうせ、この世界はもうじき滅ぶことになるのだから。
どういうことかって…
君は知っているだろう?
滅びの時、つまりマヤ文明の暦が切れるのは2012年12月21日から2012年12月23日までの間だ。
2012年12月21日に滅ぶというのは、その範囲の中での一日に過ぎない。
事実、海外では2012年12月22日に滅ぶという説が最有力視されている。
つまり、2012年12月21日が過ぎたからといって、乗り切ったと考えてしまうのは早計。
ぬか喜びは置いておいて、現実を直視しよう。
そもそも2012年12月21日に本当に滅びは起こらなかったのか。
…自分がこの文を読んでいることがその証明だって?
それは「君」の話であって、「君以外」が滅んだなんてわからないだろう。
いいや、正確には「君以外の大半の人は滅んだ」というべきか。
ちゃんと家族も健在だし、友人もいるって?
…君はわかっていないようだね。
君の家族、友人の大半は滅んでいるよ。
「滅びの陰謀機関」によってね。
君の今住んでいる家や、実家に住んでいる人は、陰謀機関が仕向けたスパイだ。
特殊メイクを施しているから、傍から見れば全然わからない。
事前に回収してある個人情報を基に、外見や性格もほぼ一致した人が派遣される。
さすがに遺伝子検査までされれば…だけど。
でも自分の母親を突然遺伝子検査なんてしようとするかい?
…どうして自分は滅びなかったって?
ああ、それは簡単な話だよ。
君が2012年12月21日に滅ぶことを、知らなかったからさ。
みんな騒いでいたのだから知らないわけがないし、自分も2012年12月21日に滅びると思った?
大多数の人が同じ意見を言えば、少数の違った意見を持った人はそれに同調する。
君は本来は2012年12月22日に滅ぶと感じていた。
なのに、他の人は揃いも揃って2012年12月21日終末説を信じるものだから、
その流れに追従していただけの話。
君は、2012年12月22日に滅びることになるだろう。
どのように滅ぼされるかって?
普通、滅びとか死といえば「黒」や「赤」を連想する。
でも、実際はそうじゃない。
「桃」だろうが「肌色」だろうが「水色」だろうが「金色」だろうが滅びは滅びだ。
「透明」なんて、最も滅びに近い色だろうね。
君は突然意識を失い、それ以降は君の代理が、平然と君の役割を果たすことになる。
どう失うかは人それぞれだけれど、とにかく君が知ることじゃないし、逃れられないことも知っている。
もし、22日で滅びなかったら?
…これを読んでいる君にはまあ、ありえない話だよ。
なんたって、これを読む直前まで、滅びる日を知らなかった君は、
2012年12月22日で滅ぶことを知ってしまったのだから。
まあ、忠告だけしておくよ。
意識があるからといって、それが自分の意識だと感じてはいけない。
その肉体は既にスパイに乗っ取られている。
瞬きをするのもあまりよろしくない。
瞬きをする間に、スパイが君を乗っ取るチャンスが100回は生まれる。
人と話をする時は、あまり信用はできない。
言うまでもない話だけど、2012年12月21日の時点で大半の人はスパイに置き換わっている。
最後の一日を、まあ楽しんでおくといい。
もし、仮に2012年12月22日を乗り越えても油断はできない。
マヤ暦が予言する滅びの範囲は2012年12月23日も該当する。
つまり、昨日から、今日、そして明日まで、3日間をかけてほとんどの人類はスパイに置き換わる。
さて、興奮も最高潮まで達した。
最後に補足説明を行っておこう。
「ほとんどの人類」がスパイに置き換わる、と説明したが、この文を読んでいる君には関係ない。
…君は確実に滅びる。
この「ほとんど」から漏れ出てしまった人は、本当にごくわずかの、選ばれた人間だ。
今までの生涯で、マヤ文明の滅びについて知らされておらず、ニュースや人の話を聞いておらず、
なおかつ友人や家族もマヤ文明について知らない。これは相当厳しい条件だ。
まあ、そんな人にも、ちゃんと待っているものはある。
幸か不幸か、終末の日を乗り越えた時には
月曜日が待っている。
こんなはずじゃなかった。