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■20121114 町工場のロケットオヤジ

お題:男の罪人 必須要素:セリフ無し 制限時間:30分 文字数:1308字


 男は空を見上げた。

 青くて雲一つないさっぱりとした天気で、清々しい日になりそうだった。

 手拭いひとつで額の汗を拭う。

 周りを確認して、監視員がこちらを見てい無い事を確認して、作業の再開をする。

 何気に厳しい環境で、男も内心でいつ監視員に目をつけられるかとビクビクしながらも、今の作業を楽しんでいる事に内心驚いていた。

 ここは刑務所の中の軽作業場。

 そう、男は受刑者だった。


 男はどこにでも居る普通のヤツだった。

 何気なく生きるという事に抵抗感を覚えてツッパリ、非行に走り、ついにはヤクザの構成員になった。

 いざとなったら鉄砲玉に成れとも言われていたから妻子は持たず、時には犯罪を起こす事にまでなった。


 男が捕まった動機は麻薬所持。

 所謂バイヤーで、社会人向けに売りを行っていた。

 初めは慎重に行っていたが、手慣れて来ると荒が目立ち……そしておとり捜査に引っ掛かって敢え無くご用。

 今では高い壁の中だ。

 男は最初、作業をする事を拒み続けていた。

 特に農作業に関しては最も抵抗しただろう。

 今まで散々人を食い物にして、あぶく銭を稼いできた所為か、手を土で汚してまで仕事をするのがバカバカしかった。

 それでも、監視員に無理矢理放り出されて農作業を行う内に、彼には思う所があった。今まで自分は物を作ったり生んだりした事は無く、壊してきてばかりだったんだな、と。

 次第に物を生み出す作業にのめり込んでいった男。

 真面目に今まで生きてこなかった分を取り戻すように軽作業、特に生産作業に興味を見出して必死に頑張るようになった。


 2年の刑期を終えて、男は頭を丸めて組に出向いた。

 男はシャバに出たら、なにかの生産業の仕事に就きたいと本気で思っていた。

 組の上司に必死に頭を地面にこすり付けながら懇願し、彼は組からの足を洗う許可を貰った。

 上司も強面だが人が良く、示しとして指を落とさずとも良いと言ってくれた。

 男は涙交じりに感謝を述べて、組を後にした。


 それからの彼は苦労の連続だった。

 前科持ちの元ヤクザ、普通の会社が雇ってくれるはずも無く、彼は足繁く多くの工場やその関連会社へ就職活動で訪れる。

 もうダメか、と思った所で一つの町工場で昔気質のオヤジさんが経営していた工場に迎え入れられた。

 オヤジさん曰く、彼の真摯な態度と熱意を買ったとの事。

 男はそんなオヤジさんへの恩義に応えるためにせっせと仕事をし、腕を磨き、30を超える頃にはオヤジさんの一人娘さんと結婚して……大成した。

 60間近になった頃には精密部品を扱うならこの男、とまでの評価を受ける。

 今度打ちあがる衛星ロケットには彼の作った部品が組み込まれているとかいないとか……。

 男は思う、確かに犯罪はダメな事だ。しかし間違いを犯しても、人は努力によって挽回する事ができるのだと。


 後日、打ち上げられたロケットの部品を作った町工場のロケットオヤジとして男はこの半生を赤裸々に語ったのだった。



                         《END》

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