■20121114 笑顔という仮面
お題:元気な笑顔 制限時間:30分 文字数:1770字
「彩香ちゃんっていっつも笑顔で、見ているとこっちが元気になるよね」
「そうだよね~」
下校の時に、友達の圭子ちゃんと真琴ちゃんが私に対してそんな事をいった。
「別にいつも笑顔ってわけじゃないよ?」
そう返すと、二人は見合って笑った。
「ウソウソ! だって私たち彩香ちゃんの怒り顔とか泣き顔とか全然見たこと無いよ」
それは……多分……私が仮面を被ってるからだ。
「でもさー……なんでだろー? 彩香ちゃんの笑顔って元気な感じじゃないんだよね……」
「そう言えばそうね……なんというか儚げな感じ?」
2人の言葉に息が詰まる……。
そう、私は本心を隠しながら、ただ笑顔を顔に張り付けているだけなんだ。
誰にも悟られないように……。
そう思うと、悲しくって……ポロリと涙が目から溢れだした。
「彩香ちゃん!?」
「どうしたの彩香ちゃん!」
2人が心配して私に駆け寄る。
「ごめんね……私……ごめんね……」
2人に謝りながら……私は自分の事を話し始めた。
両親が離婚を口にして喧嘩をし始めたのは当時に限ってでは無い。
もう1年以上もそんな感じで……それ以前も父の家庭内暴力で母が度々怪我を負う事も少なくなかった。
母は中学校に入る頃までは私の事を庇ってくれていて、私は余り暴力を奮われなかった。
それでも、やっぱり……母にも限界があって……。
中学校に入って少し経って……家を出て行ってしまった。
後から父方の祖母から聞いた話では、父が養育権を盛大に主張して、母には盛大な嫌がらせを行って……耐え切れずに出て行ったのだという。
父は……母を捨てたんだ。
母も……私には何も言わずに出て行った。
その事実があまりにも重過ぎて……私はとうとう半年くらい塞ぎ込んだ。
でも、それだけでは終わらなかった。
母が出て行って1か月も経たない頃から、父の家庭内暴力は私に矛先を変えた。
始めは、「お前の辛気臭い顔がムカつく」だった。
それから何度も何度も、暴力を奮われて、私は自然と『元気な笑顔』という仮面を被り続けるようになっていった。
笑顔の仮面が完璧になった頃、父からの暴力は少しは少なくなって来たけれど、今度は通っていた学校でイジメにあうようになっていた。
初めは、「お前、いつもニコニコ笑っててウザい」だった。
別に好き好んで笑ってる訳じゃない。これが自衛手段で仕方なくだったのだ。
それでも、次第に「ウザい」から「キモい」に変わって、イジメは加速して行って……。
私は途方に暮れた。
笑わなくても虐げられ、笑ってても虐げられ、どうしたら良いのか分からなかった……。
そうなると、自分どういう顔をしていつも生きて居たのか分からなくなって、鏡を見た。
映ったのは笑い顔だった。でも、目が泣いていた。笑い泣きだった。
どうしようもなく悲しかった。
その後はどうしたんだっけ?
そうそう、自殺未遂をしたんだ。
結局病院に運ばれたんだけど、医師に暴行の痕跡を見られて、家庭内暴力や学校のイジメ問題まで明るみなって……。
私は結局入院した。体中が痛いと思っていたら、亀裂骨折が数か所見つかったんだとか……。
色々な所で問題になって、結局私は身元を母方の祖母に引き取られる事になって、今の学校に通いはじめて半年。
未だに笑い顔が仮面として張り付き気味だけど、それでも以前のように『元気な笑顔』なんてものを被ることはできなくって、『控えめな笑顔』になっていた。
「――と言う訳なの……」
涙を拭いながら2人を見る。
「ごめんね……私のこの笑顔は偽物なの……嘘ついてるだけなの……」
謝り続けると、2人がぽつりと言う。
「な~んだ、私たちはまだ彩香ちゃんの本当の笑顔見てないんだね」
「彩香ちゃんの笑顔見てみたいな」
「え?」
「だったら私達と一緒に楽しいことやろう? そしたら笑顔だって取り戻せるよ」
「うん、だからこれからも一緒にいよ? 私たち友達だもん」
「うん……」
「そしたら、彩香ちゃんの本当の『元気な笑顔』見せてね!」
私はその言葉に頷いた。
《END》