冬のほたるとおしゃべりキツネのカナ(おじいちゃんの日記)
○月×日
天気 晴れのち雨
サキもこの森での生活に慣れてきたようだ。
私自身それをとても嬉しく感じるが、同時に、いつも思う。彼女をいつまでもこのままここで預かっていていいのだろうかと。
サキはまだ幼い子どもだ。今の時期、彼女に本当に必要なのは、彼女を励まし、ときに叱ってくれる、絶対に裏切らない友達なんじゃないだろうか。
そういった存在は、大人になってから作るのは簡単なことじゃないだろう。
この大切な時期に、いつまでもこんな閉塞的な場所に彼女を閉じ込めていていいのだろうかと、サキの笑顔を見ながらいつも思うのだ。私たちとサキでは、残された時間が違うのだから。
それはそうと、どうも最近、体調がおかしい気がする。よくめまいを起こし嘔吐するし、腹を壊すことも多くなった。その際に、便に血が混じることもある。
ハツミの言うとおり、町へ降りて病院へ行ってみるべきか……。
今日は疲れた、もう眠ろう。
○月×日
天気 大雨
この日記は誰も見ないものだ。私以外の誰も見ることはない。それでもなかなか筆が進まないのは、これを書くとによって私自身がその事実を受け入れてしまうことが怖いのかもしれない。
外では強い雨が降っている。まるで世界の外から降り落とされてるような、残酷で冷たい雨だ。
サキとハツミはもう眠っている。今、私はかつて感じたことのないような孤独な気分を味わっている。
私の残された命はそれほど長くはない。町の医者から――町の医者といってもいくつかの病院をたらい回しにされたのだが――余命を宣告された。
あの医者たちがとんだヤブでもない限り、それは事実なのだろう。いや、それは事実なのだ。
私はそれを事実として受け入れるしかない。私はじきに死ぬ。
怖い。
○月×日
天気 くもり
医者はしきりに早めに伝えたほうがいいと言うが、ハツミにもサキにも、私の命が長くないことは伝えられないままだ。
ハツミは私の体調をしきりに気にしているが、医者に問題ないと言われたと嘘をついた。だが四六時中一緒に過ごしている以上、感づかれるのも時間の問題なのかもしれない。
医者に入院の必要はないと言われたことだけがせめてもの救いだ。
入院しても、私の寿命を数日、もしくは数週間程度引き伸ばすことしかできないそうだ。いくつもの管に繋がれながら、無機質な病室で死にたいとは、私は思わない。
激しい苦しみや痛みは少なく、体の機能が少しずつ低下して衰弱するように私は死んでゆくそうだ。
やはり、じきにハツミも私の体の変化に気づくことだろう。
私は残された時間の中で、いくつかの選択をしなければならない。残される者たちにとって、そして死んでいく私にとって、何が最良なのかを考えて行動しなければならない。
体がだるい。
吐き気がする。
今日もうまく眠れそうにない……。




