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冬のほたるとおしゃべりキツネのカナ(3)

 カナの話を聞くうちに、ペンを走らせていた私の右手はいつの間にか止まっていた。

 正直なところ、私には彼女が何を言いたいのか少しも分からなかったんだ。

 私はただ、カナにも自分がおしゃべりだっていう自覚があって、それによって誰かを傷つているということを理解していたんだ、っていうことに驚いていた。私は尋ねる。


「つまり、あなたは何を忘れたいの? 自分がアリスちゃんを傷つけた記憶を忘れてしまいたいっていうことなの?」

「サキったら、私の話、ちゃんと聞いてなかったの?」

「なによ、ちゃんと真剣に聞いてたわよ!」

「じゃあ分かるはずでしょ? 私はアリスちゃんや、私がこれまで傷つけてきた動物たち、これから傷つけるかもしれない動物たちの記憶を消してしまいたいのよ。誰も傷ついたりしないように。誰も私のことを嫌いになったりしないようにね」


 その言葉を聞き終えた私はただ呆れて、しばらく彼女に何の言葉も返すことができなかった。開きっぱなしになった私の口は、しばらくそのまま閉じることなく渇いていく。

 口を閉じて、次に言うべき言葉を探し始めた私の心にわきあがった感情は、ふつふつと燃えるような、静かで、それでいて激しい怒りだった。

 私の頭の中には、ついこの間、思い出すことができたばかりの記憶が反芻されていた。

 喧嘩をした私に対する当てつけとして、私のありもしない噂話を流した楓ちゃんのこと。カナは楓ちゃんだ。楓ちゃんと一緒だ。

 誰かを傷つけるということの重大さを何一つとして分かろうとしない。傷つけられた誰かの悲しみをほんの少しとして理解しようとしない、バカヤローだ。二人とも大バカヤローだ。

 私は目の前に置かれている机に、思い切り手のひらを叩きつけてしまいたかった。世界中のガラスを割ってしまうような大声を上げて頭を掻き毟りたかった。

 そして少しでも早く、私とおばあちゃん、そしておじいちゃんの大切な家から目の前の子ギツネを追い返してしまいたかった。

 でもそのすべてを我慢して、私はなるべく静かな口調で言ったのだった。


「薬を作ってくるから、そこでおとなしく待っていて」


 カナが頷くのを確認して、私はひとり部屋を出た。

 私の心は決まっていた。カナを――楓ちゃんを私は許してはいなかった。

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