冬のほたるとおしゃべりキツネのカナ(2)
昼前には雪がやんで、今度は強い日差しがせっかくほんの数センチだけ積もったまっさらな雪を溶かし始めた。
私は厚着をして外に出ると、家の前の雪が溶けてしまう前に、ひとしきり足跡を残してみることにする。
サクッサクッというビスケットをかじるような音を聞きながら、私は考える。
おばあちゃんの病気のこと、おじいちゃんの日記帳のこと、お母さんとの今後の関係のこと、そして私自身のことについて。
その考えはどれ一つをとっても私をひどく不安にさせるのに十分なものだった。
今まで考えることのなかったことや、深く考えることから目を背けてきた事柄たち。どうしてこんななんでもない日に、急にそんなことを考えてしまうんだろう……。
それはきっと、私がおじいちゃんの日記帳を見つけてしまったせい。忘れていた辛い記憶を思い出したせい。
自分がこの森で、こうして非現実的ともいえる時間を過ごしている、一番の原因ともいえる事柄のことを意識してしまったせいだ。
そしてもうひとつが、眠っているみたいに静まり返っている、この森のせい。
私は今、この瞬間に、長い人生の途中にいるひとつの点としての自分というものを意識してしまっていた。そこに何らかの変化が必要だと感じ始めていた。
一言で言ってしまえば、このままの生活がこうしてずっと続いていくことに対して、小さな恐れを抱いていたんだ。
きっと今の私は、いつものかわいいサキちゃんのようにきらきらと輝くような笑顔を誰にも見せることはできないんだろう。
しばらく外でそうしていて、昼食の支度をするためにようやく台所へ行こうとすると、リビングのソファでくつろぐ黄金色の毛並みをした子ギツネを見つけた。
私はそんなカナの姿を見つけた瞬間に、人指し指で額をぎゅっと抑えてため息を落とさずにはいられなかった。
「何よそのため息は。私が来ちゃ悪いっていうの?」
「別に、そんなことは言ってないけど……」
「そんなことよりもサキ、あなたさっきからいったい何をしていたの? 庭中をぐるぐる歩き回ったりして、てっきり夢遊病患者がいるのかと思っちゃったわ」
「見ていたのなら、声をかけてよね! まったく、盗み見なんて趣味が悪いわ」
「そんなに大きな声を出さなくていいじゃない、悪かったわよ。それよりも、今日は相談があって来たのよ。それもうんとまじめなやつよ」
そう言うカナはなんだかいつもと比べて活気がなく、少し声のトーンも低いように思えた。
そもそもカナは私に「悪かったわよ」なんて言うキツネじゃないんだ。
彼女が急に大人になったなんてことがない限り、うんとまじめな相談があるっていうのは本当のことなんだろう。
私は迷惑そうな態度を取ったことを少し反省して、カナと向き合うよう、椅子に腰を下ろした。
「どうしたの? あなたに何か辛いことがあったのなら、私が話を聞くわよ」
私が聞くと、カナは今まで見たことのないような表情をして、ひどく言いづらそうに、
「あなたの作った薬を……私に分けてほしいの」と言った。
「理由、聞かせてくれるわよね?」
カナは頷いて、いつもよりほんの少しだけど、ゆっくりと話し始めた。私はいつものようにメモ用紙を用意してペンを手に取った。
外では再び鉛色の雲が空を覆い、北風が強く吹き始めていた。




