動物園とレッサーパンダのアリシア(1)
「いいお天気だね」おばあちゃんは顔をしわくちゃにするようないつもの笑顔で言う。
「そうだね、おばあちゃん」私はいつものようにそう答える。
季節は秋になった。
天高く馬肥ゆる秋、なんてよく言ったものだ。
うちわであおげば消えてしまいそうな薄い雲がいくつか掛かるだけの青い空は突き抜けるようで、いつまでも見上げていたいような気持ちにさせてくれる。そして私はこの一月で二キロ太った。
まだ少し肌を刺すような日差しの残る秋の午後、私はおばあちゃんの車椅子を押して庭に出ていた。
つつましく咲いた三色の小菊の前で、私たちは立ち止まる。
「おばあちゃんの好きな季節っていつなの?」
ふと気になってそんなことを聞くと、おばあちゃんは首を傾げてしばらく考えるそぶりを見せた。
「おばあちゃんは誕生日が春だから、やっぱり春なのかな?」
「そうね、そうだったかもしれないわ」
「ほんとかなー」私はくすくすと笑う。
私は秋が好きだ。
なぜだかわからないけど、秋になるといつもうきうきと気分が高揚して、踊りだしてしまいたいような気持ちになるのだった。
夏と冬の間のどこか緩んだ空気のせいかもしれないし、おいしい食べ物のせいかもしれない。それとも私が秋に生まれたせいだろうか。とにかく私は秋が好きだった。
「少し風が冷たくなってきたね。そろそろ家の中に入ろうか」
私が車椅子を引くと、おばあちゃんは嫌がるように首を振った。私は取り合わずに車椅子を押しておばあちゃんを家の中に連れ戻してしまう。
風邪を引き始めているのか、庭に出てからというもの、おばあちゃんはしきりに鼻をずるずるといわせていた。
おばあちゃんくらいの年齢になると、ただの風邪でも、場合によっては命を落ちしてしまうことがあるらしい。
ここがすぐに救急車がやって来られないような場所だということを考えると、あまり長い時間、おばあちゃんを外に出しているのは良くないことのように思えた。
おばあちゃんを抱えて部屋のベッドに寝かせる。おばあちゃんはすぐに規則的な寝息を立てて眠ってしまった。
風邪のせいで体力が落ちているんだろうか。おばあちゃんの寝顔を見つめる私はひどく心配になる。もしおばあちゃんが死んでしまったりしたら、私は……。
私はおばあちゃんにいつもより余計に布団をかぶると、「おやすみおばあちゃん」と呟いて音を立てないよう部屋を出た。
そして私は、ここのところ毎日そうしているように一冊の小説を手に取って畑に向かった。
収穫が終わり、一本たりともワスレグサの葉の残っていないワスレグサの畑へと。
ワスレグサの畑までの道のりは決して歩きやすい道のりとはいえなかったけど、おじいちゃんの踏みならした道を通学路のように行き来した私はすっかり慣れてしまっていた。
今では片手に小説を持ったままでも、バランスを崩さずに歩けるようになったほどだ。
秋が好きな私は、秋に生える草や花々も好きだった。
ゆっくりと森の中を歩く私の足元に生える、ヒガンバナ、ツルリンドウ、キキョウ、ヨモギ、そして木々の間を抜けた私の視界に広がる、一面のコスモス!
秋の間だけその姿を変えて一面にコスモスを咲かせるワスレグサの畑。
夏にワスレグサの収穫を終えた畑には、秋になるとおじいちゃんがそうしていたように、たくさんの薄い桃色のコスモスを植えていた。
私はいつものように、微かな風にその花弁を揺らすコスモスが一番きれいに見える場所に腰を下ろし、持ってきた小説を開いた。
『カンガルー日和』、素敵で愉快な文章とかわいいイラスト。




