台風とツキノワグマのそう太(7)
「それからそう太はどうなったの?」私の耳元でお母さんはささやくように言った。
「その薬をあげると、そう太はとてもうれしそうな顔をしていたわ。それは無理に作ったような笑顔だったけれど、その表情を見て私も単純にうれしくなった。そして薬を持って、そう太は自分の住んでいる巣へと帰っていった」
「そう太は薬を飲んだのね」
私は歯を食いしばるようにしながら頷いた。そう太は私のあげた薬を飲んでしまったのだ。
「そのとき私はほんの小さな不安さえも感じなかったし、自分が正しいことをしたんだっていう自信さえも感じていたわ。同時にこうやって多くの動物たちに感謝されていたおじいちゃんのことを想って誇りにすら感じた。でもね、私がおじいちゃんの真似をするなんて、まだ早すぎたのよ。全部私の自己満足に過ぎなかったの」
私はそう言って、重たいため息を吐き出した。
外では風がびゅうびゅうと暴れまわり、大粒の雨があちこちにぶつかる音や細い木の折れる音が辺りに響いていた。
ときに大きな雷が落ち、そのたびに私はお母さんのふくよかな胸にぎゅっとしがみつかなくちゃいけなかった。
「おじいちゃんが……そしてあなたがここでそんなことをね」
お母さんは言った。私はその言葉に、ちっとも驚きや訝しさといった感情が含まれていないことをひどく不思議に感じた。ひょっとして私が知らないだけで、動物が言葉を話すことや、出来事を忘れさせてくれる薬というのは、この世界に当たり前にあることなんだろうか?
私はぶんぶんと首を振る。
「お母さん、ひょっとして私が話していること、信じてないんじゃないの?」
勇気を出してそう切り出すと、お母さんはそこで初めて驚いたような表情を見せた。
「まぁサキったら、そんな風に思われるなんてショックだわ。あなたが変な嘘をつく子じゃないっていうのは私がよく知っているし、あなたの話を聞いていればそれが夢や幻なんかじゃないっていうことくらい分かるわよ」
「あ、ありがと」照れた私は、そっけなくそれだけ言う。
「さぁ、よければ話の続きを聞かせてもらっていいかしら?」
私は頷く。雷が鳴って、私はお母さんの胸にしがみつく。顔を上げると、お母さんが微笑んでいる。怖がりなサキちゃんは、またあの体験を語り始める。




