台風とツキノワグマのそう太(3)
ゆっくりと目を開けると、タオルでごしごしと濡れた髪を拭くお母さんの姿があった。
「おはようサキ。寝る子は育つっていうけど、ちょっとあなた寝すぎじゃないの?」
それは夢じゃなくて、確かに現実の私のお母さんだった。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。時計を確認すると、針はもう六時を指そうとしていた。外は薄暗く、風雨はさらに勢いを増しているようだった。
「でも、どうしてここに?」
まだ寝ぼけた頭に、当然の疑問が浮かんだ。お母さんと、私とおばあちゃんとは別居していて、お母さんはこの家にほんのたまにしか顔を出さないのだ。
「ひどい言いようね。前に来たときからもうじき一ヶ月が経つし、台風が来るっていうから心配になって様子を見に来たのよ。でももう少し早く来るべきだったわ、ここに着く前に雨に降られてびしょ濡れよ。そういえばシャワー借りたわよ」
「そうだったんだ。わざわざありがと。今からお夕飯の用意をするから少し待っててね」
私が立ち上がろうとするのを、お母さんは手のひらを向けて制した。
「なに言ってるのよ。たまには私にも母親らしいことをさせてよね」
お母さんは得意そうに言い残すと、台所に向かっていった。
お母さんの後ろ姿は相変わらずすらっとしてかっこよかった。
お母さんはきっといつまでもきれいなままなんだろう、私は最近おでこにできたにきびを触りながらそんなことを思った。若いときに私を産んだお母さんは、まだ体のラインも女性的で、ときおり浮かべる寂しげな表情にはハッとさせられるような魅力があった。
リビングを覗くと、おばあちゃんが数時間前と変わらない姿で編み物をしていた。
外では時折かなり強い雨が窓に叩きつけられ、ばちばちと乱暴な音を立てていた。
お母さんが来てくれて良かった、私は自分が心からそう感じているのに気がついた。
私はたまにしかできないお母さんのお手伝いをするため、エプロンを巻いて小走りで台所へと向かった。




