台風とツキノワグマのそう太(2)
夢を見ていた。私はいつもみたいに、自分が夢の中にいることを知っていた。
どこか広い草原の真ん中だった。
見渡す限りの短い緑色の草は風にさらさらとそよぎ、空には四つの太陽がそれぞれぼんやりとした淡い光を放っていた。
羊とヤギが並んで私の目の前を横切っていった。その後ろを一輪車に乗った少女がふらふらとついていく。
そこは森の中じゃなかった。そこはどこか知らない、私の想像の中にしかない秘密の場所だった。
「久しぶりだね」
いつからそこにいたのか、目の前にはツキノワグマが立っていた。
ほんの少し茶の混じった黒っぽい毛並みで、胸の辺りだけ、ちょうど三日月を横に寝せたように白くなっている。私は彼の名前を呼んだ。
「そう太。久しぶりね」
そう太は何かを確認するかのように、ゆっくりと頷いた。
彼に言わなきゃいけないことがあったはずなんだけど、夢の中の私にはどうしてもその言葉を思い出すことができなかった。
そう太の口がゆっくりと開いた。
口の間からは短い牙が見え、その上下の牙と牙の間にはよだれが糸を引いている。
ひょっとして、私を食べてしまう気かしら? そう感じた私は一瞬身構えるけど、もちろんそんなことはなかった。そう太は臆病で、優しい熊なのだ。
そう太の口は何か言っているようにいろんな形に動いていたけど、まるで無声映画のように、その声が私の耳に届くことはなかった。
「なに? 今、何て言ったの?」
そう太は私の声を聞いたのか聞いていないのか、にっこりと笑うとすぅっと薄くなって消えてしまった。
「そう太……待って、待ってよ。そう太!」
私はそう太の消えてしまった空間を見つめるうちに、ふとあの日のことを思い出した。そうだ、あの日から、もう一年が経とうとしているんだ。
そこで不意に、その秘密の場所は真っ暗になって消えてしまった。私の夢が終わったのだ。




