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台風とツキノワグマのそう太(1)

「いいお天気だね」おばあちゃんは顔をしわくちゃにするようないつもの笑顔で言う。

「そうだね、おばあちゃん」私はいつものようにそう答える。


 外はたっぷりと雨を含んだ重たそうな雲が空を覆い尽くし、まだ昼間だというのに夕方のように薄暗かった。

 季節はもう夏の終わり。

 まだ雨は降っていないものの、大型の台風が接近しているらしく、夜になると強い風とともに大雨が降るらしい。


「今日は台風が来るらしいよ、おばあちゃん」

「うん、本当にいい天気だよ」


 いい天気だよ。この言葉はもうおばあちゃんの口癖のようになっていた。

 最近じゃ、おばあちゃんがわざと間違えてこの言葉をくり返しているんじゃないかと、私は密かに疑っていた。おばあちゃんは昔から悪戯っぽいところがあり、私のことをからかうのが好きだったのだ。

 もはや壁の一部と化しているような、長年そこで時を刻んできた古い壁かけ時計は三時をさしていた。

 台風の情報を聞いたのは今朝のことだ。朝ごはんを食べながら、偶然付けていたラヂオから流れた今夜の台風情報を耳にすると、私は朝ごはんも途中にして走ってワスレグサの畑へと向かった。

 去年おじいちゃんがしていたのと同じように、収穫間近の青々とした草に丁寧にビニールをかぶせ、拾ってきた大きな石を重しに置いていく。

 その作業は見るだけなら簡単そうだったけど、いざ自分がしてみると意外と難しく、家に帰り着く頃にはお昼ご飯の時間を過ぎてしまっていた。

 慌てておばあちゃんの昼ご飯を作って、家中の雨戸を閉めていったり、汚れてしまったおばあちゃんのお尻を拭いたりしていると、気づけば午後三時。こんな時間になってしまっていた。

 おばあちゃんはさっきからフンフンと聞いたことのないメロディーの鼻歌を歌いながら、老眼鏡をかけて編み物をしていた。

 いろんなことを忘れてしまってもこういった作業を忘れないことを、私は不思議に思うし単純に凄いとも思う。

 私もおばあちゃんの動きを真似して毛糸と木の棒を熱心に動かしてみるのだけれど、どうしても思うように編むことができなかった。体に馴染んだ動きというのは消えないもので、動きを体に馴染ませない限りは私もおばあちゃんのようにはなれないのだろう。

 ぱらぱらぱらっと、雨戸に何か当たる音がしたかと思うと、突然大粒の雨が降り始めた。風も出てきたようで、さっきから雨戸がからからと音を立てて揺れていた。

 私はかすかな不安を感じながらも、下手くそな編み物とともに、おばあちゃんの鼻歌の流れるかけがえのない時間を過ごしていた。

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