空と海を繋ぐ橋
2011年10月 初稿
『空と海を繋ぐ橋』
昔々のお話です。
果てしなく続く空がありました。
どこまでも広い海がありました。
空と海は鏡のように、光の粒を反射しながら青く輝いています。
空には鳥が飛んでいました。
海には魚が泳いでいました。
鳥は海を見つめながら、魚は空を見上げながら、それぞれこう思います――。
「空を飛べたらどんなに素敵だろうか」
「ああ、あの海を自由に泳いでみたい」
鳥は魚に憧れ、魚は鳥を羨みます。
やがて一羽の鳥と一匹の魚が、それぞれ恋をしました。
「彼女のことを思えば思うほど、胸が苦しくなる……」
「彼のそばにいたいけど、海では呼吸が出来ない……」
それを見た神様は、一粒の涙を流しました。
涙は雨となって、空から海に降り注ぎます。
ザアアアア……ザアアアア……。
しばらくして雨が上がり、海から空に虹が架かりました。
虹の橋を渡って鳥は魚に、魚は鳥に、逢いに行きました。
虹が消えるまでの短い時間を、一羽と一匹は共に過ごしました。
鳥は魚と共に海を泳ぐことが出来る未来を願いました。
魚は鳥と共に空を飛ぶことが出来るように祈りました。
そして魚の命を宿した鳥は、空と海の間の陸に、卵を産み落とします。
卵から産まれた生き物には、空を飛ぶ為の翼も海を泳ぐ為の鰭もありませんでした。
やがてその生き物は、進化を重ね“人”と呼ばれるようになります。
人は海と空を眺めながら、こう考えます――。
「空を飛べたらどんなに素敵だろうか」
「ああ、あの海を自由に泳いでみたい」
人は知恵を使い、空を飛ぶ機械や海に潜る乗物を作りました。
こうして鳥と魚の夢は、遠い未来で叶ったのです……。
今は昔のお話でした。