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07 敵襲

「……人混み、ギモヂワルイ。暁…私帰る。」

大人子供が入り乱れた、妙な息苦しさと暑さが充満する人混みの中で夕紀は呟いた。

「いや、ダメだから。てかお前、交流会楽しみにしてたじゃん。さっきまでの余裕はどこ行った?」

その隣でやれやれと溜め息をつく暁。そして彩葉、雷斗の順に並んでいる。

お茶休憩を終えた4人が宮廷に行ってみると丁度開門直後であり、秋気冷涼な風に晒されることもほとんど無く宮内(なか)に入ることが出来た。


今、4人を含めた国民達は宮廷内の第一庭園に移動し、二階部から王族の面々が姿を現すのを待っている所だ。庭園とガラス戸一枚で隔てられ、緋色のカーテンが引かれている向こうで時折影が行き来するが、準備にはまだ時間が掛かるらしい。


「…王族か何だかよく解らないけど時間掛かりすぎ。チャッチャとやれよ。」

「無茶言うなよ夕紀。催し物には万全な準備が付き物だろ。」

次の瞬間、夕紀は「あん?」などと非常に品位に欠ける効果音と共に睨みを利かした。だが、それより早く暁が視線を戻し、視線が合うことはなかった。


「…ちっ。」

いつもは私と同じくらいうるさいくせに、何でこういう時は澄ました顔してやがるんだ。むかつく。


思わず地団駄を踏みそうになって、前列からの(いさ)めるような咳払いに気付く。そうだ、人前だった。いけないいけない。


ため息をひとつ溢して視線を前に戻す。と、ようやく二階部の扉が開き王族の面々が次々に出てきた。それだけで辺りの雰囲気は柔らかく、明るく、そして厳かなものへと変わった。

そんな、『雅』という言葉を体現したかのような面々が一人ずつ一礼をし、優雅に玉座に腰掛けてゆく。


少しして、進行役なのかただ一人立つ昂哉が柔らかい微笑を穿いて式辞を述べる。次いで、夕紀には既に無用の長物以外の何物でもない、かつて父にも母にもくどいほど聞かされた、交流会の意義と交流会(それ)に関する古の争乱の話を始める。


あぁ、はいはい。その話はもう良いよ。何べんも聞いてます。え~と昔、平和だった虹霓に隣の国からウザイ奴らが邪魔しに来て~。国内が滅茶苦茶荒れて~。それが何年も続いたから埒があかない、強行手段だ~ってって話になって~。…で、……どうしたんだっけ?


夕紀が脳内で自問自答しながら視線を戻すのとほぼ同時に、昂哉が傍らの低い机から何かを持ち上げた。


それは幾つか宝石がついた、宝冠だった。ますます黒みを増す雲の切れ間から僅かに射す光が当たると、まるで宝冠全体を光が包み込んでいるように淡く輝く。


「―――こちらの宝冠に施された封印は永い時間(とき)を経て、徐々に薄れつつあります。ですから只今より封印の更新を致したいと思います。――――皆様、身辺の安全確保を充分にお願いします。」

数刻前まで昂哉の顔に宿っていた柔和な笑みが完全に身を潜めた。


それに合図されたようにある者は最大限のチカラで結界(シールド)を張り、ある者は己や周囲の人々の身に衝撃無効・減速術を施し、それらのチカラが充分でない子供や年配の人々などは数人の宮廷役人と共に出来るだけ奥へと足早に移動する。


全員が各々の最大限の護身策をとったのを確認すると昂哉は、袖の方に立っていた、純白のワンピースを身に纏い赤茶の髪を部分的にツインテールにした端麗な少女から白銀の小刀を受け取った。


一度、それを机上に置いて深呼吸をする。端整な面立ちが引き締まる。その眼光は、万物を一瞥しただけで斬り捨てられそうなほど鋭い。だが、彼の身を包む雰囲気は意外なほど静かで、穏やかなままだ。


「――……では、解術を」

「させないよ。」



怪訝そうに昂哉は視線を四方に投じる。――――その時だ。


これまで以上に暗雲が立ち込め、淡く射していた光を遮断した。――――それも、宮廷の上空だけに。


「え、何?なんか暗いよ」

どよめく人々の中で夕紀だけが、そんな呑気なことを抜かす。

「お前、普通は慌てる所だから!何で落ち着けるんだよ!!」


暁がそう言おうとした瞬間――――唸るような雷鳴が鳴り響き、刹那、強い光が天を引き裂いた。





「――――何てことを!」

静寂の後、再び時間を動かしたのは女王の声だった。その表情は青ざめ、(べに)色の口元が痙攣し、時折白い歯がガチガチと音を鳴らす。


その震える視線の先に、所々がひしゃげ、宝石が欠けたり取れたりしている、無惨な宝冠の残骸を映しながら。


「弓手隊は速やかに応戦形体を取れ!!」

数刻前とは似つかない昂哉の声と弓手隊が超人的な脚力で地を蹴り飛び上がるのとが、徐々に降りだしてきた雨の中に響いた。

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