魔女のお茶会と、それを見る私
お茶会での他愛のない会話。
「世の中には、いろんな生き物がいますのに、人間にはどうして炎を吐いたり毒の牙を持った個体がいないのでしょうか?」
魔女様がお茶を片手につぶやきます。
その問いにテーブルの対面に座った勇者様が、優雅にコチラもお茶を一口飲むと
「人間にも毒の言葉を吐く個体や、炎の様に情熱的なキスをする個体がいるものですよ」
勇者様は、それはそれは優雅に見事に魔女様の質問を上手に切り返します。魔女様の問いに華麗に答えました。
(勝負あったな)
今回メイド服を着て、お茶会で二人の給仕をしていた私。二人のやり取りを見て聞いて、勝敗をティーポット片手に判断します。
ここは魔女様のお茶会。
魔女様に願いを叶えて欲しい人が訪れる魔女の園。魔女様の問いかけに上手く答える事が出来る知恵ある者。その願いを魔女様が叶える秘密の場所。
……とは表向きの話。
実際は魔女様の狩り場です。
魔女様は相手の知恵なんて実は見ていないのです。
魔女様の見てるのはオトコ。相手が魔女様のお眼鏡に叶う男ならば願いを叶えます。魔女様が、もっとお相手を気に入れば……それが魔女のお茶会。
表向きは知恵を試す願を叶えてくれると評判の魔女のお茶会。実際の所、魔女様に願いを叶えて貰う為には、知恵だけで無く何でもして良い、何でもありのルールです。
つまり……見も蓋もなく言ってしまえば、この魔女のお茶会には勝つ為の裏ルールがあります。
お茶会の間に魔女様を口説く事が出来れば、知恵も不要。魔女様は大抵の願いを叶えてくれるのです。
そして逆に魔女様を怒らせてしまえば、カエルにされたり酷い嫌がらせが……
どうやら、今回の挑戦者、勇者様は魔女様のお眼鏡に叶った様子。今回は魔女様の弟子役の私も一安心です。
お茶会に参加した者が魔女様のお眼鏡に叶わなかった場合、魔女様の機嫌がすこぶる悪くなりますから。その後の後始末は私のお仕事。手間が増えるのはゴメンです。
今日のお茶会での魔女様は、黒い三角帽子に胸元のザックリ開いた露出の高い黒い服を着て……スタイルの良い身体を魅せつけています。全ては、お茶会の相手に褒められたいが為です。
実は魔女には、この国中に広まってる魔女の口癖があります。魔女いわく
「齢40才を超えた辺りから、性欲が止められなくて……」
だそうです。
魔女様の外見は、魔法で20代に見えると評判ですが、実際は300才を超える年齢ですから元気なものです。
そんな齢300才を超える年増の魔女。
お茶会の中でも裏ルールに気がついた殿方は、魔女を口説こうと必死です。
自分の願いを叶えて貰おうと、必死に300才の魔女を口説く、このお茶会に挑む殿方は、まさしく勇者の名に相応しい勇者様でしょう。
このお茶会は初めから間違っています。
ご自分が叶えて貰いたい願いをそっちのけに忘れ、魔女の魅力に見惚れ魔女様を口説こうとした者が勝ちやすいルールになっていますから。
魔女様に惚れた者だけが、願いを叶えて貰いやすくなると言う謎仕様の裏ルール。性格の悪い女が開くお茶会。
それが魔女のお茶会の裏ルール。
裏ルールを理解せずに、馬鹿正直に知識をひけらかしに来る学者馬鹿の殿方は、大抵が姿を変えられて逃げて行きます。
ですが今回の勇者様は、裏ルールを理解してるのかいないのか分かりませんが、既に魔女様のお気に召した様です。勇者様も必死に口説きにかかっている様に見えます。
あとは……魔女様に気に入られすぎなければ、無事に願を叶えて帰る事が出来るでしょう。
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【魔女の弟子を貰いたいと言う勇者】
魔女様は今回の参加者の事を、いたく気に入ったご様子。今回の勇者様にも欠点はございますが、おそらくここまでは大きな問題無い模様。
「それで……勇者様は、私にどの様な願を叶えて欲しいのですか?」
魔女様がついに本題に入りました。
それに勇者様は……
「実はそこにいる魔女様の弟子を、私の恋人にして頂きたいのです」
「え! 私ですか?」
勇者様の言葉に私は固まりました。
完全に予想外でしたね。
普通の願を魔女様が叶えて終わる。そんなふうに予想してましたから。私がまきこまれるとは思いもしませんでした。
私、今回の勇者様を少し低く評価しすぎていたのかも知れません。
「……」
魔女様は無言。でも、にこやかだった魔女様の表情が一気に氷の様に冷たくなりました。
無理もありません。
今回、【魔女のお茶会】の主役は彼女なのに、私に獲物を横取りされた格好です。イロイロ思う所も有るでしょう。
(今後の返答次第で勇者様は摘みますね)
上手く切り抜けることができるでしょうか?
今回の勇者様は私から見ても、たった一つを除いて完璧に近い人に見えます。もしかして全てを感づいているのでしょうか?
もしもそうならば我々の完敗です。どんな願いでも叶えるしかありません。私は恋人にでも何でもなりましょう。それが【魔女のお茶会】のもう一つの裏ルールですからね。
「それで……どうして勇者様は私では無く、魔女の弟子の……この子を恋人に欲しいと言うのですか?」
魔女様が勇者様に問いかけます。
さき程までの、和やかな雰囲気は何処へやら、今では言葉が氷の様に冷たくなりました。魔女様の口から出る殺気で部屋の中の空気が氷点下まで下がったかのようです。
口から炎でも毒でも無く氷を吐いてますね魔女様は……
でも無理もありません。
次の勇者様の返答によっては、この部屋にいる私達3人の運命が、大きく変わるかも知れないのですから。
【魔女機嫌を損ねる。勇者様言いくるめる】
緊迫した空地に変わってしまった【魔女のお茶会】。ですが勇者様は、あくまでも冷静でしたね。空気に流されることも無く、ひょうひょうとしています。
正直感心しました。
勇者様は慌てる事なく……
「魔女様では無く、お弟子様を恋人に欲しいと願い出た理由は単純です」
「私を欲しいと言う理由? それは何でしょうか?」
私は少しの期待とワクワクに胸を膨らませて訪ねました。魔女様は仏頂面していますが、この際知った事ではありません。
予定調和とイレギュラーこそがイベントの華ですから。ならばなおの事、この予定調和かイレギュラーを上手く勇者様がさばけるのならば、私は喜んで恋人にでも何にでもなりましょう。
私の想いをわかっているらしく、魔女様はますます仏頂面になっています。お気の毒様です。魔女様への少しの優越感と満足感で愉しい。
今回の参加者の勇者様は、そんな私達へ向かって語ります。
「このお茶会で、初めて僕は本物の女性を知りました。世にこれ程の女性がいるとは考えもしませんでした。魔女様は大変に聡明で美しい」
「「まぁ」」
私達は褒められて嬉しいのはモチロン、期待が高まります。
「僕は魔女様を連れ帰りたいです」
「「まぁまぁ」」
私達は驚いています。
百点。ここまでは百点です。
「しかし、僕には魔女様につり合う程の魅力がありません。ならば、せめて魔女様の弟子を恋人に頂きたいのです」
勇者様は、その後も必死になって私を口説こうとアレコレ言い募ります。
が……
「「……」」
0点。
私達の勇者様に対する評価は、一気に0点まで落ちました。
私達は今回の勇者様を高く評価しすぎた様です。途中までは良かったのですが、肝心な事に気がついておらず、肝心な所で機転が効きませんでしたね、この勇者さま。
残念な事です。
期待したのですが……
この勇者様は失格です。
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【魔女の弟子になってから、こんな申込みがたまに来ます。】
『魔女は性格が悪いので制御出来ません』
その噂は広く知られています。
『でも……魔女の弟子ならば、扱いやすく、その魔女の弟子の力を都合良く制御出来るのではないだろうか? ならば【魔女のお茶会】で魔女の弟子が恋人に欲しい。そう願い出て恋人にすれば良い』
この風潮はどうにかなりませんかね?
私も魔女様の弟子を名乗る様になってから。世間から何故か、私は都合よく利用出来る道具の様に思われる事になりました。
魔女様に弟子入りする前。
ただの少女として、誰からも特別扱いされ無かった昔の様に。
下心無しの男達に口説かれていた遥か昔に戻りたいなぁ。
魔女の館に住むようになってから、私を利用しようとする男達ばかりに言い寄られます。そんな日々に飽き飽きしてます。
それは私が歳を重ね、魔女の弟子から魔女になり、弟子をとった今も変わりません。
魔女の弟子バカリが魔女よりもモテる【魔女のお茶会】にも飽き飽きしてました。
……あぁ、それにしても
「私を、ここから連れ出したいと言ってくれた今回の勇者様はブサイクだったなぁ」
「師匠。そんな事を言っては駄目ですよ」
三角帽子と露出の高い服を着た弟子にたしなめられました。
『生まれつき同仕様もない欠点をあげつらうのは品が無い』と弟子が私をたしなめますが……
「頭も性格も良かったから、アレで人を見る目か、顔が良かったら、ついて行ってあげても良かったのに……」
バフっと大きな音を立てて
私は大きな椅子に座ります。
メイド服を着たママ。
実は今回の【魔女のお茶会】
メイド服を着た私が魔女で、魔女のフリをしていたのは私の弟子でした。
だって毎回毎回、弟子ばかりモテてズルいから。たまには弟子に化けたらモテるかと……最近は弟子と魔女が入れ替わる遊びにハマっています。
「また師匠は……今回の参加者に師匠と私が入れ替わってると見破られたかと、ヒヤヒヤしました」
私達の入れ替わりに気がつけたら、問答無用で客の勝ち。それが最近追加した【魔女のお茶会】の新ルールです。
意地悪な魔女に相応しい、古式ゆかしいルールだと思いませんか?
「お茶をお願いね」と
のどの渇きを感じた私。魔女のふりをして勇者の相手をしていた弟子にお茶を頼みました。
「ハイ。師匠。今回の勇者様はお気に召しませんでしたか?」
「顔がね……。それに魔女の私と弟子の貴女が入れ替わってる事にも最後まで気が付きませんでしたし……」
私は、たまに弟子と入れ替わります。お茶会の参加者をもて遊ぶ為、それに男を見極める為。
今回のお客さまは加点と減点でトントン。
だから願いも叶えてあげませんでしたし、何も危害を加えずに無事に返してあげました。
魔女のお茶会に参加して、無事に帰れただけでも、今回の勇者様の武勇伝になって、名声が上がることでしょう。それが今回の勇者への報酬です。
それはそれとして、私が魔女だと見抜けなかったのは惜しい。顔以外はカナリ気に入っていただけに……
弟子も同意見のようで……、
「そう、ですね。私と師匠を見間違うなんて、節穴ですね」
「好みのタイプではあったのですが」
私は少し惜しかったかな?
と首をひねります。
「アラアラ。師匠はホントに男好きですね」
男好きって……
魔女を何だと思っているのでしょうか? この弟子は……
「女は基本30歳までは男に言い寄られる草食獣。でも40超えると肉食の恐竜になるの。人によっては、そこから更に飛竜になったりします。貴女も歳を重ねればわかります」
「……サッパリわかりません」
とニッコリ。まだまだ若い弟子。
そんな弟子を無視して、私はさっきまで私を口説いていた勇者様に思いをはせます。
【アァ。あの勇者様。私が魔女だと最後まで全く気が付きません出した。
それなのに必死で私を魔女と魔女の館から連れ出そうとしていた、あの勇者様。
とてもとてもブサイクでした。
あれだけブサイクな、お顔で、あれだけ堂々と女を口説くなんて、勇者の名にふさわしい勇気でした。】
それにしても、あの勇者様。
とても、お顔が残念でした。
私はお顔が残念な勇者様が、私を必死に、ここから連れ出そうとしたお顔を思い出して、思わず
「ふふふ」
と笑うのでした。
教養、知恵、勇気、包容力、話術の全てに、恵まれていたのに……
それにしても、あの勇者様。
お顔が残念だったなぁ。
酸いも甘いも噛み分けた魔女の私は、楽しかったと笑うのです。
少し意地悪だったかも知れません。
「あれで、お顔が良かったら、私を魔女と目抜けなくても、恋人になってあげても良かったのに。ふふふ」
魔女は今日も意地悪く嗤うのでした。
さて……次のお客様は、どんな人でしょうか? 魅力的な人なら良いなぁ。
それにしても今回の勇者様。
ヤッパリお顔が残念でしたねぇ
……ふふふ、
私は惜しい所まで行った、お顔が残念な勇者様の事を。ここ数日間、未だに引きずっています。
元カレの事を忘れられ無い女とは、こう言う気持ちを引きずる女の事を言うのでしょうか?
少しだけ魔女になる前の、普通の女に戻った様で、嬉しい嬉しい一瞬の夏でした。
「【お茶会】のあとから、こんなにも笑えると知っていたら、あの勇者様に、何かお土産を渡しても良かったのかなぁ?」
ふと思い出します。
私を口説く必死な、お顔の勇者様。
それにしても、あの勇者様。
何度も何度も記憶を思い出しても……
ヤッパリお顔が残念でした。




