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貴重な霊薬

 とある荒野で。

 冒険者たちと何体もの巨大なワームが長時間にわたる戦いを繰り広げていた。

 冒険者とモンスター、いずれも満身創痍である。後衛の魔法使いたちもすでに気力が尽きかけていた。このままでは、おそらくモンスターたちに勝利の天秤が傾くであろう。もはや退路を確保することすら難しい。


 しかし、冒険者たちの顔にはまだ余裕があった。

 なぜなら切り札が存在したからである。

 飲むだけでたちまち、自分どころか仲間にまで完全なる癒しの効果を及ぼす不思議な霊薬が。


「あの薬、使うわよ!」

「ああ、頼む!」


 仲間たちの同意を得た女魔法使いがバッグから霊薬のビンを取り出す。手に入れてからずっとバッグの奥で眠っていた霊薬が、ついに日の目を見る時が来た。

 これを飲みさえすれば、瞬く間に自分たちの体力と気力が完全に回復する。戦士たちの傷は癒えて前線で再び暴れることが出来るし、魔法使いたちの気力は充実して再び魔法を使い放題になるということだ。

 そうなれば天秤の傾きはひっくり返り、冒険者たちが勝利を手にすることが出来るだろう。もちろんすごく貴重なアイテムだが、敗北すなわち死なのだ。背に腹はかえられない。


 前衛の戦士たちは反撃の機会に備え、剣や槍を振り回しながら時間を稼ぐ。

 しかし、戦う仲間たちは一向に回復しなかった。

 もどかしくなった戦士の男が後ろも見ずに大声で叫ぶ。


「おい! 早く使えよ!」

「ま、待ってよ! ふ、蓋が固くて……!」


 返って来たのは焦りと困惑の声だった。

 言葉の通り、彼女は固くなった蓋を開けようとビンを手に悪戦苦闘していた。いくら凄い薬でも、飲めなければ効果を発揮しない。


 予期してなかったトラブルに、仲間たちの戦列が一瞬乱れた。

 そこに、モンスターの一体が割り込んでくる。巨大な口を開けたワームが。


「まずい、避けろ!」

「えっ……」


 ビンに意識を奪われていた女魔法使いが顔をあげたその時。目の前には深淵が広がっていた。


 ごぼり。


 捕捉ほそくした獲物をそのまま丸のみするワーム。同時に激しい土煙が舞い上がる。荒野の上に、女魔法使いの姿はもうなかった。

 歓喜に巨体をくねらせるワームの口の中から、耳をふさぎたくなるような音が、冒険者たちの耳に届く。


 冒険者たちはあまりの事態に動きが止まった。いや、世界そのものが止まったように感じた。

 静止した世界の中でビンが割れるかすかな音が響き……その瞬間、この場にいるワームたちすべての傷が回復した。そう、あの霊薬が、飲んだワームとその仲間たちに効果を発揮したのだ。


 一瞬のあと、何が起きたのかを冒険者たちは理解する。

 しかし絶望に支配された彼らに、この状況をどうにかするすべはもうなかった。


 まもなく食事の時間を終えたワームたち。

 理由は分からないが傷は治った。しかし、痛みを与えられた怒りは治まらない。


 猛々たけだけしいワームの群れは、次の獲物を求めて遠くに見える人里へと侵攻を開始した。

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