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十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河琉盤
第二章

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幕間 文学を愛する神々の集い4

 四人掛けのテーブルを三柱が囲んでいる。


 一柱はどこかまだ旅の余韻を残していて、もう一柱は興奮が抜けていない様子だ。


 窓の外では何かが光っている。


 神界では珍しくないことだ。テーブルの上には飲み物と、本と、誰かが持ってきたらしい焼き菓子が一皿ある。


 一脚だけ椅子が空いている。


「フィールドワーク、なかなか楽しかったですね」


 メルクが静かに言った。


 この場の司会進行役を担っている——と自覚している。そういう神メルクだ。


「でしょう」


 ソレイが満足そうに頷いた。


 まさにお嬢様というたたずまいで、常に場の雰囲気を支配している——ように本人は思っている。そういう神ソレイだ。


「ふふふ」


 ソレイはカップを優雅に持ち上げた。


「“猫様ネットワーク”は、私ながら完璧なネーミングですわ」


「えー、それってエランちゃんが言ってたんじゃないの?」


 ヴェヌが身を乗り出した。


 見た目はまさにギャル風、繊う空気もいかにもで、どうしてこの場にいるのか?——と思われることを微塵も気にしない。そういう神ヴェヌだ。


「発案は私よ」


 ソレイが澄ましている。


「みんなで猫になって学園を調べまわる」


 メルクが蕩けた顔で言った。


「またやりたいです」


「あなた完全に楽しんでたわよね」


「否定はしません」


「ユランはもう懲り懲りって言ってたわ、運動は苦手だそうよ」


「ユランちゃんに初めて会ったけど、思ってたのと全然違うね。狂科学者っていうから、もっと怖い感じかと思った」


「眠そうなエランさん、という印象でしたね」


 メルクが言った。


「顔はそっくりなのに、なんというか——テンションの低い方、みたいな」


「発想はとんでもなかったですけど」


「そこ!」


 ヴェヌが指を立てた。


「あの精度で日時を指定して下界に降りるなんて普通できないよ。しかも管理外の星で」


「そこはユランがエランと双子だからできる技なのよ」


 ソレイが静かに続けた。


「共感覚とでも言うのかしら。魂の繋がりで、星の座標を掴むのだと言っていたわ」


「なるほどねー」


 ヴェヌはカップを両手で包んだ。


 少し目線を落として、何かを思い出している様子だ。


「でも、行ってよかった!せっかくだしユランちゃんもこの会に呼ぼうよ!」


「そうね」ソレイが頷いた。「次回は声をかけてみるわ」


 静かな時間が流れた。


 各々、開いていた本を閉じる。全員が何かを期待している空気だ。


 メルクがカップを置いた。「では——今回の収穫を共有しましょうか」


 テーブルが少しだけ、引き締まった。


「まず」メルクが口を開いた。


「転生前の記憶について。今回の観察で、曖昧になるということは確定でいいと思います」


「そうね」


 ソレイが続けた。


「ただ——魂に根付いた強いこだわりや癖のようなものは継承できているみたい。言葉にできない親しみ、とでも言うのかしら。完全に消えるのではなく、薄まる」


「あー」


 ヴェヌが何かを思い当たった顔になった。


「島の子との会話、妙に打ち解けてたよね。初対面なのに」


「ええ」


 メルクが頷いた。


「あれは説明がつかない反応でした。過去の転生で繋がりがあったとすれば、腑に落ちます」


「じゃあ記憶はなくても、縁は残るってこと?」


「そういうことになりますわね」


 ヴェヌはしばらく、何も言わなかった。


「……それって」


 声が少し低くなった。


「なんか、切なくない?」


 テーブルに小さな間が落ちた。


「まあ」ソレイが静かに言った。


「そういう見方もあるわね」


「でも、そうなるとあの子が魔術に詳しいのってどういうこと?」


「おそらく……魔術オタク、魂レベルで記憶してるのでしょう」


 ——私達みたいに。


 静かにメルクが答える。


「やば」


 異常さを想像し、ヴェヌは顔を引き攣らせる。


「神が言うと説得力すごいねそれ」


 メルクがカップを置いた。


「……それと、魔術に関係するのですが、もうひとつ気になることがありました。魔力量についてです」


「あっ、そっちも気になってた」


 ヴェヌの表情が戻る。


「そのときの体に合わせたところが限界だろう、ということは確認できましたね。知識があっても使えない場面は必ず出てくる」


「知識があっても使えない、か」


 ソレイが繰り返した。


「……伏線に使えそうですわね」


「え?そうなの?」


 ヴェヌが首を傾けた。


「転生前に使えた魔術が、転生後に使えなくなる——そういう場面が作れます」


 メルクが続けた。


「今まで当然のように対処できていたものに、突然手が届かなくなる。読者が知っているからこそ、焦りが伝わる」


「あー——それ、ちょっと怖いね。覚えてるのに、できないって」


「そうよ」


 ソレイが言った。


 カップをテーブルに置く。


「それともう一つ」


 ソレイがゆっくりと指を立てる。


「今回の観察で、私が一番驚いたことがあるわ——血統への拘りよ」


「あれ……」


 メルクが静かに眉をひそめた。


「神界にはない考え方でしたね。なぜそこまで拘るのか、正直理解が難しかったです」


「ただ、下界では重要視されるということよ」


 ソレイが続けた。


「これは私達の考察では完全に盲点だったわ」


「ほんとそれ!」


 ヴェヌが身を乗り出した。


「しかもあの子、勇者の血統でしょ。それを迫害するなんて意外すぎー」


「そうですわね」


 ソレイが静かに頷いた。


「合理性ではなく、感情に近い何かが動いている。個人的な拘りを感じますわ」


「この論理、かなり厄介なんですよ。想定外の展開を生みます」


 メルクがおもむろに姿勢を正す。


 一拍、場に緊張感が戻ってくる。


「そこで、今回のフィールドワークの結果を用いて『深海の秘宝』を見直すと一つの線が浮かんできました……」


 意味深にメルクが本を引き寄せる。


「あ!」ヴェヌが声を上げた。


「主人公が転生するって展開——あれってライバルとの再戦の伏線ってことでしょ?」


「それだけではありません」


 メルクの目に少し力が入った。


「転生した主人公が過去のライバルと再び出会う。血筋と記憶と因縁が絡まってくる展開——血統への拘りという下界の論理と繋がってきます」


「やばー、熱い!」


 声のトーンが一段上がった。


 ヴェヌがページを繰る手が速くなり、バッと挿絵のページを開く。


「ってことは、このライバルの回想シーンが、なにか因縁を意味してるってこと!?」


 ——この回想まじ好きなんだよね。


「それは」ソレイが目を細める。


「鋭いわね」


 やがて三柱は、それぞれ手元の本に熱中する。


 窓の外では何かがまた光った。神界では珍しくないことだ。


 焼き菓子の減るペースが、少しだけ速くなった。


 神界は今日も騒がしい。

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