表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河琉盤
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/42

第26話 王立貴族学院

「ほあ~、趣があるってこういうことですね!」


 エルが屋敷の中を走り回っている。


 王都のヴェレント家屋敷は、領地のものとは造りが違った。


 奥行きより間口が広く、中庭もない。


 窓から見える景色は向かいの建物の石壁だった。


 テルムは屋敷を一通り見て、


「こじんまりとしていて過ごしやすそうだな」


「そうだろう」


 フォルティスが廊下の柱に寄りかかった。


「子爵家の王都屋敷なんてこんなもんだよ。俺は基本、騎士団の寮住まいだから、使っていないんだ。好きに使ってくれていい」


「隠れ家みたいで気に入った」


「そう言うと思ったよ」


 エルが窓枠に前脚をかけて外を覗いていた。


 石畳の通り、行き交う馬車、向かいの店先。


 耳がせわしなくあちこちへ向く。


「本家とは全然違うんですね」


「もっと静かだと思っていました」


「住宅街だからな」


 フォルティスが椅子を引いて座る。


「それにしても、お前が特級とはな、実力はともかく……社交界では実験好きの変人で通っていたのに、な」


「……俺も戸惑ってる」


「意外ときっかけはあの本だったりしてな」ニッと笑うフォルティス。


「はあ……フォルティスがいなくなってから酷かったんだぞ、何度街中で呼び止められたか……」


「こっちも似たようなもんだ、覚悟しとくんだな、はっはっは」


 げっと顔を引き攣らせる。


「まあそれはそれとして、学院のことで一つ頼みがある」


 フォルティスが足を組んだ。


「今年の三年と二年に、第一王子・第二王子がいる。うちは第二王子派だろ。万が一があったらまずいから、そういう目でも見ておいてくれ」


「学院の中だからこそ、表で動けない連中もいる」


「……学院にまできて、派閥か。実験していたい」


「そう言うな。頼んだぞ」


「……わかった」


「いいですね!」


 エルが振り向く。尾がすっと立った。


「王位争奪戦ものも好きですよ! こういうの、大体、賢い参謀が鍵になるんです」


「物騒なことを言うな」


 テルムはため息をついた。


 フォルティスが「賢い参謀、ね」と笑った。


***


「ほー、すごいですね!神殿ともお屋敷とも全然違う!」


「何よりもとっても広いです!」


 王立貴族学院は、想像より広かった。


 テルムとエルは翌日の入学式典を控え、学院の入学受付に来ている。


 正門をくぐると、石畳の大通りの両側に校舎が並ぶ。


 庭師の手が入った植え込みが続き、奥のほうから訓練場の金属音が届いた。


 エルの興奮が止まらない。


「人がいっぱい!あそこ魔術の練習してますよ!」


「見えている」


「あっちは……喧嘩ですかね?燃えますね!」


「知らん」


「あー!!!あそこ食堂じゃないですか!異世界転生飯と言えば——」


 テルムは前を向いたまま歩き続けた。


「テルムくん、テルムくん」


「なんだ」


「ぶつかりますよ」


「うわっと!」


 渡り廊下の角を曲がった先で、女性とぶつかりそうになった。


「すみません」


 女性が慌てて頭を下げる。


 頭を上げた瞬間、テルムの顔を見て、目を丸くした。


「あー!!!」


「は?」


「ヴェレント様、その節はありがとうございました!」


 女性はすごい勢いで、深々と頭を下げた。


 あまりの勢いにテルムは二歩退く。


「どこかでお会いしましたか?」


 背丈はテルムと同じくらい、二十代半ばほどで、丸眼鏡で柔らかい顔立ちをした女性であった。


(おそらく、教師だとは思うが)


「はい、あの……申し遅れました。私、教師をしているセリア・ヴィレスと言います」


「地下から助けていただいたことを、お礼が言いたくて」


「ん?」


***


「実は、ヴェレント領で学術調査をしていたんですが、街を歩いている途中で、気を失ってしまって、気づいたら地下で魔力を提供する仕事をしていたんです」


「……無理やりですか?」


「あ、強制ではなかったと思います。でも……なぜそうなったのかわからなくて」


(意識誘導の影響か)


「意識が朦朧している中で、助け出されて。その時にあなたがいたのを覚えていました」


「最初は夢かと思っていたのですが、広場のスライムとの闘いを目撃して、絶対あなただと確信しました」


「……覚えているんですか。他には何か地下で覚えていることはありますか?」


「いえ、他には特に」


(……かけ忘れた)


 テルムは黙った。


「私のことを消して、自分のことを消し忘れたんですね」


 エルが小さく呟く。尾が大きく揺れる。


(反論の余地もない)


「あなたが特級の招待状を?」


「はい、ぜひと思いまして。あれだけの魔術が使えれば素養は十分にあります」


「お受けいただけてとても嬉しいです」


「……いえ、こちらこそ、ご招待ありがとうございます」


「私は一年の担当をしておりますので、何かあればご相談ください。授業のことでも、学院生活のことでも」


「……ありがとうございます」


 一拍。


「で、あの、担任としてではないのですが、一つお願いがございまして」


「はあ」


「あの、もしよければ——サインをいただいてもよいですか?」


 テルムは二秒、間を置いた。


「……どういうことでしょう?」


「『フォル・テル』のファンで」セリアが小声で言った。


「お会いできたら絶対サインがいただきたいと思っていました」


「もちろん、私はテル様推しです!フォル様との兄弟愛、素晴らしかったです!」


 セリアはずいっと両手でノートを出し、頭を下げる。


 差し出されたノートを見ると、すでにフォルティスの名前が書かれていた。


(フォルティスの言っていたことはこれか……)


 隣に自分の名前を書いて、セリアに返した。


「ありがとうございます!大切にします!」


「あの、もしかしてこれが理由で招待状を?」


 セリアの肩が大きく跳ねる。


「まさか、そんな、そんな疚しい気持ちなわけないじゃないですか」


「いやだなーははは」と言いながら廊下を戻っていった。


「賑やかになりそうですね、テル様ファンクラブができそうです」


 エルが前に歩き出しながら言う。


(……本当に賑やかになりそうで恐ろしい)


「やめてくれ、俺はゆっくりしたいんだ」


「それにしても、テルムくんやってしまいましたね」


「……」


「そういう抜けてるところも淑女の評価高いですよ!」


「誰目線だよ」


 エルを追うように、テルムも歩き出す。


(結局、スライム戦で目立ったんだから、もう意味もない)


 自分を納得させる。


***


 少し歩くと、セリアが肩で息をしながら戻ってきた。


「そうそう、受付と入学試験ですよね案内します」


——すみません、舞い上がってしまって……とまた頭を下げる。


顔を上げると、教師の顔をしていた。


「入学試験……?初耳なんですが」


「え……もしかして案内状見てませんでした?」


 風が廊下を吹き抜ける。


 セリアは受付まで案内すると、「間もなく試験開始なので、受付終わったら北校舎まできてください」と言って、どこかに行ってしまった。


「エル、知っていたか?」


「はい、もちろん。手紙を隅々まで読むのは探偵の基本ですよ」


「探偵でなくても基本だよな……はあ」


「なぜ、教えてくれなかった」


「いいじゃないですか。抜き打ちのほうが、主人公っぽいです。」


「知識無双しましょう!」


 尾をぶんぶん振り回していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ