幕間 文学を愛する神々の集い3
四人掛けのテーブルを三柱が囲んでいる。一人は紙袋を目の前に置き、自信あり気だ。
窓の外では何かが光っている。神界では珍しくないことだ。テーブルの上には飲み物と、本と、誰かが持ってきたらしい焼き菓子が一皿ある。一脚だけ椅子が空いている。
「これ、お土産よ」
ソレイが、紙に包まれた薄い本をテーブルの中央に置いた。まさにお嬢様というたたずまいで、常に場の雰囲気を支配している——ように本人は思っている。そういう神ソレイだ。
「なにそれ!」
ヴェヌが身を乗り出した。見た目はまさにギャル風、纏う空気もいかにもで、どうしてこの場にいるのか?——と思われることを微塵も気にしない。そういう神ヴェヌだ。
「あまり見ない表紙ですね」
メルクが静かに包みを開けた。この場の司会進行役を担っている——と自覚している。そういう神メルクだ。
「『フォル・テル——儚くも美しい兄弟愛』」メルクが表紙を読み上げた。「新しいタイトルですね。どこで?」
「下界に行っていろいろ本を見てきたわ」ソレイが静かに続けた。「エランの星だけあって、物語がたくさん揃っていたのよ」
「行ってこれたんですか」メルクが少し目を瞬いた。「エランさんの星なのに、よく行けましたね?」
「ユランに協力してもらったわ」
「あの狂科学者の!?」ヴェヌの声が一段上がった。「ソレイって知り合いだったの?」
「あー……」メルクが少し考えた。「ユランさんってエランさんと姉妹でしたっけ?」
「そうよ、双子のね。そのつながりでよく話をする仲よ」
「へー、意外」
ヴェヌが首を傾けた。
「行き方は複雑だったけれど」ソレイがカップを持ち上げながら続けた。「猫になって乗り込むのはなかなか面白かったわ」
「えっ猫になったの!?」ヴェヌが目を輝かせた。「面白そー!」
「いいですね」メルクが静かに言った。「まさに『解決、にゃん銃士』の世界観ですね」
「エランちゃん元気にしてた?考察進んでる?」
「なかなか楽しそうにしていたわ」ソレイが少し目を細めた。「ラノベの中にいるみたいですって」
「えーいいなー」
「俯瞰で考察するのもいいですけど、リアルタイムで体感するのも楽しそうですね」
「ただ」ソレイがカップを静かに戻した。「『深海の宝玉』についてはまだ考察は進んでいないそうよ」
「あら残念、楽しみにしてたのにー」
ヴェヌがぺらぺらと『フォル・テル』を捲り始めた。表紙を裏返し、また表に戻し、適当に開いては眺めている。
数ページめくり、しばらくして。
「やばっ!このフォル・テル」
ヴェヌが顔を上げた。
「ですわよね」ソレイが静かに頷いた。「今までにない視点で、想像を掻き立てられますわ」
「本当ですね」メルクも自分のページから目を上げた。「全然先が読めない。考察欲を刺激されます」
三柱がそれぞれ、しばらく黙って読み込んだ。
焼き菓子の減るペースが、少しだけ遅くなった。
「んー、でも」ヴェヌが眉を寄せた。「このフォル・テル、相性良すぎじゃない?兄弟にしては」
「確かに」メルクが言った。「兄弟だからと言ってここまで相性が良すぎるのも違和感がありますね。エランさんとユランさんが双子でもああはならないでしょうし、そのギャップ感が」
「だよねー」ヴェヌが笑った。
「これ、ほぼ実話だそうよ」
ソレイが静かに言った。
テーブルに、絶妙な間が落ちた。
「え……本当に!?」
「毎日眺めていて楽しいとエランが言っていたわ」
「えーー!!」
ヴェヌが本を持ち直した。さっきより目に力が入っている。メルクも一度本を伏せ、表紙を改めて眺めた。
「んー……」
ヴェヌがぽつりと言った。
「私もちょっと、下界が興味出てきたな」
「私もです」メルクが静かに続けた。「リアルラノベ体験というのは、これまで考えたことがなかったですね」
「そうよね」ソレイが頷いた。「私も今回の体験でとても刺激になったわ。特に——これ、『神話の塔の守り人』の考察が進んだのよ」
「……続けてください」
メルクが即座に言った。目が少し鋭くなっている。
「この中に出てくる異常気象。あれは、過去に生きた賢者の実験失敗の産物よ」
「え!?」ヴェヌの声が上がった。「え!?え!?なにそれ!めちゃくちゃすごい!」
「新しい切り口ですね」メルクが腕を組んだ。「すごく気になりますね、今日はこの『星読み』を題材に考察を進めましょうか」
やがて三柱は、それぞれ手元の本を引き寄せた。
窓の外では何かがまた光った。神界では珍しくないことだ。
神界は今日も騒がしい。
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