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## 十四回転生した賢者はそろそろ幕を下ろしたい ~ポンコツ女神を猫従魔にして今度こそ終わる~  作者: 在河琉盤
第一章

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第16話 すでに繋がっていた

フォルティスの呼吸が、ゆっくりと落ち着いた。


エランの光が引いてから、どのくらい経っただろう。テルムはベッドの横の椅子に腰を下ろしたまま、しばらく動いていなかった。窓の外は暗い。ヴェレント家の屋敷はしんと静まっていて、廊下の向こうから音もない。


フォルティスは横になって目を閉じている。胸が規則正しく上下している。左腕の包帯は清潔で、皮膚の色はもう元に戻っていた。


テルムは背を椅子に預けて、顔を伏せた。


どっと疲れがきた。今日一日の動きを頭の中で追おうとしたが、体の方が先に白旗を上げていた。緊張が抜けると、いつもこうなる——長くどんな転生を経てきても、慣れない疲れというものがある。


「テルムくん」


声がした。


エランがいつのまにか近くに立っていた。椅子から少し離れた位置で、テルムを見ている。


「……何度転生しても、別れは怖いな」


自分でも驚くような言葉が出た。顔を上げなかった。


長く生きている。何人もの顔を知って、何人もを見送ってきた。慣れているはずだった。別れの一つひとつを、過去の重さとして積み重ねてきた——そのつもりだった。


ただ今日、廊下を走った。ドアを開けた瞬間にフォルティスが床に倒れているのを見て、その瞬間に何かが動いた。胸の内側が。


エランは何も言わなかった。しばらく。


それから、静かにテルムの頭に手を添えた。「テルムくんは頑張っていますよ……」


それだけだった。励ましでも諭しでもなく、ただそれだけ。


しばらくして、エランはエルに戻った。音もなく扉の隙間から廊下へ出ていく。残ったのはフォルティスの呼吸の音と、屋敷の静けさだけになった。


***


どれくらい経ったのか分からない。数分かもしれないし、数時間かもしれない。テルムの胸の中では、後悔も怒りも情けなさも、まだ渦を巻いていた。


いつのまにかフォルティスもゆっくり目を開け天井を眺めている。言わなくても伝わる。そういう時間を一緒に過ごしてきた。


「……なぁ、テルム」


テルムはゆっくり目を上げる。


「……俺をこんな目に合わせたやつ、絶対とっちめてやろうぜ」


声は小さかったが、揺れがなかった。フォルティスの声だった。


テルムは短く答えた。「あぁ」


フォルティスが、かすかに口の端を上げた。それからゆっくりと目を閉じた。呼吸が深くなり、やがて眠った。


テルムはしばらくそこにいた。動くつもりでいたが、立ち上がれなかった。一呼吸、二呼吸。それから足に力を入れて立ち上がり、扉を静かに引いた。


***


廊下は暗かった。


燭台の灯がところどころに揺れている。冷気が壁からじわりと滲んでくる。自室の地下ほどではないが、夏の夜の温度ではなかった。


廊下に、足音だけが響く。


頭を切り替えようとしても、まだフォルティスの顔が離れない。——もっと早く気づけたのではないか。


自室に着き、ゆっくり扉を開けた。


部屋の中央に、エランが立っていた。


コートの裾をひるがえして、壁の前を左右に歩き回っている。パイプを口に咥え、背筋を伸ばし、両手を後ろで組んでいる。視線は壁に貼られた紙に注がれていた。テルムが調べてきた魔術痕の位置と、聞き込みで集めた情報が走り書きで並んでいる。線が引かれ、矢印がつながり、いくつかに丸が打たれていた。


「遅いですよ、テルソンくん!謎は待ってくれませんよ!」


エランが振り向いた。


「……テルソンって誰だよ」


「助手のあなたです。さあ、座ってください。整理を始めます」


部屋に入った瞬間、フォルティスの部屋にあったあの重さが薄くなった。全部が薄くなったわけではないが、薄くなった。


テルムは椅子を引いて座った。大きく欠伸をする。


「いいですかテルソンくん、真実は意外とシンプルなものなのです」


エランが壁の前で足を止めた。「失踪者の件です。消えた場所に意識誘導の魔術痕が複数確認されています。組織的な犯行と見て間違いありません」


「そうだな」


「そしてこちらが」エランが別の紙に向かった。「採取場に集められた魔物の流れです。テルムくんが確認した幻術の向こう、沼地から二方向——採取場と地下水道へ。これも誘導されています。つまり同じ使い手が、両方の事件を動かして領主邸を——」


「ちょっと待て」


椅子が鳴った。テルムは立ち上がっていた。


「……なんで同じ犯人だと思った?」


エランが足を止めた。「えっ?」


「人の誘導と、魔物の誘導。なぜ同じ使い手だと言い切れる」


「魔術の波長が同じだからですが……」エランが首を傾けた。「あっ、言っていませんでしたっけ」


沈黙があった。


(盲点だった)


テルムは失踪者の事件と、採取場の魔物の事件を、ずっと別々のものとして追っていた。二本の糸として処理していた。どこかで繋がるかもしれない、とは感じていた。だが同じ術者が両方を動かしているとは——考えていなかった。


意識誘導の術式。人に使えるものが魔物に使えないわけがない。あの女魔術師が魔物の誘導に長けていたのも納得できる。人を誘導できる技術があれば魔物など造作もないだろう。


テルムには波長というものを確かめる術がないが、エランの言い方からするに、個人を特定するのに十分な情報なのだろう。出どころが同じだと考えれば一本の筋が通る。当然の話だった。分かってしまえば単純な話だった。


「……なんで俺が気づかなかった」


エランは少し顔を俯き、そしてパイプをふかし直しすぐに前を向いた。


「今気づいたということは、今が最速ですよ」


「……そうだな」


テルムは椅子に戻って、壁の紙を見た。


失踪者の二本目の継。採取場・地下水道の二本目の継。ずっと別々に整理してきた。両方の端に、同じ術者がいた。


(三つが繋がっている。失踪者。採取場の魔物。地下水道のワニ。そしてアンデットポーションの流通停止。全部、一本の線の上にある)


「あの女魔術師を探さないとな」


テルムはそれだけ言った。


エランがコートの裾をひるがえした。「では、ここからはテルソンくんが主導ですね」


「最初からそのつもりだ」


「頼もしいですよ」


「うるさい」


テルムは壁の紙に向き直った。線を一本、頭の中で引き直した。


繋がっている。全部、ここから出ている。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日も投稿予定です。よろしくお願いします。

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