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十四回転生した賢者はそろそろ幕を下ろしたい ~終わらない原因の女神を猫の従魔にしたので、今世でケリをつけます~  作者: 在河琉盤
第一章

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第14話 猫の迷推理?

「あの、わたし、怪しくないですか?」


テルムが横を向くと、肩の上に何かとんでもないものが乗っていた。


サングラスをかけた猫だった。


正確には、ブルーがかったレンズが顔の半分を占領していて、その下にきちんと白い布のマスクが装着されていた。銀の毛並みだけがかろうじてその下から覗いていた。


「母がいいと言ったんだから、まあ大丈夫だろう……」


「本当ですか?」


エルが前足でサングラスのつるを押し上げた。どこかかっこいい仕草だったが、サングラスの角度が少しずれた。笑ってはいけない。


実際、昨晩のことを思い出すと少し頭が痛くなってくる。フォルティスの部屋から帰ってきたところで、エルのくしゃみが止まらないのを目ざとく見つけた母が、「花粉にはこれよ!」とどこから引っ張り出してきたのかこのサングラスとマスクのセットを持ち出してきた。「いやーエルちゃんかわいー!」と言って颯爽と去って行った。テルムは何も言えなかった。


——正確には、気を抜いたら笑ってしまいそうだったので言えなかった、という方が正しい。


「まあ、花粉が入らなければいいんじゃないか」


「そうですね。納得はしていないですが、昨日より楽なのは確かです。」


エルが尻尾をぼたりと垂らして答えた。確かに昨日の夜から比べると、くしゃみの回数はずいぶん減っている。


テルムは気にしないようにして、採取場への道を歩き続けた。


***


採取場はとても賑やかだった。


「そこ気をつけろよ!」「素材ダメにするなよ!」という声がそこかしこで飛んでいる。昨日のうちに魔物の数はずいぶん減った。今日はもう本格的な採取が再開している様子だった。道具を担いだ人間が複数の方向から出入りしており、昨日の静まり返った感じとはまるで別の場所のようだった。


「昨日の今日で、頑張るな」


「わたしもね!」


エルがすかさず嫌味ったらしく返してきた。昨日は花粉のせいでほとんど役に立てなかったと思っているらしく、今日は態度からして気合が違う。


「悪かった。でも、今日で最後にする」


「そうですね、絶対終わらせましょう」


「そのつもりだ」


テルムは採取場の外縁に沿って進んだ。今日の目的は残った魔物の片付けではない。昨日は手が回らなかった南の端、採取場からさらに外れた方向に視点を向けている。昨日の討伐の動きから読み取れた魔物の流れに、一つ気になる点があった。


群れが分散して現れるのに、集まってくる方向だけが一致していた。同種ならまだわかる。だが、種類の違う魔物が同じ方向から流れてくるというのは、普通は起きない。


(誘導されているとすれば、起点がある)


採取場から外れたその先に、何かがあるはずだった。


***


しばらく外縁を歩いていると、エルが前足を伸ばした。


「……この木、怪しくないですか?」


指している先に、直径一メートルはあろうかという太い樹が立っていた。幹の根元に近いところ、地面から少し上の位置に、拳ひとつ分ほどの穴が開いている。


「また始まったな」


とテルムは思った。エルの推理は大抵、最初の一歩だけ聞くと迷走している。


「何が怪しいんだ」


「この穴の位置です。目印だと思います」


「……木の穴なんて普通にあるだろ」


「でも、もう少し高くていいはずです。低すぎる」(クチュン)


くしゃみが一つ。エルはマスクの上から鼻を押さえながら続けた。


「きっと夕方になると光が差して、西がこっちの方だから——」


そこから先はテルムには聞こえなかった。エルがぶつぶつ言いながら草の根を分け入り始めて、声が遠くなった。


テルムは少しの間その背中を眺めた。


馬鹿にはできない。根拠の読めない妙な推理で貧民街の調査も進んでいた。なぜそれで当たるのかは、テルムには今ひとつわからない。だが、当たる。そういうことなのだと思っている。


テルムは自分のやり方で進んだ。


地面を這うように、薄い魔力の残滓が流れている。昨日の討伐でほとんどは散ってしまっているが、完全にはなくなっていなかった。足元の草の倒れ方、土の踏み跡、動物のものではない排泄物の散らばり——単独の魔物の跡ではなく、複数が一定方向に流れ続けた痕跡だった。


種類が違う。縄張りを持つ種同士が同じ方向に向かったという痕跡が、複数残っている。


(やはり人の手が入っている)


流れは一点に向かって収束している。テルムは草をかき分けながら、その方向に足を進めた。


***


「ここだな」


「ここですね」


声が重なった。


別々の方向から歩いてきた二人が、同じ藪の前に立っていた。テルムは一拍だけ動きを止めた。エルは特に驚いている様子もなく、サングラスの向こうでまるくなった目でこちらを見ている。


「なぜここがわかった」


「光の差し方と、途中の露の乾き方が変でした」


「……露の乾き方」


「はい。おかしくなかったですか?」


テルムには今ひとつ意味がわからなかった。が、辿り着いた。それは事実だ。


藪をじっくり見た。表面は変わらない。木の葉が重なりあって、薄暗い奥がよく見えない。だが——薄い残滓が、奥へ引っ張られるように漂っている感覚があった。


テルムはゆっくりと手を伸ばし、藪の中に差し込んだ。


ぐわん、と空間が歪んだ。


葉ではなかった。指先が通り抜けた先には、葉ではなく空気だけがあった。藪に見えていたものは全て、幻だった。


「うまく、隠していたな」


「すごい……」エルの尻尾がまっすぐ立った。「本当に、術者がいるんですね」


テルムは幻術の中へ手を差し入れながら、奥を確認した。濃厚な魔力の残滓が漂っている。獣道が続いていた。多くの魔物が繰り返し同じ経路を通ってきた痕跡がはっきりと残っていた。


(この先に誘導の起点がある)


今ここに踏み込むのは得策ではない。どこかに罠が仕掛けられている可能性がある。今日は場所だけ確認して、引き返す方がいい。


「エル、今日はここまでだ」


「……はい」


エルが素直に答えた。いつもなら何か言うところだったが、今日は黙っていた。


テルムは幻術の縁を丁寧に押さえ、元の形が崩れないよう静かに手を引き抜いた。藪は元通りに見えた。何もないように見えた。


***


採取場を出る帰り道、しばらく二人とも黙って歩いていた。


「テルム」


エルが呟いた。


「……なんだ」


「あの採取場にいた女魔術師ですが」エルの声が少し低くなった。「あの人の魔力の気配、さっきの幻術と——似ている気がします」


テルムは足を止めなかった。


(クチュン)


最後の一音がそれを打ち消したが、テルムはちゃんと聞いていた。


「……まだ確かめることがある」しばらくしてから、テルムは言った。


エルが静かに首を垂れた。


帰り道は昨日よりずっと明るかった。採取場に活気が戻ってきた声が遠くなるにつれて、テルムは黙って歩いた。


(嫌なことが、また一つ重なった)


採取場の魔物。


貧民街の失踪。


そして、あの女魔術師。


まだ線にはなっていない。


だが、同じ場所へ向かっている気がした。


テルムは何も言わず、その感覚だけを胸の奥に留めた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日も投稿予定です。よろしくお願いします。

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