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十四回転生の疲弊系賢者、今度こそ終わりたい ~ポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる~  作者: 在河琉盤
第一章

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第12話 作戦会議

冒険者ギルドは、街で一番うるさい場所だ


待ち合わせの時間にギルドに着くと、既に壁際のテーブルがほぼ埋まっていた。奥では数人が地図を広げて何か言い合っている。フォルティスはさらに奥で担当者と書類を確認中だった。テルムに気づいて手を挙げたので、壁際で待った。


エルが肩の上で背伸びするように首を伸ばした。


「わあ、賑やかですねえ」


「ああ」


「あの人、顔に縫い跡がたくさんあります。あっちの人は剣を三本も持っています。普通ですか?」


「普通じゃないから冒険者をしているんだろ」


「あ、神託の儀で見た子だ」


声が少し大きかった。テルムは反射的に肩を縮めた。エルが指しているのは奥のテーブルで防具の具合を確認している赤い髪の少女で、確かに先日の神託の儀で同じ神殿にいた顔だった。少女がこちらに気づいて目を合わせてきた。テルムは軽く頭を下げた。


「声を抑えろ」


「すみません」エルが素直に耳を伏せた。「でも本当に色々な人がいますね。みんな強そうで」


集まった面々は十人ほど、とテルムは見積もった。


年齢も装備もばらばらだが、体の重心が低い。


自分の居場所を常に確認するような目の動き。歴戦の冒険者の趣があった。


(そんなにやっかいな状況なのか)


単に数が多いのか。それとも別の理由か。


今の時点では分からなかった。


***


「じゃあ紹介する」


フォルティスが書類をまとめて集まった面々に向かった。


「俺の弟のテルムだ。こう見えて腕利きの魔術師だ!」


「こう見えては余計だ」


「細かいこと言うな。で、肩に乗っているのは——」


「従魔のエルです、猫です! よろしくお願いします。得意技は猫パンチです!」


シュッシュッと前足を振って見せた。


反応は様々だった。言語を話す猫に目を丸くして固まるもの。赤髪の少女はぽかんとした後、こらえきれないよう口の端を緩めた。じっとりした視線を向けてくる女もいた——あれはどういう意味の視線なのか、テルムには少し読み取れなかった。


「よろしく」


テルムが短く言うと、フォルティスが「こいつは俺より使えるから保証する」と補足した。テルムは「余計なことを言うな」と思ったが声には出さなかった。


***


「なあに、数が多いだけで簡単な仕事さ」


自己紹介が一巡したところで、フォルティスが作戦を説明しはじめた。テーブルに広げた地図を指しながら、要点を順番に整理していく。


「採取場に集まった魔物を討伐するのが今回の仕事だ。ただし、採取場そのものを傷めるのは困るから、別の場で仕留める必要がある」


「魔術でできるだけ静かに採取場から引き離してくれ。ただし、あの素材は魔力に染まりやすい。強い魔力を発したら素材そのものに影響が出る可能性がある」


「弱めに絞った魔力で魔物を採取場から引き離し、引き離した先で前衛が叩く。そういう作戦だ」


フォルティスが全員を見渡した。「三人一組で分業する。環境を見極めてから動く。余計な別動はするな」


いくつか質問が出た。フォルティスが一つひとつ答えていく。テルムは聞きながら、少し前に引っかかった数字を内心で繰り返した。


「ここ二週間以上、採取場に居続けている」とフォルティスが言っていた。


二週間。市場の空棚が目立ち始めたのもそのころだった。商人が素材の高騰を話していたのも同じ時期だ。点が繋がった。


(なるほど、素材不足の主因はこれか)


ただ——二週間ずっと増え続けているのに、今まで対処されていなかったというのも少し妙ではある。街への影響がここまで出る前に手が打たれてもよかった。後で確認するほどのことでもないかもしれないが、頭の隅に置いておく。


フォルティスが段取りをまとめかけたとき、ギルドの扉が勢いよく開いた。


飛び込んできたのは農作業の格好をした中年の男だった。受付に向かって、息を整える間もなく声を張った。「昨日依頼した件はどうなってる」


「えっと、申し訳ないのですが、どの件でしょうか……」


「ワニだ! 下水道のあたりから、ワニみたいな魔物が出てきて、うちの畑を荒らしてる! 人は出ていないが、このままじゃ今年の収穫が全部だめになる!」


ぴくっとフォルティスが反応したように見えた。


「昨日のうちに依頼しただろ! 一晩明けたら受ける者が出ると言ったじゃないか!」男が回りを見渡した。「これだけいるのに、一人くらいどうにかならないのか!?」


ギルドの中が静まった。誰も手を挙げなかった。作戦直前に別の仕事を引き受けることへの逡巡。


「——わかった、俺が行く」


フォルティスが手を挙げ、男の顔がほっとしたのと同時に、今回の作戦参加者達がざわついた。


エルがテルムの耳に寄った。


「……フォルティスさん、一人はまずいと思います」


エルの声が変わった。


テルムは肩の上のエルを見た。耳が真剣な角度を向いている。目が細くなっている。楽しんでいるときの顔ではなかった。


「なぜそう思う、ただのワニだろ」


「いいえ、これは完全にフラグです。主人公が致命傷を負うタイプのものです」


「ふらぐ」の意味はよくわからなかったが、いつもとは違い真剣であることは伝わってくる——


作戦を聞く限り、採取場の対応はなんとでもなる。エルの予感が当たる当たらないはともかく、用心するに越したことはない。


「さすがに一人はまずいだろう。一人か二人連れて行ってはどうだ。時間はかかるが、こっちは繰り返し作業だ」


テルムが声を挙げると、「繰り返し作業」という言葉に確かになという空気が広がった。


「……そうだな」とフォルティスが地図を簡単に見直した。少し間をおいて「よし、割ろう」と言った。


人数を割り振り直す作業が始まった。


***


分担が決まったところで、テルムはポケットを探った。小さな種をいくつか手のひらに乗せて、フォルティスの方向に差し出した。


「フォルティス」


「お、あれか、ありがとよ」


フォルティスが受け取り胸ポケットにしまい、手を挙げて歩き出した。


「楽勝楽勝。テルムの種もあるしな」


農夫を連れて数人でギルドの外に出て行く背中をじっと見ながら、エルはまだ納得していない表情をしている。


「……本当に大丈夫ですかね」


「まあ、それは運に任せるしかないだろ」


「……そうですよね」


種も渡したし、フォルティスはきっとなんとかなるだろう。それより、こっちの仕事を終わらせないと格好がつかない。


「行くぞ、エル」


「はい」


二つのパーティが、それぞれの方向に分かれて出発した。不穏な空気だけを残して。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日も投稿予定です。よろしくお願いします。

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